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第五章
新章11:10日間
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恐る恐るに目を開けると、こちらへ飛び掛かってきていた黒コートの男たちは消え、見覚えのある部屋が広がった。
ここはリョウの家……ギリギリだったけれど、何とか戻ってこられたのね。
私はほっと胸をなでおろすと、緊張の糸が切れポテッとその場に倒れこんだ。
疲れたわ……。
全くどうしてこんなことに……壁を破壊する方法を見つけに来たはずだったのに……。
でもこうしてエレナの母親を見つけられたのだから、結果よかったのかしらね。
それよりもエレナの事を話す前に、彼女を連れてきてしまった。
うぅ……何とかしなきゃと思って勢いで魔法を使ってしまったけれど、ここからどうしようかしら……。
色々と問題が山積み。
はぁ……と深いため息が漏れると、床に顔を埋めた。
「ねぇさん!」
部屋に響いた声に顔を上げると、リョウが彼女の腰へ抱き着いていた。
姉さん?姉弟だったの?
それにしては年が離れすぎているような……。
「……あなたは……?まさか……リョウなの?どうしたのその姿はッッ!?」
うん?
噛みあっていない会話に顔を上げると、彼女は戸惑った様子で抱き着くリョウを見下ろしていた。
「やっとねぇさんを救い出せた。この姿は魔法で作ったものなんだ。元の姿じゃ捕まっちゃうからね。一度姉さんの救出に失敗して、指名手配されちゃったからしょうがない。もちろん識別番号だってちゃんとあるんだよ」
彼女は大きく目を見開くと、彼の姿をまじまじと見つめる。
「姿を変える……?そんなことが可能なの?」
「まぁね。この魔法を見つけるまで大変だったよ。IDの偽造もなかなか骨が折れた」
救出しようとした……?
ということはさっき言ってたあの男というのはリョウのことね。
彼へ顔を向けると、突然魔力が溢れ出した。
彼の足元から魔法陣が現れ、体をゆっくりと包み込んでいく。
黒いベールが上がりすっぽり体が収まると、徐々にベールが消えてった。
そこに現れたのは30代ぐらいの男性。
鼻筋の通った整った顔立ちで、スラっとした長い脚。
可愛らしい顔立ちではなく、切れ長の目で冷たい瞳をしている。
二人が並ぶと、顔のパーツや佇まいがどことなく似ていた。
「リョウ……」
「ねぇさん、おかえりなさい」
彼は優し気な笑みを浮かべると、お互いを確認しあうように抱き合う。
リョウの瞳が微かに潤むと、彼女の肩へ顔を埋めた。
どれぐらいそうしていたのだろうか、私は感動の再会を呆然と眺めていると、リョウがそっと体を離す。
「ねぇさん、早速姿を変えよう。そうすれば追われる心配もないし、安心して暮らせられる。最初は戸惑うかもしれけれど、慣れればどうってことない」
リョウは姉の手を引っ張ろうとすると、彼女は首を横へ振った。
「リョウ、待って。そこのぬいぐるみさんに聞いておかなければいけないことがあるの」
彼女は横たわる私の体を持ち上げると、顔を覗き込んむ。
「あの場所から救い出してくれてありがとう。またこうしてリョウに出会えたのはあなたのおかげだわ。ところで可愛いぬいぐるみさん、さっき何を話そうとしていたの?エレナは大丈夫なの?」
私は慌てて頷くと、気まずげに視線を逸らせる。
ちゃんと話さないと……。
「エレナは無事なんですが……少し複雑な事情がありまして……」
「うん?どういうこと?あんたがエレナじゃないの?」
リョウが割って入ってくると、私は頭を抱えた。
そうだったわ、リョウにはこのことを話していない。
私は頭の中を整理すると、二人を宥めるように両手を動かす。
「あの、ごめんなさい、実はその……私はエレナではなくて……えーと、最初から説明させてください!」
私はそう前置きすると、二人を真っすぐに見上げながら話始めた。
私の事、異世界の事、そしてエレナの事。
この世界に来た経緯と目的、全てを包み隠さず正直話した。
そしてエレナが世界から弾かれている事実も……。
二人は終始無言で私の話を聞いてくれた。
