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異世界転生
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もしも生まれ変わるなら、今度は自分に正直に生きてみたい。
なんて、高校生の俺が考えるのは尚早だろうか。
アニメや漫画の世界の主人公たちに影響されて、何度も変わろうと思ったけれど、実際はそんな簡単ではない。変わろうとするたび、変われない現実を突きつけられる。そして時間が経てば忘れてしまう。
夜道を散歩しながら、そんな考えばかりが頭の中を巡る。
ぼーっとしている俺を現実に引き戻したのは、なんとも耳障りな声だった。
「なあなあいいだろ? これから俺たちと楽しいあそびしようよ」
道路を挟んだ向こう側にあるコンビニの前で、ガラの悪そうな男数人が一人の女性に言い寄っていた。
あの女性を助けに行くことができたなら、なにかが変わるだろうか。
俺の足は自然とコンビニに向かって歩き出した。
しかし、途中で止まる。
行ってどうなる。俺があの男たちに腕っ節でかなう訳もない。恥をかくだけだ。
帰ろう。別に今変わらなくたっていい。明日でも、明後日でも、人生は果てしなく長いわけだし。
くだらない言い訳で自分を納得させて歩きだそうとしたそのときだった。考え込んでいたせいで、気付かなかった。大型トラックが、目と鼻の先まで迫ってきている。
ライトがついていない。運転席に目をやると、頭をこくりこくりと揺らす男が一人。瞬時に動けば回避できたかも知れない。だけど恐怖に体が硬直してしまって動かない。
トラックはどんどん迫ってくる。もう、どう動いても回避しようがない。時間にすればたった数秒の出来事なのに、やけに長く感じる。
体とトラックが触れそうになる直前、視界の端で先ほどのコンビニが見えた。女性の前に、先ほどまではいなかった青年が立っていた。背格好が俺に似ている。両手をこれでもかと広げ、守ろうとしている。足は震え、今にも泣き出しそうだ。なんとも情けない立ち姿だけど、俺にはそれが、今までみたどんな男よりもかっこよく見えた。
もしも生まれ変わることができたなら、今度は自分に正直に――。
鈍い衝撃が体に走り、意識を失った。
※
息苦しい。体中に汗をかいているのがわかる。あまりの心地の悪さに目を覚ますと、薄暗い空が視界に飛び込んできた。体に力を込めて起き上がろうとしたけど、うまく力が入らない。
全身が脱力していて、身動き一つ取れない。
俺は、ここで死んでしまうんだろうか。
そんなことが頭をよぎった時、足音が聞こえた。
最大限息を大きく吸って、声を張り上げる。
――助けてください
声がでない。まるで自分の体じゃないみたいだ。
もうだめだ。諦めかけたそのとき、誰かが俺の顔をのぞき込んできた。
「おやおや、こんな所に赤子が一人でおるとはのう」
口に白髭をたくわえたじいさんが、柔和な笑顔を浮かべている。さっきまでの不安が嘘のように消えていく。
それにしても、今このじいさん俺のことを赤子って言ったか?
確かに老人からしたら高校生の俺なんか赤子同然かもしれないが、直接赤子呼ばわりするか?
というか、事故って倒れてるんだからさっさと助けを呼ぶとかしてくれないかな。
「ここは居心地が悪かろう。私の家に帰ろうか」
じいさんは俺を軽々と両手で持ち上げた。そこでようやく、自分の状況を把握できた。じいさんの腕にすっぽりとはまるほどの小さな体。俺はじいさんの言葉通り、赤子になっていた。
状況を飲み込めない俺のことなど意にも介さず、じいさんは歩き出した。
じいさんの腕に抱かれながら歩いていると、周りの景色がよく見える。どうやらここは森の中のようだ。乱立する大樹を縫うように歩いている。道があるわけでもなく、獣道のようなところを歩いている。とても人が住めそうな環境にはなさそうだが、じいさんは慣れているようで、黙々と歩き続けた。
数分経ったところでログハウスのような建物が見えてきた。その周辺だけは綺麗に整地されていて、この森の中ではかなり浮いた空間になっている。
「今日からあそこが君の家じゃ」
赤ちゃんになってしまった以上、自分一人の力ではどうしようもない。現状を把握するためにも、今はこのじいさんを頼る他なさそうだ。
じいさんは家に入ると、俺をゆりかごに寝かせた。ようやく一息ついたところで、思考を巡らせる。
赤ちゃんになる前の最後の記憶――居眠り運転をするトラック運転手。女性の盾になる青年。鈍い痛み――。
俺はトラックにひかれて死んだはずだ。なのに目が覚めたら赤子になっていて、見知らぬ森の中に、見知らぬじいさんと二人きりでいる。
まるで、異世界に転生したみたいだ。
それを確認するためにも、まずはこのじいさんとなんとか意思疎通を取れるようにならなければ。
