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第四章
時空の狭間で:前編
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粛然たる世界で、私は夢を見ていた。
懐かしい小さなアパートで、私は彼と一緒に夕食を食べていた。
笑顔が溢れ、他愛のない会話を交わしている中……ふと顔を上げると、彼の姿はどこにもなかった。
必死に彼を探す中、突然に体がどこかへ引き寄せられると、真っ白な城が目の前に広がっていく。
それはまるで映画のフィルムのように流れ始めると、私はその様子を只々じっと眺めていた。
そうして次々にフィルムが切り替わっていく中、その世界に私の姿はどこにもない。
タクミ、セーフィロ、アーサー、ブレイク、レックス、ネイト……エヴァンの姿。
皆私の居ない世界で笑みを浮かべていた。
私はこうなることを望んでいた……そう自分を納得させようとするが、自分の奥深くに眠っていた何かが、こみ上げてくる。
その場所に……彼らがいる場所へ私もいきたい。
一緒に笑って、一緒に過ごして、そして……新たな人生を歩みたい。
私もそこに並びたかった……。
そう心が叫ぶ中、フィルムが終わってしまったのだろうか……彼らの姿が消えると、また暗闇に囚われる。
私は悄然のままに、深い深い夢の世界へ浸っていると……突然に人影が大きく映し出された。
(一緒に帰ると……約束したではないですか!!!)
頭に響いた彼の悲痛な声にハッと目を覚ますと、そこは暗闇の世界だった。
目を開けているのかさえも疑わしいほどの深い闇。
あれ……今何か夢を見ていたような……。
何とも言えない気持ちになる中、先ほどの夢を必死に思い出そうと試みるが……どんどん抜け落ちていく。
そうして次第に意識がはっきりしてくると、微かな光すらもない世界で、徐々に思考に囚われ始めた。
(あんたにはまだ生き返るチャンスがある)
そう変な希望を持たされたばかりに……嫌に胸が騒ぐ。
私は真実を知った時に、ちゃんと覚悟をしたはずなのに。
この世界から消えると、もう戻れないのだと……。
タクミは私と出会う事がないという事実に。
私は大きく息を吸い込むと、心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返していた。
希望は持つと言う事は恐ろしい。
一人だと尚更に。
もしかしたら生き返られるのかもしれない。
でももしかしたら生き返らないのかもしれない。
私には何もわからない。
ただここ待つことしか出来ないのだから……。
この事実は私に希望、期待、望みを与えると同時に、死ぬことに対する不安、恐怖、そして彼らに会えなくなる悲しみ。
それら全てが私に襲いかかる。
何もない世界がさらにそれを増幅していくと、私は膝を抱えるように座り込んだ。
もどかしい思いが渦巻く中、私は生き返る事なんて出来ないのだと自分を言い聞かせてみるが……一度希望を持った心は、感嘆にはいうことを聞いてはくれない。
そう……宝くじと同じだ。
当たらないと分かっていて購入しても、どこかで少しは当たるかもしれないと期待する。
期待すれば……はずれた時に少なからず絶望を味わうのだ。
それは期待が大きければ大きいほど……絶望も大きくなる。
こんな気持ちになるのが嫌で、私は宝くじなんて一度も買った事はなかった。
はぁ……こんな気持ちになるのなら、希望なんていらなかったわ……。
さっさと死後の世界へ送ってほしかった。
私は大きなため息を吐き、頼りなく体を動かしてみると、布のこすれる音が耳に届く。
まだ私はここにいるのね……。
世界は何も変わらない、私は何もすることも出来ない。
そっと左手の薬指へ手を伸ばしてみると、指先に硬く冷たいリングの感触を感じた。
まだタクミから貰ったリングは消えていない。
正しい世界では、私が貰えるはずのないリング。
それにしても……私は一体いつまでここに居なければいけないのかしら……?
何の音も聞こえない、何も見えない世界は一向に変わることはない。
どれほどの時間、ここにとどまっているのかはわからないけれど、未だに何も起こらないのよね……。
あぁ、もう……期待なんてしたくないのに……。
苛立ちをぶつけるように髪をクシャクシャにかくと、自然ため息が漏れる。
私は大きく息を吸い込みながらそっと目を閉じると、苛立ちを振り払うように、スマホの画面に映し出された彼らの姿を脳裏に描いていった。
みんな本当に幸せそうに笑っていたわ。
それで十分じゃない、これ以上望む事なんてないのよ。
勝手にでしゃばっちゃったけれど、あの笑顔を見れたんだから、頑張ってよかった。
そう何度も繰り返すと、次第に苛立ちが治まり、自然に頬が緩んでいく。
すると……穏やかで、少し物悲しい気持ちが心を満たしていった。
しかしそれもつかの間……期待がまた顔をだすと、彼らの笑みの傍に自分の姿が投影される。
笑顔の彼の隣で……一緒に笑う自分の姿。
私は慌ててそれを振り払うと、彼らの姿が消えまた暗闇に飲み込まれ、無の世界が私を包み込んだ。
はぁ……私の事は誰も覚えていない。
だってあの世界に、私は存在しないのだから。
だから……戻る事なんて出来ないのよ……。
あぁもう、色々考えすぎるのがいけないのよね。
そうだわ……時間がくるまで、眠っておきましょう……。
眠れば、もう何も考えなくてすむもの……。
私はそっと瞳を閉じると、心を無にしていく。
すると次第に眠気がやって来ると、私は抗うことなく、その場でウトウトと舟をこぎ始めた。
******お知らせ*******
第四章は181話で完結致します。
他の章と比べるとかなり短くなってしまいました……(*_*)
懐かしい小さなアパートで、私は彼と一緒に夕食を食べていた。
笑顔が溢れ、他愛のない会話を交わしている中……ふと顔を上げると、彼の姿はどこにもなかった。
必死に彼を探す中、突然に体がどこかへ引き寄せられると、真っ白な城が目の前に広がっていく。
それはまるで映画のフィルムのように流れ始めると、私はその様子を只々じっと眺めていた。
そうして次々にフィルムが切り替わっていく中、その世界に私の姿はどこにもない。
タクミ、セーフィロ、アーサー、ブレイク、レックス、ネイト……エヴァンの姿。
皆私の居ない世界で笑みを浮かべていた。
私はこうなることを望んでいた……そう自分を納得させようとするが、自分の奥深くに眠っていた何かが、こみ上げてくる。
その場所に……彼らがいる場所へ私もいきたい。
一緒に笑って、一緒に過ごして、そして……新たな人生を歩みたい。
私もそこに並びたかった……。
そう心が叫ぶ中、フィルムが終わってしまったのだろうか……彼らの姿が消えると、また暗闇に囚われる。
私は悄然のままに、深い深い夢の世界へ浸っていると……突然に人影が大きく映し出された。
(一緒に帰ると……約束したではないですか!!!)
