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第五章
新章3:捕らえられた先に
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足元が真っ赤な海に覆われていく中、彼は余裕の笑みを浮かべている。
部屋に充満していた魔力が徐々に消えていく中、そんな彼の周りには鯉が集まり、ユラユラと尾びれで水面を揺らしていた。
「これで身動きは取れないわ。魔法も使えない。あなたを捕らえさえすれば、仲間も動く事は出来ないですよね」
パトリシアからピリピリとした空気を感じる中、援護しようと魔力を一点へ集中させ放ってみると、鯉が大きく飛び跳ね魔力をパクリと飲み込んだ。
「魔法使い様、私がこの男を捕らえておきます。その間に寝ている者たちを魔法で目覚めさせる事は可能ですか?この結界から外に出れば、魔法は使えるはずです」
「えぇ、やってみるわ」
彼女の背中へ言葉を返すと、胸の前で強く拳を握りしめる。
やったことはないけれど、魔法なら……それにいざとなれば寝ている者を移転魔法で移動させればいい。
人数は多いだろうけれど、ラボの外へ移動させる程度なら、それほど魔力は消費しないわ。
「ははっ、さすが女王付きの護衛だね。これほどまでに強固な結界は見たことがないよ。だが……これは想定内だ」
ノエルは笑みを深めると、徐に天を仰いだ。
その刹那ガラガラッ、ガタンッと大きな音が轟くと、すぐに顔を上げ天井を見上げる。
するとミシッミシッとの音と共に、天井が崩れていった。
「魔法使い様、伏せて!」
彼女の声に咄嗟に身を屈めると、パンッ、バンッ、パシュッと何かを弾く音が耳にとどく。
恐る恐るに顔を上げてみると、そこには青白い毛をした四足歩行の獣が鯉へと噛み付いていた。
しかし鯉は獣にひるむことなく飛び跳ねると、この場から跳ね返していく。
「すみません、ノエル様。やはり彼女ほどの結界師を破ることは難しそうですね」
どこかで聞いたことある男の声に顔を向けてみると、天井には大きな穴が開いていた。
そこに人の姿はなく、きっと奥に身を潜ませているのだろう。
「良い、構わない。それよりも彼らを連れてきてくれたかい?」
ノエルは天井に空いた大きな穴を見上げると、ズルズルと何かを引きずるような音が部屋に響いた。
じっとその穴を見上げる中、暗い穴の向こう側に薄っすらと何かが映り込むと、蝋燭の明かりだろうか……橙色の光が浮かび上がる。
「シナン!!!カミール!?」
穴に現れたのは目を閉じたままグッタリとする二人の姿。
あまりの事に驚愕する中、目を凝らしてみると、彼らの首元にはキラリと光るナイフが突きつけられている。
そんな彼らの姿に、私は慌てて飛び出すと、天井へと思いっきりに手を伸ばした。
「魔法使い様、いけません!!!」
パトリシアの静止する声が耳にとどくが、私はそれを無視し、彼らを救おうと魔力を集めてみるが……血の海から鯉が大きく飛び跳ねる。
そのまままた魔力を大きな口で飲み込むと、ノエルの手が私の腕を捕らえた。
「結界の中から出てきてくれて助かったよ。さぁ行こうか」
「ノエル……ッッ。彼らは関係ないでしょ!解放して!」
憎しみを込めノエルを睨みつけると、彼は楽しそうに笑って見せる。
「もちろんだよ。君が大人しくついてきてくれさえれば、すぐに解放するよ。だが……少しでも可笑しな真似をすれば、私の合図で彼らを殺す」
真っ青な瞳が細められると、ゾクゾクっと背筋に悪寒が走った。
「わかった、わかったわ。だからお願い、ナイフを下ろさせて」
天へ向けてそう叫ぶと、ノエルは何か合図を送っているのだろうか……高く手を上げた。
すると彼らの首元からナイフが離れ、暗闇の中へと消えていく。
「彼女の許可も頂いた。パトリシア殿さっさとこの結界を解除してくれないかな?」
捕らえられた腕に鈍い痛みを感じる中、パトリシアへ視線を向けると、その姿はいつもの彼女ではない。
黄金色の瞳に憎悪が浮かび、体中に殺気を帯びていた。
それはまるで鬼のような恐ろしい姿。
「ノエル!!!数十年前、この国を荒らし、混乱させ内戦を起こさせ私たちは多くを失った。私の父と母……そればかりか王族にまでも手をかけ……。私が城へ入ったのは、あなたを捕らえる事が目的だった。だけどそんなあなたが突然に城へやってきて協定を結ばせ、私達城はあなたを追うことが出来なくなった……ッッ。でもそんなの納得できるはずない……。私はあなたを許せない。許せるはずなんてない!!!」
そう叫ぶと、彼女の感情に同調するように真っ赤な海が揺れ、大きな波が作り出されていく。
数十年前……西の国では内戦があったの……?
