[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章2:とある密会

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カミールの姿を見送ると、私はベッドから起き上がりクローゼットからローブを取り出した。
内ポケットから小さな魔力玉を抜き出し、口へと放り込んでみるが……どうやらまだ私の体は魔力を吸収していないようだ。
やっぱり……今感じている魔力は……カミールのもの。
信じたくはないけれど……私はカミールと寝てしまったのだろう。
そう改めて実感すると、軽い眩暈に足元がふらついた。
そのまま頭を抱えるように項垂れると、深いため息がもれる。

そういえばシナンは……?
部屋を改めて見渡してみるが、シナンの姿はない。
私は慌てて服を着ると、勢いそのままに部屋を飛び出した。
眩しい朝日が廊下に差し込む中、私は階段を駆け下りていく。
そのままリビングの扉を大きく開け放つと、そこにはソファーで眠っている人影が映った。
カミールかしら……?

そっとソファーへ近づいてみると、そこに居たのは明らかにカミールの姿ではない。
シナンと同じ赤身のかかったブラウンの髪に、頭上には獣の耳が目に映る。
眠っていて瞳の色はわからないが……顔立ちは整っており、カッコいいというよりは、可愛い雰囲気だ。
さぞ女性にモテるだろうと予測できる。
ソファーからはみ出した脚の隙間から、尻尾がゆらゆらと揺れ、それはどう見ても成人している獣人の姿だった。

獣人ね、どちら様かしら……?
シナンの知り合い、もしくはカミールの?
髪の色や顔立ちも似ているような気がするし、シナンのお父さんだったりして……。
もしくは侵入者とか……。
いえ侵入者がこんなのんきにソファーで寝ているとは思えないわ……。
あっ、そうだわ、お医者様かもしれないわね。

私は恐る恐るに眠る彼を覗き込もうとしてみると、三角の獣耳がピクピクと反応を見せる。
その姿に動きを止めると、彼は薄っすらと瞳を開けた。
眠気眼を擦りながらにゆっくりとソファーから起き上がると、澄んだグレーの瞳が目に映る。
見惚れるほどに美しいその姿を茫然と眺めていると、パチリと彼と目があった。

「……っっ、おはようございます」

無理矢理に笑みを浮かべながらに頭を下げると、彼の腕が私へと伸びる。
そのまま強く抱きしめられると、私は力強い腕の中に閉じ込められた。
えっ、ちょっと、なにこの人!?
突然の事に狼狽する中、ふと抱きしめられた腕が小さく震えている。

「……っっ、お姉さんが無事で本当によかった……。おねえさん、おねえさん……」

うん……お姉さん……?
私をそう呼ぶのはシナンだけよね……?
あれでも……。

「えっ、あの……どちら様でしょう……。シナンのお知り合いでしょうか?」

そう問いかけてみると彼の腕の力が弱まり、そのすきは私は慌てて身をよじる。
そっと彼の腕の中から逃げ出そうと体を動かしたその刹那、グレーの瞳が私を覗き込んできた。
整った美しい顔立ちが目と鼻の先まで迫り、私は思わず頬を染めると、慌てて視線を逸らせる。

「お姉さん……、僕の事がわからないの?」

彼は悲し気に瞳を揺らしながらに私の体を捕らえると、そのままガッチリと腰へ腕を回す。

「えっ、きゃっ、ちょっと何々!?」

「あっ、そっか……僕大人になったんだった……。お姉さん、僕がシナンだよ。お姉さんが森の入り口で倒れて、どうしても助けたいと思ったら大人になることが出来たんだ」

その言葉に茫然とする中、顔を上げてみると、キラキラと爽やかにほほ笑むシナンの姿が目に映る。

「えっ、ほっ……本当にシナン……なの?」

私の言葉にコクリと深く頷くと、後ろからギュッと私を抱きすくめた。
そのまま首筋へと顔を埋めると、彼の唇が肌に触れる。

「お姉さんはこんな小さな体で僕を守ってくれていたんだ……ごめんね。でももう大丈夫だよ。今度は僕がお姉さんを守るから……だから僕の傍にずっと居て」

子供の高い声とは違う、低く掠れた声に胸が小さく高鳴ると、顔に熱が集まっていく。
そんな自分に戸惑う中、彼の腕の中で小さく身をよじらせてみると、子供の時とは違う、抗えないほどに強い力で抱きしめられた。
圧迫するほどに腕に力が入ると、息苦しさに小さく顔が歪む。

「子供の僕は……お姉さんを抱きしめる事も出来なかった。いつも守ってもらうばかりで……大きく見えていた背中がこんなにも小さい事さえ気が付かなった」

「えっ、しっ、シナン……っっ。待って、苦しいわ」

そう何とか声を絞り出すと、シナンは慌てた様子で体を離した。

「えっと、その……ごめんなさい。まだ力の加減がうまくつかめなくて……」

いつも見下ろしていた彼の顔は、今では見上げなければ顔を見ることが出来ない。
改めて彼が大人になった姿を実感する中、私はニッコリと笑みを浮かべて見せた。

「ふふっ、大丈夫よ。シナン、大人になれてよかったわね。それに……倒れた私を助けてくれたのでしょう。ありがとう。重かったでしょ……ごめんなさいね」

「そんなことない!!!あまりに軽すぎてビックリしたぐらいだよ!ほらっ」

シナンは私の体を軽々と持ち上げると、そのままに抱きかかえる。
突然の事に慌ててシナンの首へと捕まると、彼のピクピクと動く耳が頬へ触れた。

「ちょっと、シナン!重いでしょっっ、下ろして!!」

「全然重くないよ。こうやってお姉さんを抱き上げられることが、僕はとっても嬉しい」

シナンはふさふさの大きな尻尾を嬉しそうに揺らすと、満面の笑みを浮かべていた。
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