[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第三章

エヴァンと過ごす日々:後編3

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カフェで楽しいひと時を過ごし、店を後にするが……どうもエヴァンの様子がおかしい。
何だろう……何だかとても余所余所しいような……。
そっとエヴァンへ視線を向けてみると、彼は慌てた様子でそっぽを向く。
機嫌が悪いわけではないようだけれども……混乱していることを関係があるのかしら?
でも混乱しているってどういうことかしら?
彼が混乱させるような事をエヴァンに言ったとして……一体何を言ったのかしら……。

橋を渡り、道なりに歩いて行くと、大きな公園が視界に映る。
公園には元気に走り回る子供たちの姿に、自然と笑みが零れ落ちる。
この世界はまだ女性が外へ出てはいけないという決まりはないのだろう。
公園のベンチには男女が楽しそうに談笑する姿もあった。

彼の様子を覗いながらも、公園をじっと眺めていると、ふとスカートの裾が何かにひっかかった。
私は慌てて立ち止まり、足元へ視線を向けると、そこには3歳ぐらいの小さな少年が、今にも泣き出しそうな表情で、スカートの裾を握りしめていた。
えっ……もしかして蹴っちゃったのかしら!?

「ごっ、ごめんね。大丈夫だった?」

私は少年へ視線を合わせるようにしゃがみ込むと、クリクリとした可愛らしい瞳を覗き込む。
怪我がないかペタペタと少年の体を確認してみると、特に怪我はない様だ。
ほっと胸をなでおろすと、私は少年の頭をよしよしと撫でた。

「ごめんね。どうしたのかな?どこか痛い?」

少年は私の言葉に小さく首を横に振り、裾を強く握りしめたかと思うと、必死に涙をこらえていた。
う~ん……迷子かしら……?
目に涙を浮かべた少年の姿をマジマジと見つめてみると……どうも誰かに似ている気がする。
誰かに……う~ん、誰かしら……?

「どうしたの、お母さんとお父さんは?お名前はなんていうのかな?」

「……アーシャー……」

アーシャー?
舌足らずな可愛らしい声に自然と頬が緩む中、聞き覚えのある名前に男の子を再度覗き込んでみる。
クリクリとした琥珀色の瞳に、フワッとした色素の薄いブラウンの髪。
服装は豪華な上着に、バックル付きのおしゃれな靴。
そんなあどけない少年と視線が絡んだ瞬間……良く知る彼の姿が重なった。

あれ……アーシャー……まさか……あのアーサー……?
彼は確か18歳……なら15年前は、ちょうどこれぐらいの年だろう。
もしアーサーだとして……どうして王族がこんなところに!?
驚きのあまり目を丸くしていると、少年はひくっひくっと声を震わせ始める。

「うぅっ……ひくっ、……っっ……おにいしゃまが、いなくなっちゃった……ふぅっ」

お兄様っ……。
もしかしてセーフィロの事かしら……?

「……お兄様と一緒にここへきたの?」

そう問いかけてみると、少年はしゃっくりを上げながらゆっくりと頷いた。
セーフィロがここにいる……。
まだ彼は城を出て、タクミを探しに行ってはいないのね。
肩を震わせるアーサーを宥めるように優しく頭を撫でていると、突然に伸びてきた腕が、私を無理矢理に立ち上がらせた。
その腕に抗う様に後ろへと振り返ると、真剣な瞳をしたエヴァンと視線が絡む。

「ちょっと、どうしたの?」

「まずいですよ。すぐにここから離れましょう。アーサー殿が居るという事は……城の関係者がこの付近にいる」

「でもっ、泣いている子供を放っておけないわ!」

「大丈夫です、彼らはすぐに来ます。城の魔導師がアーサー殿の場所をすぐに割り出すでしょう。それよりも……忘れたのですか?私たちは追われている身、ここで見つかれば元も子もない」

エヴァンの鋭い言葉に私はギュッと拳を握りしめると、ぐずぐずとしゃっくりをあげるアーサーへと視線を向ける。
私の知るアーサーとは違い……今目の前にいる男の子は純粋な子供だ。
これから先……彼はきっと、つらい思いをすることになるのだろう。
信頼していた大切な兄が突然にいなくなり、城で孤立してしまう。
周りが敵だらけの中、彼の意志とは関係なく、王になることを要求されるのだろう。
私は思い切ってエヴァンの腕を振り払うと、ゆっくりとアーサーの前へしゃがみ込む。

「泣かないで……。きっとあなたのお兄様がすぐ迎えにきてくれるわ。信じていれば……必ず報われる。だから……」

言葉を続けようとしたその刹那、エヴァンは私を強く抱きしめると、背中越しに彼の魔力を感じた。
エヴァンは私を抱きかかえ、アーサーから引きはがすと、近くにあった木陰に身を寄せる。
すると遠くの方からアメジストの瞳をした青年が、必死に走ってくる姿が目に映った。

「もう、アーサー!勝手にどこかへ行っちゃダメじゃないか!」

「ひぃっ……うわぁぁぁん、おにぃしゃまぁぁぁ!!!!」

先ほどまで涙をこらえていたアーサーは大きな声で泣き出すと、手を名一杯広げたままに、セーフィロの元へと走っていく。
セーフィロはそんなーサーを抱き上げ、よしよしと頬を摺り寄せる中、周りに重々しい雰囲気をした一団が二人を包んでいった。
その中には……エヴァンと同じローブを羽織った何人かの男の姿が見える。

「行きますよ」

そう耳元で囁かれると、声をかける間もなく、彼らの姿が次第に霞んでいった。
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