224 / 358
第五章
新章1:名の売れた魔法使い
しおりを挟む
翌朝、いつものように目を覚ますと、私は出かける準備を進めていた。
何か夢を見ていたような気もするけれど……起きた時にはきれいさっぱり忘れ、思い出すことが出来ない。
でも胸の奥底に懐かしいような……何とも言えない気持ちが渦巻く中、私は魔法で体を洗い流すと、スヤスヤと寝息をたてるシナンを横目に、ローブに袖を通し服を整えていく。
そうして眠る彼の傍へと赴き優しく髪を撫でると、私は静かに部屋を後にした。
そのままカミールと家を出ると、会話もないままに、歩きなれた道を進んでいく。
彼の背を追いかけながらにギルドへ向かうと、いつものように彼は私をおいてドームの中へと消えて行った。
彼の背を見送り、朝焼けを眺めながらぼうっとカミールを待っていると、ふと三人に男たちが私の方へと近づいて来るのが目に映る。
私を見つめながらに男達は口を開くと、彼らの会話が耳に届いた。
「あの女が噂のカミールのパートナーか?」
「おいおい、冗談だろう!こんな華奢な女が、あんな高ランクな仕事クリアできるはずがねぇ」
「いや、だが……さっきカミールと一緒に居ましたよ。それに噂通り珍しい漆黒の瞳ですしね」
はぁ……これ私の事ね……一体何なのよ……。
その声に顔を上げてみると、ガタイの良い体に腰には剣が見え、冒険者風の服装をした男が左右に二人。
その中央には、細身で騎士の様な格好をし……清潔感がある男性が私を見つめていた。
真ん中の男は雰囲気からして、貴族だろうと当たりを付ける。
明らかに私に用があるのだろう彼らの様子に、私はそっと視線を落とすと、自然とため息が零れ落ちた。
大きくなる足音が耳に届く中、私の様子を覗う様に近づいて来ると、ガヤガヤと話し声が煩く響く。
はぁ……カミール、早く戻って来てくれないかしら……。
益々近づいてくる足音に、私は彼らから離れるように体を動かすと……貴族風の男が私を覗き込むように目の前へ立ちはだかった。
「あんたがカミールの相棒だな。……俺と勝負しろ」
勝負?一体全体どいうことなの……?
どうして私が勝負を申し込まれているの……?
「えっ、どうして私があなたと戦わなければいけないのかしら……?」
「そんなものきまっている。あんたが強いと有名だからだ!」
有名……。
その言葉にピンッとくると、私は慌てて口を閉ざした。
そういえば、あの子供服店でも言われたわね……。
どうも私の知らない間に、私という存在が有名になっているようだ。
なら手っ取り早く名を上げる為に、女で倒しやすそうとの理由で選ばれた……?
とても迷惑な話ね……。
私はあからさまに深いため息をつくと、男に向かって軽く首を横に振った。
「なんだ、逃げるのか?」
「ははっ、弱そうですし怖いんじゃないですかね?やはり噂は噂という事ですかね」
脇に並ぶ男二人が挑発してくる中、私は壮大なため息をつくと、手に魔力を集めていく。
鬱陶しいわね……。
引く気はないようだし、魔法でさっさと逃げちゃいましょう。
ギャンギャンと吠えてくる男達を横目に魔力を込めていると、彼らの後方にカミールの姿が目に映る。
その姿に私は魔力の流れを遮断し、軽く手を挙げると、彼はなぜか不敵な笑みを浮かべていた。
「何だ、俺がいない間に決闘を申し込まれたのか?ほう……こいつは……。なぁ~あんた、俺と賭けをしないか?その女と戦いたいんだろう?今のままじゃ逃げられぜ。その女、逃げるのはうまいからな~。そこでだ、俺が戦う様にそいつを説得してやるよ。だから戦う報酬として、こいつがが勝てば金貨一枚。あんたが勝てば、一気に名を売れる。……どうだ?」
「ちょっと、勝手に何を言ってるのよ!!」
カミールの信じられない提案に、私は慌てて止めに入るが……貴族風の男はニヤリと口角を上げると、カミールの前に金貨一枚を差し出した。
「いいだろう、俺は必ず勝つ。吠え面をかかせてやるよ」
「威勢がいいなぁ。まぁ、賭けはこれで成立だ。場所は……ギルドの闘技場でどうだ?」
私の言葉は届くことがないまま、どんどん話が進んでいく。
カミールの言葉に男が深く頷くと、私は頬を引き攣らせながらに、ゆっくりと後退していった。
えっ、えっ……ちょっと戦うなんて、何かの冗談でしょう?
