[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章9:ランギの街で

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額から汗が流れ落ちていく中、エヴァンはそっと体を起こすと、水魔法で私を包み込んでいく。
私も手に魔力を集めようとするが……なぜだが魔力を感じられない。
不思議に思いながらじっと手の平を見つめていると、エヴァンが小さく口角をあげた。

「あなたは魔法を使えませんよ。あなたの本体はベッドの上ですからね。私は体ごとあなたの夢の中へ入り込んでいるので、魔法が使えるのです」

「えっ、でも……あっ、その……感覚は夢とは思えないほど……とてもリアルだったわよ……」

私は顔を真っ赤にしながらそう呟くと、エヴァンは風魔法で水を吹き飛ばしながらに、私へローブを着させていく。
すると彼は笑みを深めたかと思うと、私の耳元でそっと囁いた。

「ふふっ、そんなに気持ちよかったのですか?……あなた自身が、望んでいたからではないですか?こうやって私に触れられるのを……。ここはあなたの夢の中ですしね。クスクスッ」

「へぇっ!?そっ、そんなことないわ!!……もう!違うわよ!!」

必死に否定する私の様子に、エヴァンは肩を揺らして笑うと、冗談ですよと私の頭を優しく撫でた。
そんな彼の態度に頬を膨らませながらに不貞腐れていると、エヴァンは突然に笑みを消し、真剣な表情を浮かべてみせる。
その様子に私はじっと見つめ返していると、彼は深く息を吸い込んだ。

「ところで……、あなたはまだ……師匠、……ターキィーミ師匠を想い続けているのですか?」

その言葉に私はゴクリと唾を飲み込むと、ゆらゆらと静かに揺れるエメラルド瞳と視線が絡む。
先ほどまでの瞳とは違う、どこか寂しそうな色を浮かべる姿に、なぜか胸が小さく音を立てた。

「私は……」

私はタクミを好き。
そう声に出そうとするが、なぜか言葉が続くない。
胸の奥からもやもやとした感情がこみ上げてくると、私はそっと唇を閉じた。
本当に……?
だってエヴァンに抱かれている時私は……。

私はそっと瞳を閉じ、心の中を見つめ返すと、タクミの姿を思い描く。
短髪ブロンドヘヤーに、澄んだターコイズの瞳……。
タクミの愛しい笑みが目の前にチラつくが……それはすぐに消え去ってしまう。
まだ好きだと……そう思っていたはずなのに、もうタクミの声も、タクミの匂いも、タクミの熱も……思い出すことが出来ない。
それほどまでに彼と離れ、時間がたってしまった。
向こうの世界に居る時は、いつか戻ってくるそう信じて待っていた、だからこそ忘れる事なんて出来なかった。
でもこの世界でタクミがもういないのだと分かって……。
私の心は……タクミへの想いは……。

そう自問自答する中、考えれば考えるほどに、自分の事がわからない。
タクミを想うと……やっぱり愛おしいと気持ちが生まれる反面……どこか吹っ切れている自分も存在する。
彼と私を繋ぐリングがなくなって、私は彼を思い出すことも減ってしまった。
正直……今の私が彼と繋がっているものは、私の過去の記憶しかない。
だって彼は……私に出会っていないのだから。
正しい世界にいた彼は、私の事を知らないのだから……。

寂しさが胸に込みあがてくるが、以前感じていた苦しい気持ちは薄れている。
彼に会いたい、彼の事を考えるといつも感じていた痛み。
それが今は……。
だから……私ははっきりと言葉にできなくなったのかしら?
私は、私はタクミの事が好きだった……。
そう思うと、どこかしっくりと胸の奥へと落ちていった。

そっと瞼を持ち上げてみると、目の前には悲しそうな表情を浮かべたエヴァンの姿が映る。
私の言葉を待つようにじっと見つめ続ける彼の様子を眺める中、ふと視界が大きくブレた。

「……っっ、あれ、何、これ……?」

揺れはさらにひどくなり、エヴァンの姿が歪み始めると、覚えのある嘔吐感がこみ上げてくる。
これ……さっきも感じた……。

「うん、おかしいですね……。まだ起きるには早すぎる。……なら誰かがあなたを起こそうとしているのでしょうか。……あなたは誰と一緒に居るのですか?まさか……誰かと一緒に眠っているのですか?」

エヴァンはスッと目を細めると、不機嫌な表情を浮かべながらに顔を近づけてきた。
しかしあまりの不快感に意識が朦朧としてくる中、私は答えることが出来ない。
息が絶え絶えになり、私はそのままエヴァンの胸の中へ倒れ込むと、荒く息を繰り返す。
そんな中、頭上から大きなため息が聞こえると、彼の腕が私の体を支えた。

「はぁ……今日はここまでのようですね。またすぐに……と言いたいところですが、この魔法を連続して使う事は出来ません。また使えるようになったら会いに来ます。もし……あなたが別の男と居るのでしたら、覚悟してくださいね。私はあなたを誰にも渡すつもりはないので……」

エヴァンの不敵な笑みが一瞬視界に映ると、私の意識がゆっくりと遠のいていく。
目の前が真っ暗な闇に染まっていく中、体がどこかへ強く引き寄せられると、私は眠るようにどこかへと落ちていった。




*******お知らせ*******
新章:ランギの街で はここでまでとなります。
次回閑話:シナン頁後、新章へと移ります。
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