[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第二章

序章

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とある高級宿屋の一室に、見目麗しく30代ぐらいだろう男と年老いた男がテーブルを囲い、何やら話し込む二人の姿が浮かび上がる。
部屋の明かりは消され、暗い部屋の窓からは、眩しい満月の光がキラキラと差し込んでいた。

「やっと異世界の女が、5人の男に抱かれたようだな」

「えぇ、そのようでございます」

若い男は祝う様に、グラスを片手に乾杯する仕草を見せる。
そのままワインを口へと運ぶと、満足そうに笑みを浮かべた。
その隣にはバトラーを着用した年老いた男が、ヴィンテージ物のワインボトルを手にしている。

「なぁ……異世界の女ってのは、どんなやつなんだろうな?」

「……それは存じ上げませんが……大変お美しい方だとお噂されております」

空になったワイングラスがテーブルへ置かれると、ワインボトルを手にしていた男は鮮麗された動きでワインを注いでいく。

「ふ~ん……ところで彼女はこの世界で一体誰を選ぶんだろうね~。僕はそれを見届ける権利がある、楽しみだ」

注がれたワイングラスをまた傾ける中、隣に佇んでいたローブの男は、しゃがれた声で問いかけた。

「あなた様もその一員に入るのですか?」

「まさか……僕は只見届けるだけだ。旧友である……あいつの選んだ女の行く末を」

男はまた空になったワインをテーブルの上へ置くと、ふと物思いにふけるように、窓の外に見える丸い満月を見上げた。


ターキィーミ、それが僕の旧友の名。
彼は数年前に、この世を去った。
あいつと僕は幼い頃からの付き合いで、誰よりも気の合う良い友人だった。

そんなあいつは、幼い頃から魔法の才能がずば抜けていた。
学生の頃、あいつに魔法の分野で勝てたことはない。
魔法が純粋に好きで、真っすぐで、生き生きとしている……僕とは正反対の彼の傍は居心地がいい。
僕にはない物を持っているあいつの姿は眩しくて、羨ましかった。

そんな彼がある日、いつも以上に嬉しそうに僕の元へやって来ると、コッソリ耳打ちしてきた。

「なぁ、見てくれ!俺、すごい魔法を見つけたんだ!」

「すごい魔法……一体どんな魔法なんだ?」

彼は含みを持たせる笑みを浮かべると、僕の手を引いて人気のない場所へと引っ張っていく。
用心深く周りを気にする中、彼は徐に杖を掲げると防音の魔法を唱えた。

「昨日さ、綺麗な金髪の女に声をかけられたんだ。不思議な雰囲気の女だったんだけど……その女が落としていったんだ!見てくれよこれ!」

彼は嬉しそうに僕の前に古びた紙を広げると、そこには時空移転魔法と記されていた。

「おぃ、これは……ダメだろう。国で禁止されている魔法じゃないか!さっさと返してこい!」

「やだよ!これは俺が拾ったんだからな!」

「いやいや、お前それを使えば……捕まるぞ」

「わかってるって!でも……俺はどうしても、父さんと母さんに会いたいんだ。何をしていたのか……どうして死んだのかもわからない……誰も教えてくれないからな……きっとこれは神様からの贈り物なんだ!俺はこの魔法を使って父さんと母さんに会いに行く」

そう力強く話す彼の様子に、僕はもう何も言う事が出来なかった。

「……いつやるんだ?」

「そうだな……一番魔力が高まる、満月の日にしようと思ってる」

「はぁ!?満月って……明日じゃないか!!」

彼は僕の言葉にニヤリと笑みを浮かべると、必ず戻ってくるからと言って去っていった。

そうして満月の日、よく遊んでいた広場で、あいつは時空移転の魔法を使った。
眩い光線があたり一面に広がる中、軽い調子で、必ず戻るからな~!との声が届いた瞬間、あいつの姿が僕の前から消えた。

