[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第三章

新たな準備

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翌朝、トントントンと規則正しく何かを叩く音で目覚め、体を起こすと、肩程までに短くなった髪があちこちに跳ねていた。
短い髪はこれだから嫌なのよねぇ……。
私は魔法で髪を濡らし、綺麗に整えると、エヴァンが用意してくれたのだろう服に着替え、廊下へと出ていった。
廊下へ出ると、どこからか食欲をそそる香りが鼻を擽る。
何かしら……とってもいい匂い。
クンクンと鼻を鳴らすと、お腹がグゥ～と小さく音をたてた。

匂いに釣られるように廊下を進んでいくとその先には、木製のテーブルの上に食パンのような平たいパンが籠に並べられ、その傍には目玉焼きのような食べ物と、ソーセージらしき物がお皿に並べられている。
元居た世界の朝食に似ている風景に唖然とする中、エヴァンは湯気が立ち上るカップを片手に、テーブルの前へ姿を現した。

「おはようございます。よく眠れましたか？」

「えっ、あっ、おはようございます」

慌てて挨拶を返すと、エヴァンは静かに椅子へと腰かけ、私を席へと促す様に視線を向けた。
私はおずおずといった様子で彼の向かいに腰かけると、パンの良い匂いにまた腹の虫が鳴った。
うぅ……恥ずかしいっっ……。
鳴り響いた音に、慌ててお腹を押さえると、頬にほんのり熱を感じる。

「ははっ、どうぞ召し上がってください」

珍しい笑い方をする彼に驚く中、彼はフォークとナイフを手に取ると、食事を静かに口へと運んでいく。
私もいただきますと小さな声で呟くと、フォークとナイフを手に取り、目玉焼きっぽい物にナイフを落としてみる。
すると黄身が割れ、中からドロッと黄色い液体が流れ出す姿に、本当に目玉焼きの様だった。
そっと口へと運んでみると、味も目玉焼きと同じ……懐かしい味に、胸の奥がジンワリとあったかくなっていく。

「美味しい。めだ……、えーと、これはこの世界の料理なのかしら？」

「いえ、これは師匠に教えてもらった……名前は何と言いましたかね。まぁ……忘れてしまいましたが、あなたの世界の料理を似せて作ったものです。お口にあいましたか？」

「えぇ、とっても美味しいわ。エヴァンありがとう」

そうニッコリ笑みを浮かべて見せると、彼は慌てて私から視線を反らせた。
照れているのか……彼は少し頬を赤く染めると、料理を黙々と口へと運んでいく。
新鮮な彼の姿に心が和んでいくと、穏やかな雰囲気の中、私は彼の姿を眺めながら、ソーセージにフォークを差し、口へと運んでいった。

似たような料理をこの世界でも作ることが出来るのねぇ。
程よい塩コショウに、黄身のうまみがちょうどいいバランスだわ。
それにこのソーセージも、前の世界の料理とよく似ている。
パリッとした触感に、中から肉汁が溢れてくるわ。
そんな事を考えながらモグモグと食事を進めていると、あっという間に皿は空っぽになってしまった。
そっとナイフとフォークを置き、お皿を片づけると、エヴァンが魔法で食器を洗い流していく。
本当に魔法は便利ねぇ……。
水道もいらない、ガスもいらない、経済的でとっても素晴らしいわ。

淡々と魔法を使う彼に見惚れる中、片づけが終わりエヴァンが席へと戻ってくると、静かに私の前へと腰かけた。

「ところで、これからどうするのですか？」

突然の彼の質問にハッと我に返ると、エメラルドの瞳と視線が絡む。

「私は……もう一度今よりも少し前の世界へ飛ぶわ。そこでこの世界を、正しい世界へと戻すの」

「あなたに何があったのか、何を見たのか……そういった事は教えて頂けないのですか？」

彼の静かな問いかけに、私は口を閉ざすとじっと考え込む。
彼らの魔法を止めたい……、でも説明することは難しいわ。
その前に……彼はタクミが時空移転魔法を使った事を知っているのかしら？
確認することも出来ないし、ここはやっぱり話さないほうがいいわ。
そう結論に達すると、私は小さく首を横に振り、ごめんなさいと小さな声で謝った。

「わかりました。でも私もついていきますからね。それでどこへいくつもりですか？」

「えっ、待って！私はエヴァンを巻き込みたくないの。この先本当に何が起こるかわからない……だからあなたには、元の世界へ戻ってほしい」

私の言葉にエヴァンはスッと目を細めると、徐に立ち上がる。

「率直に言うと、私にはその時空移転魔法は使えません。だからあなたが戻るときにご一緒しなければ、元の世界へ戻ることはできない。それに……私はもうあなたを一人になんてしない」

強く……静かに放たれた言葉に何も言えなくなると、私は気まずげに彼から視線を反らせた。
彼の様子から、何と言おうと……彼の気持ちは変わらないのだろうと伝わってくる。
どうしようかしら……。
彼がこの魔法を使えないのであれば……もし私が消えてしまったら……彼は元の世界へ戻ることが出来なくなる。
それはダメよ。
何かいい方法を考えないと……。

でもその前に、タクミの両親が使う魔法も何とかしなければいけないわね。
あの魔法を何とかしなければ正しい世界へは戻らない。
先にそっちを優先させましょう。
私は大きく息を吸い込むと、彼へ向かって、わかったわと不承不承に呟いた。

*****お知らせ*******
話を読み直していて気が付いたのですが、主人公が戻った世界は15年前の過去です。
一か所20年前となっておりましたので、ここで改めて報告致します。

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