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第五章
新章3:雨降る街で
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そうして読み進めていく中、私はレックスに何とか連絡を取れる方法がないかを考えていた。
連絡と言えば伝書蝶……。
いやいや、送っても名前がない現状……レックスからの返事を受け取れないわ。
それだと意味がない。
あぁ、この世界にもスマホみたいなものがあればいいのだけれど……。
あれそういえば……私が以前山で彼らにつかまった時に、離れた相手と連絡を取る手段を持っていたわね。
「シナン、離れた相手と連絡が取れる……えーと、そういった物があるかしら?」
「ありますよ、通信機ですね。でも……簡単には手に入りません。ランギの街ではまだ出回っておりませんし、大金が必要になりますよ。王都に近い壁の傍に行けば、何とかできるのかもしれませんが……」
大金か……。
お金は何とかなるにしても、この街で手に入らないのであれば意味がない。
別の方法を考えるしかないわね……。
「あの、お姉さんは薬草にも詳しいんですか?」
「詳しいって程ではないのだけれど……少し学ぶ機会があったのよね」
そうニッコリ笑みを浮かべて見せると、シナンは身を乗り出す様に図鑑を覗き込んだ。
そんなシナンを膝に抱えてみると、二人で図鑑を見ながらにゆっくりとページを捲っていく。
どれぐらい時間がたったのだろうか……気が付けば、分厚い図鑑も残り数ページとなっていた。
ペラペラと最後の一ページを捲ると、私は小さく息を吐き出していた。
「薬草って、いっぱい種類があるんですね。あの……何かいい薬草が見つかりましたか?」
シナンの言葉に私は小さく首を横に振る。
「いいえ、残念だけれども私が欲しい薬草は載っていないみたいなの……この街にはないのかしらね」
そう笑みを浮かべて見せると、シナンは残念そうに肩を落とした。
そんな彼の様子に、私はもう一度図鑑を開いて見せると、視界の片隅に、獣耳が嬉しそうにピクピクと動く姿が目に映る。
「ふふっ、シナンも薬草に興味があるの?」
「えっ、いえ……僕もお姉さんのお役に立てればいいなと思って……」
「ふふっ、私の探していた薬草はね、この草にとてもよく似ているの。その薬草は魔力で受けた毒を体から吸収する効果があるのよ。でもこの草……形はそっくりなんだけれど、色がね全然違うの。私が欲しい薬草は淡い桃色なのよね」
私はひょろりと長い草を指さすと、そこには空のように青い花が描かれている。
シナンは前かがみに私が指さした絵をじっと見つめると、興味があるのだろうか……尻尾が静かに揺れていた。
そんな彼の様子に私も再度目を通してみると、その草の用途欄にはこう書かれている。
【野草化している多年草。花穂を採取し乾燥させ、去痰・風邪・腰痛などの体質改善に用いる。
また茎には甘味があり、砂糖の代用として、食品や甘味料などにも利用可能】
う~ん、薬としては使えるのだろうけれど、果たしてこれが魔力に効果があるのかはわからない。
魔法というものが知られていない為か……この図鑑にはどの用途欄にも、魔法に効果があるとの記載は一つもなかった。
だがレックスから習った薬草もいくつか見つけることが出来たため、この図鑑自体が魔力に対応していないことは明らかだ。
はぁ……レックスがいればなぁ……。
やっぱりどうにかして連絡を取れないかしら……。
そんな事を考えながらに、自分自身に流れる魔力を探してみると、先ほどとは違いちゃんと魔力を感じることが出来る。
ヘビに噛まれた時には感じる事が出来なかった事を考えると、毒は大分マシになっているのだろうと予測はできるけれど……。
このまま放置しておくわけにもいかないわよね。
もちろんプロに見てもらうのが一番いいのだけれど、私の体質はこの世界の住人とは異なっている。
魔力が少ない人が多いが……今日治療した彼も魔力が弾かれることはなかった。
うんうんと頭を悩ませながらに考え込んでいると、シナンは魅入るように図鑑を覗き込んだままだ。
その姿に不思議と心がほっと温かくなると、私は無意識に彼の髪をなでていた。
そしてそのままピクピクと動く耳にそっと触れてみる。
するとシナンは肩を大きく跳ねさせると、顔を真っ赤に勢いよく図鑑から飛び退いた。
「ごっ、ごめんね。驚かせちゃった?」
「あっ、えっと……お姉さんお腹すいてますよね?僕何か作ってきます!」
シナンは耳を両手で隠すと、急ぎ足で扉へとかけていく。
「えっ、シナン?」
そう声をかけるも、シナンは振り返ることなく、慌てて部屋から出ていった。
その様子を茫然と眺める中、シーンと静まり返った部屋には雨の音が響き渡る。
降りしきるその音に耳を傾けていると、次第に眠気が襲ってきた。
ウトウトと船をこぎ始めると、私は図鑑をそのままにベットへと落ちていく。
眠い……でもレックスに会う方法を探さないと……。
どうにか眠気を振り払おうと足掻いて見せるも、重くなる瞼に抗うことが出来ず瞳を閉じると、私はゆっくりと夢の中へと沈んでいった。
連絡と言えば伝書蝶……。
いやいや、送っても名前がない現状……レックスからの返事を受け取れないわ。
それだと意味がない。
あぁ、この世界にもスマホみたいなものがあればいいのだけれど……。
あれそういえば……私が以前山で彼らにつかまった時に、離れた相手と連絡を取る手段を持っていたわね。
「シナン、離れた相手と連絡が取れる……えーと、そういった物があるかしら?」
「ありますよ、通信機ですね。でも……簡単には手に入りません。ランギの街ではまだ出回っておりませんし、大金が必要になりますよ。王都に近い壁の傍に行けば、何とかできるのかもしれませんが……」
大金か……。
お金は何とかなるにしても、この街で手に入らないのであれば意味がない。
別の方法を考えるしかないわね……。
「あの、お姉さんは薬草にも詳しいんですか?」
「詳しいって程ではないのだけれど……少し学ぶ機会があったのよね」
そうニッコリ笑みを浮かべて見せると、シナンは身を乗り出す様に図鑑を覗き込んだ。
そんなシナンを膝に抱えてみると、二人で図鑑を見ながらにゆっくりとページを捲っていく。
どれぐらい時間がたったのだろうか……気が付けば、分厚い図鑑も残り数ページとなっていた。
ペラペラと最後の一ページを捲ると、私は小さく息を吐き出していた。
「薬草って、いっぱい種類があるんですね。あの……何かいい薬草が見つかりましたか?」
シナンの言葉に私は小さく首を横に振る。
「いいえ、残念だけれども私が欲しい薬草は載っていないみたいなの……この街にはないのかしらね」
そう笑みを浮かべて見せると、シナンは残念そうに肩を落とした。
そんな彼の様子に、私はもう一度図鑑を開いて見せると、視界の片隅に、獣耳が嬉しそうにピクピクと動く姿が目に映る。
「ふふっ、シナンも薬草に興味があるの?」
「えっ、いえ……僕もお姉さんのお役に立てればいいなと思って……」
「ふふっ、私の探していた薬草はね、この草にとてもよく似ているの。その薬草は魔力で受けた毒を体から吸収する効果があるのよ。でもこの草……形はそっくりなんだけれど、色がね全然違うの。私が欲しい薬草は淡い桃色なのよね」
私はひょろりと長い草を指さすと、そこには空のように青い花が描かれている。
シナンは前かがみに私が指さした絵をじっと見つめると、興味があるのだろうか……尻尾が静かに揺れていた。
そんな彼の様子に私も再度目を通してみると、その草の用途欄にはこう書かれている。
【野草化している多年草。花穂を採取し乾燥させ、去痰・風邪・腰痛などの体質改善に用いる。
また茎には甘味があり、砂糖の代用として、食品や甘味料などにも利用可能】
う~ん、薬としては使えるのだろうけれど、果たしてこれが魔力に効果があるのかはわからない。
魔法というものが知られていない為か……この図鑑にはどの用途欄にも、魔法に効果があるとの記載は一つもなかった。
だがレックスから習った薬草もいくつか見つけることが出来たため、この図鑑自体が魔力に対応していないことは明らかだ。
はぁ……レックスがいればなぁ……。
やっぱりどうにかして連絡を取れないかしら……。
そんな事を考えながらに、自分自身に流れる魔力を探してみると、先ほどとは違いちゃんと魔力を感じることが出来る。
ヘビに噛まれた時には感じる事が出来なかった事を考えると、毒は大分マシになっているのだろうと予測はできるけれど……。
このまま放置しておくわけにもいかないわよね。
もちろんプロに見てもらうのが一番いいのだけれど、私の体質はこの世界の住人とは異なっている。
魔力が少ない人が多いが……今日治療した彼も魔力が弾かれることはなかった。
うんうんと頭を悩ませながらに考え込んでいると、シナンは魅入るように図鑑を覗き込んだままだ。
その姿に不思議と心がほっと温かくなると、私は無意識に彼の髪をなでていた。
そしてそのままピクピクと動く耳にそっと触れてみる。
するとシナンは肩を大きく跳ねさせると、顔を真っ赤に勢いよく図鑑から飛び退いた。
「ごっ、ごめんね。驚かせちゃった?」
「あっ、えっと……お姉さんお腹すいてますよね?僕何か作ってきます!」
シナンは耳を両手で隠すと、急ぎ足で扉へとかけていく。
「えっ、シナン?」
そう声をかけるも、シナンは振り返ることなく、慌てて部屋から出ていった。
その様子を茫然と眺める中、シーンと静まり返った部屋には雨の音が響き渡る。
降りしきるその音に耳を傾けていると、次第に眠気が襲ってきた。
ウトウトと船をこぎ始めると、私は図鑑をそのままにベットへと落ちていく。
眠い……でもレックスに会う方法を探さないと……。
どうにか眠気を振り払おうと足掻いて見せるも、重くなる瞼に抗うことが出来ず瞳を閉じると、私はゆっくりと夢の中へと沈んでいった。
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