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第五章
新章17:立ちはだかる壁
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あの時は……タクミの事ばかりでそれ以上詳しい事は聞いていない
まさかこんなところでその話が出て来るとは思わなかったわね……。
「それって……どういう事なの?」
私はネイトを見つめながらに問いかけてみると、彼は何かを思い出す様にそっと天を仰いだ。
「その女は数百年前のあの日、突然に戦場へ現れた。どこの国にも属していない魔導師。私はまだこの地へ来ていなかったが……その頃聖獣の森で暮らしていた同族から話を聞いた。あの頃は戦争の戦力として、魔導師は全て城に集められていた。女子供関係なく。だが彼女は森の奥でひっそり暮らしていたのだろう……誰も彼女の存在を知らなかった。その頃、西の国は遣い魔使いという者を作り出し魔法が効かない敵に東と北の国は悪戦苦闘していた。早急に対応する為、魔導師ではなく騎士を戦場へ送り込んでいたが、魔法ばかりに頼っていた北の国は戦力を大幅に削がれてしまったらしい。しかし……そこに彼女が加わり形勢が逆転した。彼女の魔法はなぜか遣い魔にも効果があった。そして彼女は戦場を駆け抜けると、あの壁を作り出し、終戦を迎えた」
正体不明の魔導師……。
嘘でしょ……あの壁はてっきり何十人、いえ何百人者の魔導士が力を合わせて作り出した物だと考えていたわ。
だってあれだけ大きいのよ?
あんな物を一人の魔導師が作ったって言うの!?
「初めて聞いたわ」
「そうだろう。人間にはあまり知られていない。だが魔女、妖精、妖魔たちも知っている事実だ。後は各国の上層部なら知っているやもしれないが……。普通なら彼女は戦争を終わらせた英雄扱いだっただろう。だがどの国にも属していない謎の魔導師を、大っぴらに公表できなかった。終戦後、各国が彼女を捜索していたようだが、その時にはすでに消されていた。だから彼女の事は人間の世界ではあまり知られていない」
ネイトの言葉に私は壁へ視線を向けると、その壮大さを再認識する。
どれだけの魔力があれば、こんな物を作り出せるのだろうか。
「でもちょっと待って。同じ魔導師が作り出した壁をどうしてまだ崩すことが出来ないの?昔よりも今の方が技術は発展しているはずでしょ?」
「それは彼女が今ある技術よりも遥か高度な技術で魔法を作り出したからだ。さっきも話しただろう。彼女は遣い魔にも魔法で攻撃する事が出来た。あの時代、そして今もまだ遣い魔を魔法で倒す方法は見つけられていない。だから彼女は私達の間で大魔導師と呼ばれているんだ」
大魔導師……。
数百年前なのに、どうしてそんな知識があったの?
もしかして……時空を渡ってきた未来人だったとか……?
「それよりも姫、これを見てほしい」
ネイトは窓の外へ手を出すと、空に魔力の球を作り出した。
それを壁へ向かって投げると、球はあっという間にチリチリになり壁の中へ吸収されていく。
「えっ……魔法が?」
「この壁は魔力を吸収する。触れれば体から魔力を持っていかれてしまうから気を付けてほしい。今のように魔力で作り出したものを壁にぶつけようとしても、触れる前に分解されてしまう。なら物理的に壊せばと思うだろう。だが私の知る限り、この世界で作られた最新の大砲を壁にぶつけたようだが、傷一つつかなかった。つまり現状では壁は壊す事は出来ない。これを知った上で、姫はどうするのかを考えるしかない」
魔法が触れる前に吸収されてしまう?
私は指先へ魔力を集め炎をイメージしてみると、火の玉が浮かび上がる。
それを壁に向かって投げてみると、炎はまるで水をかけられたように消えてしまった。
そうしてチリチリになった魔力は浮遊しながらに壁へ向かっていくと、そのまま吸収されていく。
魔法も物理も効かない、この壁を私はどうやって渡ればいいのかしら……。
あまりに無敵な壁を茫然と見上げる中、流れ込む風に短くなった髪が静かにたなびく。
「私が知っている事はこれぐらいだ。何か姫の役に立てたのなら嬉しい。名残惜しいが……戻るのにも魔力が必要になる。それを考えるとここでお別れのようだ」
ネイトはそっと手をかざすと、魔力が彼の周りへ集まっていく。
「ありがとう、ネイト。次は北の国で会いましょう。みんなにも宜しく言っておいてくれると嬉しいわ」
壁を渡る方法は何も思いつかないが、私は自分に言い聞かせるようにそう話す。
すると彼はニッコリと優しい笑みを浮かべると、コクリと深く頷いた。
魔力が集まる先に小さな光の玉が現れると、水が広がっていくように光の玉がジワリと開いていく。
その光がネイトを包みこんでいく中、微かに森の匂いが鼻孔を掠めた。
次第に光が治まっていくと、もうそこにネイトの姿はない。
そこでハッとすると、彼が居なくなった事をどうやって説明しようかとの疑問が浮かぶ。
魔法で帰ったと素直に話すしかないかしらね……。
でも結界師が守っていると言っていたわよね……納得してくれるかしら……?
そんな事を考えながらに私は丸い扉へと視線を向けると、深く息を吐き出したのだった。
まさかこんなところでその話が出て来るとは思わなかったわね……。
「それって……どういう事なの?」
私はネイトを見つめながらに問いかけてみると、彼は何かを思い出す様にそっと天を仰いだ。
「その女は数百年前のあの日、突然に戦場へ現れた。どこの国にも属していない魔導師。私はまだこの地へ来ていなかったが……その頃聖獣の森で暮らしていた同族から話を聞いた。あの頃は戦争の戦力として、魔導師は全て城に集められていた。女子供関係なく。だが彼女は森の奥でひっそり暮らしていたのだろう……誰も彼女の存在を知らなかった。その頃、西の国は遣い魔使いという者を作り出し魔法が効かない敵に東と北の国は悪戦苦闘していた。早急に対応する為、魔導師ではなく騎士を戦場へ送り込んでいたが、魔法ばかりに頼っていた北の国は戦力を大幅に削がれてしまったらしい。しかし……そこに彼女が加わり形勢が逆転した。彼女の魔法はなぜか遣い魔にも効果があった。そして彼女は戦場を駆け抜けると、あの壁を作り出し、終戦を迎えた」
正体不明の魔導師……。
嘘でしょ……あの壁はてっきり何十人、いえ何百人者の魔導士が力を合わせて作り出した物だと考えていたわ。
だってあれだけ大きいのよ?
あんな物を一人の魔導師が作ったって言うの!?
「初めて聞いたわ」
「そうだろう。人間にはあまり知られていない。だが魔女、妖精、妖魔たちも知っている事実だ。後は各国の上層部なら知っているやもしれないが……。普通なら彼女は戦争を終わらせた英雄扱いだっただろう。だがどの国にも属していない謎の魔導師を、大っぴらに公表できなかった。終戦後、各国が彼女を捜索していたようだが、その時にはすでに消されていた。だから彼女の事は人間の世界ではあまり知られていない」
ネイトの言葉に私は壁へ視線を向けると、その壮大さを再認識する。
どれだけの魔力があれば、こんな物を作り出せるのだろうか。
「でもちょっと待って。同じ魔導師が作り出した壁をどうしてまだ崩すことが出来ないの?昔よりも今の方が技術は発展しているはずでしょ?」
「それは彼女が今ある技術よりも遥か高度な技術で魔法を作り出したからだ。さっきも話しただろう。彼女は遣い魔にも魔法で攻撃する事が出来た。あの時代、そして今もまだ遣い魔を魔法で倒す方法は見つけられていない。だから彼女は私達の間で大魔導師と呼ばれているんだ」
大魔導師……。
数百年前なのに、どうしてそんな知識があったの?
もしかして……時空を渡ってきた未来人だったとか……?
「それよりも姫、これを見てほしい」
ネイトは窓の外へ手を出すと、空に魔力の球を作り出した。
それを壁へ向かって投げると、球はあっという間にチリチリになり壁の中へ吸収されていく。
「えっ……魔法が?」
「この壁は魔力を吸収する。触れれば体から魔力を持っていかれてしまうから気を付けてほしい。今のように魔力で作り出したものを壁にぶつけようとしても、触れる前に分解されてしまう。なら物理的に壊せばと思うだろう。だが私の知る限り、この世界で作られた最新の大砲を壁にぶつけたようだが、傷一つつかなかった。つまり現状では壁は壊す事は出来ない。これを知った上で、姫はどうするのかを考えるしかない」
魔法が触れる前に吸収されてしまう?
私は指先へ魔力を集め炎をイメージしてみると、火の玉が浮かび上がる。
それを壁に向かって投げてみると、炎はまるで水をかけられたように消えてしまった。
そうしてチリチリになった魔力は浮遊しながらに壁へ向かっていくと、そのまま吸収されていく。
魔法も物理も効かない、この壁を私はどうやって渡ればいいのかしら……。
あまりに無敵な壁を茫然と見上げる中、流れ込む風に短くなった髪が静かにたなびく。
「私が知っている事はこれぐらいだ。何か姫の役に立てたのなら嬉しい。名残惜しいが……戻るのにも魔力が必要になる。それを考えるとここでお別れのようだ」
ネイトはそっと手をかざすと、魔力が彼の周りへ集まっていく。
「ありがとう、ネイト。次は北の国で会いましょう。みんなにも宜しく言っておいてくれると嬉しいわ」
壁を渡る方法は何も思いつかないが、私は自分に言い聞かせるようにそう話す。
すると彼はニッコリと優しい笑みを浮かべると、コクリと深く頷いた。
魔力が集まる先に小さな光の玉が現れると、水が広がっていくように光の玉がジワリと開いていく。
その光がネイトを包みこんでいく中、微かに森の匂いが鼻孔を掠めた。
次第に光が治まっていくと、もうそこにネイトの姿はない。
そこでハッとすると、彼が居なくなった事をどうやって説明しようかとの疑問が浮かぶ。
魔法で帰ったと素直に話すしかないかしらね……。
でも結界師が守っていると言っていたわよね……納得してくれるかしら……?
そんな事を考えながらに私は丸い扉へと視線を向けると、深く息を吐き出したのだった。
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