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第五章
閑話:己の無力さ(シナン視点)
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どうしてこんな事になってしまったんだろう……。
目の前が暗闇に染まっていく中、僕はその場に崩れ落ちた。
今日……僕が……ご飯を作り終えて、部屋へ戻るとお姉さんは眠っていた。
やっぱり毒の影響で疲れているんだろう……僕はお姉さんを起こすことはしなかった。
作った料理を傍に置き、お姉さんの額にある布を取り換えると、ふと足元に何かがぶつかった。
視線を落としてみると、お姉さんはずっと図鑑を見ていたのだろうか……スヤスヤと眠る彼女のベッドわきに図鑑が開かれたままだった。
何気なく開かれたページを覗き込んでみると、そこにはお姉さんが話していた青い薬草が鮮やかに描かれていたんだ。
その薬草をよく見てみると、それはどこかで見覚えがあった……。
記憶を思い返していると、昔母さんに無理矢理に連れていかれた山で見たことを思い出したんだ。
お姉さんはこの薬草は違うと言っていたけれど……そんなに似ているのであれば……もしかしたら。
その場所まではそんなに遠くない。
僕の足だと大人に比べれば時間がかかるけれど、日が暮れるまでには戻ってこられるはず。
時折苦しそうに顔を歪める彼女を前に、何もできず……現状僕はカミールさんを待っている事しかできない。
そんな自分が悲しくて……、悔しくて……。
少しでも役に立ちたくて……だから……。
僕はただお姉さんを助けたかっただけなのに……。
茫然とする中、やまない雨の音が煩く耳に響く。
目の前に映るお姉さんは、目を閉じたままに動かない。
何度声をかけても……体をゆすってみても……目を覚ます気配はなくて……。
吐息は微かに聞こえてはくるけれど……お姉さんはまるで死んだように深い眠りについていた。
どうしよう、どうしよう……僕のせいだ。
僕が勝手な事をしたから……。
カミールさんの言う通り、僕は部屋でお姉さんの看病に専念するべきだったのに……。
母さんの言っていた通り、僕は愚鈍で、愚図で使えない獣で……。
僕はなんて愚かなことをしてしまったんだろう……。
そう後悔しても、もう遅い。
僕の声に反応することもなく目を閉じたままのお姉さんを前に、瞳には涙が溢れていく。
絶望の淵に立つ中、時間だけが無情にも過ぎ去っていった。
日が暮れ始め、濡れた体が小さく震える中、お姉さんの呼吸がどんどん弱くなっていった。
ダメだ、ダメだ、ダメだ……。
嘘だ……イヤだ、イヤだ、嫌だ!!!!
このままじゃ、お姉さんが死んでしまう。
それは絶対にダメだ。
僕が生き残って……お姉さんが死ぬなんてあってはいけないこと。
僕は……いつも助けられるばかりで……。
どうして僕はこんなにも無力なんだろう……。
雨に濡れた髪からポタポタと雫が落ちていく中、また視界が涙で歪んでいく。
幹にもたれ、グッタリとしたお姉さんの手を握りしめると、その手は氷のように冷たくなっていた。
その様子に僕は慌てて呼吸を確かめてみると、弱弱しいがまだ胸が小さく揺れている。
よかったまだ生きてる。
でも早く何とかしないと……うぅぅぅ……。
「お……ねぇさん……、おねぇさん……お姉さん、お姉さんああああああああああ!!!」
僕は必死に叫んでみるも、深く閉じられた瞳はピクリとも動かない。
嘘だ……こんなのって……。
どうすれば……、そうだ……人を大人を呼んでくれば……。
僕はそう思い立ち焦って立ち上がるが……その場で動きを止めた。
助けは呼べない……ダメ……。
ここは街の外れで、人を呼ぶためには街へ行かなければならない。
そうすると……僕がここを離れている間……お姉さんは一人になってしまう。
僕が居て何か出来るわけじゃないけれど……。
誰かに狙われているかもしれないお姉さんを一人には出来ない……。
それにもし街へ助けを求めに行ったとしても、半獣である僕を助けてくれる人間なんているのだろうか。
近くにカミールさんが都合よくいればいいけれど、そんな事があるはずない。
カミールさんと連絡を取る手段もなければ……今どこにいるのかさえもわからない。
でもこのままじゃ……お姉さんは死んでしまう。
僕はそっとお姉さんの頬へ手を伸ばしてみると、顔から血の気が引き真っ青になっている。
冷たい……とっ、とりあえずどこか温かい場所へ運ばないと……っっ。
僕はお姉さんの体へ手を伸ばし思いっきりに引っ張ってみるも、子供の力ではびくともしない。
カミールさんなら簡単に運べるのに……。
引きずってみようと試みるが……お姉さんはそのままドサッと土の上に倒れ込むと、泥が辺りへ飛び散った。
嫌だ……どうして……、どうして、こんな事に……。
僕はお姉さんを助けたかっただけなのに……。
早く元気になって、また僕に笑いかけてほしかっただけなのに……。
お姉さん苦しむ姿はもう見たくなかったはずなのに……。
お姉さん、お姉さん、お姉さん……お願い目を開けて……。
しかしどれだけ願っても、お姉さんが目を開けることはない。