それから待てど暮らせどあいつが帰ってくる様子はなかった
自分なりに彼を探してみたが……どこにもあいつが戻ってきた痕跡は見つからなった。
どうして僕はあの時、彼を強く留めなかったのか……ずっと後悔していた。
もう戻らないあいつの姿を追うのに疲れ、僕はあの広場へ行くことはなくなった。

青年だった僕は成人へと成長し、それでもあいつが僕の前に現れることはない。
彼は魔法に失敗して死んでしまったのだろうか……、いやあいつが魔法で失敗するなんて、あるはずがない。
なら……成功したが《この場所》に戻れなくなったのか……。
それすらもわからないまま、時は無情にも進んでいく。


そんなある日、厄介な仕事を片づけ、母国に戻った僕は何気なくあの広場へ足を運んだ。
なぜだかわからない……只、満月が見えて、無性にあの場所へ行きたくなったんだ。
あいつが時空転移魔法を使った場所は、今も変わらずそこにあった。
数年ぶりに、誰もいない広場を一人静かに歩いていると、ふと広い草原に見知らぬ石碑が建っている事に気が付いた。
僕はそのまま石碑へ足を進めてみると、石碑のすぐそばに人影が映った。
目を凝らしその人影を確認すると、そこには笑みを浮かべた、懐かしい旧友の姿があった。

「久しぶりだな。遅くなってすまない」

満月の光に照らされたあいつのは姿は、僕よりもずいぶん年上に映る。
同じ年だったはずなのに……これは時間移送の魔法の影響なのか……?
思ってもみなかったあいつの存在に呆然とする中、あいつの余裕そうな笑みに、徐々に怒りがこみあげてくる。

「お前……っっ、遅すぎる!!どれだけ心配したと思っているんだ!!!」

そう怒鳴ると彼はすまなかったと深く頭を下げた。
静寂が二人を包む中、冷たい風が吹くと、長いローブがたなびく。
僕はじっとあいつを見上げると、徐に口を開いた。

「……それで両親には会えたのか?」

その言葉にあいつは気まずげに僕から視線を逸らせると、小さく唇を開いた。

「両親には会えなかった…俺はあの日……魔法に失敗して、異世界へ飛ばされたんだ」

こいつが魔法で失敗するなんて……。
僕はかれの言葉に呆然とする中、懐かしいあいつの姿を眺めていると、ふとあいつの異変に気が付いた。

「お前……その魔力どうしたんだ?……」

あいつは弱弱しい笑みを浮かべると、僕に視線を向けた。

「俺は異世界に行って、最愛の女性を見つけたんだ。でもその彼女が死んでしまう現実に耐えられなくて、俺は慣れない土地で、何度も魔法を使って、彼女が死ぬ運命に抗った……その弊害だよ。俺が今日ここに来たのは、ここで死ぬためだ」

衝撃的な事実に頭が真っ白になる中、どこか吹っ切れた様子を見せるあいつの姿を見ていると、次第に苛立ちが募っていく。

「お前は本当に勝手だな……僕がどれだけ心配したか知らないだろう!ずっとお前を探していた、それなのに、お前は……くそっ!!」

僕はあいつの胸倉をつかむと、怒りに拳を振り上げる。
そんな僕の様子を悲し気な表情を見せる彼に、僕は動きを止めた。

「心配をかけて本当にすまなかった。でも最後に君に会えてうれしかったよ……もう俺には君に会う資格はないと思っていたからな」

「あぁぁ、もう、お前はいつもそうだ!!!そんな事あるはずないだろう!お前は僕の親友なんだからな」

その言葉にあいつは嬉しそうに笑う中、僕は拳を静かに下ろしてく。

「それで……そこまでしてお前の最愛の女性は救う事が出来たのか?」

「あぁ……だが俺には彼女を幸せにすることが出来なかった。だから彼女に新しい人生を歩めるようにしておいたんだ。後数年後、この世界に異世界から俺の最愛の人がやって来る。もし会う事があれば、宜しく頼むよ。もしよければだが、俺の代わりに彼女の行く末を見届けてやってくれ」

そう力なく笑ったあいつの姿は、一生涯忘れることはないだろう。
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