153 / 358
第三章
エヴァンと過ごす日々:後編3
しおりを挟む
カフェで楽しいひと時を過ごし、店を後にするが……どうもエヴァンの様子がおかしい。
何だろう……何だかとても余所余所しいような……。
そっとエヴァンへ視線を向けてみると、彼は慌てた様子でそっぽを向く。
機嫌が悪いわけではないようだけれども……混乱していることを関係があるのかしら?
でも混乱しているってどういうことかしら?
彼が混乱させるような事をエヴァンに言ったとして……一体何を言ったのかしら……。
橋を渡り、道なりに歩いて行くと、大きな公園が視界に映る。
公園には元気に走り回る子供たちの姿に、自然と笑みが零れ落ちる。
この世界はまだ女性が外へ出てはいけないという決まりはないのだろう。
公園のベンチには男女が楽しそうに談笑する姿もあった。
彼の様子を覗いながらも、公園をじっと眺めていると、ふとスカートの裾が何かにひっかかった。
私は慌てて立ち止まり、足元へ視線を向けると、そこには3歳ぐらいの小さな少年が、今にも泣き出しそうな表情で、スカートの裾を握りしめていた。
えっ……もしかして蹴っちゃったのかしら!?
「ごっ、ごめんね。大丈夫だった?」
私は少年へ視線を合わせるようにしゃがみ込むと、クリクリとした可愛らしい瞳を覗き込む。
怪我がないかペタペタと少年の体を確認してみると、特に怪我はない様だ。
ほっと胸をなでおろすと、私は少年の頭をよしよしと撫でた。
「ごめんね。どうしたのかな?どこか痛い?」
少年は私の言葉に小さく首を横に振り、裾を強く握りしめたかと思うと、必死に涙をこらえていた。
う~ん……迷子かしら……?
目に涙を浮かべた少年の姿をマジマジと見つめてみると……どうも誰かに似ている気がする。
誰かに……う~ん、誰かしら……?
「どうしたの、お母さんとお父さんは?お名前はなんていうのかな?」
「……アーシャー……」
アーシャー?
舌足らずな可愛らしい声に自然と頬が緩む中、聞き覚えのある名前に男の子を再度覗き込んでみる。
クリクリとした琥珀色の瞳に、フワッとした色素の薄いブラウンの髪。
服装は豪華な上着に、バックル付きのおしゃれな靴。
そんなあどけない少年と視線が絡んだ瞬間……良く知る彼の姿が重なった。
あれ……アーシャー……まさか……あのアーサー……?
彼は確か18歳……なら15年前は、ちょうどこれぐらいの年だろう。
もしアーサーだとして……どうして王族がこんなところに!?
驚きのあまり目を丸くしていると、少年はひくっひくっと声を震わせ始める。
「うぅっ……ひくっ、……っっ……おにいしゃまが、いなくなっちゃった……ふぅっ」
お兄様っ……。
もしかしてセーフィロの事かしら……?
「……お兄様と一緒にここへきたの?」
そう問いかけてみると、少年はしゃっくりを上げながらゆっくりと頷いた。
セーフィロがここにいる……。
まだ彼は城を出て、タクミを探しに行ってはいないのね。
肩を震わせるアーサーを宥めるように優しく頭を撫でていると、突然に伸びてきた腕が、私を無理矢理に立ち上がらせた。
その腕に抗う様に後ろへと振り返ると、真剣な瞳をしたエヴァンと視線が絡む。
「ちょっと、どうしたの?」
「まずいですよ。すぐにここから離れましょう。アーサー殿が居るという事は……城の関係者がこの付近にいる」
「でもっ、泣いている子供を放っておけないわ!」
「大丈夫です、彼らはすぐに来ます。城の魔導師がアーサー殿の場所をすぐに割り出すでしょう。それよりも……忘れたのですか?私たちは追われている身、ここで見つかれば元も子もない」
エヴァンの鋭い言葉に私はギュッと拳を握りしめると、ぐずぐずとしゃっくりをあげるアーサーへと視線を向ける。
私の知るアーサーとは違い……今目の前にいる男の子は純粋な子供だ。
これから先……彼はきっと、つらい思いをすることになるのだろう。
信頼していた大切な兄が突然にいなくなり、城で孤立してしまう。
周りが敵だらけの中、彼の意志とは関係なく、王になることを要求されるのだろう。
私は思い切ってエヴァンの腕を振り払うと、ゆっくりとアーサーの前へしゃがみ込む。
「泣かないで……。きっとあなたのお兄様がすぐ迎えにきてくれるわ。信じていれば……必ず報われる。だから……」
言葉を続けようとしたその刹那、エヴァンは私を強く抱きしめると、背中越しに彼の魔力を感じた。
エヴァンは私を抱きかかえ、アーサーから引きはがすと、近くにあった木陰に身を寄せる。
すると遠くの方からアメジストの瞳をした青年が、必死に走ってくる姿が目に映った。
「もう、アーサー!勝手にどこかへ行っちゃダメじゃないか!」
「ひぃっ……うわぁぁぁん、おにぃしゃまぁぁぁ!!!!」
先ほどまで涙をこらえていたアーサーは大きな声で泣き出すと、手を名一杯広げたままに、セーフィロの元へと走っていく。
セーフィロはそんなーサーを抱き上げ、よしよしと頬を摺り寄せる中、周りに重々しい雰囲気をした一団が二人を包んでいった。
その中には……エヴァンと同じローブを羽織った何人かの男の姿が見える。
「行きますよ」
そう耳元で囁かれると、声をかける間もなく、彼らの姿が次第に霞んでいった。
何だろう……何だかとても余所余所しいような……。
そっとエヴァンへ視線を向けてみると、彼は慌てた様子でそっぽを向く。
機嫌が悪いわけではないようだけれども……混乱していることを関係があるのかしら?
