悪役令嬢エリザベート物語

kirara

文字の大きさ
上 下
75 / 82
エリザベート嬢はあきらめない

再び独りに

しおりを挟む
 その日、城の自室に突然エリザが訪ねてきた。

「ウィリ様、会いたくて来てしまいましたわ」

 週末の休みを利用して城の自室に戻っていたウィリアムは驚いた。 

 これまで彼女が、連絡もなしに、瞬間移動で自分の部屋に現れた事など一度もなかった。

 何かおかしい。いつもと違う空気を感じて、ウィリアムは心の中で警戒した。
 
「この部屋から見る景色は最高ね。私、好きだわ」

 エリザはウィリアムに断りを入れずに窓を開けた。

 するとヒラヒラと黒い蝶が入ってきた。蝶はウィリアムの部屋を飛び回った後、エリザの肩に止まった。

(危険だ!)

 そう思うのと、黒い霧が発生するのが同時だった。ウィリアムとエリザは黒い霧に包まれてしまった。

「お前はエリザではない。お前は誰だ!」

 ウィリアムはその女に言った。
 すると、霧の中で『その女』は妖艶に微笑んだ。

(ウィリ様、私を忘れてしまったの?私と貴方は真実の愛で結ばれているのに。私は貴方の愛するロリエッタよ。

 ウィリ様、思い出して。私、また、エリザベート様に意地悪されたの。学園で仲間はずれにされているの)

 先ほど妖艶だと思った彼女は、今度は儚げに涙を流していた。

(ウィリ様、あんなに優しくして下さったのに、私を忘れてしまわれたの?

 私よ、ロリエッタよ。お願い!私を思いだして・・ウィリさま・・)

 そう言って、ウィリアムに身体を預けるようして泣き崩れる

「ロリエッタ?」

 そう言った途端、頭の中に一つの映像が浮かぶ。それは、1度めにエリザベートを追い詰める自分の姿と、アルベールの火魔法の攻撃を受けるエリザの姿だった。

「エリザ!」

 ウィリアムは大声で叫んだ。そして、そのまま、目の前の女の腕の中に倒れ込んでしまった。

(そうよ、ウィリ様。あの日を思いだして。私を助けて。私を守って。私は貴方の運命の相手、ロリエッタ・トリエールよ)

 ロリエッタは優しく腕の中のウィリアムの頭をなでて、そして、抱きしめた。

(ロリエッタ・・)

 感情のこもらない声でウィリアムが言った。

(そうよウィリ様。さあ・・行きましょう)

 それから暫くしてメイドが部屋を訪れた時には、ウィリアムの姿は何処にもなかった。

 そして、この時、ウィリアムが大声で叫んだ

「エリザ!」

 という声が、開けた窓の下で庭の手入れをしていた庭師まで届いていたのだった。

 ・・・・・

 義兄のリアムとウィリアム王太子殿下が、行方不明になった数日後に、女子寮のエリザの部屋に珍しい客人があった。アルベールだ。

「エリザ、誰かが貴方を陥れようとしている。とても不穏な空気を感じる。あの日、一緒にいた精霊に助けを求めて逃げるんだ」

 彼はそれだけを言うために、わざわざ手続きをしてエリザに会いにきてくれたのだ。

「アル、ありがとう。こうやって話をしに来て下さって、本当に嬉しい」

 そう、最近はエリザには話し相手が誰も居なかった。とうとう、お昼仲間達も彼女から離れていってしまったのだ。

 ウィリ様が行方不明になって数日後、エリザが教室の席に座っていると、エドが部屋に入ってきて、エリザの前に立った。

「エリザベート・ノイズ!まさか・・まさか・・まさか貴様が、俺や殿下を裏切るとは!殿下をどこにやった!」

 エリザは驚いてエドを見た。

「エド・・私は犯人ではないわ。信じて」

「エリザ・・」

 エドが何か言いかけた時に、ロリエッタが割って入ってきた。

「エリザベート様、そうやって、また、エドモンド様を撹乱(かくらん)させるのは、おやめになって。

 貴方の事でエド様がどれほど悩んでおられたことか。さあ、エド様。私と一緒に参りましょう」

 そう言ってロリエッタはエドを連れて行ってしまった。

 その日を境に、エドモンドはエリザを避けるようになった。あれほど友情を確かめあったアメリアとマルティナも、エリザから離れて行った。

 彼女達がエリザを気にして話しかけようとすると、ロリエッタやその取り巻き達が2人に話しかけて、連れて行ってしまう。

 そんな繰り返しの中、エリザは独りになっていく。

 そして今日、アルベールが訪ねて来てくれて、久しぶりに人と話をしたのだった。

 けれど、この時のエリザは知らない。
 その日の夜に、アルベール・ロレーヌも、ウィリアム殿下やリアムと同じように、姿を消してしまうことを。

 彼はきちんと許可を取ってエリザを訪ねていた。それがアザとなって、彼が行方を晦ませた事にもエリザが関与していると、断定されてしまうのだった。

 それに追い討ちをかけるように、魔法騎士団からエリザに、『魔法封じのブレスレット』が送られてきた。

 ウィリアム殿下の誘拐に関与した疑いがあるので、これを付けておくようにとの国からの命令だった。

「まるで、罪人のようね」

 それを付けた瞬間に、精霊達の声が届かなくなり、あれほど沢山入ってきていた情報も、全く入って来なくなってしまった。

『テネーブ、その時は助けてね』

 だんだん独りになっていくエリザは呟いた。

『安心しろエリザ。お前が見えなくても俺は見ている。大丈夫だ』

 そう言ったテネーブの声も、エリザには届かなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢には、まだ早い!!

皐月うしこ
ファンタジー
【完結】四人の攻略対象により、悲運な未来を辿る予定の悪役令嬢が生きる世界。乙女ゲーム『エリスクローズ』の世界に転生したのは、まさかのオタクなヤクザだった!? 「繁栄の血族」と称された由緒あるマトラコフ伯爵家。魔女エリスが魔法を授けてから1952年。魔法は「パク」と呼ばれる鉱石を介して生活に根付き、飛躍的に文化や文明を発展させてきた。これは、そんな異世界で、オタクなヤクザではなく、数奇な人生を送る羽目になるひとりの少女の物語である。 ※小説家になろう様でも同時連載中

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

処理中です...