[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

文字の大きさ
上 下
237 / 358
第五章

新章3:雨降る街で

しおりを挟む
そうして読み進めていく中、私はレックスに何とか連絡を取れる方法がないかを考えていた。
連絡と言えば伝書蝶……。
いやいや、送っても名前がない現状……レックスからの返事を受け取れないわ。
それだと意味がない。
あぁ、この世界にもスマホみたいなものがあればいいのだけれど……。
あれそういえば……私が以前山で彼らにつかまった時に、離れた相手と連絡を取る手段を持っていたわね。

「シナン、離れた相手と連絡が取れる……えーと、そういった物があるかしら?」

「ありますよ、通信機ですね。でも……簡単には手に入りません。ランギの街ではまだ出回っておりませんし、大金が必要になりますよ。王都に近い壁の傍に行けば、何とかできるのかもしれませんが……」

大金か……。
お金は何とかなるにしても、この街で手に入らないのであれば意味がない。
別の方法を考えるしかないわね……。

「あの、お姉さんは薬草にも詳しいんですか?」

「詳しいって程ではないのだけれど……少し学ぶ機会があったのよね」

そうニッコリ笑みを浮かべて見せると、シナンは身を乗り出す様に図鑑を覗き込んだ。
そんなシナンを膝に抱えてみると、二人で図鑑を見ながらにゆっくりとページを捲っていく。


どれぐらい時間がたったのだろうか……気が付けば、分厚い図鑑も残り数ページとなっていた。
ペラペラと最後の一ページを捲ると、私は小さく息を吐き出していた。

「薬草って、いっぱい種類があるんですね。あの……何かいい薬草が見つかりましたか?」

シナンの言葉に私は小さく首を横に振る。

「いいえ、残念だけれども私が欲しい薬草は載っていないみたいなの……この街にはないのかしらね」

そう笑みを浮かべて見せると、シナンは残念そうに肩を落とした。
そんな彼の様子に、私はもう一度図鑑を開いて見せると、視界の片隅に、獣耳が嬉しそうにピクピクと動く姿が目に映る。

「ふふっ、シナンも薬草に興味があるの?」

「えっ、いえ……僕もお姉さんのお役に立てればいいなと思って……」

「ふふっ、私の探していた薬草はね、この草にとてもよく似ているの。その薬草は魔力で受けた毒を体から吸収する効果があるのよ。でもこの草……形はそっくりなんだけれど、色がね全然違うの。私が欲しい薬草は淡い桃色なのよね」

私はひょろりと長い草を指さすと、そこには空のように青い花が描かれている。
シナンは前かがみに私が指さした絵をじっと見つめると、興味があるのだろうか……尻尾が静かに揺れていた。
そんな彼の様子に私も再度目を通してみると、その草の用途欄にはこう書かれている。

【野草化している多年草。花穂を採取し乾燥させ、去痰・風邪・腰痛などの体質改善に用いる。
また茎には甘味があり、砂糖の代用として、食品や甘味料などにも利用可能】

う~ん、薬としては使えるのだろうけれど、果たしてこれが魔力に効果があるのかはわからない。
魔法というものが知られていない為か……この図鑑にはどの用途欄にも、魔法に効果があるとの記載は一つもなかった。
だがレックスから習った薬草もいくつか見つけることが出来たため、この図鑑自体が魔力に対応していないことは明らかだ。
はぁ……レックスがいればなぁ……。

やっぱりどうにかして連絡を取れないかしら……。
そんな事を考えながらに、自分自身に流れる魔力を探してみると、先ほどとは違いちゃんと魔力を感じることが出来る。
ヘビに噛まれた時には感じる事が出来なかった事を考えると、毒は大分マシになっているのだろうと予測はできるけれど……。
このまま放置しておくわけにもいかないわよね。
もちろんプロに見てもらうのが一番いいのだけれど、私の体質はこの世界の住人とは異なっている。
魔力が少ない人が多いが……今日治療した彼も魔力が弾かれることはなかった。

うんうんと頭を悩ませながらに考え込んでいると、シナンは魅入るように図鑑を覗き込んだままだ。
その姿に不思議と心がほっと温かくなると、私は無意識に彼の髪をなでていた。
そしてそのままピクピクと動く耳にそっと触れてみる。
するとシナンは肩を大きく跳ねさせると、顔を真っ赤に勢いよく図鑑から飛び退いた。

「ごっ、ごめんね。驚かせちゃった?」

「あっ、えっと……お姉さんお腹すいてますよね?僕何か作ってきます!」

シナンは耳を両手で隠すと、急ぎ足で扉へとかけていく。

「えっ、シナン?」

そう声をかけるも、シナンは振り返ることなく、慌てて部屋から出ていった。

その様子を茫然と眺める中、シーンと静まり返った部屋には雨の音が響き渡る。
降りしきるその音に耳を傾けていると、次第に眠気が襲ってきた。
ウトウトと船をこぎ始めると、私は図鑑をそのままにベットへと落ちていく。
眠い……でもレックスに会う方法を探さないと……。
どうにか眠気を振り払おうと足掻いて見せるも、重くなる瞼に抗うことが出来ず瞳を閉じると、私はゆっくりと夢の中へと沈んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...