でも混乱しているってどういうことかしら?
彼が混乱させるような事をエヴァンに言ったとして……一体何を言ったのかしら……。
橋を渡り、道なりに歩いて行くと、大きな公園が視界に映る。
公園には元気に走り回る子供たちの姿に、自然と笑みが零れ落ちる。
この世界はまだ女性が外へ出てはいけないという決まりはないのだろう。
公園のベンチには男女が楽しそうに談笑する姿もあった。
彼の様子を覗いながらも、公園をじっと眺めていると、ふとスカートの裾が何かにひっかかった。
私は慌てて立ち止まり、足元へ視線を向けると、そこには3歳ぐらいの小さな少年が、今にも泣き出しそうな表情で、スカートの裾を握りしめていた。
えっ……もしかして蹴っちゃったのかしら!?
「ごっ、ごめんね。大丈夫だった?」
私は少年へ視線を合わせるようにしゃがみ込むと、クリクリとした可愛らしい瞳を覗き込む。
怪我がないかペタペタと少年の体を確認してみると、特に怪我はない様だ。
ほっと胸をなでおろすと、私は少年の頭をよしよしと撫でた。
「ごめんね。どうしたのかな?どこか痛い?」
少年は私の言葉に小さく首を横に振り、裾を強く握りしめたかと思うと、必死に涙をこらえていた。
う~ん……迷子かしら……?
目に涙を浮かべた少年の姿をマジマジと見つめてみると……どうも誰かに似ている気がする。
誰かに……う~ん、誰かしら……?
「どうしたの、お母さんとお父さんは?お名前はなんていうのかな?」
「……アーシャー……」
アーシャー?
舌足らずな可愛らしい声に自然と頬が緩む中、聞き覚えのある名前に男の子を再度覗き込んでみる。
クリクリとした琥珀色の瞳に、フワッとした色素の薄いブラウンの髪。
服装は豪華な上着に、バックル付きのおしゃれな靴。
そんなあどけない少年と視線が絡んだ瞬間……良く知る彼の姿が重なった。
あれ……アーシャー……まさか……あのアーサー……?
彼は確か18歳……なら15年前は、ちょうどこれぐらいの年だろう。
もしアーサーだとして……どうして王族がこんなところに!?
驚きのあまり目を丸くしていると、少年はひくっひくっと声を震わせ始める。
「うぅっ……ひくっ、……っっ……おにいしゃまが、いなくなっちゃった……ふぅっ」
お兄様っ……。
もしかしてセーフィロの事かしら……?
「……お兄様と一緒にここへきたの?」
そう問いかけてみると、少年はしゃっくりを上げながらゆっくりと頷いた。
セーフィロがここにいる……。
まだ彼は城を出て、タクミを探しに行ってはいないのね。
肩を震わせるアーサーを宥めるように優しく頭を撫でていると、突然に伸びてきた腕が、私を無理矢理に立ち上がらせた。
その腕に抗う様に後ろへと振り返ると、真剣な瞳をしたエヴァンと視線が絡む。
「ちょっと、どうしたの?」
「まずいですよ。すぐにここから離れましょう。アーサー殿が居るという事は……城の関係者がこの付近にいる」
「でもっ、泣いている子供を放っておけないわ!」
「大丈夫です、彼らはすぐに来ます。城の魔導師がアーサー殿の場所をすぐに割り出すでしょう。それよりも……忘れたのですか?私たちは追われている身、ここで見つかれば元も子もない」
エヴァンの鋭い言葉に私はギュッと拳を握りしめると、ぐずぐずとしゃっくりをあげるアーサーへと視線を向ける。
私の知るアーサーとは違い……今目の前にいる男の子は純粋な子供だ。
これから先……彼はきっと、つらい思いをすることになるのだろう。
信頼していた大切な兄が突然にいなくなり、城で孤立してしまう。
周りが敵だらけの中、彼の意志とは関係なく、王になることを要求されるのだろう。
私は思い切ってエヴァンの腕を振り払うと、ゆっくりとアーサーの前へしゃがみ込む。
「泣かないで……。きっとあなたのお兄様がすぐ迎えにきてくれるわ。信じていれば……必ず報われる。だから……」
言葉を続けようとしたその刹那、エヴァンは私を強く抱きしめると、背中越しに彼の魔力を感じた。
エヴァンは私を抱きかかえ、アーサーから引きはがすと、近くにあった木陰に身を寄せる。
すると遠くの方からアメジストの瞳をした青年が、必死に走ってくる姿が目に映った。
「もう、アーサー!勝手にどこかへ行っちゃダメじゃないか!」
「ひぃっ……うわぁぁぁん、おにぃしゃまぁぁぁ!!!!」
先ほどまで涙をこらえていたアーサーは大きな声で泣き出すと、手を名一杯広げたままに、セーフィロの元へと走っていく。
セーフィロはそんなーサーを抱き上げ、よしよしと頬を摺り寄せる中、周りに重々しい雰囲気をした一団が二人を包んでいった。
その中には……エヴァンと同じローブを羽織った何人かの男の姿が見える。
「行きますよ」
そう耳元で囁かれると、声をかける間もなく、彼らの姿が次第に霞んでいった。
0
お気に入りに追加
2,462
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる