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エリザベート嬢はあきらめない
前世の記憶と公爵令嬢
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私の名前は横川禮子。大学を卒業したあと、そこそこ名の知れた企業に採用され、そこそこ真面目に働いているオフィスレディだ。
学生時代には告白された経験はあるが誰にも心ときめかず、彼氏いない歴23年。ゲームオタクの友人に勧められて購入した乙女ゲーム「王国の聖女ロリエッタ」のキャラクターの攻略に萌え、仕事の疲れを癒している日々を過ごしている。
その日も少し残業したあとオフィスを出て、駅に向かう途中にあるスクランブル交差点を横断していた。赤信号を無視して猛スピードで大型トラックが飛び込んで来たのだ。
危ない!
キー!
ガチャ~ン!!
‥‥
どれくらい意識が無かったのだろう。気がついたら柔らかく暖かい布団の上だった。心地よく微睡んでいた意識がゆっくりと覚醒していく。
スクランブル交差点。猛スピードで突進してくるトラック。人々の悲鳴。
何かとぶつかる感覚・・・。
私は助かった?それともここは天国?
「エリザ!」
「エリザベート様!」
「お嬢さま!」
周りがザワザワしている。
日本語ではない言葉が聞こえる。
けれど私にはその言葉がわかった。
目を開けてまわりを見れば、まるで中世ヨーロッパにでも迷い込んだような装いの人達が、私の寝ているベッドを取り囲んでいた。
「エリザ!私の愛する天使。ああ!神よ。ありがとうございます」
ダークブロンドの髪に深いグリーンの瞳。聞き心地の良いバリトンボイスの紳士に抱きしめられる。
思い出した。私はエリザ。エリザベート・ノイズ。
おそらく私はあの事故で命を落としたのだろう。そして5年前に、この世界の公爵令嬢エリザベート・ノイズとして転生したのだ。
この記憶が戻ったのはつい先程のこと。ここは前世でハマりまくった乙女ゲーム「王国の聖女ロリエッタ」の世界だ。私はそれに気が付いてしまったのだ。
今日は私の5歳の誕生日。ノイズ家では盛大な誕生パーティーが催され、国王夫妻と王太子殿下も来て下さった。
国王陛下はお父さまの従兄弟で、二人は幼い頃から仲が良く、学生時代は学友として青春の日々を過ごしてきた。昔から魔法騎士団を支えてきたノイズ家に生まれ、並外れた魔力を持っていたお父様は、学園での魔法学や武術の授業は常にトップ。成績も優秀で陛下が王位を継いだ時に、魔法騎士団の総団長に任命された。お父様は陛下のもっとも信頼のおける家臣であり、少し肩の力を抜ける友でもあった。
私は幼い頃からお父様に連れられて、何度もお城に遊びに行っている。ウイリアム殿下は私と同じ歳だ。大人達が難しい話しをしてつまらない時などは2人でこっそりと部屋を抜け出して、お城の庭や殿下のお部屋でお菓子を頂いたり、魔法ごっこをして遊んだりしている。そっと抜け出したと思っていても、そっと、そっと、と抜け出している私達を、大人達が優しい目で追いかけていたのを知らなかっただけなのだけれど。私とウィリ様はいわゆる幼馴染なのだ。私には3つ年上のお兄様がいるが、お兄様は大人で、私や殿下と一緒に抜け出したり、魔法を使ったイタズラをしたりはなさらない。
だから、「エリザ、お前とウィリアム殿下との婚約が決まりそうだよ。」とお父様に言われた時も、あまり驚かなかった。むしろちょっと嬉しかった。ウィリ様はとっても可愛いから大好きだった。魔法ごっこの時に、ちょっと失敗して自分で水をかぶってしまったり、メイドのリリーの手伝いをしようとして、ケーキをリリーにぶつけてしまったり。ダメダメなところが面白いのだ。後で2人でリリーに叱られるのも楽しかった。
ウィリ様との婚約が決まるかも知れない。そう聞いた後、突然めまいがして私は倒れた。
そして、思い出してしまったのだ。
『エリザベート、お前との婚約は解消する。私は真実の愛を見つけたのだ。』
そういってエリザベートとの婚約破棄を宣言した乙女ゲームのウイリアム王太子殿下の事を。
ああ、そうだ。
私は知っている。
思い出した!!
