[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章7:名の売れた魔法使い

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そうして家路を進む中、大通りを抜け路地へと入り込むと、前を歩くカミールが突然に立ち止まった。
どうしたのだろうと思い、前を覗き込んでみると、そこには狐目をした男がカミールをじっと見つめている。
その男は黒いウェイターのような服装に、髪はオールバックにまとめられ、ニッコリと笑みを浮かべていた。
優しそうな雰囲気で姿勢よくたたずむその姿は、バーテンダー……いやどこかの執事のようだ。
あら、でも執事であれば燕尾服かしら……?
そんな事を考えながら、カミールの背中越しにじっと彼を眺めていると、澄んだ声が耳に響いた。

「カミール殿、少しお時間を頂いて宜しいでしょうか?」

その声にカミールは軽く頷くと、徐に振り返る。

「あんたは先に帰れ」

「えっ、わっ、わかったわ」

ただならぬ二人の様子に私はそそくさと路地裏を駆け抜けていくと、狐目の男と視線が絡む。
表情が読めないその姿になぜか恐怖心を感じると、私は振り向くこともないままに狭い路地裏を走り去っていった。

さっきの男の人誰かしら……?
カミールの知り合いのようだけれど……それにしても親しい雰囲気ではなかったわね。
そんな事を考えながらに家路を急いでいると、角を曲がった先に人影が映る。
慌てて立ち止まり、徐に顔を上げてみると、そこには先ほどカミールに絡んでいた、可愛らしい女性の姿があった。

「こんにちは。あれ、カミール様は一緒じゃないのぉ~?まさか~もう捨てられちゃった?」

そうニッコリと笑みを深めると、一歩こちらへと近づく彼女の姿に反射的に後ずさる。

「すっ、捨てられる!?、違うわ!……それよりも私とカミールは……っっ」

そう言葉を続けようとした瞬間、後方から微かに魔力を感じた。
私は慌てて振り返ると、そこにはローブを深く被った人影が目に映る。
高身長で肩幅も広く、きっと男だろう。
私は警戒するように手に魔力を集める中、ローブの男はナイフを取り出したかと思うと、そのまま自分の手首を切りつけた。

ズサッ、クチャッ。

「はぁっ!?えっ、ちょっと何をしているのよ!?」

手首からポタポタと血が地面に落ちていく中、先ほどとは比べ物にならないほどの壮大な魔力が、彼から発せられる。
驚き目を丸くしていると、滴り落ちる血が魔力を帯び、フワッとした光が浮かび上がった。
すると真っ赤な血が姿を変え……何かの形を形成していく。
その異常な光景にゴクリと唾を飲み込むと、私はすぐに防御魔法を張えい、じっとその何かを只々見つめていた。
真っ赤に染まったその何かは次第に大きくなり、細い棒状に変化すると……そこに現れたのは血で染まったヘビの姿だった。

「いけ……」

ボソボソとそう呟くと、ヘビがすごい速さで迫ってくる。
私はすぐに自分自身に風を巻き起こすと、ヘビへと勢いそのままに投げた。
しかし風魔法はヘビをすり抜けると、私へと絡みつく。
いつのまにか……風魔法はかき消され、防御魔法もヘビには効果がないようだ。
体に真っ赤なヘビが巻き付くと、身動きがとれない。
えぇっ、どうして!?
ヘビはウネウネと動き始めると、徐々に私の体を締め上げていく。
すると、ミシミシと鈍い痛みが全身を駆け抜けた。

「うぅ……、どっ……どうして……?あぁ……いぃっ、たぁ……」

どうして魔法が効かないの?
息もできぬほどの強さに視界がぶれると、体の力が抜けていく。
ダメ……このままじゃ……。
何とかしないと……。
……ってこのヘビは、一体何なのかしら……。
魔力の塊のようだけれど……ローブの男が魔法を使っている形跡はない。
でもあの血が……。

かすむ視界の中へ必死にローブの男を観察すると、彼の腕から血は滴り落ちていなかった。
真っ赤に染まった手首から流れる血は、すべてこのヘビに向かって飛んでる……。
まさか……血が魔力なの……?
こんな魔法、見たことないわ……。

「ふふふっ、あなた不思議な力を使う魔法使いなんでしょう?だからあなたに対抗する為にぃ、遣い魔使いを用意したの。ははっ、さすがの有名な魔法使い様でも、遣い魔には敵わないんだねぇ~」

つかいま……?
このヘビが……?
一体何なのかしらそれ……。
でも魔法が効かないのは痛いわね……。
自慢ではないが……私から魔法とると、戦うすべなんてなにもないわ。

ヘビの締め付けがどんどん強くなる中、次第に意識が遠のいていく。
息もできぬほどの苦しみを何とか必死に耐えると、私は震える唇を開いた。

「あなたは……っっ、何が……目的なのよ……いたぁッ、くぅッ、……ッッ」

「目的?へへっ、カミール様を返してもらおうと思って。あなたが居るから、彼おかしくなっちゃったでしょう?今までなら毎日のように街へ女を漁りに来ていたのに、あなたが現れてここ数週間、一度も夜の街に来なくなっちゃった。だからあなたが邪魔なんだよね。だってカミール様は、みんなの者なんだから……独り占めはよくないよ。ははっ、あははああああ」

甲高い高笑いが頭に響くと、ふとヘビの拘束が少し緩くなった。
そのすきに私は大きく息を吸い込むと、顔を上げ彼女を鋭く睨みつけた。

「ちょっと待って……話を聞いて……ゴホッ、ゴホッ……ッッ、私は……カミールとは何もないわ……。ただ目的が同じなだけの仲間よ……。あなたが思っているような関係じゃない!!」

「う~ん、それが本当だとしても~あなたがそう思っているだけじゃない。カミール様は違うでしょう。だって彼がずっと同じ女と居続ける事なんて、今までなかったもの~」

はぁっ!?
ひと月一緒にいて、あの態度でこき使われるスパルタな現状……彼にそんな感情があるとは到底思えないわ。
きっと扱いやすく、利用価値のある女と認識しているはず……。

「あぁ~もういいや、さっさと殺しちゃって」

「ちょっと待ちなさいよ、そんなのありえな……ッッ、あああああああ」

必死に声を張り上げるが……彼女の言葉にヘビが反応を見せると、体をギリギリと締め上げていった。
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