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第三章
エヴァンと過ごす日々:後編1
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そうして私はエヴァン共に移転魔法で森を抜け、広い丘へとやってくると、青く澄んだ空に太陽がサンサンと輝いていた。
眩しさに目が眩む中、遠望には小さな街が目に映る。
生き生きとした草木を呆然と眺める中、エヴァンが芝生を踏みしめ歩く姿に慌てて追いかけると、強い風が丘を吹き抜けていった。
彼の背中を追っていくと、いつも後方に見える真っ白な城は見当たらず、だんだんと大きくなる街並みに心が躍っていく。
そうして丘を抜けた先に大きな街が広がると、私は見惚れるようにその場に立ち尽くしていた。
以前ブレイクと出かけた街は、人で埋もれ活気がある感じだったが……エヴァンが連れてきてくれたこの街は、のんびりと落ち着いた雰囲気をしている。
感嘆とした声を漏らす私の様子に、エヴァンは小さく笑うと、手をとり街の中へと誘っていった。
エヴァンに連れられるように、綺麗に舗装された道を進む中、ゆったりとした街並みを抜けると、大きな川が現れ、そこにはレンガのようなもので出来た大きな橋が現れた。
橋の下には、歴史溢れるゴンドラがゆっくりと川を下っていく。
「わぁ、綺麗ねぇ」
太陽の光が水面に反射しキラキラと輝く川の様子に橋の傍へ寄ってみると、ゴンドラから手を振る人の姿が見え。
私も応えるように手を振り返してみると、ゆっくりとゴンドラが川を進んでいく。
「あまり乗り出すと危ないですよ」
ゴンドラを見つめていると、エヴァンは支えるように私の体へ手を回し、クスクスと笑って見せる。
「大丈夫よ。もうっ、私は子供じゃないわ」
そう言い返してみると、エヴァンはすみませんと楽しそうに笑う。
そんな他愛無い彼とのやり取りに、自然と胸の奥がほっこりと温かくなっていった。
のんびりとした街の風景に、心地よい風を感じていると、エヴァンが耳元で囁いた。
「ところで、何か欲しいものはございますか?」
「そうね……特に思いつくものはないわ。それよりもこんな綺麗な景色を見ることが出来て、とても嬉しい」
キラキラと光る川をぼうっと眺めながらそう話すと、エヴァンの腕が静かに離れていく。
「わかりました。ではここで少し待っていてください。すぐ戻ります。……絶対にここから動いていけませんよ。後、知らない人にもついていかないように」
「だから私は子供じゃないわよ!」
過保護な彼の言葉にそう叫ぶと、エヴァンは笑みを浮かべながら橋の向こうへと歩いて行った。
離れていくエヴァンの背を眺めていると、ふと強い風が吹いた。
その風に帽子が攫われていくと、私は慌ててそれを追いかける。
エヴァンとは逆の方角へ、帽子が風に乗って流れていくと、カフェテラスの前に落ちた。
慌てて拾いに向かうと、そこには白いワイシャツに、長いサロンエプロンをつけた男性が、落ちた帽子に手を伸ばしている。
男性は帽子を拾い上げ、私の存在に気が付くと、ニッコリを紳士的な笑みを見せた。
「ごめんなさい」
そう男性に声をかけると、彼はいえいえと優しい笑みを深めていく。
「今日は風が強い。特に川の付近はね」
男性は帽子を差し出すと、私は再度頭を下げながら丁寧に受け取った。
帽子を被りなおし、橋へと戻ろうとしたその刹那、男性が私を引き留める。
「待ってお嬢さん、今時間はあるかな?」
唐突な彼の言葉に私は警戒するように男から一歩下がる中、彼はなぜかにっこりと笑み深めると、徐に目の前にある店を指さした。
「ははっ、そんなに警戒しないでくれ。ここで会ったのも何かの縁だ。僕はこのカフェで働いていてね、今ちょうど新作のスイーツが出来上がったところなんだ。よかったらお嬢さんに味見をしてもらいたくて」
「えっ、ごめんなさい。私は今……えーと」
私はそこで言葉を止めると、ふと考え込んだ。
エヴァンを待っていると言いたいけれど、彼は友達……いえ、違うわね。
なら知り合い……?