頭に響いた彼の悲痛な声にハッと目を覚ますと、そこは暗闇の世界だった。
目を開けているのかさえも疑わしいほどの深い闇。
あれ……今何か夢を見ていたような……。
何とも言えない気持ちになる中、先ほどの夢を必死に思い出そうと試みるが……どんどん抜け落ちていく。
そうして次第に意識がはっきりしてくると、微かな光すらもない世界で、徐々に思考に囚われ始めた。
(あんたにはまだ生き返るチャンスがある)
そう変な希望を持たされたばかりに……嫌に胸が騒ぐ。
私は真実を知った時に、ちゃんと覚悟をしたはずなのに。
この世界から消えると、もう戻れないのだと……。
タクミは私と出会う事がないという事実に。
私は大きく息を吸い込むと、心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返していた。
希望は持つと言う事は恐ろしい。
一人だと尚更に。
もしかしたら生き返られるのかもしれない。
でももしかしたら生き返らないのかもしれない。
私には何もわからない。
ただここ待つことしか出来ないのだから……。
この事実は私に希望、期待、望みを与えると同時に、死ぬことに対する不安、恐怖、そして彼らに会えなくなる悲しみ。
それら全てが私に襲いかかる。
何もない世界がさらにそれを増幅していくと、私は膝を抱えるように座り込んだ。
もどかしい思いが渦巻く中、私は生き返る事なんて出来ないのだと自分を言い聞かせてみるが……一度希望を持った心は、感嘆にはいうことを聞いてはくれない。
そう……宝くじと同じだ。
当たらないと分かっていて購入しても、どこかで少しは当たるかもしれないと期待する。
期待すれば……はずれた時に少なからず絶望を味わうのだ。
それは期待が大きければ大きいほど……絶望も大きくなる。
こんな気持ちになるのが嫌で、私は宝くじなんて一度も買った事はなかった。
はぁ……こんな気持ちになるのなら、希望なんていらなかったわ……。
さっさと死後の世界へ送ってほしかった。
私は大きなため息を吐き、頼りなく体を動かしてみると、布のこすれる音が耳に届く。
まだ私はここにいるのね……。
世界は何も変わらない、私は何もすることも出来ない。
そっと左手の薬指へ手を伸ばしてみると、指先に硬く冷たいリングの感触を感じた。
まだタクミから貰ったリングは消えていない。
正しい世界では、私が貰えるはずのないリング。
それにしても……私は一体いつまでここに居なければいけないのかしら……?
何の音も聞こえない、何も見えない世界は一向に変わることはない。
どれほどの時間、ここにとどまっているのかはわからないけれど、未だに何も起こらないのよね……。
あぁ、もう……期待なんてしたくないのに……。
苛立ちをぶつけるように髪をクシャクシャにかくと、自然ため息が漏れる。
私は大きく息を吸い込みながらそっと目を閉じると、苛立ちを振り払うように、スマホの画面に映し出された彼らの姿を脳裏に描いていった。
みんな本当に幸せそうに笑っていたわ。
それで十分じゃない、これ以上望む事なんてないのよ。
勝手にでしゃばっちゃったけれど、あの笑顔を見れたんだから、頑張ってよかった。
そう何度も繰り返すと、次第に苛立ちが治まり、自然に頬が緩んでいく。
すると……穏やかで、少し物悲しい気持ちが心を満たしていった。
しかしそれもつかの間……期待がまた顔をだすと、彼らの笑みの傍に自分の姿が投影される。
笑顔の彼の隣で……一緒に笑う自分の姿。
私は慌ててそれを振り払うと、彼らの姿が消えまた暗闇に飲み込まれ、無の世界が私を包み込んだ。
はぁ……私の事は誰も覚えていない。
だってあの世界に、私は存在しないのだから。
だから……戻る事なんて出来ないのよ……。
あぁもう、色々考えすぎるのがいけないのよね。
そうだわ……時間がくるまで、眠っておきましょう……。
眠れば、もう何も考えなくてすむもの……。
私はそっと瞳を閉じると、心を無にしていく。
すると次第に眠気がやって来ると、私は抗うことなく、その場でウトウトと舟をこぎ始めた。
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第四章は181話で完結致します。
他の章と比べるとかなり短くなってしまいました……(*_*)
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