信じられない思いでカミールを見上げると、彼は楽しそうな笑みを浮かべていた。
ここ数週間一緒に過ごしていたからこそわかる……あの目……本気だわ。
今のうちに逃げましょう……。
私は慌ててその場から逃げ出そうとするが……カミールの腕が素早く私を捕える。
そのまま首根っこを掴まれると、私はズルズルと引っ張られていった。
「ちょっ、カミール離して!もう、私は戦わないわよ!」
「まぁとりあえず話を聞け。この金貨で目標の金額が貯まる。そうなればすぐに壁の傍へいけるだろう。だがギルドで金貨一枚稼ごうと思ったら、後5~6回依頼をクリアしなければいけない。それだと時間がかかる。……あんた早く壁の傍へ行きたいんだろう?」
勝ち誇ったようにニヤリと笑う彼の姿に、私はグッと拳を握りしめた。
「……金貨一枚の仕事はないの」
「最近でかい仕事がない。まぁ、お前が粗方こなしてしまったからな。だからあの男はちょうどいいカモだ。あんたは知らないだろうが、あの男は有名な貴族の息子。金はいくらでも持っている……おあつらえ向きだ」
うぅ……金貨一枚で目標の金額が貯まって、貯まればすぐに壁に向かう事が出来る……。
カミールの言う通り最近大きな仕事がないのであれば、金貨一枚を稼ぐには、後数回は依頼をこなさなければいけないだろう。
でも一番の懸念材料なのは、戦った事で……こういった申し出が増える事。
あぁ……でもさっさとこの街を離れられれば問題ないか……。
はぁ……ここは腹をくくって頑張るほうがよさそうね……。
私は不承不承で体を起こすと、カミールの手を振り払う。
そのまま不貞腐れた様子を浮かべたままに彼の隣へ並ぶと、私は静かに魔力の流れを確認しながら足を進めて行った。
何か夢を見ていたような気もするけれど……起きた時にはきれいさっぱり忘れ、思い出すことが出来ない。
でも胸の奥底に懐かしいような……何とも言えない気持ちが渦巻く中、私は魔法で体を洗い流すと、スヤスヤと寝息をたてるシナンを横目に、ローブに袖を通し服を整えていく。
そうして眠る彼の傍へと赴き優しく髪を撫でると、私は静かに部屋を後にした。
そのままカミールと家を出ると、会話もないままに、歩きなれた道を進んでいく。
彼の背を追いかけながらにギルドへ向かうと、いつものように彼は私をおいてドームの中へと消えて行った。
彼の背を見送り、朝焼けを眺めながらぼうっとカミールを待っていると、ふと三人に男たちが私の方へと近づいて来るのが目に映る。
私を見つめながらに男達は口を開くと、彼らの会話が耳に届いた。
「あの女が噂のカミールのパートナーか?」
「おいおい、冗談だろう!こんな華奢な女が、あんな高ランクな仕事クリアできるはずがねぇ」
「いや、だが……さっきカミールと一緒に居ましたよ。それに噂通り珍しい漆黒の瞳ですしね」
はぁ……これ私の事ね……一体何なのよ……。
その声に顔を上げてみると、ガタイの良い体に腰には剣が見え、冒険者風の服装をした男が左右に二人。
その中央には、細身で騎士の様な格好をし……清潔感がある男性が私を見つめていた。
真ん中の男は雰囲気からして、貴族だろうと当たりを付ける。
明らかに私に用があるのだろう彼らの様子に、私はそっと視線を落とすと、自然とため息が零れ落ちた。
大きくなる足音が耳に届く中、私の様子を覗う様に近づいて来ると、ガヤガヤと話し声が煩く響く。
はぁ……カミール、早く戻って来てくれないかしら……。
益々近づいてくる足音に、私は彼らから離れるように体を動かすと……貴族風の男が私を覗き込むように目の前へ立ちはだかった。
「あんたがカミールの相棒だな。……俺と勝負しろ」
勝負?一体全体どいうことなの……?
