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第五章
閑話:追う二人:後編
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お姉さん、お姉さん、お姉さん……。
彼女が去ってどれぐらい時間がたったのだろうか……未だ戻る気配のない様子に、僕は悔しさと怒りに思いっきりに壁を殴ってみるが……見えない壁は軽々と弾く。
「シナンやめとけ、その壁は壊れない。……別のルートを探してみたが見当たらなかった。気になるが……ここで待つしかないだろう」
「そんな……ッッ」
この先に居るのは……お姉さんと同じ魔法使い。
どんな相手かもわからない……。
でもきっとお姉さんは……原因がわかればどんな事をしてもこの船を守ろうとするだろう。
例え自分が犠牲になったとしても……。
僕のときもそうだった。
お姉さんは優しくて……自分の事はいつも後回しで……人の心配ばかりするんだ。
あの時だってそうだ……。
薄暗い檻の中に囚われていた時、お姉さんは男たちの誘いに自分から名乗りを上げた。
名も知らぬ少女を守るために……。
体の小さい僕じゃどうやっても助ける事なんてできなくて……。
でもそんなお姉さんだからこそ僕を救ってくれた。
こんな嫌われ者の獣人の僕なんかを……。
でもようやく大人になって……お姉さんを守れるようになったと思っていたのに……。
役に立ちたい……助けになりたい……そう望んだ。
なのにどうして僕は、こんなにも役立たずなんだ。
絶望に目の前が闇に染まる中、僕はその場で崩れ落ちると、お姉さんが去って行った通路をただただ見つめるしかなかった。
そうして時間は無情にも進んでいく中……どうすることも出来ない状況に苛立ちが募っていく。
壁は音も遮断しているのだろうか……向こう側からは何も聞こえない。
お姉さんはまだ戻ってこない。
やっぱりこの奥に誰かいたんだ。
でも……どうやってこの奥へ進んだのだろう。
さっきの騎士たちの様子からすると、関係者以外は通っていなさそうだ。
なら船の乗務員……?
でも……魔法を使える人なんてそうそういないはず。
僕だってお姉さん以外には一人しかあったことはない。
見えない壁を背に座り込む中、突然船が大きく傾くと、僕は慌てて地べたに這いつくばった。
先ほどよりも大きな揺れにお姉さんの顔がチラつくと、胸が苦しいほどに締め付けられる。
お姉さんは大丈夫だろうか……。
怪我をしていないだろうか。
僕が傍にいれば……どんなことをしても守るのに。
どうして僕は何もできないんだ。
どうして僕はお姉さんの傍にいないんだ。
そうやって自分を責め続ける中、次第に揺れが治まると、カミールは船内をウロウロと歩き回りながらに何かを探し始めた。
「カミールさん……何をしているんですか?」
そう問いかけてみるも、カミールからの返事はない。
そんな彼の様子に僕は体を丸めると、また誰の姿もない壁の向こう側を、ずっと見つめ続けていた。
そうして暫くすると、突然シュッと不思議な音が響き、壁がひとりでに光った。
目もくらむような光に咄嗟に身構えると、光は一瞬で治まっていく。
恐る恐るに目を開け壁へ手を伸ばしてみると、指先は弾かれることなく、向こう側へ空を切った。
壁がなくなった事実に、僕は慌てて立ち上がると、そのままお姉さんが消えた先へと走り出す。
狭い通路を抜け階段を駆け下り、奥に見える扉を開け放つと、広い倉庫の隅にお姉さんがポツリとしゃがみ込んでいた。
「お姉さん!!!」
僕の声にお姉さんは顔を上げると、目元が赤くなっている。
すぐに傍へ走り寄ると、僕はお姉さんの体を持ち上げた。
「どうしたんですか?何があったんですか?どこか痛いですか?」
そう畳みかけるように問いかけると、お姉さんは静かに首を振りながらに笑みを浮かべて見せた。
「……何もなかったの。ここには誰もいなかった。戻るのが遅くなってごめんなさい……。ちょっと色々考え事していて……」
