[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章12:異世界は突然に

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そうしてシナンと手を繋ぎながらに森の外へ抜けると、そこには私たちが連れてこられた馬車が置かれていた。
先ほど見た時にはなかった茶馬が二頭馬車に繋がれ、その傍にはよく手入れされた美しい黒馬が、大きな幹へとつながれている。
あのカミールって人は、この黒馬で来たのかしら……。
美しい黒い毛並みに見惚れる中、馬車の向こう側には子供たちが体を丸めながらに一か所に集まっていた。
シナンは子供たちの姿にフードを被りなおすと、頭を垂れながらに私から手を離す。
そんな彼の姿に私は離れた手を捕まえると、笑みを浮かべ並びながらに、子供たちのもとへと足を進めて行った。

「お姉様!!!」

甲高い声が上がり、少女が走り寄ってくると、泣きそうな表情をしながに私へと抱きついた。
しかし隣に佇んでいたシナン気が付くと……ヒィッ!!と小さく悲鳴を上げながらに、少女はガタガタと体を震わせ一歩後ずさった。
その様子にシナンは握りしめていた手を強く振り払うと、私から慌てた様子で体を離す。
待って!!……そう引き留めようと手を伸ばすが……彼は素早い動きで私に背を向けると、森の方へと走り去っていった。
去っていくシナンの背中を眺める中、私は深いため息をつくと、少女は恐る恐るといったようすで私の袖を握りしめる。
はぁ、人間と獣人との溝は中々深そうね……。

「お姉様ごめんなさい……私……何も出来なくて……」

シナンが居なくなり、少女は私の胸に顔を摺り寄せると、震える声でそう呟いた。

「いいのよ、気にしないで。それよりもあなた達が無事でよかったわ。戻るのが遅くなってごめんなさいね」

そうニッコリ笑みを浮かべると、子供たちがワラワラと私の傍へと集まってくる。
皆不安だったのだろう……目を真っ赤に腫らしながら私へしがみつくと、子供たちの泣き声があたりに響き渡った。
一人一人子供たちをあやしていると、不安が解消され疲れたのだろう……皆コクコクと船を嗅ぎ始める。
私は眠気眼の子供たちを馬車へと誘っていくと、魔法で風を起こし、子供たちを温かい風で包み込んでいった。

子供たちが寝静まり、辺りにまた虫の声が響き始めると、シナンが恐る恐るといった様子で太い幹の影から、顔を出した。
キョロキョロと辺りを見渡し子供たちが居ないことを確認すると、シナンは私の傍へテクテクと歩いてくる。
その姿が愛らしく身もだえしていると、シナンは私の前に立ち止り、震えながらに手を差し出した。
差し出されたその手をギュッと握りしめてみると、彼は尻尾を振りながら、ニッコリと笑みを浮かべ、私を見上げてみせる。

かっ、かっ……可愛い!!!!
あまりの可愛さに頬の筋肉が緩み、つられるように笑みを浮かべると、私はシナンの視線へ合わせるようにしゃがみ込んだ。

「シナンも眠い?子供達と一緒に眠るのが怖いのなら、抱っこしてあげましょうか?」

するとシナンはパッと顔を上げると、いいの!?と恥ずかしそうにモジモジと顔を伏せる。
その姿に両手を差し出してみると、シナンは小さな腕を開き、私へと体を寄せた。
甘えるその姿に、暴走する脳内を必死に抑え込むと、私はシナンの体を優しく抱き上げる。
ずっしりとした重さを腕に感じる中、優しく背中をさすりながらに体を揺らせていると、次第に深い寝息が耳に届く。
私の肩に顔を埋め眠る姿にそのまま馬車へと向かうと、風魔法で包みながらそっと床へと下していく。
起きた時に驚かない様、子供達から少し離すと、私は馬車の扉を静かに閉めた。

子供たちが眠りにつく中、私は何気なく黒馬の近くへ寄ってみると、馬は澄んだ瞳を浮かべながらにこちらへ顔を向けた。
そのまま恐る恐る近づいてみると、馬は大人しく暴れる様子はない。
大きな体の傍へ佇み、そっと背中へ触れてみると、長い尻尾がユラユラと揺れた。
肌寒い風が森の中へ吹き抜ける中、漆黒の長い鬣がそよ風で流れていく。
わぁ……サラサラの毛並み。
馬なんて初めて触ったけれど、とっても綺麗だわ……。

