334 / 358
第五章
閑話:入れ替わったその先は:前編 (エリナ視点)
しおりを挟む
体から離れ彼女が扉の向こうへ去って行くのを確認すると、私は抜け殻となった体へと近づいた。
スッと彼女の中へ入り込むと、何とも言えない不思議な感覚が包み込む。
肉体持つんは久しぶりで……なんやしっこりこやんな。
慎重に体を起こし立ち上がると、確認するように両手を広げ魔力を感じた。
そっと瞳を閉じ魔力を集めると、光の中に扉が浮かび上がる。
扉のノブへ手を伸ばし押してみると、私の体は中へと吸い込まれていったのだった。
光の螺旋の上を滑るように進んで行く。
この先にノエルがいると思うと、胸が激しく波打ち始めた。
久方ぶりに感じる鼓動に、なんだか落ち着かない。
バクバクと鼓動の音が耳に響くと、目の前が光に包まれる。
意識が遠のき視界がグラリと傾くと、私は抗うことなく瞳を閉じた。
土の匂い、風の匂い、花の香り。
鳥の囀り、木漏れ日の音、虫の声。
太陽の暑さ、体温の温もり、雨の冷たさ。
数百年ぶりに感じるその感覚に、またこの場所へ戻って来られたのだと実感する。
懐かしい、うちはここでノエルと出会ったんや……。
次第に意識が遠のいていくと、私は笑みを浮かべながら眠りについた。
ふと目覚めると、そこは薄暗い場所だった。
ひどく埃っぽく、瓦礫が辺りに散らばっている。
おもむろに体を起こそうとするが、まだ体に馴染んでいないのだろう、上手く動かすことが出来ない。
ゴロンとうつぶせになり顔を上げ辺りを見渡してみると、どうやら神殿のような場所だ。
つい先ほど崩れたのだろう、石が砕け砂埃がまだ舞っていた。
ここはどこや……?
耳を済ませ辺りを探ってみると、人の気配はどこにもない。
地を足で蹴り上げ、ゆっくりと体を起こしてみると、立ち上がることに成功する。
大きく深呼吸をし脚に力を入れてみると、慎重に歩き始めた。
大きな石を避けながらひびが入った床を踏みしめて進んで行く。
斜めに倒れた太い柱に、獣を模した彫刻は半分砕けている。
亀裂の入った天井から、ポロポロと石の破片が降り注いでいた。
こんな立派な神殿が崩れるなんて、一体何があったんや……?
暫く進んで行くと、ガラスの破片が散乱し、大きな水たまりを見つけた。
人が居たのだろう、赤い血がところどころに飛散している。
注意深く辺りを見渡してみるが、人の気配はない。
飛び散る血の跡を追いかけてみると、そこには見覚えのある魔法陣があった。
これは……時空移転魔法。
陣に触れてみると、彼女の魔力と懐かしい魔力を感じる。
この魔力はノエルの……。
ほんまにノエルは生きてるんか……。
けどこの血はッッ、まさか瓦礫の下敷きに……ッッ。
散乱する瓦礫を慌てて確認するが、血だまりは見当たらない。
そのことにほっと胸を撫で下ろした刹那、微かに人影が映る。
私は人影を追うように走り出すと、瓦礫の山を飛び越え奥へと走って行った。
薄暗く広い廊下を進んで行くと、自分の足音が反響する。
ノエル、ノエル……どこにいてるんや?
怪我してるんやろか、早く見つけ出さな。
息が上がり足が重くなってくるが、私は必死に走り続けた。
大きな廊下の突き当りに見える空いた扉へ入ると、突然腕が強く引き寄せられる。
バランスを崩しその場に倒れ込むと、後ろから押さえつけられた。
「名のない魔法使いさん、消えたと思っておりましたが……どうしてここに?あの二人はどこですか?」
男の声に顔を上げると、狐目の奥に藍色の瞳が見える。
この男は誰や、それよりも味方やなさそうやな。
下手に喋るわけにはいかん。
私は視線を逸らせると、口を閉じた。
「答える気はないようですね。では仕方がありません」
男はナイフを取り打すと、私の髪を引っ張り首へ押し当てる。
ピリッとした痛みに顔を歪めると、男はニッコリと笑みを深めた。
「二人はどこですか?」
「お姉さんを離せ!!!」
声が響いた刹那、私を押さえつけていた男が勢いよく飛び退いた。
目では追えない速さで何かが近づいてくると、私の体が持ち上げられる。
恐る恐るに顔を上げると、そこには彼女の仲間だろう獣人の姿。
心配そうに私へ視線を向けると、壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
男は舌打ちをすると、逃げるようにその場から消え去っていく。
「よかった、お姉さん無事だったんですね。カミールさんも無事です。……うん、お姉さん?」
獣人は鼻を鳴らすと、私を確認するようにクンクンと臭いを嗅いだ。
よくわからない状況に困惑していると、獣人は私を真っすぐに見降ろした。
「お姉さんじゃない……お前は誰だ」
敵意が込められた瞳に私は慌てて首を横へ振るが、獣人は捕らえる力を強めるとそのまま走り始めた。