いろいろと考えたいことはあるけれど、今は少し疲れた。俺はまぶたを閉じてゆっくり眠りについた。
そして、15年の月日が流れた。
なんて、高校生の俺が考えるのは尚早だろうか。
アニメや漫画の世界の主人公たちに影響されて、何度も変わろうと思ったけれど、実際はそんな簡単ではない。変わろうとするたび、変われない現実を突きつけられる。そして時間が経てば忘れてしまう。
夜道を散歩しながら、そんな考えばかりが頭の中を巡る。
ぼーっとしている俺を現実に引き戻したのは、なんとも耳障りな声だった。
「なあなあいいだろ? これから俺たちと楽しいあそびしようよ」
道路を挟んだ向こう側にあるコンビニの前で、ガラの悪そうな男数人が一人の女性に言い寄っていた。
あの女性を助けに行くことができたなら、なにかが変わるだろうか。
俺の足は自然とコンビニに向かって歩き出した。
しかし、途中で止まる。
行ってどうなる。俺があの男たちに腕っ節でかなう訳もない。恥をかくだけだ。
帰ろう。別に今変わらなくたっていい。明日でも、明後日でも、人生は果てしなく長いわけだし。
くだらない言い訳で自分を納得させて歩きだそうとしたそのときだった。考え込んでいたせいで、気付かなかった。大型トラックが、目と鼻の先まで迫ってきている。
ライトがついていない。運転席に目をやると、頭をこくりこくりと揺らす男が一人。瞬時に動けば回避できたかも知れない。だけど恐怖に体が硬直してしまって動かない。
トラックはどんどん迫ってくる。もう、どう動いても回避しようがない。時間にすればたった数秒の出来事なのに、やけに長く感じる。
体とトラックが触れそうになる直前、視界の端で先ほどのコンビニが見えた。女性の前に、先ほどまではいなかった青年が立っていた。背格好が俺に似ている。両手をこれでもかと広げ、守ろうとしている。足は震え、今にも泣き出しそうだ。なんとも情けない立ち姿だけど、俺にはそれが、今までみたどんな男よりもかっこよく見えた。
もしも生まれ変わることができたなら、今度は自分に正直に――。
鈍い衝撃が体に走り、意識を失った。
※
息苦しい。体中に汗をかいているのがわかる。あまりの心地の悪さに目を覚ますと、薄暗い空が視界に飛び込んできた。体に力を込めて起き上がろうとしたけど、うまく力が入らない。
全身が脱力していて、身動き一つ取れない。
俺は、ここで死んでしまうんだろうか。
そんなことが頭をよぎった時、足音が聞こえた。
最大限息を大きく吸って、声を張り上げる。
――助けてください
声がでない。まるで自分の体じゃないみたいだ。
もうだめだ。諦めかけたそのとき、誰かが俺の顔をのぞき込んできた。
「おやおや、こんな所に赤子が一人でおるとはのう」
口に白髭をたくわえたじいさんが、柔和な笑顔を浮かべている。さっきまでの不安が嘘のように消えていく。
それにしても、今このじいさん俺のことを赤子って言ったか?
確かに老人からしたら高校生の俺なんか赤子同然かもしれないが、直接赤子呼ばわりするか?
というか、事故って倒れてるんだからさっさと助けを呼ぶとかしてくれないかな。
「ここは居心地が悪かろう。私の家に帰ろうか」
じいさんは俺を軽々と両手で持ち上げた。そこでようやく、自分の状況を把握できた。じいさんの腕にすっぽりとはまるほどの小さな体。俺はじいさんの言葉通り、赤子になっていた。
状況を飲み込めない俺のことなど意にも介さず、じいさんは歩き出した。
じいさんの腕に抱かれながら歩いていると、周りの景色がよく見える。どうやらここは森の中のようだ。乱立する大樹を縫うように歩いている。道があるわけでもなく、獣道のようなところを歩いている。とても人が住めそうな環境にはなさそうだが、じいさんは慣れているようで、黙々と歩き続けた。
数分経ったところでログハウスのような建物が見えてきた。その周辺だけは綺麗に整地されていて、この森の中ではかなり浮いた空間になっている。
「今日からあそこが君の家じゃ」
赤ちゃんになってしまった以上、自分一人の力ではどうしようもない。現状を把握するためにも、今はこのじいさんを頼る他なさそうだ。
じいさんは家に入ると、俺をゆりかごに寝かせた。ようやく一息ついたところで、思考を巡らせる。
赤ちゃんになる前の最後の記憶――居眠り運転をするトラック運転手。女性の盾になる青年。鈍い痛み――。
俺はトラックにひかれて死んだはずだ。なのに目が覚めたら赤子になっていて、見知らぬ森の中に、見知らぬじいさんと二人きりでいる。
まるで、異世界に転生したみたいだ。
それを確認するためにも、まずはこのじいさんとなんとか意思疎通を取れるようにならなければ。
いろいろと考えたいことはあるけれど、今は少し疲れた。俺はまぶたを閉じてゆっくり眠りについた。
そして、15年の月日が流れた。
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