なぜ今まで気がつかなかったのか。
ここは乙女ゲーム「王国の聖女ロリエッタ」の世界。
あの乙女ゲームに登場する悪役令嬢の名前はエリザベート・ノイズだった。
それって私?私が悪役令嬢?
それなら私は、エリザベートは、ウィリアム王太子殿下に王都学園の卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されるわ。
あああ・・そうだった・・
けれど、まだ間に合うわ。今、お母様は生きている。生きているんだもの。
乙女ゲームでは兄のリアム・ノイズは攻略対象者だった。
彼は養子だった。実家はフェナンシル伯爵家。その実家で事件が起こり両親は殺害される。亡くなる前に実父はリアムを助けるために魔法騎士団の総団長であるアフレイドを頼ったのだ。幼いながら、リアムの持つ魔力と知力は尋常ではなかった。フェナンシル伯爵家は、精霊王に愛されている家系だと言われている。代々の当主は不思議な力を持ち、強大な魔力を持って生まれてくる。リアムも例外ではなかったのだ。彼の実父もまた同様の力を持っているはずだ。けれど悲劇は起こってしまった。アフレイドはその事を重くとらえていた。フェナンシル伯爵領で何かが起こっている。彼はさっそく自分の部下に命じて捜査を始めるのだった。そして、リアムのたぐいまれなる才能をかい、彼がフェナンシル伯爵を継ぐ日までノイズ家の息子として大切に育てる事に決めたのだった。
お父様、大丈夫です。お母様はまだ生きておられます。大丈夫です。
お兄様が養子だという事は私には知らされていない。
知っているのは前世の記憶のおかげ。
リアムが3歳の時にエリザベートが生まれる。リアムはノイズ家の人々には気づかれない所で、実家に蔓延る闇魔法の使い手からの干渉を受けていた。だからエリザベートが生まれてノイズ家の両親が自分達の子供を溺愛する姿を見ながら、自分はもうこの家には必要のない人間なのだ。自分は実の両親を見捨ててここに逃げて来た卑怯者だと自己嫌悪に陥っていく。そして誰にも悟られる事なく闇堕ちしてゆくのだ。
あああ・・そうだった。お兄様、気付きませんでしたわ。
とどめはリアムが8歳の時。
エリザベートと王太子殿下の婚約を聞き、ノイズ家を出る決意をする。
それに一番に気がついたのが、母マーガレットだった。彼女はメイド1人を連れてリアムを追いかける。そして不慮の事故で命を落としてしまうのだ。その後リアムは自分を責め続ける。そんな彼に実家からの闇魔法の使い手達がますます追い打ちをかけて、彼を深い闇へと落としていくのだ。
ああああー!!!そうだった。そうだった。それが乙女ゲーム。私、思い出してしまいました。
お兄さま!必ずお助け致します。
ウィリアム殿下との婚約が決まりそうだと告げるお父さまの声を聞いた直後に倒れた私は、長い長い前世の夢を見て、そして、乙女ゲームの内容を全て思い出したのだった。
「お父さま、もう大丈夫です」
私を抱きしめるダークブロンドの紳士の、深いグリーンの瞳をしっかり見つめながら私は願いを口にした。
「あのね、お父さま。ウィリ様とは結婚したくないの。ウィリ様ではダメなの。可愛いくて優しいけれど私の王子様ではないの。私は白馬の騎士と結婚すると決めているのに、ウィリ様は馬に乗った時に怖がって泣いていたんですもん。しっかくだわ」
どうか願いが届きますよーに。
「ハハハハ!そうか、ウィリ様は失格か!」
弾けるように笑うお父さま。
「そうよね。エリザ」
そしてここで力強い味方が登場した。
「エリザはまだ幼いわ。婚約したらお妃教育が始まるのでしょ?私はエリザにはもっと伸び伸びと成長して欲しいわ。厳しいお妃教育は他の御令嬢にお任せしてはどうかしら?」
隣国の王女であったお母様は、娘がお妃の座につく事に全く興味がないご様子だ。
いや、どちらかと言えば反対のようだ。
「マーガレット。そうは言っても陛下と妃殿下が、エリザを大変気に入っておられるのだよ」
「あら、わたくし達の娘ですもの。お二人が気に入るのは当たり前ですわ。けれど、こちらには、こちらの考えがございますのに。何も王家の言いなりにならずとも宜しいのでは?」
「ウィリアム殿下は可愛らしく素直でいらっしゃるけれど、エリザのお相手となると・・。わたくし考えてしまいますわ。エリザの白馬の王子様ではないようですし。ねえ、エリザ」
ウインクと一緒にお茶目な笑顔。
白馬のお話は、ウィリさまには内緒です。
私は5歳。
お兄様は8歳。
そう8歳。
お兄様が家出をするのは直ぐです。阻止しなければ。
お母さまの命を救う為に。
お兄様の闇堕ちを、深みにハマらせない為に。
お父様の心を守るために。
そして、わたくしの未来のために。
ウィリアム王太子殿下との婚約を断固拒否させて頂きます。
「お母様。ありがとう」
お父様から離れて抱きついた私を、優しい香りが抱きしめた。
「大丈夫よ、エリザ。お父様を信じましょ。信じていていいのよね?アフレイド」
どこまでも強いお母様。
「王太子殿下ならと思ったのだが・・。エリザとも気が合っているように思っていたのだが。
そうか。エリザにはまだ婚約は早いか。そうだな。うんうん。まだまだ誰にも渡さないことにしよう」
良かった。
嬉しい笑顔を向けた私とお母様を騎士団で鍛えた逞しい腕が抱きしめた。
「お兄様」
振り向いて兄を探す。
「エリザ」
私よりも大きいけれど、まだ幼いコバルトブルーの瞳が見つめる。
「私はお兄さまも大好きです」
私がそう言うと、お兄様は不思議そうな顔をした。
「エリザもリアムもまだまだ誰にも渡さないよ。私たちの大切な宝物なのだから」
そう言って、お兄様も一緒に抱きしめて下さったお父様。
お兄様の瞳が大きく見開かれて、そしてとても嬉しそうに輝いた。
とっても可愛らしいんですけど。
まだ間に合うわ。
ノイズ家の笑顔、守ってみせます。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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危ない!
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ガチャ~ン!!
‥‥
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スクランブル交差点。猛スピードで突進してくるトラック。人々の悲鳴。
何かとぶつかる感覚・・・。
私は助かった?それともここは天国?
「エリザ!」
「エリザベート様!」
「お嬢さま!」
周りがザワザワしている。
日本語ではない言葉が聞こえる。
けれど私にはその言葉がわかった。
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「エリザ!私の愛する天使。ああ!神よ。ありがとうございます」
ダークブロンドの髪に深いグリーンの瞳。聞き心地の良いバリトンボイスの紳士に抱きしめられる。
思い出した。私はエリザ。エリザベート・ノイズ。
おそらく私はあの事故で命を落としたのだろう。そして5年前に、この世界の公爵令嬢エリザベート・ノイズとして転生したのだ。
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私は幼い頃からお父様に連れられて、何度もお城に遊びに行っている。ウイリアム殿下は私と同じ歳だ。大人達が難しい話しをしてつまらない時などは2人でこっそりと部屋を抜け出して、お城の庭や殿下のお部屋でお菓子を頂いたり、魔法ごっこをして遊んだりしている。そっと抜け出したと思っていても、そっと、そっと、と抜け出している私達を、大人達が優しい目で追いかけていたのを知らなかっただけなのだけれど。私とウィリ様はいわゆる幼馴染なのだ。私には3つ年上のお兄様がいるが、お兄様は大人で、私や殿下と一緒に抜け出したり、魔法を使ったイタズラをしたりはなさらない。
だから、「エリザ、お前とウィリアム殿下との婚約が決まりそうだよ。」とお父様に言われた時も、あまり驚かなかった。むしろちょっと嬉しかった。ウィリ様はとっても可愛いから大好きだった。魔法ごっこの時に、ちょっと失敗して自分で水をかぶってしまったり、メイドのリリーの手伝いをしようとして、ケーキをリリーにぶつけてしまったり。ダメダメなところが面白いのだ。後で2人でリリーに叱られるのも楽しかった。
ウィリ様との婚約が決まるかも知れない。そう聞いた後、突然めまいがして私は倒れた。
そして、思い出してしまったのだ。
『エリザベート、お前との婚約は解消する。私は真実の愛を見つけたのだ。』
そういってエリザベートとの婚約破棄を宣言した乙女ゲームのウイリアム王太子殿下の事を。
ああ、そうだ。
私は知っている。
思い出した!!