スッと彼女の中へ入り込むと、何とも言えない不思議な感覚が包み込む。
肉体持つんは久しぶりで……なんやしっこりこやんな。
慎重に体を起こし立ち上がると、確認するように両手を広げ魔力を感じた。
そっと瞳を閉じ魔力を集めると、光の中に扉が浮かび上がる。
扉のノブへ手を伸ばし押してみると、私の体は中へと吸い込まれていったのだった。
光の螺旋の上を滑るように進んで行く。
この先にノエルがいると思うと、胸が激しく波打ち始めた。
久方ぶりに感じる鼓動に、なんだか落ち着かない。
バクバクと鼓動の音が耳に響くと、目の前が光に包まれる。
意識が遠のき視界がグラリと傾くと、私は抗うことなく瞳を閉じた。
土の匂い、風の匂い、花の香り。
鳥の囀り、木漏れ日の音、虫の声。
太陽の暑さ、体温の温もり、雨の冷たさ。
数百年ぶりに感じるその感覚に、またこの場所へ戻って来られたのだと実感する。
懐かしい、うちはここでノエルと出会ったんや……。
次第に意識が遠のいていくと、私は笑みを浮かべながら眠りについた。
ふと目覚めると、そこは薄暗い場所だった。
ひどく埃っぽく、瓦礫が辺りに散らばっている。
おもむろに体を起こそうとするが、まだ体に馴染んでいないのだろう、上手く動かすことが出来ない。
ゴロンとうつぶせになり顔を上げ辺りを見渡してみると、どうやら神殿のような場所だ。
つい先ほど崩れたのだろう、石が砕け砂埃がまだ舞っていた。
ここはどこや……?
耳を済ませ辺りを探ってみると、人の気配はどこにもない。
地を足で蹴り上げ、ゆっくりと体を起こしてみると、立ち上がることに成功する。
大きく深呼吸をし脚に力を入れてみると、慎重に歩き始めた。
大きな石を避けながらひびが入った床を踏みしめて進んで行く。
斜めに倒れた太い柱に、獣を模した彫刻は半分砕けている。
亀裂の入った天井から、ポロポロと石の破片が降り注いでいた。
こんな立派な神殿が崩れるなんて、一体何があったんや……?
暫く進んで行くと、ガラスの破片が散乱し、大きな水たまりを見つけた。
人が居たのだろう、赤い血がところどころに飛散している。
注意深く辺りを見渡してみるが、人の気配はない。
飛び散る血の跡を追いかけてみると、そこには見覚えのある魔法陣があった。
これは……時空移転魔法。
陣に触れてみると、彼女の魔力と懐かしい魔力を感じる。
この魔力はノエルの……。
ほんまにノエルは生きてるんか……。
けどこの血はッッ、まさか瓦礫の下敷きに……ッッ。
散乱する瓦礫を慌てて確認するが、血だまりは見当たらない。
そのことにほっと胸を撫で下ろした刹那、微かに人影が映る。
私は人影を追うように走り出すと、瓦礫の山を飛び越え奥へと走って行った。
薄暗く広い廊下を進んで行くと、自分の足音が反響する。
ノエル、ノエル……どこにいてるんや?
怪我してるんやろか、早く見つけ出さな。
息が上がり足が重くなってくるが、私は必死に走り続けた。
大きな廊下の突き当りに見える空いた扉へ入ると、突然腕が強く引き寄せられる。
バランスを崩しその場に倒れ込むと、後ろから押さえつけられた。
「名のない魔法使いさん、消えたと思っておりましたが……どうしてここに?あの二人はどこですか?」
男の声に顔を上げると、狐目の奥に藍色の瞳が見える。
この男は誰や、それよりも味方やなさそうやな。
下手に喋るわけにはいかん。
私は視線を逸らせると、口を閉じた。
「答える気はないようですね。では仕方がありません」
男はナイフを取り打すと、私の髪を引っ張り首へ押し当てる。
ピリッとした痛みに顔を歪めると、男はニッコリと笑みを深めた。
「二人はどこですか?」
「お姉さんを離せ!!!」
声が響いた刹那、私を押さえつけていた男が勢いよく飛び退いた。
目では追えない速さで何かが近づいてくると、私の体が持ち上げられる。
恐る恐るに顔を上げると、そこには彼女の仲間だろう獣人の姿。
心配そうに私へ視線を向けると、壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
男は舌打ちをすると、逃げるようにその場から消え去っていく。
「よかった、お姉さん無事だったんですね。カミールさんも無事です。……うん、お姉さん?」
獣人は鼻を鳴らすと、私を確認するようにクンクンと臭いを嗅いだ。
よくわからない状況に困惑していると、獣人は私を真っすぐに見降ろした。
「お姉さんじゃない……お前は誰だ」
敵意が込められた瞳に私は慌てて首を横へ振るが、獣人は捕らえる力を強めるとそのまま走り始めた。
0
お気に入りに追加
2,460
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる