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第五章
新章4:雨降る街で
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ふと気が付くと、ザーザーと降り注いでいた激しい雨の音がやんでいた。
あれ……あんなに土砂降りだったのに……?
不思議に思いながらゆっくりと瞳を持ち上げてみると、目の前にはどこか見覚えのある天井が目に映る。
知っている場所だが……それはカミールの家ではない。
まさか……と思いながら徐に体を起こしてみると、そこは懐かしい彼の仕事場だった。
窓からは眩しい光が差し込み、緑あふれる木々が太陽の光に照らされ、ユラユラと揺れている。
ベッドから立ち上がり部屋の中へ視線を向けてみると、液体の入った瓶や標本などがあちこちに置かれ、薬品棚が並べられていた。
ここは……レックスの仕事場だわ。
私は懐かしむように辺りを見渡してみると、彼とよく勉強をした机と椅子が目に映る。
あそこでレックスに治癒魔法や、薬学を教えてもらったわね……。
彼の落ち着きのある笑みが頭をよぎると、胸がほっこり温かくなった。
他にもたくさんの事を教えてもらって……。
それにおやつを用意してもらったりもしたわね……。
そういえばあのマカロン風のお菓子、とても美味しかったわ。
彼と過ごした光景が脳裏によみがえる中、眺めていた椅子に薄っすらと人影が浮かび上がると、そこに過去の私が映し出された。
そこにいる私は机にかじりつきながら、元の世界の言葉で必死にメモを取っている。
この世界にはない文字……今もまだはっきりと覚えている。
その様子にそっと傍に近づいてみるが、私がこちらに気が付く気配はない。
そっと手を伸ばしノートへ触れようとしてみると、私の手は何も触れることがないままに、すり抜けていった。
触れられない……これはきっと夢なんだわ。
レックスに会いたいと考えすぎて、夢にまで現れたのかしらね……。
そう理解するや否や、部屋の扉が開くと、そこに懐かしいレックスの姿が現れた。
白衣を着た、蒼く癖のある髪に見惚れるほどの美しいサファイアの瞳。
その姿はまごうことなき私の知る彼だった。
「レックス……」
ダメもとで彼の名を呼んでみるが……やはりその声が彼に届くことはない。
レックスは私の目の前を通り過ぎていくと、机にかじりつく私の傍へ腰かけた。
そうして彼はボロボロの参考書を開くと、そこには赤い字でメモがかかれ、文字の上にはカラーのラインが引かれている。
使い古されたその本に自然と笑みがこぼれ落ちる中、彼は机にかじりつく私へ、一つ一つ丁寧に説明していった。
低く透き通る彼の声……本当に懐かしいわ……。
二人並ぶ姿に胸の奥がジワリと温かくなると、自然と笑みがこぼれ落ちていく。
そう……レックスの教え方はとても分かりやすくて……。
でも薬学はとても難しかったわ。
見たこともない植物の名前を覚えるのに必死だった……。
あれ……でも今の世界では、この出来事はなかった事になっているのよね……?
だって今見ている私の姿は、誤った世界で起きた事実なのだから……。
そう思うと物悲しい気持ちが胸に込み上げてくる。
胸にぽっかりと穴が開くと、チクチク小さく痛む。
私は知っているのに……彼にはない記憶。
今この世界で暮らす彼に、私との思い出はあるのかしら……。
仲良さげに笑いあう二人の姿を眺める中、ふとどこからかレックスの魔力を感じた。
今目の前に映る彼は、魔法を使ってはいない。
ならどこから……?
私はそっと振り返ると、彼の部屋がゆらゆらと霧に隠れるように霞んでいった。
次第に彼の部屋が雲に覆われ、二人の姿が消えてなくなると、辺り一面海のような深い青に染まっていく。
まるで海の底にいるみたいね……。
青い世界を茫然と眺める中、彼の魔力を探していると、どうやらこの奥から流れてきているようだ。
魔力はあちらから来ているのようね……?
私は道なき道を導かれるように歩き始める中、暫くするとずっと先に小さな光が浮かび浮かび上がった。
サファイヤに光るその球は、プカプカと浮いている。
近づいてみると、球の中からレックスの魔力を強く感じた。
何かしら……これ……。
観察するようにじっくり眺める中、恐る恐るに光へ手を伸ばしてみると、触れた瞬間に青い世界がパッと弾け、また彼の仕事場が浮かび上がる。
しかし先ほどとは違い……部屋にはレックスと、どこかで見覚えのある美しいドレス姿の女性が向かい合うように佇んでいた。
そんな二人からは何やら重々しい雰囲気を感じとる。
あれ……この女の人どこかで見たことがあるわ……。
どこだったかしら……豪華なドレス姿を見る限り……きっと貴族よね。
貴族という事は……夜会でかしら……?
でも夜会での記憶を思い返してみるが……どうも違うようだ。
なら一体どこで……う~ん……。
何とも言えない空気が漂う中、見つめあう二人を観察するように眺めていると、女性がゆっくりとレックスへと近づいていった。
あれ……あんなに土砂降りだったのに……?
不思議に思いながらゆっくりと瞳を持ち上げてみると、目の前にはどこか見覚えのある天井が目に映る。
知っている場所だが……それはカミールの家ではない。
まさか……と思いながら徐に体を起こしてみると、そこは懐かしい彼の仕事場だった。
窓からは眩しい光が差し込み、緑あふれる木々が太陽の光に照らされ、ユラユラと揺れている。
ベッドから立ち上がり部屋の中へ視線を向けてみると、液体の入った瓶や標本などがあちこちに置かれ、薬品棚が並べられていた。
ここは……レックスの仕事場だわ。
私は懐かしむように辺りを見渡してみると、彼とよく勉強をした机と椅子が目に映る。
あそこでレックスに治癒魔法や、薬学を教えてもらったわね……。
彼の落ち着きのある笑みが頭をよぎると、胸がほっこり温かくなった。
他にもたくさんの事を教えてもらって……。
それにおやつを用意してもらったりもしたわね……。
そういえばあのマカロン風のお菓子、とても美味しかったわ。
彼と過ごした光景が脳裏によみがえる中、眺めていた椅子に薄っすらと人影が浮かび上がると、そこに過去の私が映し出された。
そこにいる私は机にかじりつきながら、元の世界の言葉で必死にメモを取っている。
この世界にはない文字……今もまだはっきりと覚えている。
その様子にそっと傍に近づいてみるが、私がこちらに気が付く気配はない。
そっと手を伸ばしノートへ触れようとしてみると、私の手は何も触れることがないままに、すり抜けていった。
触れられない……これはきっと夢なんだわ。
レックスに会いたいと考えすぎて、夢にまで現れたのかしらね……。
そう理解するや否や、部屋の扉が開くと、そこに懐かしいレックスの姿が現れた。
白衣を着た、蒼く癖のある髪に見惚れるほどの美しいサファイアの瞳。
その姿はまごうことなき私の知る彼だった。
「レックス……」
ダメもとで彼の名を呼んでみるが……やはりその声が彼に届くことはない。
レックスは私の目の前を通り過ぎていくと、机にかじりつく私の傍へ腰かけた。
そうして彼はボロボロの参考書を開くと、そこには赤い字でメモがかかれ、文字の上にはカラーのラインが引かれている。
使い古されたその本に自然と笑みがこぼれ落ちる中、彼は机にかじりつく私へ、一つ一つ丁寧に説明していった。
低く透き通る彼の声……本当に懐かしいわ……。
二人並ぶ姿に胸の奥がジワリと温かくなると、自然と笑みがこぼれ落ちていく。
そう……レックスの教え方はとても分かりやすくて……。
でも薬学はとても難しかったわ。
見たこともない植物の名前を覚えるのに必死だった……。
あれ……でも今の世界では、この出来事はなかった事になっているのよね……?
だって今見ている私の姿は、誤った世界で起きた事実なのだから……。
そう思うと物悲しい気持ちが胸に込み上げてくる。
胸にぽっかりと穴が開くと、チクチク小さく痛む。
私は知っているのに……彼にはない記憶。
今この世界で暮らす彼に、私との思い出はあるのかしら……。
仲良さげに笑いあう二人の姿を眺める中、ふとどこからかレックスの魔力を感じた。
今目の前に映る彼は、魔法を使ってはいない。
ならどこから……?
私はそっと振り返ると、彼の部屋がゆらゆらと霧に隠れるように霞んでいった。
次第に彼の部屋が雲に覆われ、二人の姿が消えてなくなると、辺り一面海のような深い青に染まっていく。
まるで海の底にいるみたいね……。
青い世界を茫然と眺める中、彼の魔力を探していると、どうやらこの奥から流れてきているようだ。
魔力はあちらから来ているのようね……?
私は道なき道を導かれるように歩き始める中、暫くするとずっと先に小さな光が浮かび浮かび上がった。
サファイヤに光るその球は、プカプカと浮いている。
近づいてみると、球の中からレックスの魔力を強く感じた。
何かしら……これ……。
観察するようにじっくり眺める中、恐る恐るに光へ手を伸ばしてみると、触れた瞬間に青い世界がパッと弾け、また彼の仕事場が浮かび上がる。
しかし先ほどとは違い……部屋にはレックスと、どこかで見覚えのある美しいドレス姿の女性が向かい合うように佇んでいた。
そんな二人からは何やら重々しい雰囲気を感じとる。
あれ……この女の人どこかで見たことがあるわ……。
どこだったかしら……豪華なドレス姿を見る限り……きっと貴族よね。
貴族という事は……夜会でかしら……?
でも夜会での記憶を思い返してみるが……どうも違うようだ。
なら一体どこで……う~ん……。
何とも言えない空気が漂う中、見つめあう二人を観察するように眺めていると、女性がゆっくりとレックスへと近づいていった。
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