全てを話し終えると、長い沈黙が訪れる。
「説明をする前に連れてきてしまってごめんなさい。だけどエレナはずっと母親を恋しがっていたわ」
私は深く頭を下げると、重心がずれ体が傾いた。
怒っているかしら……。
恐る恐るに頭を上げた刹那、鐘の音が響く。
リョウはハッとした表情を見せると、首に下げていた鍵を取り出した。
「まずい、手をだして、はい、これ鍵」
リョウは鍵をこちらへ差し出すと、私は慌てて体を起こす。
鍵がほぼほぼ白色に変色していた。
「どっ、どうして!?まだ一日あるはずじゃ……?」
「あんたは二日帰ってこなかったんだ」
嘘でしょう……。
私は慌てて鍵を握ると、二人を見上げた。
「鍵の半分を持って。向こうへ戻ったら鍵を目印にあなたたちを召喚する。もちろんエレナを元の世界へ戻すよう頑張るわ。もしこちらへ来たくないのであれば、鍵は捨ててくれて構わない」
彼女は白くなった鍵の半分を握りしめると、私を真っすぐに見つめた。
「エレナにもう一度会えるならなんでもするわ。あなたがエレナを戻せなくても、私がそちらの世界へ行って娘を救う。どんな犠牲も厭わないわ」
私はコクリと深く頷くと、鍵を持つ手に力を込める。
パキンッと小さな音が響くと、目の前が真っ暗に染まった。
ハッと目を開けると、私はベッドの上に横たわっていた。
窓から差し込む光に目がくらむ。
私はおもむろに体を起こすと、隣に違和感を感じた。
おもむろに顔を向けると、真っ青なアクアブルーの髪が視界に映る。
もぞもぞと動くと、海のように美しい青い瞳に私の姿が映った。
「ぎゃっ、へぇ!?なっ、なんで、どうして!?なんなのこれ!?」
自分の姿へ目を向けると、服は着ておらず下着姿。
何が何だかと狼狽しながら慌てて飛びのくと、ベッドから滑り落ちた。
ガタガタッバタンッ
腰を強く打ち痛みに悶えていると、ノエルがこちらを覗き込む。
「戻ってきてしまったんだね……」
その言葉にハッとすると、彼は悲し気に瞳を揺らしたのだった。
********************************
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
【新章:10日間】はここでようやく終了となります。
次話は第五章の最終章がスタートです。
主人公は無事にエヴァンと出会えるのか、最後まで見守って頂けるようこれらかも頑張ります(*ノωノ)
牛歩の更新で申し訳ございませんm(__)m
なるべく早く更新できるよう、これからも頑張ります。
ご意見ご感想等ございましたら、遠慮なくコメント頂けると嬉しいです(*'▽')
ここはリョウの家……ギリギリだったけれど、何とか戻ってこられたのね。
私はほっと胸をなでおろすと、緊張の糸が切れポテッとその場に倒れこんだ。
疲れたわ……。
全くどうしてこんなことに……壁を破壊する方法を見つけに来たはずだったのに……。
でもこうしてエレナの母親を見つけられたのだから、結果よかったのかしらね。
それよりもエレナの事を話す前に、彼女を連れてきてしまった。
うぅ……何とかしなきゃと思って勢いで魔法を使ってしまったけれど、ここからどうしようかしら……。
色々と問題が山積み。
はぁ……と深いため息が漏れると、床に顔を埋めた。
「ねぇさん!」
部屋に響いた声に顔を上げると、リョウが彼女の腰へ抱き着いていた。
姉さん?姉弟だったの?
それにしては年が離れすぎているような……。
「……あなたは……?まさか……リョウなの?どうしたのその姿はッッ!?」
うん?
噛みあっていない会話に顔を上げると、彼女は戸惑った様子で抱き着くリョウを見下ろしていた。
「やっとねぇさんを救い出せた。この姿は魔法で作ったものなんだ。元の姿じゃ捕まっちゃうからね。一度姉さんの救出に失敗して、指名手配されちゃったからしょうがない。もちろん識別番号だってちゃんとあるんだよ」
彼女は大きく目を見開くと、彼の姿をまじまじと見つめる。
「姿を変える……?そんなことが可能なの?」
「まぁね。この魔法を見つけるまで大変だったよ。IDの偽造もなかなか骨が折れた」
救出しようとした……?
