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第五章
閑話:カミールの頁:後編
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その後の事ははっきりとは覚えていない。
気が付くと、俺はこの城へ運び込まれていて、あの女王が俺に言ったんだ。
「私はあなたの叔母よ」
驚きの事実に狼狽する中、彼女はそんな俺の様子を見ると、ゆっくりと母について語っていった。
母はどうやら王族の一員だったらしい。
そしてある日突然、城から姿を消した。
その頃母に仕えていた執事が、母と恋仲だったようだ。
俺の父はきっとそいつなんだろう……。
身分違いの叶わぬ恋。
王族が只の召使と結婚することは出来ない、だから俺の母は城から逃げたのだ。
母が姿を消した後、捜索を続けていたが……結局見つからなかったとそう話した。
それならどうして俺を見つけ出せたのか?
そう問いただしてみると、女王は何も語らなかった。
それから俺は王族の一員として生活することになった。
山の中での生活とはあまりに違っていて、最初はマナーや知識が全くなくて、大分苦労したが……覚えれば簡単な事だった。
次第にそんな生活に慣れてくると、俺はすぐに剣術と遣い魔について学び始めた。
そうして気が付けば……城一番の騎士へと成り上がっていたんだ。
俺が18歳になった頃、女王が俺の婚約者を探し始めた。
この年で王族であるにも関わらず、婚約者が居ないのはとてもまずいらしい。
だが俺は婚約などするつもりはなく、片っ端から断った。
王族の仕来りなんてどうでもいい。
俺はノエルを探しに行くんだ。
婚約しろと周りが煩くなってくると、俺は旅の準備を始めていた。
恩をあだで返すようだが……俺には譲れない物がある。
そんな時、女王が俺の異変に気が付いたんだ。
誰にも言わず、明日にでも城を去るつもりだった。
だけれどれも、あの日……俺は彼女7に呼び出された。
「カミール、あなた城を出て行くつもり?」
女王の問いかけに俺は押し黙ると、気まずげに視線を逸らせた。
今まで育ててくれた手前、はっきりと口にするのは良心が痛む。
「何も言わないと言う事は、正解なのね……。まぁいいわ。でも今出て行っても、城はあなたを必ず見つけ出して連れ戻す。そう私が命令するわ。国を敵に回しての逃亡生活で、ノエルを見つけ出せると本気で思っているの?彼は裏社会の長よ」
ノエルという名に俺は大きく目を見開き固まると、女王を強く睨みつけた。
俺はここへ来て、一度もノエルの名を口にしたことはない。
母が誰に殺されたのか、俺は誰にも話さなかった。
話せば先に誰かがあいつを捕らえるかもしれないと考えたていたから。
国に捕らえられ、他人の手に殺されるなんて許せなかった。
だから母は誰に殺されたのか……城の者たちはわかっていないはずだった。
「……どうして俺が……ノエルを探しにいくとわかったんだ?あんたは俺の母親が、誰に殺されたのか知っていたのか?ならどうしてあいつを野放しにする。大切な妹だったんじゃないのかよ!!!」
感情のままに怒鳴ると、怒りのあまり爪が肌に食い込むほど、拳を強く握りしめた。
そんな俺の姿に、女王は徐に立ち上がると、笑みを消し、無表情のままでこちらへと近づいてくる。
「大切な妹だったわ。だから殺されたと知って、すぐに犯人を捜しだした。そこでノエルだとわかったの。もちろん怒りでどうにかなりそうだったわ。でも私が女王である限り……ノエルをどうすることも出来ないのよ。だから……あなたを行かせてあげるわ。正し期限は5年。それ以上ノエルを追うのを許す事は出来ない。……5年後必ずここへ戻ると約束してくれれば、女王の指令書を発行してあげるわ。それがあれば、どの街にも顔パスで入る事が可能よ。ギルドだってすぐにランクを上げることが出来るわ。加えて国家機密情報も、その紙があれば、提示してくれる。いい話でしょ?」
指令書……?
俺は大きく目を見開くと、女王の瞳をマジマジと見つめた。
嘘は言っていないようだ。
それを手に入れれば、ノエルを探すのに役に立つ。
だが……5年。
それは長いようで短いだろう……。
裏社会のボス……姿を目にしたものは少なく、彼の正体を知る者も少ない。
そんな相手を探すには、一筋縄ではいかないだろう。
単独で動いていても、きっと見つけ出すことは難しい
なら……。
俺は女王を真っすぐに見つめながら、深く頷くと、彼女は満足げに笑みを浮かべて見せた。
・
・
・
城を出てから……もう4年以上たつんだな……。
未だノエルを見つけ出すことが出来ていない。
あいつの顔ははっきりと覚えている。
一目見れば必ずわかるんだ。
残された時間はあと少し、あの女がキーになるだろう。
深い憎悪に、血だらけの母の姿がフラッシュバックすると、俺は壁に手を付き体を支えた。
胸の奥から怒りがこみあげてくる中、ナイフを手にしたノエルの顔が映し出される。
どうして……あいつは母を殺したんだ……。
仲良くやっていたじゃないか。
あいつも笑っていた。
なのに……どうしてだ……。
こんな意味のない問いかけを何度繰り返しただろうか。
答えはノエルを捕まえるまでわからない。
だから俺はノエルを捕まえて、はっきりと問いただす。
その為に、あの魔法使いが必要なんだ。
それだけだ。
そして……見つけ出してこの手で殺す。
俺は心を落ち着かせるため大きく息を吸い込むと、またゆっくりと歩き始める。
目的は魔法使いの部屋。
あいつを見張っていれば、必ずやつは現れるだろうからな……。
気が付くと、俺はこの城へ運び込まれていて、あの女王が俺に言ったんだ。
「私はあなたの叔母よ」
驚きの事実に狼狽する中、彼女はそんな俺の様子を見ると、ゆっくりと母について語っていった。
母はどうやら王族の一員だったらしい。
そしてある日突然、城から姿を消した。
その頃母に仕えていた執事が、母と恋仲だったようだ。
俺の父はきっとそいつなんだろう……。
身分違いの叶わぬ恋。
王族が只の召使と結婚することは出来ない、だから俺の母は城から逃げたのだ。
母が姿を消した後、捜索を続けていたが……結局見つからなかったとそう話した。
それならどうして俺を見つけ出せたのか?
