[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

閑話:この気持ちの正体は (シナン視点)

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お姉さんが戻ってきた!
僕はラボを飛び出すと、お姉さんの匂いを必死にたどった。
これまで何度かお姉さんと似た匂いに飛び出したこともある。
だけど今までとは違う、今度は間違いない。
ノエルが現れてから三か月、ずっと求めていた本物のお姉さんの匂い。

だけど……最後に会ったお姉さんは、お姉さんじゃなかった。
たぶんあの偽物はノエルと親しい関係にあるのだろう。
あの場所が崩壊する直前、お姉さんの魔力にノエルの魔力が混ざっていたから。

以前船の時に感じたものとは違う温かく優しい二人の魔力。
きっとノエルは偽物のお姉さんを探していたんだ。
だからお姉さんが囚われていても無事なのだと知っていた。
本物のお姉さんになればすぐわかる。
その時はすぐに連れ戻すから。

そしてやっと見つけたお姉さん。
彼女が子供のように泣きじゃくる姿を初めて見た。
いつも気丈で、優しくて、格好良くて可愛い僕のお姉さん。
涙を見せることはあっても、あんなふうに泣いたことは一度もない。
盗賊に襲われそうになったときも、ランギの街で危険な目にあったときも、船の中でも、あの地下に捕らわれたときも、涙は見せてもあんなふうにならなかった。

彼女に寄り添っている男。
長髪のプラチナの髪にカミールさんと同じ色の瞳。
あの人がエヴァン……。
僕はじっと男の姿を見つめると、拳に力が入っていく。
チリっと痛みがはしると、温かい血が指の隙間から滴り落ちていった。

お姉さんの大事な人。
彼の名を紡ぐ彼女は愁いを帯びた瞳を浮かべるんだ。
夢の中で彼女の中に居たのはあの男。
あの人のために壁を破壊し危険を冒してまでも会いに来た。

以前にも感じた、どす黒い何かが込み上げる。
僕のお姉さんに僕以外の誰かがいるのが許せない。
嫌だ、嫌だ、許せない。

苛立ちで目の前が赤黒く染まっていく中、お姉さんが涙する姿が何度も頭を過る。
お姉さんは僕のものだ。
喜びも笑顔を涙も怒りも全部。
そこは僕の場所だ。
誰にも渡したくない。
叫びたい吠えたいほどの感情。
以前感じたときよりも数段に強くなっている。

あの男を何とかしないと……
暗闇の中に浮かび上がる二人の姿。
お姉さんの鳴き声だけが耳に響く。
自分の中に知らない感情が湧き出してくる。
感情任せに二人の傍へ行こうとしたその刹那、制止するように手首が強く握られた。
殺気を帯びた瞳を向けると、そこにはカミールの姿があった。
真っすぐに見つめるエメラルドの瞳、そこに自分も知らない獣と化した己の姿映し出された。

「落ち着けシナン、やめとけ」

その言葉にハッと我に返ると、慌てて足を止める。
僕はいったい何を……今の姿は……。
自分の知らない何かに恐怖を感じた。

以前もこんなふうになったことがある。
お姉さんが知らない男の匂いを付けて戻ってきたあの日。
怒りのままに彼女を押し倒して上書きした。
口を噤む彼女を許せなかった。
僕の物だと知らしめようとした。

そうだ、あの時お姉さんの涙を初めて見たんだ。
誰よりもお姉さんを大事にしたいのに、僕が泣かせてしまった。
すごくショックだった。
だけど今あそこで泣いているお姉さんは僕が見た涙とは違う。
僕はお姉さんを傷つけたくない。
なのに僕は……今何をしようとしていた……?
お姉さんの大事な人に……。

お姉さんのことになると、感情が気持ちが追い付かない。
この気持ちは一体何なのだろう。
愛情と恋情の違い……。
僕は拳を強く握りどうにか怒りを収めると、答えがわからぬまま抱き合う二人をじっと見つめ続けていた。

**********************************

ここまでお読み頂きまして、本当にありがとうございますm(__)m
これにて長々と続きました第五章は完結でございます。
気が付けば356話、自分自身驚きを隠せません(-_-;)

次回より最終章が始まります。
北の国から始まる最終章。
それぞれの想いが交差する新しいストーリーをお楽しみいただけるはず(*ノωノ)
新しい世界でのアーサー・ネイト・ブレイク・レックス、そしてタクミとエヴァン。
タクミと主人公の記憶などなど(*´Д`)
もちろんシナンとカミールも登場しますよ(*ノωノ)
そしてここで主人公の名前が、ようやく判明します(引っ張り過ぎですよね……(-_-;))
どうぞ最後まで楽しんで頂けると嬉しいです。

最後に最終章で「異世界は突然に……」完結致します。
かならず最後までかき上げますので、どうぞ温かく見守って頂けると幸いです。
またご意見ご感想とございましたら、お気軽にコメント頂けると嬉しいです!(いつも執筆の励みなっております!)

それではまた最終章でお会いできるよう、なるべく早く頑張ります!
これからもどうぞ応援並びにご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いしますm(__)m
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