「そんなはず……ッッ!?ならどうして泣いていたんですか?」
そうお姉さんへ詰め寄ると、彼女は困ったように微笑みを作った。
「あー、これは……ゴミが目に入ってしまって……。とりあえず……部屋へ戻りましょう。魔力は……私の気のせいだったみたい……ごめんなさい」
そうお姉さんは弱弱しく話すと、後ろからカミールが焦った様子で駆けつけてきた。
「大丈夫か?怪我は……ないようだな。それよりもここに誰が居たんだ?お前は誰に会った?」
その問いかけにお姉さんは先ほど同じことを繰り返すと、何も話すことはないと言わんばかりに口を閉ざす。
そんな彼女の様子にカミールは深いため息をつくと、カミールはお姉さんの体を確認するように触れる。
すると小さく柔らかな体がビクッと跳ねた。
明らかに何かに怯えているその様に……何もなかったとは到底思えない。
それに……お姉さんには別の匂いがついている。
それも誰かの臭いが、深く深く……お姉さんの臭いを消してしまうほどに……。
だから……ここに誰もいなかったなんてこと、ありえるはずがない。
どうして隠そうとするのか……この雄の臭いは誰の者なのか……。
そう考えると、胸の奥からモヤモヤとした苛立ちのような……そんな感情が渦巻いていく。
しかしどれだけ詰め寄っても、頑なに話そうとしないお姉さん姿に、僕たちはどうすることも出来なくなると、部屋へと戻るという選択をするしかなかった。
*********************
次話より、クリスマス企画(エヴァン&カミール)を投稿致します!
(12月23日前編 24日後編)
間に合えば……24日にカミール&シナン編も投稿予定です。
改めましてリクエスト頂き、本当にありがとうございましたm(__)m
ご連絡が遅くなってしまい、申し訳ございません(;´Д`)
(まさかボードにコメントを頂いても、通知が届かないとは知らなかったのです……orz)
コメント頂けてとても励みになりました!
ありがとうございました(*ノωノ)
まだまだ本編は続きますが、最後までお付き合い頂けるように頑張っていきます!
それでは皆様、良いクリスマスを(*´Д`)
彼女が去ってどれぐらい時間がたったのだろうか……未だ戻る気配のない様子に、僕は悔しさと怒りに思いっきりに壁を殴ってみるが……見えない壁は軽々と弾く。
「シナンやめとけ、その壁は壊れない。……別のルートを探してみたが見当たらなかった。気になるが……ここで待つしかないだろう」
「そんな……ッッ」
この先に居るのは……お姉さんと同じ魔法使い。
どんな相手かもわからない……。
でもきっとお姉さんは……原因がわかればどんな事をしてもこの船を守ろうとするだろう。
例え自分が犠牲になったとしても……。
僕のときもそうだった。
お姉さんは優しくて……自分の事はいつも後回しで……人の心配ばかりするんだ。
あの時だってそうだ……。
薄暗い檻の中に囚われていた時、お姉さんは男たちの誘いに自分から名乗りを上げた。
名も知らぬ少女を守るために……。
体の小さい僕じゃどうやっても助ける事なんてできなくて……。
でもそんなお姉さんだからこそ僕を救ってくれた。
こんな嫌われ者の獣人の僕なんかを……。
でもようやく大人になって……お姉さんを守れるようになったと思っていたのに……。
役に立ちたい……助けになりたい……そう望んだ。
なのにどうして僕は、こんなにも役立たずなんだ。
絶望に目の前が闇に染まる中、僕はその場で崩れ落ちると、お姉さんが去って行った通路をただただ見つめるしかなかった。
そうして時間は無情にも進んでいく中……どうすることも出来ない状況に苛立ちが募っていく。
壁は音も遮断しているのだろうか……向こう側からは何も聞こえない。
お姉さんはまだ戻ってこない。
やっぱりこの奥に誰かいたんだ。
でも……どうやってこの奥へ進んだのだろう。
さっきの騎士たちの様子からすると、関係者以外は通っていなさそうだ。
なら船の乗務員……?
でも……魔法を使える人なんてそうそういないはず。
僕だってお姉さん以外には一人しかあったことはない。
見えない壁を背に座り込む中、突然船が大きく傾くと、僕は慌てて地べたに這いつくばった。
先ほどよりも大きな揺れにお姉さんの顔がチラつくと、胸が苦しいほどに締め付けられる。
お姉さんは大丈夫だろうか……。
怪我をしていないだろうか。
僕が傍にいれば……どんなことをしても守るのに。
どうして僕は何もできないんだ。
どうして僕はお姉さんの傍にいないんだ。
そうやって自分を責め続ける中、次第に揺れが治まると、カミールは船内をウロウロと歩き回りながらに何かを探し始めた。
「カミールさん……何をしているんですか?」
そう問いかけてみるも、カミールからの返事はない。
そんな彼の様子に僕は体を丸めると、また誰の姿もない壁の向こう側を、ずっと見つめ続けていた。
そうして暫くすると、突然シュッと不思議な音が響き、壁がひとりでに光った。
目もくらむような光に咄嗟に身構えると、光は一瞬で治まっていく。
恐る恐るに目を開け壁へ手を伸ばしてみると、指先は弾かれることなく、向こう側へ空を切った。
壁がなくなった事実に、僕は慌てて立ち上がると、そのままお姉さんが消えた先へと走り出す。
狭い通路を抜け階段を駆け下り、奥に見える扉を開け放つと、広い倉庫の隅にお姉さんがポツリとしゃがみ込んでいた。
「お姉さん!!!」
僕の声にお姉さんは顔を上げると、目元が赤くなっている。
すぐに傍へ走り寄ると、僕はお姉さんの体を持ち上げた。
「どうしたんですか?何があったんですか?どこか痛いですか?」
そう畳みかけるように問いかけると、お姉さんは静かに首を振りながらに笑みを浮かべて見せた。
「……何もなかったの。ここには誰もいなかった。戻るのが遅くなってごめんなさい……。ちょっと色々考え事していて……」
「そんなはず……ッッ!?ならどうして泣いていたんですか?」
そうお姉さんへ詰め寄ると、彼女は困ったように微笑みを作った。
「あー、これは……ゴミが目に入ってしまって……。とりあえず……部屋へ戻りましょう。魔力は……私の気のせいだったみたい……ごめんなさい」
そうお姉さんは弱弱しく話すと、後ろからカミールが焦った様子で駆けつけてきた。
「大丈夫か?怪我は……ないようだな。それよりもここに誰が居たんだ?お前は誰に会った?」
その問いかけにお姉さんは先ほど同じことを繰り返すと、何も話すことはないと言わんばかりに口を閉ざす。
そんな彼女の様子にカミールは深いため息をつくと、カミールはお姉さんの体を確認するように触れる。
すると小さく柔らかな体がビクッと跳ねた。
明らかに何かに怯えているその様に……何もなかったとは到底思えない。
それに……お姉さんには別の匂いがついている。
それも誰かの臭いが、深く深く……お姉さんの臭いを消してしまうほどに……。
だから……ここに誰もいなかったなんてこと、ありえるはずがない。
どうして隠そうとするのか……この雄の臭いは誰の者なのか……。
そう考えると、胸の奥からモヤモヤとした苛立ちのような……そんな感情が渦巻いていく。
しかしどれだけ詰め寄っても、頑なに話そうとしないお姉さん姿に、僕たちはどうすることも出来なくなると、部屋へと戻るという選択をするしかなかった。
*********************
次話より、クリスマス企画(エヴァン&カミール)を投稿致します!
(12月23日前編 24日後編)
間に合えば……24日にカミール&シナン編も投稿予定です。
改めましてリクエスト頂き、本当にありがとうございましたm(__)m
ご連絡が遅くなってしまい、申し訳ございません(;´Д`)
(まさかボードにコメントを頂いても、通知が届かないとは知らなかったのです……orz)
コメント頂けてとても励みになりました!
ありがとうございました(*ノωノ)
まだまだ本編は続きますが、最後までお付き合い頂けるように頑張っていきます!
それでは皆様、良いクリスマスを(*´Д`)
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