冷たくなっていくお姉さんの姿に絶望する中、僕はその場に蹲ると、止まることのない涙がお姉さんの頬に落ちていった。
目の前が暗闇に染まっていく中、僕はその場に崩れ落ちた。
今日……僕が……ご飯を作り終えて、部屋へ戻るとお姉さんは眠っていた。
やっぱり毒の影響で疲れているんだろう……僕はお姉さんを起こすことはしなかった。
作った料理を傍に置き、お姉さんの額にある布を取り換えると、ふと足元に何かがぶつかった。
視線を落としてみると、お姉さんはずっと図鑑を見ていたのだろうか……スヤスヤと眠る彼女のベッドわきに図鑑が開かれたままだった。
何気なく開かれたページを覗き込んでみると、そこにはお姉さんが話していた青い薬草が鮮やかに描かれていたんだ。
その薬草をよく見てみると、それはどこかで見覚えがあった……。
記憶を思い返していると、昔母さんに無理矢理に連れていかれた山で見たことを思い出したんだ。
お姉さんはこの薬草は違うと言っていたけれど……そんなに似ているのであれば……もしかしたら。
その場所まではそんなに遠くない。
僕の足だと大人に比べれば時間がかかるけれど、日が暮れるまでには戻ってこられるはず。
時折苦しそうに顔を歪める彼女を前に、何もできず……現状僕はカミールさんを待っている事しかできない。
そんな自分が悲しくて……、悔しくて……。
少しでも役に立ちたくて……だから……。
僕はただお姉さんを助けたかっただけなのに……。
茫然とする中、やまない雨の音が煩く耳に響く。
目の前に映るお姉さんは、目を閉じたままに動かない。
何度声をかけても……体をゆすってみても……目を覚ます気配はなくて……。
吐息は微かに聞こえてはくるけれど……お姉さんはまるで死んだように深い眠りについていた。
どうしよう、どうしよう……僕のせいだ。
僕が勝手な事をしたから……。
カミールさんの言う通り、僕は部屋でお姉さんの看病に専念するべきだったのに……。
母さんの言っていた通り、僕は愚鈍で、愚図で使えない獣で……。
僕はなんて愚かなことをしてしまったんだろう……。
そう後悔しても、もう遅い。
僕の声に反応することもなく目を閉じたままのお姉さんを前に、瞳には涙が溢れていく。
絶望の淵に立つ中、時間だけが無情にも過ぎ去っていった。
日が暮れ始め、濡れた体が小さく震える中、お姉さんの呼吸がどんどん弱くなっていった。
ダメだ、ダメだ、ダメだ……。
嘘だ……イヤだ、イヤだ、嫌だ!!!!
このままじゃ、お姉さんが死んでしまう。
それは絶対にダメだ。
僕が生き残って……お姉さんが死ぬなんてあってはいけないこと。
僕は……いつも助けられるばかりで……。
どうして僕はこんなにも無力なんだろう……。
雨に濡れた髪からポタポタと雫が落ちていく中、また視界が涙で歪んでいく。
幹にもたれ、グッタリとしたお姉さんの手を握りしめると、その手は氷のように冷たくなっていた。
その様子に僕は慌てて呼吸を確かめてみると、弱弱しいがまだ胸が小さく揺れている。
よかったまだ生きてる。
でも早く何とかしないと……うぅぅぅ……。
「お……ねぇさん……、おねぇさん……お姉さん、お姉さんああああああああああ!!!」
僕は必死に叫んでみるも、深く閉じられた瞳はピクリとも動かない。
嘘だ……こんなのって……。
どうすれば……、そうだ……人を大人を呼んでくれば……。
僕はそう思い立ち焦って立ち上がるが……その場で動きを止めた。
助けは呼べない……ダメ……。
ここは街の外れで、人を呼ぶためには街へ行かなければならない。
そうすると……僕がここを離れている間……お姉さんは一人になってしまう。
僕が居て何か出来るわけじゃないけれど……。
誰かに狙われているかもしれないお姉さんを一人には出来ない……。
それにもし街へ助けを求めに行ったとしても、半獣である僕を助けてくれる人間なんているのだろうか。
近くにカミールさんが都合よくいればいいけれど、そんな事があるはずない。
カミールさんと連絡を取る手段もなければ……今どこにいるのかさえもわからない。
でもこのままじゃ……お姉さんは死んでしまう。
僕はそっとお姉さんの頬へ手を伸ばしてみると、顔から血の気が引き真っ青になっている。
冷たい……とっ、とりあえずどこか温かい場所へ運ばないと……っっ。
僕はお姉さんの体へ手を伸ばし思いっきりに引っ張ってみるも、子供の力ではびくともしない。
カミールさんなら簡単に運べるのに……。
引きずってみようと試みるが……お姉さんはそのままドサッと土の上に倒れ込むと、泥が辺りへ飛び散った。
嫌だ……どうして……、どうして、こんな事に……。
僕はお姉さんを助けたかっただけなのに……。
早く元気になって、また僕に笑いかけてほしかっただけなのに……。
お姉さん苦しむ姿はもう見たくなかったはずなのに……。
お姉さん、お姉さん、お姉さん……お願い目を開けて……。
しかしどれだけ願っても、お姉さんが目を開けることはない。
冷たくなっていくお姉さんの姿に絶望する中、僕はその場に蹲ると、止まることのない涙がお姉さんの頬に落ちていった。
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