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ここは乙女ゲーム「王国の聖女ロリエッタ」の世界。
あの乙女ゲームに登場する悪役令嬢の名前はエリザベート・ノイズだった。
それって私?私が悪役令嬢?
それなら私は、エリザベートは、ウィリアム王太子殿下に王都学園の卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されるわ。
あああ・・そうだった・・
けれど、まだ間に合うわ。今、お母様は生きている。生きているんだもの。
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彼は養子だった。実家はフェナンシル伯爵家。その実家で事件が起こり両親は殺害される。亡くなる前に実父はリアムを助けるために魔法騎士団の総団長であるアフレイドを頼ったのだ。幼いながら、リアムの持つ魔力と知力は尋常ではなかった。フェナンシル伯爵家は、精霊王に愛されている家系だと言われている。代々の当主は不思議な力を持ち、強大な魔力を持って生まれてくる。リアムも例外ではなかったのだ。彼の実父もまた同様の力を持っているはずだ。けれど悲劇は起こってしまった。アフレイドはその事を重くとらえていた。フェナンシル伯爵領で何かが起こっている。彼はさっそく自分の部下に命じて捜査を始めるのだった。そして、リアムのたぐいまれなる才能をかい、彼がフェナンシル伯爵を継ぐ日までノイズ家の息子として大切に育てる事に決めたのだった。
お父様、大丈夫です。お母様はまだ生きておられます。大丈夫です。
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あああ・・そうだった。お兄様、気付きませんでしたわ。
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ああああー!!!そうだった。そうだった。それが乙女ゲーム。私、思い出してしまいました。
お兄さま!必ずお助け致します。
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「お父さま、もう大丈夫です」
私を抱きしめるダークブロンドの紳士の、深いグリーンの瞳をしっかり見つめながら私は願いを口にした。
「あのね、お父さま。ウィリ様とは結婚したくないの。ウィリ様ではダメなの。可愛いくて優しいけれど私の王子様ではないの。私は白馬の騎士と結婚すると決めているのに、ウィリ様は馬に乗った時に怖がって泣いていたんですもん。しっかくだわ」
どうか願いが届きますよーに。
「ハハハハ!そうか、ウィリ様は失格か!」
弾けるように笑うお父さま。
「そうよね。エリザ」
そしてここで力強い味方が登場した。
「エリザはまだ幼いわ。婚約したらお妃教育が始まるのでしょ?私はエリザにはもっと伸び伸びと成長して欲しいわ。厳しいお妃教育は他の御令嬢にお任せしてはどうかしら?」
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「マーガレット。そうは言っても陛下と妃殿下が、エリザを大変気に入っておられるのだよ」
「あら、わたくし達の娘ですもの。お二人が気に入るのは当たり前ですわ。けれど、こちらには、こちらの考えがございますのに。何も王家の言いなりにならずとも宜しいのでは?」
「ウィリアム殿下は可愛らしく素直でいらっしゃるけれど、エリザのお相手となると・・。わたくし考えてしまいますわ。エリザの白馬の王子様ではないようですし。ねえ、エリザ」
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白馬のお話は、ウィリさまには内緒です。
私は5歳。
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そう8歳。
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お母さまの命を救う為に。
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「お母様。ありがとう」
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良かった。
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そう言って、お兄様も一緒に抱きしめて下さったお父様。
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