[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章1:名の売れた魔法使い

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翌朝、いつものように目を覚ますと、私は出かける準備を進めていた。
何か夢を見ていたような気もするけれど……起きた時にはきれいさっぱり忘れ、思い出すことが出来ない。
でも胸の奥底に懐かしいような……何とも言えない気持ちが渦巻く中、私は魔法で体を洗い流すと、スヤスヤと寝息をたてるシナンを横目に、ローブに袖を通し服を整えていく。
そうして眠る彼の傍へと赴き優しく髪を撫でると、私は静かに部屋を後にした。

そのままカミールと家を出ると、会話もないままに、歩きなれた道を進んでいく。
彼の背を追いかけながらにギルドへ向かうと、いつものように彼は私をおいてドームの中へと消えて行った。
彼の背を見送り、朝焼けを眺めながらぼうっとカミールを待っていると、ふと三人に男たちが私の方へと近づいて来るのが目に映る。
私を見つめながらに男達は口を開くと、彼らの会話が耳に届いた。

「あの女が噂のカミールのパートナーか?」

「おいおい、冗談だろう!こんな華奢な女が、あんな高ランクな仕事クリアできるはずがねぇ」

「いや、だが……さっきカミールと一緒に居ましたよ。それに噂通り珍しい漆黒の瞳ですしね」

はぁ……これ私の事ね……一体何なのよ……。
その声に顔を上げてみると、ガタイの良い体に腰には剣が見え、冒険者風の服装をした男が左右に二人。
その中央には、細身で騎士の様な格好をし……清潔感がある男性が私を見つめていた。
真ん中の男は雰囲気からして、貴族だろうと当たりを付ける。

明らかに私に用があるのだろう彼らの様子に、私はそっと視線を落とすと、自然とため息が零れ落ちた。
大きくなる足音が耳に届く中、私の様子を覗う様に近づいて来ると、ガヤガヤと話し声が煩く響く。
はぁ……カミール、早く戻って来てくれないかしら……。
益々近づいてくる足音に、私は彼らから離れるように体を動かすと……貴族風の男が私を覗き込むように目の前へ立ちはだかった。

「あんたがカミールの相棒だな。……俺と勝負しろ」

勝負?一体全体どいうことなの……?
どうして私が勝負を申し込まれているの……?

「えっ、どうして私があなたと戦わなければいけないのかしら……?」

「そんなものきまっている。あんたが強いと有名だからだ!」

有名……。
その言葉にピンッとくると、私は慌てて口を閉ざした。
そういえば、あの子供服店でも言われたわね……。
どうも私の知らない間に、私という存在が有名になっているようだ。
なら手っ取り早く名を上げる為に、女で倒しやすそうとの理由で選ばれた……?
とても迷惑な話ね……。
私はあからさまに深いため息をつくと、男に向かって軽く首を横に振った。

「なんだ、逃げるのか?」

「ははっ、弱そうですし怖いんじゃないですかね?やはり噂は噂という事ですかね」

脇に並ぶ男二人が挑発してくる中、私は壮大なため息をつくと、手に魔力を集めていく。
鬱陶しいわね……。
引く気はないようだし、魔法でさっさと逃げちゃいましょう。
ギャンギャンと吠えてくる男達を横目に魔力を込めていると、彼らの後方にカミールの姿が目に映る。
その姿に私は魔力の流れを遮断し、軽く手を挙げると、彼はなぜか不敵な笑みを浮かべていた。

「何だ、俺がいない間に決闘を申し込まれたのか?ほう……こいつは……。なぁ~あんた、俺と賭けをしないか?その女と戦いたいんだろう?今のままじゃ逃げられぜ。その女、逃げるのはうまいからな~。そこでだ、俺が戦う様にそいつを説得してやるよ。だから戦う報酬として、こいつがが勝てば金貨一枚。あんたが勝てば、一気に名を売れる。……どうだ?」

「ちょっと、勝手に何を言ってるのよ!!」

カミールの信じられない提案に、私は慌てて止めに入るが……貴族風の男はニヤリと口角を上げると、カミールの前に金貨一枚を差し出した。

「いいだろう、俺は必ず勝つ。吠え面をかかせてやるよ」

「威勢がいいなぁ。まぁ、賭けはこれで成立だ。場所は……ギルドの闘技場でどうだ?」

私の言葉は届くことがないまま、どんどん話が進んでいく。
カミールの言葉に男が深く頷くと、私は頬を引き攣らせながらに、ゆっくりと後退していった。
えっ、えっ……ちょっと戦うなんて、何かの冗談でしょう?
信じられない思いでカミールを見上げると、彼は楽しそうな笑みを浮かべていた。
ここ数週間一緒に過ごしていたからこそわかる……あの目……本気だわ。
今のうちに逃げましょう……。
私は慌ててその場から逃げ出そうとするが……カミールの腕が素早く私を捕える。
そのまま首根っこを掴まれると、私はズルズルと引っ張られていった。

「ちょっ、カミール離して!もう、私は戦わないわよ!」

「まぁとりあえず話を聞け。この金貨で目標の金額が貯まる。そうなればすぐに壁の傍へいけるだろう。だがギルドで金貨一枚稼ごうと思ったら、後5~6回依頼をクリアしなければいけない。それだと時間がかかる。……あんた早く壁の傍へ行きたいんだろう?」

勝ち誇ったようにニヤリと笑う彼の姿に、私はグッと拳を握りしめた。

「……金貨一枚の仕事はないの」

「最近でかい仕事がない。まぁ、お前が粗方こなしてしまったからな。だからあの男はちょうどいいカモだ。あんたは知らないだろうが、あの男は有名な貴族の息子。金はいくらでも持っている……おあつらえ向きだ」

うぅ……金貨一枚で目標の金額が貯まって、貯まればすぐに壁に向かう事が出来る……。
カミールの言う通り最近大きな仕事がないのであれば、金貨一枚を稼ぐには、後数回は依頼をこなさなければいけないだろう。
でも一番の懸念材料なのは、戦った事で……こういった申し出が増える事。
あぁ……でもさっさとこの街を離れられれば問題ないか……。
はぁ……ここは腹をくくって頑張るほうがよさそうね……。
私は不承不承で体を起こすと、カミールの手を振り払う。
そのまま不貞腐れた様子を浮かべたままに彼の隣へ並ぶと、私は静かに魔力の流れを確認しながら足を進めて行った。
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