ということはさっき言ってたあの男というのはリョウのことね。
彼へ顔を向けると、突然魔力が溢れ出した。
彼の足元から魔法陣が現れ、体をゆっくりと包み込んでいく。
黒いベールが上がりすっぽり体が収まると、徐々にベールが消えてった。
そこに現れたのは30代ぐらいの男性。
鼻筋の通った整った顔立ちで、スラっとした長い脚。
可愛らしい顔立ちではなく、切れ長の目で冷たい瞳をしている。
二人が並ぶと、顔のパーツや佇まいがどことなく似ていた。
「リョウ……」
「ねぇさん、おかえりなさい」
彼は優し気な笑みを浮かべると、お互いを確認しあうように抱き合う。
リョウの瞳が微かに潤むと、彼女の肩へ顔を埋めた。
どれぐらいそうしていたのだろうか、私は感動の再会を呆然と眺めていると、リョウがそっと体を離す。
「ねぇさん、早速姿を変えよう。そうすれば追われる心配もないし、安心して暮らせられる。最初は戸惑うかもしれけれど、慣れればどうってことない」
リョウは姉の手を引っ張ろうとすると、彼女は首を横へ振った。
「リョウ、待って。そこのぬいぐるみさんに聞いておかなければいけないことがあるの」
彼女は横たわる私の体を持ち上げると、顔を覗き込んむ。
「あの場所から救い出してくれてありがとう。またこうしてリョウに出会えたのはあなたのおかげだわ。ところで可愛いぬいぐるみさん、さっき何を話そうとしていたの?エレナは大丈夫なの?」
私は慌てて頷くと、気まずげに視線を逸らせる。
ちゃんと話さないと……。
「エレナは無事なんですが……少し複雑な事情がありまして……」
「うん?どういうこと?あんたがエレナじゃないの?」
リョウが割って入ってくると、私は頭を抱えた。
そうだったわ、リョウにはこのことを話していない。
私は頭の中を整理すると、二人を宥めるように両手を動かす。
「あの、ごめんなさい、実はその……私はエレナではなくて……えーと、最初から説明させてください!」
私はそう前置きすると、二人を真っすぐに見上げながら話始めた。
私の事、異世界の事、そしてエレナの事。
この世界に来た経緯と目的、全てを包み隠さず正直話した。
そしてエレナが世界から弾かれている事実も……。
二人は終始無言で私の話を聞いてくれた。
全てを話し終えると、長い沈黙が訪れる。
「説明をする前に連れてきてしまってごめんなさい。だけどエレナはずっと母親を恋しがっていたわ」
私は深く頭を下げると、重心がずれ体が傾いた。
怒っているかしら……。
恐る恐るに頭を上げた刹那、鐘の音が響く。
リョウはハッとした表情を見せると、首に下げていた鍵を取り出した。
「まずい、手をだして、はい、これ鍵」
リョウは鍵をこちらへ差し出すと、私は慌てて体を起こす。
鍵がほぼほぼ白色に変色していた。
「どっ、どうして!?まだ一日あるはずじゃ……?」
「あんたは二日帰ってこなかったんだ」
嘘でしょう……。
私は慌てて鍵を握ると、二人を見上げた。
「鍵の半分を持って。向こうへ戻ったら鍵を目印にあなたたちを召喚する。もちろんエレナを元の世界へ戻すよう頑張るわ。もしこちらへ来たくないのであれば、鍵は捨ててくれて構わない」
彼女は白くなった鍵の半分を握りしめると、私を真っすぐに見つめた。
「エレナにもう一度会えるならなんでもするわ。あなたがエレナを戻せなくても、私がそちらの世界へ行って娘を救う。どんな犠牲も厭わないわ」
私はコクリと深く頷くと、鍵を持つ手に力を込める。
パキンッと小さな音が響くと、目の前が真っ暗に染まった。
ハッと目を開けると、私はベッドの上に横たわっていた。
窓から差し込む光に目がくらむ。
私はおもむろに体を起こすと、隣に違和感を感じた。
おもむろに顔を向けると、真っ青なアクアブルーの髪が視界に映る。
もぞもぞと動くと、海のように美しい青い瞳に私の姿が映った。
「ぎゃっ、へぇ!?なっ、なんで、どうして!?なんなのこれ!?」
自分の姿へ目を向けると、服は着ておらず下着姿。
何が何だかと狼狽しながら慌てて飛びのくと、ベッドから滑り落ちた。
ガタガタッバタンッ
腰を強く打ち痛みに悶えていると、ノエルがこちらを覗き込む。
「戻ってきてしまったんだね……」
その言葉にハッとすると、彼は悲し気に瞳を揺らしたのだった。
********************************
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
【新章:10日間】はここでようやく終了となります。
次話は第五章の最終章がスタートです。
主人公は無事にエヴァンと出会えるのか、最後まで見守って頂けるようこれらかも頑張ります(*ノωノ)
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