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第五章
閑話:カミールの頁:前編 (カミール視点)
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謁見が終わり彼女と別れた後……王宮内のとある庭に、一人の男性と女性の姿があった。
周辺には警備するように騎士が佇み、庭園には真っ白な花が、赤い太陽の光で鮮やかに染まっている。
女性はゆっくりと男の元へ歩いていくと、穏やかな風が流れ、花たちがゆらゆらと静かに揺れていた。
・
・
・
「はぁ……」
俺は深いため息をつくと、目の前でニコニコと笑みを浮かべる女王へ視線を向けていた。
謁見後、あいつらと別れ一人宮殿
「可愛いカミール、おかえりなさい。無事に戻ってきてくれて嬉しいわ。それにあんな可愛い子と一緒に……、ふふっ、恋人なのかしら?」
「……寝言は寝て言え、俺にはそんな物必要ない」
無言のままにじっと女王を見つめると、彼女はわざとらしくため息をついた。
「あら、相変わらずねぇ。でもいい子を連れてきたと思うわ。素性は今調べているところだけれど……このまま彼女がこの城に居てくれるのならば、あなたの婚約者候補にと考えているのよ」
婚約者だと……また面倒な……。
「あなたに拒否権はないわ。これは命令よ。あれほど優秀な魔法使いを野放しには出来ないもの。ところで……ふふっ、ノエルは見つかったのかしら?」
スッと目を細めながらに彼女を威圧的に睨みつけると、俺は小さく唇を噛んだ。
「あら、その様子じゃ、見つかっていないようね。期限まで後半年しかないわよ」
「わかっている」
「わかっているのなら結構よ。半年後あなたは……王族の一員としてお城に勤めるのよ。彼を見つけようが、見つけられなかろうが関係ないわ。あなたは私の大事な、義息子なのだから……」
女王は少し寂し気な笑みを浮かべて見せると、そのまま廊下へと戻っていく。
彼女の後姿を眺めながらに、俺は大きく息を吐き出すと、逆の方角へと歩き始めた。
そうだ……後半年……。
それまでになんとしてもノエルを見つけ出す。
あいつの傍に居れば……間違いなくノエルは現れる。
船での一件、あいつは誰にも会っていないそう話していたが、あれはきっとノエルだ。
俺たちの行く手を阻んだ、見えない壁には覚えがある。
あれは間違いなくノエルが作り出したものだ。
必ずあいつを見つけ出して……殺す。
母親は……俺の目の前であいつに殺された。
あの日の事は、今でも鮮明に覚えている。
俺は母と二人で暮らしていた。
父親はわからない。
物心つく頃には、母親しかいなかった。
母は一人で俺を育ててくれた。
王都から離れた田舎で暮らし、裕福ではないが……幸せだった。
そんなある日、あの男……ノエルが真夜中に突然にやってきた。
母の知り合いだったのか……それはわからないが、その日からノエルも俺たちと一緒に暮らすことになった。
ノエルは優しく、面倒見がよく、そして博識で、一緒に暮らすのは楽しかった。
そしてノエルは俺に遣い魔の使いかたを教えてくれた。
「カミール、君は特別な人間なんだ」
ノエルはそう俺に話すと、腕にナイフを添わせ、そこから遣い魔が生まれた。
通常であれば一人一種類の遣い魔だが、俺は数種類呼び出すこと出来た。
その事にノエルはとても喜んでいた。
そうして3人で暮らすこと数年、平穏で穏やかな日々だった。
母が家で家事をしている間、俺はノエルと山へ入る。
山菜を採ったり、木を伐り薪を作ったり、遣い魔について学び、剣の練習をしていた。
汗を流しながらに家へ帰ると、料理が並び、食卓を三人で囲む。
それが当たり前で……ずっと続くものだと、そう思っていた。
そうして12歳になったある日、ノエルは不思議な雰囲気を纏わせながらに、俺の前へやってきた。
「カミール、これが見えるかな?」
ノエルは手のひらを俺へ見せつけるが……そこには何も見えなかった。
「……?何もないよ」
そう素直に返事を返すと、ノエルは寂しそうな表情を浮かべ山道を進んでいった。
それからノエルは度々俺に何かを見せるようになった。
でもそこにはいつも何もなくて……頑張って視ようと努力してみるが、俺の瞳には何も映らない。
ノエルの期待に応えられない事に、申し訳ない気持ちが込み上げるが……見えない物は見えないのだった。
しかしノエルは見えない俺に残念そうにするが、それ以外はいつもと変わらなかった。
優しくて、温かくて、まるで本当の父親のような……そんな気がしていたんだ。
あの日までは……。
あの日俺はいつものように山へ行き、夕方家へ戻ると、母がノエルと何かを話しこんでいた。
何を話しているのか、声は聞こえなかった……ただ深刻な雰囲気は感じ取れた
だから俺は二人の邪魔にならないようにと……先に家へ戻り暫くすると、二人が戻ってきたんだ。
優し気な笑みを浮かべた母が私の元へ歩いてくる姿に、徐に椅子から立ち上がった瞬間……母親の首から血しぶきが飛び散り、目の前が真っ赤に染まっていく。
あまりの事に茫然とする中、母はその場に崩れ落ちると、床に血だまりが広がっていった。
ピクリッとも動かない母の姿から視線を逸らせると、その先には血が滴り落ちる剣を手にした、ノエルの姿があった。
「カミール、最後の質問だよ。私の手のひらの物が見えるかな?」
ノエルはそうニッコリと笑みを浮かべると、俺の前に手を広げて見せる。
もちろんそこには何も見えない。
「ふぅ……やっぱり見えないようだね……」
そうぼそりと呟くと、ノエルは剣を捨て扉へと歩いていく。
その姿に俺はカッと怒りが込み上げると、剣を手に取り、そのままノエルへと振り下ろした。
すると……何か見えない壁に剣が弾かれ、腕にビリビリとした痺れ伝わってくると、剣はまた床へ転がっていく。
その場に膝をつく中、必死に顔を上げ叫ぶが……ノエルは振り返ることなく、家を出て行くと、二度と俺の前に現れる事はなかった。
周辺には警備するように騎士が佇み、庭園には真っ白な花が、赤い太陽の光で鮮やかに染まっている。
女性はゆっくりと男の元へ歩いていくと、穏やかな風が流れ、花たちがゆらゆらと静かに揺れていた。
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「はぁ……」
俺は深いため息をつくと、目の前でニコニコと笑みを浮かべる女王へ視線を向けていた。
謁見後、あいつらと別れ一人宮殿
「可愛いカミール、おかえりなさい。無事に戻ってきてくれて嬉しいわ。それにあんな可愛い子と一緒に……、ふふっ、恋人なのかしら?」
「……寝言は寝て言え、俺にはそんな物必要ない」
無言のままにじっと女王を見つめると、彼女はわざとらしくため息をついた。
「あら、相変わらずねぇ。でもいい子を連れてきたと思うわ。素性は今調べているところだけれど……このまま彼女がこの城に居てくれるのならば、あなたの婚約者候補にと考えているのよ」
婚約者だと……また面倒な……。
「あなたに拒否権はないわ。これは命令よ。あれほど優秀な魔法使いを野放しには出来ないもの。ところで……ふふっ、ノエルは見つかったのかしら?」
スッと目を細めながらに彼女を威圧的に睨みつけると、俺は小さく唇を噛んだ。
「あら、その様子じゃ、見つかっていないようね。期限まで後半年しかないわよ」
「わかっている」
「わかっているのなら結構よ。半年後あなたは……王族の一員としてお城に勤めるのよ。彼を見つけようが、見つけられなかろうが関係ないわ。あなたは私の大事な、義息子なのだから……」
女王は少し寂し気な笑みを浮かべて見せると、そのまま廊下へと戻っていく。
彼女の後姿を眺めながらに、俺は大きく息を吐き出すと、逆の方角へと歩き始めた。
そうだ……後半年……。
それまでになんとしてもノエルを見つけ出す。
あいつの傍に居れば……間違いなくノエルは現れる。
船での一件、あいつは誰にも会っていないそう話していたが、あれはきっとノエルだ。
俺たちの行く手を阻んだ、見えない壁には覚えがある。
あれは間違いなくノエルが作り出したものだ。
必ずあいつを見つけ出して……殺す。
母親は……俺の目の前であいつに殺された。
あの日の事は、今でも鮮明に覚えている。
俺は母と二人で暮らしていた。
父親はわからない。
物心つく頃には、母親しかいなかった。
母は一人で俺を育ててくれた。
王都から離れた田舎で暮らし、裕福ではないが……幸せだった。
そんなある日、あの男……ノエルが真夜中に突然にやってきた。
母の知り合いだったのか……それはわからないが、その日からノエルも俺たちと一緒に暮らすことになった。
ノエルは優しく、面倒見がよく、そして博識で、一緒に暮らすのは楽しかった。
そしてノエルは俺に遣い魔の使いかたを教えてくれた。
「カミール、君は特別な人間なんだ」
ノエルはそう俺に話すと、腕にナイフを添わせ、そこから遣い魔が生まれた。
通常であれば一人一種類の遣い魔だが、俺は数種類呼び出すこと出来た。
その事にノエルはとても喜んでいた。
そうして3人で暮らすこと数年、平穏で穏やかな日々だった。
母が家で家事をしている間、俺はノエルと山へ入る。
山菜を採ったり、木を伐り薪を作ったり、遣い魔について学び、剣の練習をしていた。
汗を流しながらに家へ帰ると、料理が並び、食卓を三人で囲む。
それが当たり前で……ずっと続くものだと、そう思っていた。
そうして12歳になったある日、ノエルは不思議な雰囲気を纏わせながらに、俺の前へやってきた。
「カミール、これが見えるかな?」
ノエルは手のひらを俺へ見せつけるが……そこには何も見えなかった。
「……?何もないよ」
そう素直に返事を返すと、ノエルは寂しそうな表情を浮かべ山道を進んでいった。
それからノエルは度々俺に何かを見せるようになった。
でもそこにはいつも何もなくて……頑張って視ようと努力してみるが、俺の瞳には何も映らない。
ノエルの期待に応えられない事に、申し訳ない気持ちが込み上げるが……見えない物は見えないのだった。
しかしノエルは見えない俺に残念そうにするが、それ以外はいつもと変わらなかった。
優しくて、温かくて、まるで本当の父親のような……そんな気がしていたんだ。
あの日までは……。
あの日俺はいつものように山へ行き、夕方家へ戻ると、母がノエルと何かを話しこんでいた。
何を話しているのか、声は聞こえなかった……ただ深刻な雰囲気は感じ取れた
だから俺は二人の邪魔にならないようにと……先に家へ戻り暫くすると、二人が戻ってきたんだ。
優し気な笑みを浮かべた母が私の元へ歩いてくる姿に、徐に椅子から立ち上がった瞬間……母親の首から血しぶきが飛び散り、目の前が真っ赤に染まっていく。
あまりの事に茫然とする中、母はその場に崩れ落ちると、床に血だまりが広がっていった。
ピクリッとも動かない母の姿から視線を逸らせると、その先には血が滴り落ちる剣を手にした、ノエルの姿があった。
「カミール、最後の質問だよ。私の手のひらの物が見えるかな?」
ノエルはそうニッコリと笑みを浮かべると、俺の前に手を広げて見せる。
もちろんそこには何も見えない。
「ふぅ……やっぱり見えないようだね……」
そうぼそりと呟くと、ノエルは剣を捨て扉へと歩いていく。
その姿に俺はカッと怒りが込み上げると、剣を手に取り、そのままノエルへと振り下ろした。
すると……何か見えない壁に剣が弾かれ、腕にビリビリとした痺れ伝わってくると、剣はまた床へ転がっていく。
その場に膝をつく中、必死に顔を上げ叫ぶが……ノエルは振り返ることなく、家を出て行くと、二度と俺の前に現れる事はなかった。
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