月明かりに照らされ、キラキラと輝く毛並みを呆然と眺めていると、ふとエヴァンの姿が頭を掠めた。
そうだわ……。
魔法が知られていない……イコールここが城から遠い場所だとすると……エヴァンは私が戻った事に気が付いていないかもしれない。
でも召喚されたあの街がどこにあるのかわからない現状……すぐにあの城へ戻る事が出来ないわ。
ならとりあえず先にエヴァンに、私は無事だという事を知らせないと……。
そう思い立ち私は黒馬から離れると、月が良く見える場所へと移動していく。

馬車から少し離れた場所で立ち止まると、私は囁くようにキィペペオと呟いた。
すると黒い蝶が浮かび上がり、私の肩へと下りてくると、バルァと蝶へ囁く。
蝶は私の声に、パタパタと口元へ羽ばたいてくると、私はエヴァンへの言葉を紡いでいった。

あなたの元へ戻ったら、ちゃんと約束を果たすわ。
じゃぁ、またね。


そう締めくくりエヴァンの姿を鮮明に頭の中で描きながらに羽を閉じる。

「エヴァン」

彼の名前を声に出すと、黒蝶がヒラヒラと夜空へと羽ばたいていく。
私は蝶を追う様に視線を上げると、黒蝶は満月に浮かぶ影のように月へと吸い込まれていく。
そんな金色の光の影になった蝶のシルエットをじっと眺めていると、眩い光の中に蝶が溶けていった。

「今のは……なんだ?」

突然の声に私はサッと振り返ると、視線の先には訝し気な表情を浮かべたカミールの姿があった。
服には返り血だろうか……血のような跡が点々と付着している。

「今のは……魔法で作った伝書蝶と言うものよ。送りたい人の名前と顔をイメージすれば、その人の元へ声を届けてくれるの」

「ほう……魔法ってやつは、本当に便利だな」

カミールは徐に天を仰ぐと、彼の彫刻のように美しい容姿がはっきりと浮かび上がる。
思わずその姿に見惚れていると、彼は私の視線に気が付いたのか……ジロジロ見るなと嫌そうに表情を浮かべた。
私は慌てて目を反らせると、彼は無言で馬車の方へと歩き始める。
その背を急いで追っていく中、カミールは幹につないであった紐を解くと、黒馬へと跨った。

「お前は馬車を操縦しろ。俺が道案内をする」

「えっ、ちょっと……馬車なんて運転したことないわ」

「はぁ……使えない女だな。魔法で何とか出来るんじゃないのか?俺は愛馬で下る。お前が操縦しないとガキ共が街へ戻れないだけだ」

冷たく放たれた言葉に私は口を噤むと、徐に馬車へと顔を向ける。
操縦って……どうするのよ。
馬なんて一度も扱った事がないわ。
はぁ……でもこの様子じゃ本当に放っていきそうよね……。
仕方がないわね……何とかするしかない。
馬が歩くイメージは画面越しに見たことがあるし……やるしかない。

馬車の前に二頭いる馬へ魔力を流し込むと、馬が歩くイメージを鮮明にしていく。
徐々に魔力量を増やしながら微調整していると、ようやく馬がゆっくりと歩き始めた。
その姿に私は急いで運転席へと飛び乗ると、前に立つ黒馬へ顔を向ける。
感心した表情を浮かべるカミールと視線が絡むと、私はどや顔で彼を睨みつけた。
するとカミールは口角を上げ小さく笑うと、馬の手綱を引っ張ると向きを変え、山道を進んでいった。





**********お知らせ***********

ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
また拙い文章で申し訳ございません。
新章:異世界は突然に これにて完結となります。
次回より《新章:旅の頁》となり、カミール、シナンがメインの話となりますが……ちゃんとアーサー、ネイト、ブレイク、レックス……そしてエヴァンも登場しますので、お楽しみ頂けると幸いです。
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