[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

文字の大きさ
上 下
282 / 358
第五章

閑話:追う二人:後編

しおりを挟む
お姉さん、お姉さん、お姉さん……。
彼女が去ってどれぐらい時間がたったのだろうか……未だ戻る気配のない様子に、僕は悔しさと怒りに思いっきりに壁を殴ってみるが……見えない壁は軽々と弾く。

「シナンやめとけ、その壁は壊れない。……別のルートを探してみたが見当たらなかった。気になるが……ここで待つしかないだろう」

「そんな……ッッ」

この先に居るのは……お姉さんと同じ魔法使い。
どんな相手かもわからない……。
でもきっとお姉さんは……原因がわかればどんな事をしてもこの船を守ろうとするだろう。
例え自分が犠牲になったとしても……。

僕のときもそうだった。
お姉さんは優しくて……自分の事はいつも後回しで……人の心配ばかりするんだ。
あの時だってそうだ……。
薄暗い檻の中に囚われていた時、お姉さんは男たちの誘いに自分から名乗りを上げた。
名も知らぬ少女を守るために……。
体の小さい僕じゃどうやっても助ける事なんてできなくて……。
でもそんなお姉さんだからこそ僕を救ってくれた。
こんな嫌われ者の獣人の僕なんかを……。

でもようやく大人になって……お姉さんを守れるようになったと思っていたのに……。
役に立ちたい……助けになりたい……そう望んだ。
なのにどうして僕は、こんなにも役立たずなんだ。
絶望に目の前が闇に染まる中、僕はその場で崩れ落ちると、お姉さんが去って行った通路をただただ見つめるしかなかった。

そうして時間は無情にも進んでいく中……どうすることも出来ない状況に苛立ちが募っていく。
壁は音も遮断しているのだろうか……向こう側からは何も聞こえない。
お姉さんはまだ戻ってこない。
やっぱりこの奥に誰かいたんだ。
でも……どうやってこの奥へ進んだのだろう。
さっきの騎士たちの様子からすると、関係者以外は通っていなさそうだ。
なら船の乗務員……?
でも……魔法を使える人なんてそうそういないはず。
僕だってお姉さん以外には一人しかあったことはない。

見えない壁を背に座り込む中、突然船が大きく傾くと、僕は慌てて地べたに這いつくばった。
先ほどよりも大きな揺れにお姉さんの顔がチラつくと、胸が苦しいほどに締め付けられる。
お姉さんは大丈夫だろうか……。
怪我をしていないだろうか。
僕が傍にいれば……どんなことをしても守るのに。
どうして僕は何もできないんだ。
どうして僕はお姉さんの傍にいないんだ。
そうやって自分を責め続ける中、次第に揺れが治まると、カミールは船内をウロウロと歩き回りながらに何かを探し始めた。

「カミールさん……何をしているんですか?」

そう問いかけてみるも、カミールからの返事はない。
そんな彼の様子に僕は体を丸めると、また誰の姿もない壁の向こう側を、ずっと見つめ続けていた。

そうして暫くすると、突然シュッと不思議な音が響き、壁がひとりでに光った。
目もくらむような光に咄嗟に身構えると、光は一瞬で治まっていく。
恐る恐るに目を開け壁へ手を伸ばしてみると、指先は弾かれることなく、向こう側へ空を切った。
壁がなくなった事実に、僕は慌てて立ち上がると、そのままお姉さんが消えた先へと走り出す。

狭い通路を抜け階段を駆け下り、奥に見える扉を開け放つと、広い倉庫の隅にお姉さんがポツリとしゃがみ込んでいた。

「お姉さん!!!」

僕の声にお姉さんは顔を上げると、目元が赤くなっている。
すぐに傍へ走り寄ると、僕はお姉さんの体を持ち上げた。

「どうしたんですか?何があったんですか?どこか痛いですか?」

そう畳みかけるように問いかけると、お姉さんは静かに首を振りながらに笑みを浮かべて見せた。

「……何もなかったの。ここには誰もいなかった。戻るのが遅くなってごめんなさい……。ちょっと色々考え事していて……」

「そんなはず……ッッ!?ならどうして泣いていたんですか?」

そうお姉さんへ詰め寄ると、彼女は困ったように微笑みを作った。

「あー、これは……ゴミが目に入ってしまって……。とりあえず……部屋へ戻りましょう。魔力は……私の気のせいだったみたい……ごめんなさい」

そうお姉さんは弱弱しく話すと、後ろからカミールが焦った様子で駆けつけてきた。

「大丈夫か?怪我は……ないようだな。それよりもここに誰が居たんだ?お前は誰に会った?」

その問いかけにお姉さんは先ほど同じことを繰り返すと、何も話すことはないと言わんばかりに口を閉ざす。
そんな彼女の様子にカミールは深いため息をつくと、カミールはお姉さんの体を確認するように触れる。
すると小さく柔らかな体がビクッと跳ねた。
明らかに何かに怯えているその様に……何もなかったとは到底思えない。

それに……お姉さんには別の匂いがついている。
それも誰かの臭いが、深く深く……お姉さんの臭いを消してしまうほどに……。
だから……ここに誰もいなかったなんてこと、ありえるはずがない。
どうして隠そうとするのか……この雄の臭いは誰の者なのか……。
そう考えると、胸の奥からモヤモヤとした苛立ちのような……そんな感情が渦巻いていく。
しかしどれだけ詰め寄っても、頑なに話そうとしないお姉さん姿に、僕たちはどうすることも出来なくなると、部屋へと戻るという選択をするしかなかった。


*********************
次話より、クリスマス企画(エヴァン&カミール)を投稿致します!
(12月23日前編 24日後編)
間に合えば……24日にカミール&シナン編も投稿予定です。
改めましてリクエスト頂き、本当にありがとうございましたm(__)m
ご連絡が遅くなってしまい、申し訳ございません(;´Д`)
(まさかボードにコメントを頂いても、通知が届かないとは知らなかったのです……orz)
コメント頂けてとても励みになりました!
ありがとうございました(*ノωノ)
まだまだ本編は続きますが、最後までお付き合い頂けるように頑張っていきます!

それでは皆様、良いクリスマスを(*´Д`)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...