[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

閑話:入れ替わったその先は:後編 (エリナ視点)

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開けられたままの扉を潜り、私達は先ほどの部屋へやってきた。
もちろん男の姿はない。
そっと二人から離れ、男が逃げていった方向へ進んでみると、瓦礫の向こう側に道が続いていた。
そういえばさっきの男が言っていた二人は、カミールとシナンのことやったんか?
それなら連れて行かんほうが賢明か。
それにや、カミールって男とノエルを会わせるわけにはいかんしな。

魔力を集めると、通路の入り口に透明の壁を創り上げる。
周辺を捜索する二人へ顔を向け、身を隠すとそのまま奥へと進んで行った。
灯りはなく暗闇が続き、先は見えない。
私は指先に魔力を集め小さな光を浮かべると、足場を確認しながら壁に手をつき慎重に進んで行く。

崩れた瓦礫を避けながら狭い通路を暫く進むと、その先に人影が映った。
恐る恐る近づいてみると、どうやら男性のようだ。
狭い通路の壁にもたれ座り、ピクリとも動かない。

足音を立てないよう忍び足で男へ近づいて行くと、そっと光を近づける。
照らされた先には、彫が深く見惚れるほどに美しい寝顔、海のように青い髪。

「ほんまに……生きとったんか……」

確かめるようにノエルの頬へ手を伸ばすと、温もりを感じる。
信じられない思いで見つめると、記憶にある彼よりも幾分老けていた。
青年だった彼の目元には皺が浮かび、40歳ぐらいだろう。
あの時死んだはずやのに……なんでなんや……。
いや、今はそんなことよりもッッ。

「ノエル」

愛しい彼の名を呼んでみるが、閉じた瞼はピクリとも動かない。
耳を寄せ呼吸を確認してみると、ひどく浅く今にも止まってしまいそうだ。
外傷は見当たらない。
だが目覚める気配のないほど、深い眠りに落ちている。

これは……ッッアカン衰弱してる、魔力切れや。
すぐに魔力を送り込もうと口づけをするが、ノエルへ魔力は流れない。
なんでや……ッッ。
原因を探る為、魔力を帯びた手でノエルへ触れてみると、生命力が感じられなかった。
生きているが生きるのを拒んでいる。
なんで、なんでや、また見やなアカンのか?
嫌や、いやや、絶望に目の前が暗闇に染まっていった。

呼吸が早くなり不安が渦巻いていく。
あの時と同じ……アカン、落ち着け、何とかせな……あの時とは違うんや。
ノエルはまだ生きてる。
眠っているだけや、眠る……せや夢。
私はノエルの魔力を探すと、魔力を一気に増幅させる。
これを使えば、暫く魔法を使うのは難しなるやろうけど……堪忍やで。
私はノエルの魔力を探すと、そっと瞳を閉じた。

魔力が体から抜けて落ちていく感覚に目を開けると、そこは闇の中だった。
見渡す限りの闇。
それはノエルが深い眠りについている証拠。
目覚める気がないのだろう、そう思えるほどに闇が深かった。
だが彼が生きていれば、必ず意識はどこかにある。

闇の中海に沈むように、ゆっくりゆっくり落ちていく。
ここまで人の深層地に降りた人間は少ないだろう。
果てしなく続く闇の中、ようやくうっすら光が浮かぶと、私は一気に潜った。

うっすらと膜がかかった球体から、光が微かに溢れていた。
中を覗き込むと、私が最後にみた息絶えたノエルが横たわっている。
どれだけ手を尽くしても救えなかった彼の姿。
遠い記憶がフラッシュバックすると、胸が張り裂けそうに痛んだ。
痛む胸を押さえながらその姿を見つめていると、死んだはずの彼の指先がピクリッと動き、エレナの魔力が溢れ、彼の目が開いた。

信じられない光景に目を見開くと、彼はムクリと体を起こし歩き始めた。
焼けた爛れたはずの肌は何もなかったかのように元に戻り、傷一つない。
これは……うちはノエルを助けられてたんか……?
嬉しさが込み上げると同時に、何百年も生きることになった原因がやはり自分にあるのだと理解した。
理由はわからない、だが生き返った彼を包みこんでいるのは私の魔力。
彼はそれに気づき、私を探していたのだろうか……。

ノエルの姿を膜越しに追っていくと、私が暮らしていた小屋の前で立ち止まった。
小屋は戦火に巻き込まれのだろう、崩れ瓦礫に埋もれている。
その瓦礫の周りをゆっくり歩き始めた。
彼は無表情で崩れた小屋を眺めると、ふと立ち止まった。

瓦礫の下に血だまりが広がっている。
ノエルは震える手で瓦礫を持ち上げると、そこには息絶えた兵士の姿。
戦場から逃れここ隠れていたのだろうか……吹き飛ばされた瓦礫に潰されている。
ノエルは深い息を吐き出すと、兵士をそのままに歩き始めた。

小屋から離れ進んでいくと、小川が見えてくる。
そこは私とノエルが出会った場所。
しかし雨のせいで水が増水し、汚れた水が濁流のように流れていた。
ノエルは川の前で立ち止まると、辺りを見渡しそして空を見上げた。
木漏れ日から覗く空を見つめながら、おもむろに口を開く。

「エレナどこにいるんだ……。ここで君と出会った。あの時はこんなに大切な存在になると考えもしなかったよ。死に際に君の声を聞いたような気がするんだ。ねぇ、君が僕を助けてくれたんだろう?あの壁も戦争を終わらせるために創ったんだろう?なのに君はどこに行ってしまったんだ……?」

そう呟くと、小川沿いを北へと進んで行った。

彼の言葉に嬉しさが込み上げる。
ノエルはずっとうちを探してくれてたんか……?
世界にいないうちを……何百年も……?

嬉しさの反面、ひどい罪悪感が込み上げる。
ノエルの死を受け入れられない、そんな身勝手な理由で彼の人生を狂わした事実に。
あの時彼の死を受け入れていれば、お互い幸せに暮らせたのかもしれない。
だが今更気が付いてももう遅い。

「なんで、どうして……どうしてなんだ!彼女が死ぬなんてありえない。絶対に……なのに……どこにいるんだ……なぜ見つけられない……ッッ」

その言葉にハッと我に返ると、瓦礫の上でうずくまるノエルの姿。
いつの間にか数十年ほど経過し、小屋は風化し原型が確認できないほどに朽ち果てている。
しかしノエルの姿は若いまま、その手には私が作った魔法のノートが握りしめられていた。
ノートに大粒の涙が落ちると、文字が滲んでいく。

「あの時彼女と一緒に逃げるべきだったのか?……そうしていればあんな最後にはならなかった。僕は……僕は……もう一度君に会いたい……あんな最後は嫌なんだ……ッッ」

狂おしい悲痛なその声に、私は膜へ両手をつくと思いっきりに叫んだ。

「ノエル、ノエルッッ!こんなん望んでヘん……苦しめてごめん。うちが全部悪いんや。ごめん、ごめんな……」

自分の身勝手さに反吐が出る。
一番大事な人を苦しめたくなんてなかった。
なのに……うちは……ッッ。
しかしどれだけ叫んでも、声は届かない。
彼はそれからもずっと私を探し続ける。
その姿に涙が溢れだし視界が歪んでいった。

「ノエル、もうやめてや……。もう探さんでええねん。うちはあんたに生きてほしかっただけなんや……」

彼を止めようと膜を叩いてみるが、割れることはない。
閉じこもった殻はひどく頑丈で、叩く拳が赤くなっていった。
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