[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第四章

紅月

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あまりの豹変に思わず凍り付いていると、彼女は私の手を思いっ切りに振り払った。
すると窓から差し込む緋色の光で、彼女の顔がはっきりと映し出されていく。
……見目はステラのままだが……ブロンドの髪が橙色に染まり、纏う雰囲気が全くの別人だ。
どうなっているんだ……？
今目の前にいるのは……ステラではない……なら……。

「あなたは……こんなところで何をしているの……？」

突拍子もない言葉に唖然とする中、女は私の胸倉へ掴みかかると、鋭く睨みつけた。

「本当に何をしているのよ！！！時間がないのよ！！！早くっ、早く思い出しなさいよ！！！あなたの事を待っているのよ！！！彼女は……あなたの大事な人なんでしょ！！」

甲高い声が部屋に響き渡ると、彼女は胸倉を激しく揺さぶっていく。
視界が揺れ動く中、私は強引に彼女の腕を捕えると、恐る恐るに口を開いた。

「君は誰だ……？」

「はあっ！？そんな事どうでもいいのよ！！！それよりも、早くしないと！！彼女が消えてしまう！！あなたが、あなたが思い出さないと、彼女は戻って来ないのよ！！！こんなブス女を抱いてる場合じゃないわ！」

女はまた胸倉を強く揺さぶろうとする姿に、私は半ば強引に引き離した。

「いえ……ちょっと待ってください、一体何の話をしているのでしょうか？」

「あぁ、もう！！！あなたが忘れているあの子の事よ！！！ねぇ、思い出しかけているんでしょう？」

「まさか……あなたはあの女性を知っているのですか？それらば教えてほしい！私は……」

言葉を続くようとすると、彼女は今にも泣きそうに顔を歪めた。

「教えられるならすぐに話しているわよ！！！これはねエヴァン……あなた自身が思い出さなければ、意味がないの！！！だから早く思い出して！！！私とは違って……あなたと彼女にはたくさんの思い出があるのでしょう？彼女はね……あなたの名前を呟いていたわ。ごめんなさいと……、とても苦しそうだった……。だから早く彼女を救ってあげて。あなた以外救える人はいないのよ！最後まで彼女と共に居た……あなただけなの……」

私以外……救える人がいない？

女は声を殺しながらポロポロと涙をこぼすと、シーツを強く握りしめた。
その姿に私は顔を上げると、先ほどの彼女の言葉を頭の中で繰り返していく。

最後まで共にいた……やはり私は彼女と出会っているのですね。

なら私は何を忘れている？

どうして忘れてしまったのでしょうか？

とても大切な、誰よりも何よりも大事な……。

私は……私は……どうして思い出せないんだ！！！

「あぁぁぁぁぁ、あぁああああああああああああ！！！」

絶叫が木霊する中、次第に激しい頭痛が襲ってくると、グラリと視界が大きく揺らいだ。
咄嗟にベッドへ手をつき体を支えると、ブラウンの瞳が私を覗き込む。

「大丈夫……あなたなら絶対思い出せるはずよ。だってシルバーのリングを見つけたじゃない」

その言葉に私はそっとポケットへ手を忍ばせると、先日広場に落ちていたリングの感触を感じた。
すると冷たいシルバーの中に、どこか人肌のような温もりが微かに指先へ伝わってくる。
私はその温もりを感じる様に、ゆっくりと瞼を下すと、頭の中で必死に思い描いていった。

ブロンドの短い髪……いや、黒髪の……。
真っ白なワンピース……これも違う……青いローブだ。
それに彼女は師匠と同じ……ターコイズの瞳……いや、……黒い瞳。
浮かび上がる姿が次第に鮮明になっていくと彼・女・がこちらへ笑いかける。
しかし……それを許さないとばかりに、頭痛が更にひどくなっていった。
思い出せ……思い出せ……もう少し……もう少しなのです……。

彼女の姿が消えないよう強く瞳を閉じると、どこからか微かに声が聞こえてくる。
激しい頭痛に耐える中、私は必死に耳をそばだてると、声は次第に大きくなっていった。

(エ……ヴァン……、エヴァン……)

(全てが終わったら一緒に……)

(ごめんなさい……約束を守れなくて……)

(今までありがとう、……幸せに……)

(エヴァン……私の名前は……)

彼女の名前は……？
必死に声を拾うとするが、もう何も聞こえてこない。
暗闇の中、彼女の姿が大きくなっていく中、ふと耳元に吐息がかかった。

「……あの場所へ……向かって……あなたが最後に彼女と居た場所へ……早く……」

彼女の声に……脳裏によく知るあの広場がはっきりと浮かび上がる。
私は勢いよく目を開くと、ブロンド髪をしたステラが、ベッドの上に倒れ込んでいた。
スヤスヤと寝息を立てる彼女は……先ほどとは違い、本当のステラのようだ。
私は彼女をそのままにベッドから立ち上がると、窓に映る真っ赤に染まった月を見上げる。
周りに月暈が浮かび上がり、輝きを増していた。
その様子に私は移転魔法を展開すると……あの広場へと向かっていった。

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