う~ん、これでもないわね。
なら魔法を教えてもらっているし先生とか……。
いえ……子弟関係ってわけでもないわよね。
いやいや、こんな事を考えるよりも早く橋へ戻らないと。
エヴァンが心配するわ。
「えーと、人を待っているの。だからごめんなさい」
「それなら、君の友達も一緒に来ると良いよ。自慢じゃないが、僕のカフェは人気なんだ」
グイグイと来る男性に戸惑う中、私はジリジリと後退していると、ふと何かに躓いた。
慌ててバランスを取ろうとするが……体がそのまま後ろへと倒れていく感覚に思わず体を強張らせる。
すると先ほどの男性の腕が私へ伸びてくると、逞しい腕が私の体を引っ張り上げた。
「大丈夫?」
「……っっ、すみません。ありがとうございます」
男性との距離が一気に縮まり、彼の胸板を感じると、男の腕が私を強く抱きしめる。
そんな状況に、私は慌てて体を離そうとした瞬間……強く男性から引きはがすかのように、突然私の体が後ろへと引き寄せられた。
「あなたは一体何をしているのですか……。大人しく待っている事も出来ないのですか?」
よく知る声に恐る恐る振り返ってみると、そこには不機嫌なオーラを纏ったエヴァンの姿があった。
そんな彼の左手には何かを買ったのだろう……紙の袋が握りしめられている。
「ちっ、違うの……っっ」
「ははっ、ごめんね。彼女は風に飛ばされた帽子を追いかてきただけだよ。それを僕が拾った。その後、無理矢理に僕が彼女を引き留めたんだ。……そうだ、お詫びとして二人で僕のやっているカフェに来ないかい?もちろん僕がごちそうするよ」
男性が優しい笑みを浮かべて話すと、エヴァンは不機嫌なままに私へと視線を落とす。
「……行ってみたいですか?」
そう静かに囁かれた言葉に、私は咄嗟に頷くと、エヴァンは顔を上げ男を見据える。
「わかりました。……ですが貨幣は支払います」
「ははっ、別に構わないのに。まぁいいか、こっちだ」
男性は楽しそうにカフェ入口近くにある通路を指さすと、狭い路地へと入って行く。
そんな男の姿に私はエヴァンに腕を取られたまま、男性の後をついていった。
******お知らせ******
閑話:彼女と過ごす日々5:後編 を少し変更しました。
眩しさに目が眩む中、遠望には小さな街が目に映る。
生き生きとした草木を呆然と眺める中、エヴァンが芝生を踏みしめ歩く姿に慌てて追いかけると、強い風が丘を吹き抜けていった。
彼の背中を追っていくと、いつも後方に見える真っ白な城は見当たらず、だんだんと大きくなる街並みに心が躍っていく。
そうして丘を抜けた先に大きな街が広がると、私は見惚れるようにその場に立ち尽くしていた。
以前ブレイクと出かけた街は、人で埋もれ活気がある感じだったが……エヴァンが連れてきてくれたこの街は、のんびりと落ち着いた雰囲気をしている。
感嘆とした声を漏らす私の様子に、エヴァンは小さく笑うと、手をとり街の中へと誘っていった。
エヴァンに連れられるように、綺麗に舗装された道を進む中、ゆったりとした街並みを抜けると、大きな川が現れ、そこにはレンガのようなもので出来た大きな橋が現れた。
橋の下には、歴史溢れるゴンドラがゆっくりと川を下っていく。
「わぁ、綺麗ねぇ」
太陽の光が水面に反射しキラキラと輝く川の様子に橋の傍へ寄ってみると、ゴンドラから手を振る人の姿が見え。
私も応えるように手を振り返してみると、ゆっくりとゴンドラが川を進んでいく。
「あまり乗り出すと危ないですよ」
ゴンドラを見つめていると、エヴァンは支えるように私の体へ手を回し、クスクスと笑って見せる。
「大丈夫よ。もうっ、私は子供じゃないわ」
そう言い返してみると、エヴァンはすみませんと楽しそうに笑う。
そんな他愛無い彼とのやり取りに、自然と胸の奥がほっこりと温かくなっていった。
のんびりとした街の風景に、心地よい風を感じていると、エヴァンが耳元で囁いた。
「ところで、何か欲しいものはございますか?」
「そうね……特に思いつくものはないわ。それよりもこんな綺麗な景色を見ることが出来て、とても嬉しい」