高波が壁にぶつかり激しく散っていく中、水位が徐々に上がっていった。
「ふん、だがパトリシア、君には私を殺す事は出来ないだろう。なぜなら君は只の結界師で、魔法もまだまだ未熟。君の強みはこうして捕らえ、誰かに私を攻撃させる事で成り立つんだ。こうやって結界を張り続けている以上、君も動く事は出来ない。そうだろう?」
怒りに震えるパトリシアを見つめる中、ノエルは優し気に笑みを浮かべた刹那、上から人影が落ちてくる。
するとノエルの手が離れ、私は血の海へ投げ出される中、カキンッと金属音が響いた。
「ノエル……ッッぶっ殺してやる」
「おやおや、もう目覚めたのかい?久方ぶりだ、元気にしていたかな?」
ノエルはいつの間に抜刀したのだろうか……振り下ろされた剣を軽く受け止めると、そのまま強く跳ね返す。
カミールの体が赤い水中へ叩き落される中、私は必死で赤い水をかき分けると、彼へと手を伸ばした。
「カミール、カミール!!!」
彼の体を持ち上げ声をかけてみるが、反応はない。
カミールほどの人がこれだけで気絶するとは思えないわ。
パチパチと頬を叩いてみるが……浅い息を繰り返し瞼が開くことはなかった。
「この魔法を破るなんて、さすが私が認めた男だ。だが……無理をしすぎたようだね」
「もうやめて、ついていくわ!!!だから……ッッ」
私はカミールを守るように抱きしめると、ノエルを強く睨みつける。
しかし彼はまた楽しそうに笑うと、徐に天井を見上げた。
「彼女を気絶させてくれ、殺さないようにね」
「畏まりました」
「ダメッ、魔法使い様、早く私の傍へ!!!」
その刹那、目の前に先ほど見た青白い毛並みの獣が現れると、視界が闇へと染まっていった。
部屋に充満していた魔力が徐々に消えていく中、そんな彼の周りには鯉が集まり、ユラユラと尾びれで水面を揺らしていた。
「これで身動きは取れないわ。魔法も使えない。あなたを捕らえさえすれば、仲間も動く事は出来ないですよね」
パトリシアからピリピリとした空気を感じる中、援護しようと魔力を一点へ集中させ放ってみると、鯉が大きく飛び跳ね魔力をパクリと飲み込んだ。
「魔法使い様、私がこの男を捕らえておきます。その間に寝ている者たちを魔法で目覚めさせる事は可能ですか?この結界から外に出れば、魔法は使えるはずです」
「えぇ、やってみるわ」
彼女の背中へ言葉を返すと、胸の前で強く拳を握りしめる。
やったことはないけれど、魔法なら……それにいざとなれば寝ている者を移転魔法で移動させればいい。
人数は多いだろうけれど、ラボの外へ移動させる程度なら、それほど魔力は消費しないわ。
「ははっ、さすが女王付きの護衛だね。これほどまでに強固な結界は見たことがないよ。だが……これは想定内だ」
ノエルは笑みを深めると、徐に天を仰いだ。
その刹那ガラガラッ、ガタンッと大きな音が轟くと、すぐに顔を上げ天井を見上げる。
するとミシッミシッとの音と共に、天井が崩れていった。
「魔法使い様、伏せて!」
彼女の声に咄嗟に身を屈めると、パンッ、バンッ、パシュッと何かを弾く音が耳にとどく。
恐る恐るに顔を上げてみると、そこには青白い毛をした四足歩行の獣が鯉へと噛み付いていた。
しかし鯉は獣にひるむことなく飛び跳ねると、この場から跳ね返していく。
「すみません、ノエル様。やはり彼女ほどの結界師を破ることは難しそうですね」
どこかで聞いたことある男の声に顔を向けてみると、天井には大きな穴が開いていた。
そこに人の姿はなく、きっと奥に身を潜ませているのだろう。
「良い、構わない。それよりも彼らを連れてきてくれたかい?」
ノエルは天井に空いた大きな穴を見上げると、ズルズルと何かを引きずるような音が部屋に響いた。
じっとその穴を見上げる中、暗い穴の向こう側に薄っすらと何かが映り込むと、蝋燭の明かりだろうか……橙色の光が浮かび上がる。
「シナン!!!カミール!?」
穴に現れたのは目を閉じたままグッタリとする二人の姿。
あまりの事に驚愕する中、目を凝らしてみると、彼らの首元にはキラリと光るナイフが突きつけられている。
そんな彼らの姿に、私は慌てて飛び出すと、天井へと思いっきりに手を伸ばした。
「魔法使い様、いけません!!!」
パトリシアの静止する声が耳にとどくが、私はそれを無視し、彼らを救おうと魔力を集めてみるが……血の海から鯉が大きく飛び跳ねる。
そのまままた魔力を大きな口で飲み込むと、ノエルの手が私の腕を捕らえた。
「結界の中から出てきてくれて助かったよ。さぁ行こうか」
「ノエル……ッッ。彼らは関係ないでしょ!解放して!」
憎しみを込めノエルを睨みつけると、彼は楽しそうに笑って見せる。
「もちろんだよ。君が大人しくついてきてくれさえれば、すぐに解放するよ。だが……少しでも可笑しな真似をすれば、私の合図で彼らを殺す」
真っ青な瞳が細められると、ゾクゾクっと背筋に悪寒が走った。
「わかった、わかったわ。だからお願い、ナイフを下ろさせて」
天へ向けてそう叫ぶと、ノエルは何か合図を送っているのだろうか……高く手を上げた。
すると彼らの首元からナイフが離れ、暗闇の中へと消えていく。
「彼女の許可も頂いた。パトリシア殿さっさとこの結界を解除してくれないかな?」
捕らえられた腕に鈍い痛みを感じる中、パトリシアへ視線を向けると、その姿はいつもの彼女ではない。
黄金色の瞳に憎悪が浮かび、体中に殺気を帯びていた。
それはまるで鬼のような恐ろしい姿。
「ノエル!!!数十年前、この国を荒らし、混乱させ内戦を起こさせ私たちは多くを失った。私の父と母……そればかりか王族にまでも手をかけ……。私が城へ入ったのは、あなたを捕らえる事が目的だった。だけどそんなあなたが突然に城へやってきて協定を結ばせ、私達城はあなたを追うことが出来なくなった……ッッ。でもそんなの納得できるはずない……。私はあなたを許せない。許せるはずなんてない!!!」
そう叫ぶと、彼女の感情に同調するように真っ赤な海が揺れ、大きな波が作り出されていく。
数十年前……西の国では内戦があったの……?
高波が壁にぶつかり激しく散っていく中、水位が徐々に上がっていった。
「ふん、だがパトリシア、君には私を殺す事は出来ないだろう。なぜなら君は只の結界師で、魔法もまだまだ未熟。君の強みはこうして捕らえ、誰かに私を攻撃させる事で成り立つんだ。こうやって結界を張り続けている以上、君も動く事は出来ない。そうだろう?」
怒りに震えるパトリシアを見つめる中、ノエルは優し気に笑みを浮かべた刹那、上から人影が落ちてくる。
するとノエルの手が離れ、私は血の海へ投げ出される中、カキンッと金属音が響いた。
「ノエル……ッッぶっ殺してやる」
「おやおや、もう目覚めたのかい?久方ぶりだ、元気にしていたかな?」
ノエルはいつの間に抜刀したのだろうか……振り下ろされた剣を軽く受け止めると、そのまま強く跳ね返す。
カミールの体が赤い水中へ叩き落される中、私は必死で赤い水をかき分けると、彼へと手を伸ばした。
「カミール、カミール!!!」
彼の体を持ち上げ声をかけてみるが、反応はない。
カミールほどの人がこれだけで気絶するとは思えないわ。
パチパチと頬を叩いてみるが……浅い息を繰り返し瞼が開くことはなかった。
「この魔法を破るなんて、さすが私が認めた男だ。だが……無理をしすぎたようだね」
「もうやめて、ついていくわ!!!だから……ッッ」
私はカミールを守るように抱きしめると、ノエルを強く睨みつける。
しかし彼はまた楽しそうに笑うと、徐に天井を見上げた。
「彼女を気絶させてくれ、殺さないようにね」
「畏まりました」
「ダメッ、魔法使い様、早く私の傍へ!!!」
その刹那、目の前に先ほど見た青白い毛並みの獣が現れると、視界が闇へと染まっていった。
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