[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章5:捕らえられた先に

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今の一体何だったの?
ノエルが死んで、そしてエレナの存在。
暗闇の中、意識だけが存在する世界で、先ほどの二人の姿を思い描く。
夢や妄想にしては、あまりに現実的すぎるわよね?
答えの出ない問いかけに、深い深い闇の中へ沈んでいく。
するとその先にふと光が差し込むと、先ほどまで感じなかった自分の存在が浮かび上がった。

ハッと目が覚めると、そこは水の中だった。
ローブが脚に絡まると、必死にバタバタと足をばたつかせる。
口からブクブクと空気の泡が上っていく中、私は慌てて水をかき浮上しようとするが、頭上は水で埋め尽くされていた。

息を止め手を伸ばしてみると、指先に固い鉄板のようなものが触れる。
慌てて手のひらで押してみるが、ビクともしない。
息苦しさに泡が辺りを埋め尽くす中、バタバタともがいていると、バチンッと大きな音が耳にとどいた。

「やぁ、目覚めたようだね。大丈夫、大丈夫、落ち着きなさい。ほらゆっくり息を吸い込んで」

声のする方へ顔を向けると、そこにはノエルがニコニコと笑みを浮かべ佇んでいた。
その姿は先ほど見たノエルより幾分老け、まるで死んだはずの彼が生き返り、成長したその姿そのもの。
息を止めることも忘れ彼を凝視する中、小さな気泡が上っていく。
その違和感に私は恐る恐るに呼吸をしてみると、不思議なことに息苦しさがなくなった。
どうなっているの?

唖然とする中、私はキョロキョロと自分の置かれた状況を確認していく。
水の中、人一人が入れるほどの大きさの筒状クリアケース。
実験室などで目にする液体を入れ、生き物などを保存する容器と近い。
ノエルが佇んでいる場所は、整備された土の上、闇が深すぎてどこまで続いているのかわからない。
ポツポツと魔法だろう光を頼りに見渡してみると、天井は分厚い何かで覆われ、柱がポツン、ポツンと均等に並んでいた。
ここは一体どこなの……?

「よかった、落ち着いたようだね。やっとこれで全てが整った」

ニコニコと嬉しそうに笑う彼の姿に、私はキッと睨みつける。
(なんなのよこれは!それよりもみんなは無事なの?)
そう叫ぼうとするが、口から出るのは気泡のみ。
ノエルの言葉は届くのに、私の声は音にすることさえできないようだ。

困惑しながらに金魚のようにパクパクと口を開いていると、ノエルがゆっくりとこちらへ近づいてくる。

「残念だけど、喋る事は出来ないよ、うるさいのはあまり好きではないんだ。でも君の考えている事ならなんとなくわかる。ふふっ、安心するといい、ラボに人たちは無事だよ。君を連れ出す事に成功して、ちゃんと魔法は解いたからね。後は……獣人の坊やと、カミールなら……君の隣にいるよ」

彼の言葉に視線を向けてみると、そこには同じ筒状のクリアケースに入ったシナンとその逆側にはカミールが瞳を閉じたままに水中へ浮かんでいた。
二人の口元から気泡が出ているのを確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。
よかったわ、怪我もなさそうね。
でもどうして二人がここにいるの?
二人の姿を交互に見つめる中、ノエルはクスクスと笑い始めた。

「ふふっ、二人がどうしてここにいるのか、気になるのかな?二人はね、君が素直に従ってくれないときの保険だよ。君は不思議な魔法使いだからね。奇異なる存在の聖獣を仲間にしていたり、本当に何が起こるわからない。まぁここから逃げられるとは思わないけれど、もし逃げようとすれば、二人の命はここで消えるよ」

彼の言葉に大きく目を見開く中、カミールのクリアケースの傍に人影が浮かび上がる。
その影はカミールの筒の上へ飛び乗ると、鋭い剣先を真下に向けた。
私が……二人を巻き込んでしまったの……。
キラリと光る剣先に私はノエルに向かって必死で首を横に振ると、人影がサッと飛び降りた。
そうしてノエルの傍へやってくると、そこには見覚えのある男の姿が現れた。

どうして彼がここに?
黒に近い紺色の髪に、狐目の奥には藍色の瞳。
それはまごうことなく、情報屋だと言っていたセドリック、彼だった。
彼とノエルは繋がっていったというの?
なら私の情報は……全てノエルに知られている。

それよりも彼はあまり知られていないという、ノエルの居場所や詳しい情報を知っていたのは仲間だったから。
でもどうして仲間の彼の事をペラペラと喋ったのかしら?
そういえば、あの時彼はわざわざノエルの名を口にした。
もしかしてそれは、私をこの地へおびき寄せるため。
私とカミールは付き合っているとそう思われていた。
だからカミールの前でノエルの話を出すことで、私の興味を引いた……?

「驚いているようだね、彼は私の右腕だ。君をここへ導かせる指南役を任せていたんだ」

「お久しぶりですね、魔法使いさん。またこうしてお会いできとても嬉しく思いますよ」

全ては彼の計画通り……ッッ。
己の不甲斐なさに苛立つ中、柔らかい物腰でそう挨拶をするセドリックを睨みつける。
色々と言いたいことはあるが、声は泡となって消えてしまう。

「さて、早速準備をしようか」

ノエルはそう話すと、床に魔力を集め、光の線を描いていく。
浮かび上がる光は自由自在に動き回ると、大きな円を描き始めると、そこには陣が浮かび上がった。
現れたその陣に私は大きく目を見開くと、凝視するように見つめていた。

この陣……まさか……私はこの陣を知っているわ。
これは時空移転魔法……まさかノエルは……ッッ一体どこへ行くというの?
私は光が溢れる陣を目で追う中、時を示す印を探していく。
そこに描かれていたのは、今から300年以上も前の日付だった。

300年も前に戻ろとしている、一体どうして?
ってその前にそんな昔へ戻る事なんて可能なの?
確か……タクミの手紙に、己自身が存在しない世界には入れない、そう書いていたはず。
なら彼はまだ生まれていない世界、入ることが出来ないのではないの?
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