悪役令嬢エリザベート物語

kirara

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エリザベート嬢はあきらめない

闇の精霊とドルマン

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 彼女が次に目を向けたのは、遠くアミルダ王国の方向だった。

 その視線の先には、ウィリアム王太子殿下、エドモンド・ブラウン、アメリア・グレイシャス、マルティナ・ノルマン、そして、アミルダ王国の第一王女アントワーズの姿があった。

 エリザベートは何も言わずに、その一人一人と視線を合わせ、頷き合った。

『また後で伺(うかが)いますわ』

 彼女からの念話が彼らには届いていた。

 エリザベートの視線がさらに遠くに向けられる。そこには、サウスパール王国の友人の姿があった。

 アンソニーとレオンが驚きの表情で彼女を見ていた。

『アンソニー殿下、レオン、お元気そうで良かったです。あの時の温かいお言葉、ありがとございます。

 私は残念ながら、サウスパール王国の国母にはなれませんが、これからも良き友人としてお付き合いして頂きたいですわ』

 アンソニーは少し残念そうな顔をしながら頷いた。

『エリザ、聞こえているかい?とても残念だけれど、わかったよ。これからも良き友人として付き合っていこう』

 視線はゆっくりとドリミア王国に戻された。

 エリザベートは、王都学園の生徒会長アルベール・ロレーヌに気がついた。暫く2人は見つめ合っていたが、ゆっくりとアルベールが黙礼をして視線を外した。

『アル、大変な役目を押し付けてしまってごめんなさい』

 彼女からの念話にアルベールは驚いた。そして、もう一度、改めてエリザベートと視線を合わせた。

『僕の方こそ、突然、冷たい態度を取って申し訳なかった。エリザ、君が無事でいてくれて良かったよ』

 そう言ってゆっくりと視線を隣に立つ青年に移した。

『お前も今回は大丈夫のようだな』

 アルベールはハッとした。テネーブはそんな彼を見て頷いている。

 それから、エリザベートはゆっくりと聖女ロリエッタに視線を移した。隣には彼女の祖母で、アミルダ王国の聖女レティシアがいた。

 レティシアはエリザベートの封印が解かれた事には気がついていた。

「ロリエッタ様、お久しぶりでございます」

 エリザベートがロリエッタに話しかけた。

 今まで震えていた聖女ロリエッタは、その声に反応して、キッとエリザベートを睨みつけた。

「何よ!私を嘲笑いに来たの?」

 彼女の声がむなしく響いた。

「いえ、そうではありません。ロリエッタ様。貴方が頑張って下さったから、私が間に合いました。

 大変な浄化の作業、お疲れ様でした。さすがドリミア王国が認めた聖女様です」

 ロリエッタは驚いた。ロリエッタだけではない。この会話を聞いていた全ての人々が驚いていた。

 何かを言いかけた人々に視線を巡らしてエリザベートは続けた。

「皆さまもお久しぶりでございます。私はエリザベート・ノイズ。あなた方は要らないと仰るでしょうけど、戻ってきてしまいましたわ」

 それを聞いた身に覚えのある人々は、貴族、平民に関わらず顔色を失った。

「彼はテネーブ。闇を司る精霊です」

 エリザベートはテネーブを紹介した。彼女の言葉を聞いて、辺りは水を打ったように静まり返った。

「闇の精霊テネーブ!」

 誰かが耐えきれずに声に出した。

 ザワザワ……
 ザワザワ……

 身に覚えのある者達は、身体の震えを抑える事が出来ないでいた。

 ザワザワ……
 ザワザワ……

 そんな中、喜びの声を上げた者がいた。

「闇の精霊テネーブ様!」

 ドリミア城の中庭で様子を見ていたドルマンだ。

「お前には見覚えがある」

「はい!私は闇魔法に通じる者。闇の精霊テネーブ様の僕(しもべ)でございます」

 ドルマンは顔を輝かせて返事をした。

「俺にお前のような僕(しもべ)はいない。このエリザベートを国外に追放したのもお前だった。1度めで彼女の母を殺害したのもな」

 その言葉をきいてドルマンは思い出した。
 そして視線をアフレイドに向けた。

(そうだった。俺はあの時、このアフレイド・ノイズに処刑されたのだ。

 あの時は最後の魔力を使って、この男の悲しみを増幅させ、闇に引き摺り落としたのだ。その後のことは分からないが)

「このエリザベートの最初の人生を狂わせたのはお前だ。今後、お前の詠唱に俺が応える事はないだろう。何処にでも去るが良い」

 ドルマンは真っ青になりながら頷いている。アフレイドとリアムが、そんな男をじっと見ていた。

「ご挨拶はこれで終わりね」

 エリザベートがテネーブに言った。

「そうだな」

 テネーブが着ていたマントを翻(ひるがえ)してその場から消え、そして直ぐに現れた。

「魔物達は異世界に戻した」

 何ごとも無かったかのように、あっさりとテネーブが言った。

「次は私の出番ですわ」

 エリザベートはそう言ったあと、その場から姿を消したのだった。
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