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第四章
魔法室で
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喉につっかえたシコリは取れないままに、私はニッコリと彼女へ顔を向けると、大丈夫だと深く頷いて見せる。
そんな私の姿に、彼女はほっと胸をなでおろしたかと思うと、こちらを伺う様に口を開いた。
「あの……それで……エヴァン様のご都合はいかがでしょうか?」
上目づかいでそう問いかける彼女の姿に、私は言葉を詰まらせる。
この状況下の中、先ほどの彼女の話を全く聞いていなかったとは……口が裂けても言えないだろう。
彼女の質問から推測するに……。
都合と問いかけているのですから、どこかへ連れて行けと、そういった類でしょうか……。
シーンと部屋に沈黙が流れる中、私は口を閉ざし続けていると、後方から感じる威圧感がどんどん強くなっていった。
とりあえず断って、今すぐここから帰りたいのですが……いかせん…シモン殿が邪魔ですね……。
チラッと横目でシモンの姿を確認すると、目をスッと細めこちらをじっと見張っている。
はぁ……ここは肯定しておきましょうか…。
私は諦めたように顔を上げると、ピンク色に揺れる彼女の瞳を、ニッコリと見つめかえした。
「……えぇ、かまいませんよ」
「本当ですか!嬉しい!!!では明日から、宜しくお願い致しますわ!」
アシタカラオネガイシマス……?
本当に何のことだ。
狼狽する中、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべながらにシモンの傍へと駆け寄っていく。
その姿に思わず引き留めようとするが……彼女はシモンに嬉しそうに報告するや否や、応接室を出て行ってしまった。
そうして私とシモンが部屋に取り残され、何とも言えない沈黙が部屋を漂い始める。
これは、まずいですね……。
私は彼女を追いかけようと体を動かすと、シモンのあきれた声が耳に届いた。・
「エヴァン殿……上の空の様子だったが、まさか妹の話を聞いていなかったのか?」
シモンの声に私は恐る恐るに振り返ると、正直に深く頷いた。
すると部屋の空気が凍り、ピリピリとした感覚に顔が引きつっていく中、シモンはゆっくりとこちらへと近づいて来る。
「はぁ……どうして君なんだろうな。まぁ、いい。ステラは君に魔法を教えてもらいたいんだと。……彼女と約束したからには、明日必ず魔法室へ行くように。先に言っておくが、今回のように遅れることは許さないからな。後……君の仕事については、俺が引き受けよう。アーサー殿下には伝えておく」
淡々と話す彼に、ありがとうございますと深く頷いて見せると、彼は大きなため息をつきながら、静かに部屋を出て行った。
そうして翌日、言われた通りに魔法室へとやってくると、そこにはもうすでにステラの姿があった。
彼女は私が入室した事に気が付いていない様子で、紺色のローブを羽織、目を閉じたまま静かに魔力を練っている。
そんな彼女の姿に、何かがチラッと脳裏を掠めた。
すると不思議なことに…ステラの姿に…別の影がうっすらと浮かび上がる。
うん……あれは…何でしょうか…。
重なるそのシルエットに目凝らし、じっと観察していると、流動していた魔力が次第に収まっていく。
すると彼女はゆっくりと瞼を持ち上げると、淡い桃色の瞳がこちらへ向けられた。
その姿になぜか何とも言えない違和感を感じる中、彼女は恥ずかしそうな様子で、私へと笑みを浮かべてみせる。
「エヴァン様、来ていただけたのですね。本日は宜しくお願い致しますわ」
彼女は鮮麗された所作でスカートの裾を持ち上げると、可愛らしい笑みを浮かべ、私へと深く頭を下げた。
そんな彼女へ近づいていくと、私は彼女の肩へそっと手を添えた。
「そんなに畏まらないでください。私は平民で、あなたは貴族なのですから」
そう話すと、彼女はどこか寂しげな表情を浮かべながらに、そっと頭を垂れた。
「ところで、ステラお嬢様は、どうして魔法を学びたいのですか?」
彼女は私の声に顔をあげると、焦るような表情を浮かべてみせる。
「それは…あっ、そのっ、いっ……移転魔法を使えるようになりたくてですわ!」
彼女は早口で言い切ると、ピンク色の瞳を私へと向けた。
「移転魔法ですか?それでしたら……シモン殿の方が分かりやすいかもしれませんよ。彼は文官だけではなく、魔法知識も素晴らしいですからね」
そう説得してみると、彼女はプックリと頬を膨らませた。
「お兄様はダメですわ。私に甘すぎて、勉強にならないですもの。それに……私はエヴァン様に……キャッ!」
彼女は言葉をとめると、頬が徐々に赤く染まっていく。
そんな彼女の姿に笑みをひきつらせていると、バンッと大きな音と共に魔法室の扉が開いた。
「ステラ、調子はどうだ?きちんと魔法を学べているか?」
「お兄様!?……もう、邪魔しないで、まだ始まってもいないわ!!」
ステラは怒った様子でシモンへ振り返ると、ツカツカと扉へ向かっていく。
そんな彼女の様子に、待て待てとシモンは抵抗を見せるが……ステラは強引に彼の腕をとると、部屋の外へと連れ出していった。
突然のシモンの登場に呆然と二人の姿を眺めると、シモンは日頃私たちには見せないゆるい表情を浮かべている。
妹を溺愛しているとは聞いておりましたが……まさかこれほどとは……。
これは……もしステラ嬢を泣かすような事があれば、考えるだけで恐ろしいですね……。
私は二人のじゃれ合う姿から目を反らせると、頭を抱えながらに深く息を吐きだした。
そんな私の姿に、彼女はほっと胸をなでおろしたかと思うと、こちらを伺う様に口を開いた。
「あの……それで……エヴァン様のご都合はいかがでしょうか?」
上目づかいでそう問いかける彼女の姿に、私は言葉を詰まらせる。
この状況下の中、先ほどの彼女の話を全く聞いていなかったとは……口が裂けても言えないだろう。
彼女の質問から推測するに……。
都合と問いかけているのですから、どこかへ連れて行けと、そういった類でしょうか……。
シーンと部屋に沈黙が流れる中、私は口を閉ざし続けていると、後方から感じる威圧感がどんどん強くなっていった。
とりあえず断って、今すぐここから帰りたいのですが……いかせん…シモン殿が邪魔ですね……。
チラッと横目でシモンの姿を確認すると、目をスッと細めこちらをじっと見張っている。
はぁ……ここは肯定しておきましょうか…。
私は諦めたように顔を上げると、ピンク色に揺れる彼女の瞳を、ニッコリと見つめかえした。
「……えぇ、かまいませんよ」
「本当ですか!嬉しい!!!では明日から、宜しくお願い致しますわ!」
アシタカラオネガイシマス……?
本当に何のことだ。
狼狽する中、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべながらにシモンの傍へと駆け寄っていく。
その姿に思わず引き留めようとするが……彼女はシモンに嬉しそうに報告するや否や、応接室を出て行ってしまった。
そうして私とシモンが部屋に取り残され、何とも言えない沈黙が部屋を漂い始める。
これは、まずいですね……。
私は彼女を追いかけようと体を動かすと、シモンのあきれた声が耳に届いた。・
「エヴァン殿……上の空の様子だったが、まさか妹の話を聞いていなかったのか?」
シモンの声に私は恐る恐るに振り返ると、正直に深く頷いた。
すると部屋の空気が凍り、ピリピリとした感覚に顔が引きつっていく中、シモンはゆっくりとこちらへと近づいて来る。
「はぁ……どうして君なんだろうな。まぁ、いい。ステラは君に魔法を教えてもらいたいんだと。……彼女と約束したからには、明日必ず魔法室へ行くように。先に言っておくが、今回のように遅れることは許さないからな。後……君の仕事については、俺が引き受けよう。アーサー殿下には伝えておく」
淡々と話す彼に、ありがとうございますと深く頷いて見せると、彼は大きなため息をつきながら、静かに部屋を出て行った。
そうして翌日、言われた通りに魔法室へとやってくると、そこにはもうすでにステラの姿があった。
彼女は私が入室した事に気が付いていない様子で、紺色のローブを羽織、目を閉じたまま静かに魔力を練っている。
そんな彼女の姿に、何かがチラッと脳裏を掠めた。
すると不思議なことに…ステラの姿に…別の影がうっすらと浮かび上がる。
うん……あれは…何でしょうか…。
重なるそのシルエットに目凝らし、じっと観察していると、流動していた魔力が次第に収まっていく。
すると彼女はゆっくりと瞼を持ち上げると、淡い桃色の瞳がこちらへ向けられた。
その姿になぜか何とも言えない違和感を感じる中、彼女は恥ずかしそうな様子で、私へと笑みを浮かべてみせる。
「エヴァン様、来ていただけたのですね。本日は宜しくお願い致しますわ」
彼女は鮮麗された所作でスカートの裾を持ち上げると、可愛らしい笑みを浮かべ、私へと深く頭を下げた。
そんな彼女へ近づいていくと、私は彼女の肩へそっと手を添えた。
「そんなに畏まらないでください。私は平民で、あなたは貴族なのですから」
そう話すと、彼女はどこか寂しげな表情を浮かべながらに、そっと頭を垂れた。
「ところで、ステラお嬢様は、どうして魔法を学びたいのですか?」
彼女は私の声に顔をあげると、焦るような表情を浮かべてみせる。
「それは…あっ、そのっ、いっ……移転魔法を使えるようになりたくてですわ!」
彼女は早口で言い切ると、ピンク色の瞳を私へと向けた。
「移転魔法ですか?それでしたら……シモン殿の方が分かりやすいかもしれませんよ。彼は文官だけではなく、魔法知識も素晴らしいですからね」
そう説得してみると、彼女はプックリと頬を膨らませた。
「お兄様はダメですわ。私に甘すぎて、勉強にならないですもの。それに……私はエヴァン様に……キャッ!」
彼女は言葉をとめると、頬が徐々に赤く染まっていく。
そんな彼女の姿に笑みをひきつらせていると、バンッと大きな音と共に魔法室の扉が開いた。
「ステラ、調子はどうだ?きちんと魔法を学べているか?」
「お兄様!?……もう、邪魔しないで、まだ始まってもいないわ!!」
ステラは怒った様子でシモンへ振り返ると、ツカツカと扉へ向かっていく。
そんな彼女の様子に、待て待てとシモンは抵抗を見せるが……ステラは強引に彼の腕をとると、部屋の外へと連れ出していった。
突然のシモンの登場に呆然と二人の姿を眺めると、シモンは日頃私たちには見せないゆるい表情を浮かべている。
妹を溺愛しているとは聞いておりましたが……まさかこれほどとは……。
これは……もしステラ嬢を泣かすような事があれば、考えるだけで恐ろしいですね……。
私は二人のじゃれ合う姿から目を反らせると、頭を抱えながらに深く息を吐きだした。
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