そう問いただしてみると、女王は何も語らなかった。
それから俺は王族の一員として生活することになった。
山の中での生活とはあまりに違っていて、最初はマナーや知識が全くなくて、大分苦労したが……覚えれば簡単な事だった。
次第にそんな生活に慣れてくると、俺はすぐに剣術と遣い魔について学び始めた。
そうして気が付けば……城一番の騎士へと成り上がっていたんだ。
俺が18歳になった頃、女王が俺の婚約者を探し始めた。
この年で王族であるにも関わらず、婚約者が居ないのはとてもまずいらしい。
だが俺は婚約などするつもりはなく、片っ端から断った。
王族の仕来りなんてどうでもいい。
俺はノエルを探しに行くんだ。
婚約しろと周りが煩くなってくると、俺は旅の準備を始めていた。
恩をあだで返すようだが……俺には譲れない物がある。
そんな時、女王が俺の異変に気が付いたんだ。
誰にも言わず、明日にでも城を去るつもりだった。
だけれどれも、あの日……俺は彼女7に呼び出された。
「カミール、あなた城を出て行くつもり?」
女王の問いかけに俺は押し黙ると、気まずげに視線を逸らせた。
今まで育ててくれた手前、はっきりと口にするのは良心が痛む。
「何も言わないと言う事は、正解なのね……。まぁいいわ。でも今出て行っても、城はあなたを必ず見つけ出して連れ戻す。そう私が命令するわ。国を敵に回しての逃亡生活で、ノエルを見つけ出せると本気で思っているの?彼は裏社会の長よ」
ノエルという名に俺は大きく目を見開き固まると、女王を強く睨みつけた。
俺はここへ来て、一度もノエルの名を口にしたことはない。
母が誰に殺されたのか、俺は誰にも話さなかった。
話せば先に誰かがあいつを捕らえるかもしれないと考えたていたから。
国に捕らえられ、他人の手に殺されるなんて許せなかった。
だから母は誰に殺されたのか……城の者たちはわかっていないはずだった。
「……どうして俺が……ノエルを探しにいくとわかったんだ?あんたは俺の母親が、誰に殺されたのか知っていたのか?ならどうしてあいつを野放しにする。大切な妹だったんじゃないのかよ!!!」
感情のままに怒鳴ると、怒りのあまり爪が肌に食い込むほど、拳を強く握りしめた。
そんな俺の姿に、女王は徐に立ち上がると、笑みを消し、無表情のままでこちらへと近づいてくる。
「大切な妹だったわ。だから殺されたと知って、すぐに犯人を捜しだした。そこでノエルだとわかったの。もちろん怒りでどうにかなりそうだったわ。でも私が女王である限り……ノエルをどうすることも出来ないのよ。だから……あなたを行かせてあげるわ。正し期限は5年。それ以上ノエルを追うのを許す事は出来ない。……5年後必ずここへ戻ると約束してくれれば、女王の指令書を発行してあげるわ。それがあれば、どの街にも顔パスで入る事が可能よ。ギルドだってすぐにランクを上げることが出来るわ。加えて国家機密情報も、その紙があれば、提示してくれる。いい話でしょ?」
指令書……?
俺は大きく目を見開くと、女王の瞳をマジマジと見つめた。
嘘は言っていないようだ。
それを手に入れれば、ノエルを探すのに役に立つ。
だが……5年。
それは長いようで短いだろう……。
裏社会のボス……姿を目にしたものは少なく、彼の正体を知る者も少ない。
そんな相手を探すには、一筋縄ではいかないだろう。
単独で動いていても、きっと見つけ出すことは難しい
なら……。
俺は女王を真っすぐに見つめながら、深く頷くと、彼女は満足げに笑みを浮かべて見せた。
・
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・
城を出てから……もう4年以上たつんだな……。
未だノエルを見つけ出すことが出来ていない。
あいつの顔ははっきりと覚えている。
一目見れば必ずわかるんだ。
残された時間はあと少し、あの女がキーになるだろう。
深い憎悪に、血だらけの母の姿がフラッシュバックすると、俺は壁に手を付き体を支えた。
胸の奥から怒りがこみあげてくる中、ナイフを手にしたノエルの顔が映し出される。
どうして……あいつは母を殺したんだ……。
仲良くやっていたじゃないか。
あいつも笑っていた。
なのに……どうしてだ……。
こんな意味のない問いかけを何度繰り返しただろうか。
答えはノエルを捕まえるまでわからない。
だから俺はノエルを捕まえて、はっきりと問いただす。
その為に、あの魔法使いが必要なんだ。
それだけだ。
そして……見つけ出してこの手で殺す。
俺は心を落ち着かせるため大きく息を吸い込むと、またゆっくりと歩き始める。
目的は魔法使いの部屋。
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