どうして私が勝負を申し込まれているの……?
「えっ、どうして私があなたと戦わなければいけないのかしら……?」
「そんなものきまっている。あんたが強いと有名だからだ!」
有名……。
その言葉にピンッとくると、私は慌てて口を閉ざした。
そういえば、あの子供服店でも言われたわね……。
どうも私の知らない間に、私という存在が有名になっているようだ。
なら手っ取り早く名を上げる為に、女で倒しやすそうとの理由で選ばれた……?
とても迷惑な話ね……。
私はあからさまに深いため息をつくと、男に向かって軽く首を横に振った。
「なんだ、逃げるのか?」
「ははっ、弱そうですし怖いんじゃないですかね?やはり噂は噂という事ですかね」
脇に並ぶ男二人が挑発してくる中、私は壮大なため息をつくと、手に魔力を集めていく。
鬱陶しいわね……。
引く気はないようだし、魔法でさっさと逃げちゃいましょう。
ギャンギャンと吠えてくる男達を横目に魔力を込めていると、彼らの後方にカミールの姿が目に映る。
その姿に私は魔力の流れを遮断し、軽く手を挙げると、彼はなぜか不敵な笑みを浮かべていた。
「何だ、俺がいない間に決闘を申し込まれたのか?ほう……こいつは……。なぁ~あんた、俺と賭けをしないか?その女と戦いたいんだろう?今のままじゃ逃げられぜ。その女、逃げるのはうまいからな~。そこでだ、俺が戦う様にそいつを説得してやるよ。だから戦う報酬として、こいつがが勝てば金貨一枚。あんたが勝てば、一気に名を売れる。……どうだ?」
「ちょっと、勝手に何を言ってるのよ!!」
カミールの信じられない提案に、私は慌てて止めに入るが……貴族風の男はニヤリと口角を上げると、カミールの前に金貨一枚を差し出した。
「いいだろう、俺は必ず勝つ。吠え面をかかせてやるよ」
「威勢がいいなぁ。まぁ、賭けはこれで成立だ。場所は……ギルドの闘技場でどうだ?」
私の言葉は届くことがないまま、どんどん話が進んでいく。
カミールの言葉に男が深く頷くと、私は頬を引き攣らせながらに、ゆっくりと後退していった。
えっ、えっ……ちょっと戦うなんて、何かの冗談でしょう?
信じられない思いでカミールを見上げると、彼は楽しそうな笑みを浮かべていた。
ここ数週間一緒に過ごしていたからこそわかる……あの目……本気だわ。
今のうちに逃げましょう……。
私は慌ててその場から逃げ出そうとするが……カミールの腕が素早く私を捕える。
そのまま首根っこを掴まれると、私はズルズルと引っ張られていった。
「ちょっ、カミール離して!もう、私は戦わないわよ!」
「まぁとりあえず話を聞け。この金貨で目標の金額が貯まる。そうなればすぐに壁の傍へいけるだろう。だがギルドで金貨一枚稼ごうと思ったら、後5~6回依頼をクリアしなければいけない。それだと時間がかかる。……あんた早く壁の傍へ行きたいんだろう?」
勝ち誇ったようにニヤリと笑う彼の姿に、私はグッと拳を握りしめた。
「……金貨一枚の仕事はないの」
「最近でかい仕事がない。まぁ、お前が粗方こなしてしまったからな。だからあの男はちょうどいいカモだ。あんたは知らないだろうが、あの男は有名な貴族の息子。金はいくらでも持っている……おあつらえ向きだ」
うぅ……金貨一枚で目標の金額が貯まって、貯まればすぐに壁に向かう事が出来る……。
カミールの言う通り最近大きな仕事がないのであれば、金貨一枚を稼ぐには、後数回は依頼をこなさなければいけないだろう。
でも一番の懸念材料なのは、戦った事で……こういった申し出が増える事。
あぁ……でもさっさとこの街を離れられれば問題ないか……。
はぁ……ここは腹をくくって頑張るほうがよさそうね……。
私は不承不承で体を起こすと、カミールの手を振り払う。
そのまま不貞腐れた様子を浮かべたままに彼の隣へ並ぶと、私は静かに魔力の流れを確認しながら足を進めて行った。
0
お気に入りに追加
2,462
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる