154 / 358
第三章
記憶の欠片
しおりを挟む
エヴァンの移転魔法が起動し、視界が霞み始めると、街並みが消えていく。
そうして次第に露わになっていく風景は、木々が立ち並ぶ森の中だった。
先ほどまで聞こえていた川の音が消え、鳥や虫の鳴き声が耳に届く中、ふと空を見上げると日は傾き、藍色に染まっていた。
もうこんな時間……。
エヴァンは沈黙したままに、連れられるように森の中を進んで行くと、ポッカリと開けた空間に家が見える。
家の前へとやって来ると、ポツポツと星が浮かび上がり、もの悲しくなるような空をじっと眺めている中、ふと真っ赤な月が薄っすらと姿を現していた。
あの月……タクミの両親が居た場所で見た月と同じ……。
「月が……赤いわ……」
そう言葉をこぼすと、エヴァンも空を見上げ、ゆっくりと口を開いた。
「ほう……珍しいですねぇ。紅月があるという事は、今日は8月14日なんですね」
「えっ!?どうして日付がわかるの?」
エヴァンは私の問いかけに小さく笑うと、私の手をしっかり握りしめたままに、屋根に続く梯子を登り始める。
連れられるように屋根へと登ってみると、ポッカリと空いた空に真っ赤な月が大きく浮かび上がった。
「あの月は10年に一度……、8月14日に浮かび上がるのですよ。どうしてそうなるのか、理由は存じ上げませんが……まぁこの街では誰もが周知しております」
8月14日……。
ならタクミの両親が魔法を使った日付けも8月14日。
まさかこの月で日付がわかるなんて、驚きだわ。
でもこれで……時空移転魔法を使う事が出来る。
私は真っ赤な月をマジマジと見つめていると、もう一つの疑問が頭を掠める。
後は……。
「エヴァン、聞きたいことがあるの。この辺りで広い荒野を知らないかしら?」
「荒野ですか?……この街には無いと思いますが……。一体どうしたのですか?」
ない……、そんなはずは……。
だってあの時、真っ白な城が見えたもの。
水晶玉で見た風景を必死に頭の中で描いていると、エメラルドの瞳と視線が絡む。
「その場所はどこかで見たのですか?」
「えぇ……、本当に何もない荒野で……。私はそこに行かなければいけないの」
エヴァンの言葉に素直に頷くと、彼はそっと私の頬へ手を添えた。
「なら、記憶を見せてください。実際に見れば何かわかるかもしれません」
「記憶を見せる?」
彼の言葉に首をかしげると、彼は杖を取り出し、魔力を集め始めた。
「あなたの許可が必要になりますが、魔法で記憶を見ることが出来るんですよ。あなたが見せたい記憶を思い浮かべて下さい。さすれば私がそれを魔法で抜き取ります。あなたが許可しない記憶については、私には一切見ることができませんので、ご安心下さい」
わぁお……魔法ってそんなことまでできちゃうのね。
私はエヴァンの言葉に感嘆とした声を漏らしていると、彼の杖が小さく光始める。
「さぁ、思い浮かべて下さい」
エヴァンの囁きに私はそっと瞳を閉じると、水晶玉の世界で見た広い荒野を思い浮かべる。
あの時……後方に真っ白な城が見えて、空には赤い月が薄っすらと浮かび上がっていたわ。
そこに……ダメ……彼らの姿をエヴァンに見られるわけには行かないわ。
もしかしたら……タクミの両親と気が付いてしまうかもしれないもの。
私は二人の姿を消し、写真のようにその荒野を頭の中で思い描くと、そっと首を縦に動かした。
頬に触れる手から魔力を感じる中、徐々に彼の手が上っていくと、額へ指先がそっと触れた。
そのまま彼の指先が熱を帯びると、何かが頭から抜けていく不思議な感覚に思わず体が強張っていく。
糸状の物が私の中から全て引き抜かれると、何とも言えぬ不快感がようやく治まってきた。
私はそっと瞼を持ち上げてみると、何やら思案する表情を浮かべていたエヴァンの顔が目に映る。
「……どこかわかったのかしら?」
恐る恐るそう問いかけてみると、彼はどこか空を見つめながら徐に口を開いた。
「ここは……周りの様子からして、師匠の墓があった場所ですね。どうしてこんな荒れ果てた地になっているのかはわかりませんが、間違いないと思いますよ」
タクミのお墓がある場所って……エヴァンに連れて行ってもらったあの場所。
あそこに……あの歪みがあるのね!
時と場所がわかり、ようやく過去へ戻ることが出来るとわかると、嬉しさがこみ上げてくる。
「ありがとうエヴァン。これでようやく進むことが出来るわ!」
私はエヴァンの手を取りそうニッコリと笑みを浮かべると、なぜか彼の頬が赤く染まっていく。
「その笑顔は反則ですよ……」
「うん?どういう意味?」
よくわからない言葉に首をかしげていると、彼は何でもありませんと小さく息を吐きだした。
そのまま彼は私の手を引くと、質問に答える事無く、二人で家へと戻っていった。
*****ご報告とお礼******
イラストを作成して頂きました、玉子@様より許可を頂きましたので、ここに書かせて頂きます。
な・ん・と、アルファポリスにてこの作品を読んで頂いた読者の方がイラストを作成してくださいました!
とても美しいエヴァンを書いて頂き、感謝と感動でいっぱいです!
宜しければ皆様にも見て頂きたいと思いまして、ここにリンク先を置いておきます!
https://twitter.com/tamagokikaku/status/990474059187081216
(ここではタグが機能しないようなので、直接URLを記載させていただきました)
私自身……本当に絵心が皆無なので、自分の作品キャラがイラストになって胸がいっぱいです。
ツイッターにて書いてくださった 玉子@(@tamagokikaku)様、ここで改めてお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。
そうして次第に露わになっていく風景は、木々が立ち並ぶ森の中だった。
先ほどまで聞こえていた川の音が消え、鳥や虫の鳴き声が耳に届く中、ふと空を見上げると日は傾き、藍色に染まっていた。
もうこんな時間……。
エヴァンは沈黙したままに、連れられるように森の中を進んで行くと、ポッカリと開けた空間に家が見える。
家の前へとやって来ると、ポツポツと星が浮かび上がり、もの悲しくなるような空をじっと眺めている中、ふと真っ赤な月が薄っすらと姿を現していた。
あの月……タクミの両親が居た場所で見た月と同じ……。
「月が……赤いわ……」
そう言葉をこぼすと、エヴァンも空を見上げ、ゆっくりと口を開いた。
「ほう……珍しいですねぇ。紅月があるという事は、今日は8月14日なんですね」
「えっ!?どうして日付がわかるの?」
エヴァンは私の問いかけに小さく笑うと、私の手をしっかり握りしめたままに、屋根に続く梯子を登り始める。
連れられるように屋根へと登ってみると、ポッカリと空いた空に真っ赤な月が大きく浮かび上がった。
「あの月は10年に一度……、8月14日に浮かび上がるのですよ。どうしてそうなるのか、理由は存じ上げませんが……まぁこの街では誰もが周知しております」
8月14日……。
ならタクミの両親が魔法を使った日付けも8月14日。
まさかこの月で日付がわかるなんて、驚きだわ。
でもこれで……時空移転魔法を使う事が出来る。
私は真っ赤な月をマジマジと見つめていると、もう一つの疑問が頭を掠める。
後は……。
「エヴァン、聞きたいことがあるの。この辺りで広い荒野を知らないかしら?」
「荒野ですか?……この街には無いと思いますが……。一体どうしたのですか?」
ない……、そんなはずは……。
だってあの時、真っ白な城が見えたもの。
水晶玉で見た風景を必死に頭の中で描いていると、エメラルドの瞳と視線が絡む。
「その場所はどこかで見たのですか?」
「えぇ……、本当に何もない荒野で……。私はそこに行かなければいけないの」
エヴァンの言葉に素直に頷くと、彼はそっと私の頬へ手を添えた。
「なら、記憶を見せてください。実際に見れば何かわかるかもしれません」
「記憶を見せる?」
彼の言葉に首をかしげると、彼は杖を取り出し、魔力を集め始めた。
「あなたの許可が必要になりますが、魔法で記憶を見ることが出来るんですよ。あなたが見せたい記憶を思い浮かべて下さい。さすれば私がそれを魔法で抜き取ります。あなたが許可しない記憶については、私には一切見ることができませんので、ご安心下さい」
わぁお……魔法ってそんなことまでできちゃうのね。
私はエヴァンの言葉に感嘆とした声を漏らしていると、彼の杖が小さく光始める。
「さぁ、思い浮かべて下さい」
エヴァンの囁きに私はそっと瞳を閉じると、水晶玉の世界で見た広い荒野を思い浮かべる。
あの時……後方に真っ白な城が見えて、空には赤い月が薄っすらと浮かび上がっていたわ。
そこに……ダメ……彼らの姿をエヴァンに見られるわけには行かないわ。
もしかしたら……タクミの両親と気が付いてしまうかもしれないもの。
私は二人の姿を消し、写真のようにその荒野を頭の中で思い描くと、そっと首を縦に動かした。
頬に触れる手から魔力を感じる中、徐々に彼の手が上っていくと、額へ指先がそっと触れた。
そのまま彼の指先が熱を帯びると、何かが頭から抜けていく不思議な感覚に思わず体が強張っていく。
糸状の物が私の中から全て引き抜かれると、何とも言えぬ不快感がようやく治まってきた。
私はそっと瞼を持ち上げてみると、何やら思案する表情を浮かべていたエヴァンの顔が目に映る。
「……どこかわかったのかしら?」
恐る恐るそう問いかけてみると、彼はどこか空を見つめながら徐に口を開いた。
「ここは……周りの様子からして、師匠の墓があった場所ですね。どうしてこんな荒れ果てた地になっているのかはわかりませんが、間違いないと思いますよ」
タクミのお墓がある場所って……エヴァンに連れて行ってもらったあの場所。
あそこに……あの歪みがあるのね!
時と場所がわかり、ようやく過去へ戻ることが出来るとわかると、嬉しさがこみ上げてくる。
「ありがとうエヴァン。これでようやく進むことが出来るわ!」
私はエヴァンの手を取りそうニッコリと笑みを浮かべると、なぜか彼の頬が赤く染まっていく。
「その笑顔は反則ですよ……」
「うん?どういう意味?」
よくわからない言葉に首をかしげていると、彼は何でもありませんと小さく息を吐きだした。
そのまま彼は私の手を引くと、質問に答える事無く、二人で家へと戻っていった。
*****ご報告とお礼******
イラストを作成して頂きました、玉子@様より許可を頂きましたので、ここに書かせて頂きます。
な・ん・と、アルファポリスにてこの作品を読んで頂いた読者の方がイラストを作成してくださいました!
とても美しいエヴァンを書いて頂き、感謝と感動でいっぱいです!
宜しければ皆様にも見て頂きたいと思いまして、ここにリンク先を置いておきます!
https://twitter.com/tamagokikaku/status/990474059187081216
(ここではタグが機能しないようなので、直接URLを記載させていただきました)
私自身……本当に絵心が皆無なので、自分の作品キャラがイラストになって胸がいっぱいです。
ツイッターにて書いてくださった 玉子@(@tamagokikaku)様、ここで改めてお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。
0
お気に入りに追加
2,462
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる