[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

閑話:入れ替わったその先は:前編 (エリナ視点)

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体から離れ彼女が扉の向こうへ去って行くのを確認すると、私は抜け殻となった体へと近づいた。
スッと彼女の中へ入り込むと、何とも言えない不思議な感覚が包み込む。
肉体持つんは久しぶりで……なんやしっこりこやんな。
慎重に体を起こし立ち上がると、確認するように両手を広げ魔力を感じた。
そっと瞳を閉じ魔力を集めると、光の中に扉が浮かび上がる。
扉のノブへ手を伸ばし押してみると、私の体は中へと吸い込まれていったのだった。

光の螺旋の上を滑るように進んで行く。
この先にノエルがいると思うと、胸が激しく波打ち始めた。
久方ぶりに感じる鼓動に、なんだか落ち着かない。
バクバクと鼓動の音が耳に響くと、目の前が光に包まれる。
意識が遠のき視界がグラリと傾くと、私は抗うことなく瞳を閉じた。

土の匂い、風の匂い、花の香り。
鳥の囀り、木漏れ日の音、虫の声。
太陽の暑さ、体温の温もり、雨の冷たさ。
数百年ぶりに感じるその感覚に、またこの場所へ戻って来られたのだと実感する。
懐かしい、うちはここでノエルと出会ったんや……。
次第に意識が遠のいていくと、私は笑みを浮かべながら眠りについた。

ふと目覚めると、そこは薄暗い場所だった。
ひどく埃っぽく、瓦礫が辺りに散らばっている。
おもむろに体を起こそうとするが、まだ体に馴染んでいないのだろう、上手く動かすことが出来ない。
ゴロンとうつぶせになり顔を上げ辺りを見渡してみると、どうやら神殿のような場所だ。
つい先ほど崩れたのだろう、石が砕け砂埃がまだ舞っていた。

ここはどこや……?
耳を済ませ辺りを探ってみると、人の気配はどこにもない。
地を足で蹴り上げ、ゆっくりと体を起こしてみると、立ち上がることに成功する。
大きく深呼吸をし脚に力を入れてみると、慎重に歩き始めた。

大きな石を避けながらひびが入った床を踏みしめて進んで行く。
斜めに倒れた太い柱に、獣を模した彫刻は半分砕けている。
亀裂の入った天井から、ポロポロと石の破片が降り注いでいた。
こんな立派な神殿が崩れるなんて、一体何があったんや……?

暫く進んで行くと、ガラスの破片が散乱し、大きな水たまりを見つけた。
人が居たのだろう、赤い血がところどころに飛散している。
注意深く辺りを見渡してみるが、人の気配はない。
飛び散る血の跡を追いかけてみると、そこには見覚えのある魔法陣があった。

これは……時空移転魔法。
陣に触れてみると、彼女の魔力と懐かしい魔力を感じる。
この魔力はノエルの……。
ほんまにノエルは生きてるんか……。
けどこの血はッッ、まさか瓦礫の下敷きに……ッッ。
散乱する瓦礫を慌てて確認するが、血だまりは見当たらない。
そのことにほっと胸を撫で下ろした刹那、微かに人影が映る。
私は人影を追うように走り出すと、瓦礫の山を飛び越え奥へと走って行った。

薄暗く広い廊下を進んで行くと、自分の足音が反響する。
ノエル、ノエル……どこにいてるんや?
怪我してるんやろか、早く見つけ出さな。
息が上がり足が重くなってくるが、私は必死に走り続けた。
大きな廊下の突き当りに見える空いた扉へ入ると、突然腕が強く引き寄せられる。
バランスを崩しその場に倒れ込むと、後ろから押さえつけられた。

「名のない魔法使いさん、消えたと思っておりましたが……どうしてここに?あの二人はどこですか?」

男の声に顔を上げると、狐目の奥に藍色の瞳が見える。
この男は誰や、それよりも味方やなさそうやな。
下手に喋るわけにはいかん。
私は視線を逸らせると、口を閉じた。

「答える気はないようですね。では仕方がありません」

男はナイフを取り打すと、私の髪を引っ張り首へ押し当てる。
ピリッとした痛みに顔を歪めると、男はニッコリと笑みを深めた。

「二人はどこですか?」

「お姉さんを離せ!!!」

声が響いた刹那、私を押さえつけていた男が勢いよく飛び退いた。
目では追えない速さで何かが近づいてくると、私の体が持ち上げられる。
恐る恐るに顔を上げると、そこには彼女の仲間だろう獣人の姿。
心配そうに私へ視線を向けると、壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
男は舌打ちをすると、逃げるようにその場から消え去っていく。

「よかった、お姉さん無事だったんですね。カミールさんも無事です。……うん、お姉さん?」

獣人は鼻を鳴らすと、私を確認するようにクンクンと臭いを嗅いだ。
よくわからない状況に困惑していると、獣人は私を真っすぐに見降ろした。

「お姉さんじゃない……お前は誰だ」

敵意が込められた瞳に私は慌てて首を横へ振るが、獣人は捕らえる力を強めるとそのまま走り始めた。
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