[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第三章

閑話:過去の世界で3:前編

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時は少し遡り、これは彼女が誤った世界へ入り込んだ後……魔女のお話です。


私が水晶玉を彼女へ近づけると、彼女の精神がゆっくりと離脱していく。
そのまま彼女の体が水晶玉の中へ吸い込まれたのを確認すると、魂がなくなった彼女の体を優しく受け止めた。
ふふふっ、人間の体に入るなんて、何百年ぶりかしら。
魂がなくなり、グッタリとする彼女の体にスッと入り込むと、私は自分の体をベッドへと横たわらせる。
魔女の体は空気中のあらゆる物を吸収し、生きることが出来る。
それは意識がなくても同じ事。
だから人間のように外部から栄養を取る必要がない。
数か月ほどベッドに放っておいても、朽ち果てることがないわ。

人間の体に入ると、魔女にはない鋭い感覚が体を刺激する。
魔女には味覚や、触覚、そう言ったものが人間よりもかなり鈍い。
その代わりに、聴覚や視覚、嗅覚は人間よりも優れている。
それは食べることをやめ、長い時を生き続けなければならない魔女の退化。
逆に優れた感覚は、世界を監視するものとして必要な能力が発達していったのだった。

鈍感になった一部の感覚に違和感を感じるものの、徐に手の甲を爪でひっかいてみると、久しぶりに感じる痛みに心が震える。
あぁ……痛いって素晴らしいわ~。
薄っすらと真っ赤な血が手の甲に流れると、私はそれを舌で舐めとった。
口の中に生暖かい鉄の味が広がる中、私は彼女が入って行った水晶玉を覗き込むと、彼女の意識が深く深くに落ちていく姿が映る。
あの速度なら……世界を見るのに一月ほどかかりそうねぇ……。
ふふふ、さぁ、魔女では味わえないものを十分に味あわせてもらいましょう。
私は水晶玉をそのままに静かに部屋を出ると、屋敷の外へと進んでいった。

外へ出ると、ふと窓に映り込んだ自分の姿に足を止める。
あらっ、この姿のままじゃまずいわよね。
外で勝手に色々して、ばれると困るわ~。
私はそっと彼女の長い髪へ触れると、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。
赤は魔女だけの色だからダメねぇ~。
何色に変えようかしら……。
窓に映る自分の姿を確認しながら、髪を青や緑、茶と変えてみるが、どれもしっくりとこない。
う~ん、この子の顔は幼い感じだし……ピンク色はどうかしら?

私は髪をピンクに染め上げると、長い髪を肩程まで縮めていく。
あら、なかなかいいじゃない。
納得できる自分の姿に満足する中、次は瞳を魔法で紅く塗りつぶしていくと軽く目にラインを入れていった。
顔の原型を変えることは出来ないけれど、髪と目、それに色が違えば印象が変わるわ。
これだけ変えれば、同じ人間だとは思われないでしょう。
そう一人納得すると、私は移転魔法を唱え、人間が住む街へと向かっていった。


街へやってくると、賑わう通りにゆっくりと紛れ込んでいく。
時空が歪んだけれど……まだそれほどに人間に影響を与えていないのねぇ~。
ふふっ、丁度いいわ。
とりあえずは、美味しい物を食べないとねぇ。
クンクンと鼻を揺らしてみると、香ばしい香りや、甘い香りが鼻を擽った。
あぁ~いいわぁ~。
この程度の香りなら不快でもないし、むしろ美味しそうに感じる。
魔女だとどうしても匂いに敏感だからね~、こんな街の中、臭くて歩けやしないわ~。
私は匂いに釣られるように出店へと体を向けると、ふらふらと引き寄せられるように歩いて行く。

「一つ頂いてもいいかしら?」

「おぉっ……ちょっと待ってくれよ!」

そうニッコリ笑みを浮かべながら、出店に立つ男へ話しかけると、私を見つめたまま彼の頬が赤く染まっていく。
何やら慌てて準備をする男の様子に笑いがこみ上げてくると、そっと口もとを隠した。
ジュ~、と生地の焼く音が耳に届く中、ふんわり甘い匂いが鼻を掠める。
するとグゥ~と小さく腹の虫が鳴った。

「お嬢さんみたいな別嬪さんには、サービスしてやろう。ほら、銅貨4枚だ」

果物や、甘いソースを巻いた生地が差し出される中、私は男の言葉に動きをとめた。
銅貨4枚……この子お金持っているのかしら?
私はローブの中をガサゴソ漁ってみると、内側のポケットから金貨を見つけた。
それをそのまま男へ見せると、彼は持っていた袋を落とし、勢いよく飛び退いた。

「おぃおぃ、嬢ちゃん……そんな大金どうしたんだ?こんなボロ屋台で金貨なんて、使えるはずねぇだろう。冷やかしなら、よそへ行ってくれ」

店主は呆れた様子で落ちた袋を拾い上げると、私を追い払うような仕草を見せる。
冷やかしじゃないんだけれど……。
でもこの男の様子じゃ、買えないって事かしらね?
私は肩を下しシュンと項垂れると、深いため息をつきながら、出店へと背を向けた。
はぁ……せっかく来たのに残念だわ~。
人間の街は不便ね……確か……金貨は一番高いお金だったはずだわ。
ここは諦めて、城下町の方へ行ってみようかしら。
あそこなら金貨も使えるでしょう。
そう気を取直し顔を持ち上げた瞬間に、誰かの腕が勢いよく私の横を掠めて行った。




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