キラキラと光る川をぼうっと眺めながらそう話すと、エヴァンの腕が静かに離れていく。
「わかりました。ではここで少し待っていてください。すぐ戻ります。……絶対にここから動いていけませんよ。後、知らない人にもついていかないように」
「だから私は子供じゃないわよ!」
過保護な彼の言葉にそう叫ぶと、エヴァンは笑みを浮かべながら橋の向こうへと歩いて行った。
離れていくエヴァンの背を眺めていると、ふと強い風が吹いた。
その風に帽子が攫われていくと、私は慌ててそれを追いかける。
エヴァンとは逆の方角へ、帽子が風に乗って流れていくと、カフェテラスの前に落ちた。
慌てて拾いに向かうと、そこには白いワイシャツに、長いサロンエプロンをつけた男性が、落ちた帽子に手を伸ばしている。
男性は帽子を拾い上げ、私の存在に気が付くと、ニッコリを紳士的な笑みを見せた。
「ごめんなさい」
そう男性に声をかけると、彼はいえいえと優しい笑みを深めていく。
「今日は風が強い。特に川の付近はね」
男性は帽子を差し出すと、私は再度頭を下げながら丁寧に受け取った。
帽子を被りなおし、橋へと戻ろうとしたその刹那、男性が私を引き留める。
「待ってお嬢さん、今時間はあるかな?」
唐突な彼の言葉に私は警戒するように男から一歩下がる中、彼はなぜかにっこりと笑み深めると、徐に目の前にある店を指さした。
「ははっ、そんなに警戒しないでくれ。ここで会ったのも何かの縁だ。僕はこのカフェで働いていてね、今ちょうど新作のスイーツが出来上がったところなんだ。よかったらお嬢さんに味見をしてもらいたくて」
「えっ、ごめんなさい。私は今……えーと」
私はそこで言葉を止めると、ふと考え込んだ。
エヴァンを待っていると言いたいけれど、彼は友達……いえ、違うわね。
なら知り合い……?
う~ん、これでもないわね。
なら魔法を教えてもらっているし先生とか……。
いえ……子弟関係ってわけでもないわよね。
いやいや、こんな事を考えるよりも早く橋へ戻らないと。
エヴァンが心配するわ。
「えーと、人を待っているの。だからごめんなさい」
「それなら、君の友達も一緒に来ると良いよ。自慢じゃないが、僕のカフェは人気なんだ」
グイグイと来る男性に戸惑う中、私はジリジリと後退していると、ふと何かに躓いた。
慌ててバランスを取ろうとするが……体がそのまま後ろへと倒れていく感覚に思わず体を強張らせる。
すると先ほどの男性の腕が私へ伸びてくると、逞しい腕が私の体を引っ張り上げた。
「大丈夫?」
「……っっ、すみません。ありがとうございます」
男性との距離が一気に縮まり、彼の胸板を感じると、男の腕が私を強く抱きしめる。
そんな状況に、私は慌てて体を離そうとした瞬間……強く男性から引きはがすかのように、突然私の体が後ろへと引き寄せられた。
「あなたは一体何をしているのですか……。大人しく待っている事も出来ないのですか?」
よく知る声に恐る恐る振り返ってみると、そこには不機嫌なオーラを纏ったエヴァンの姿があった。
そんな彼の左手には何かを買ったのだろう……紙の袋が握りしめられている。
「ちっ、違うの……っっ」
「ははっ、ごめんね。彼女は風に飛ばされた帽子を追いかてきただけだよ。それを僕が拾った。その後、無理矢理に僕が彼女を引き留めたんだ。……そうだ、お詫びとして二人で僕のやっているカフェに来ないかい?もちろん僕がごちそうするよ」
男性が優しい笑みを浮かべて話すと、エヴァンは不機嫌なままに私へと視線を落とす。
「……行ってみたいですか?」
そう静かに囁かれた言葉に、私は咄嗟に頷くと、エヴァンは顔を上げ男を見据える。
「わかりました。……ですが貨幣は支払います」
「ははっ、別に構わないのに。まぁいいか、こっちだ」
男性は楽しそうにカフェ入口近くにある通路を指さすと、狭い路地へと入って行く。
そんな男の姿に私はエヴァンに腕を取られたまま、男性の後をついていった。
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