上 下
11 / 11

おまけ(王子視点)

しおりを挟む
あーいてぇ、あの女思いっきり殴りやがって……。
俺はひりひりする頬を撫でると、おもむろに寝返りをうった。
チリっとした痛みが走ると、鉄の味が口の中に広がる。
切れてんじゃねぇか……はぁ……。

薄暗い部屋の中、大の字に手を広げ天井を見上げる。
頬に浮かぶ赤い手形。
今日突然やってきた令嬢に思いっきりビンタされた痕だ。
理由はどれだかわからねぇ。
顔も名前もうろ覚えで誰だったかもわからねぇからな。
くそっ、いてぇなぁ。
だがまぁよくあることだ。

トントントン
ノックの音が響くと、俺は怠惰に体を起こす。
なんだ?と声を返すと、ゆっくりと扉が開いた。

「ごきげんようジェシー」

「ステイシーか。今日ハンクはいないぜ」

彼女はクスクス笑うと、知っていますわと冷めた笑みを浮かべる。

「あなたが部屋で腐っていると聞いて見に来たのですわ。また女性ともめたのですってね。全く毎度毎度駆り出される身にもなってほしいわ」

彼女はメイドに渡されたのだろう、氷の入った袋を持ってこちらへやってくる。

「うるせぇ、別に腐ってねぇよ。なんで殴られたのかもわかんねぇし」

「あらあら、先日お部屋に呼んでいた女性でしょ?遊ぶのも大概にしたほうがよろしいですわよ。あなたに対する令嬢の評判が日に日に悪くなってますわ」

「別に遊んでるわけじゃねぇよ。お前はいいよなぁ~好きな奴いて」

ステイシーはベッド脇へ腰かけると、赤くなった頬へ袋を押し当てる。
冷たい氷が触れると、少し痛みが治まった。

ステイシーは幼いころに決められた許嫁だが、お互いに恋愛感情は一切ない。
親同士が勝手に決めた婚約なのだから当然だろう。
昔からの付き合いだし、嫌いじゃないけどな。
女というよりは気の合う友人といった感じだ。

そんな彼女には想い人がいる。
俺の付き人であるハンク。
彼女は俺を口実に、よくハンクに会いに来るんだ。
それはそれは構わないのだが……。

「まったく困った王子様ですわね」

ステイシーは呆れた表情を浮かべると、おもむろにソファーへ腰かけた。
その姿に俺もベッドから立ち上がると、服を整え向かいへ座る。

「なぁ、あいつのどこが好きなの?いいやつだけど、堅物だしさ、一緒に居て面白くはないだろう?」

彼女は足を組むと、俺には向けられない柔らかい笑みを浮かべていた。
羨ましい。
他人に対してそんな強い想いを抱けるなんて。

「面白いか面白くないかは人それぞれですわよ。それよりも彼の良さはたくさん……言葉だけでは到底説明できませんわ。容姿も性格も全てが愛しいのです。初めてお会いした時にビビッときたのですわ。結ばれないとわかっていても……惹かれずにいられなかったのです」

ビビッと……何だよその抽象的な表現は。
俺もそんな気持ちを知りたい。
好みそうな女や気になるやつに手あたり次第声をかけてみるが、どうもしっくりこない。
みんな可愛いしいい子なんだけど……なんだろうな。
時々地雷もいるが……まぁ……。

「あら、ごめんなさい。ジェシーもハンクの次ぐらいには格好いいと思いますわよ」

彼女は揶揄うようにくすくす笑うと、口元へ手を当てる。

「そんな言葉いらねぇよ。あー俺も誰かを好きになってみてぇ」

俺は深く息を吐きだすと、ドサッとソファーへもたれこんだ。

それにしてもハンクが好きなのに俺と婚約させられてこいつも気の毒だ。
何とかしてやりたいが、あの堅物をどうにかするのは難しい。
俺という存在がある以上、本音は言わねぇだろうし。
婚約破棄しようとすれば即手を回して止めようとするだろうな。
なんでか知らねぇけど、俺とステイシーはお似合いだと思っているみてぇだし。
いや違うか、俺の世話をできるのはあいつだけだと思ってるんだろうな。
でもまぁ傍で見ている限り、ハンクもステイシーを気に入ってはいると思うんだけど。

「はぁ……ビビッとねぇ。よくわかんねぇよ

「ふふふ、ジェシーは焦りすぎよ。きっといつかわかるわ。一目見た瞬間に感じる何か。他の令嬢なんて目に入らなく存在がね。世界が明るくなって、その人を知れば知るほど楽しくて好きになるこの感覚を。恋なんて難しく考えないで、気が付いたら落ちているものよ。ふふふ」

落ちるか……。
本当にそんなことが起こるのか?
全く想像できねぇ。
楽しそうに笑うステイシーを横目に、俺はまた深く息を吐きだしたのだった。

***********************************
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ドタバタな感じだったかと思いますが、いかがだったでしょうか?
ご意見ご感想等ございましたら、お気軽にコメントくださいm(__)m

また別の作品でもお会いできるように、これからも頑張ります!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(13件)

さなえ
2021.08.14 さなえ

完結してからと思い、ようやく読み始めました。

1話 王子の従者の容姿について
中世的 → 中性的 ですよね。

完結したら誤字脱字や変な言い回しの修正ってされるのかしら。

あみにあ
2021.08.14 あみにあ

さなえ 様

コメントありがとうございます!
お読み頂けて嬉しいです(*ノωノ)

申し訳ございません(;´Д`)
見つけ次第修正していきます(◎_◎;)
ご指摘ありがとうございましたm(__)m

解除
まるkomaり
2021.08.14 まるkomaり

おもしろかったです(*^^*)
最後まで読んだら
恋に落ちた時の王子視点とか、その後とか、もうちょっと読みたくなっちゃいました。
でもこのくらいの量は読みやすくてちょうどいいし…💦
楽しいお話をありがとうございましたo(^o^)o

あみにあ
2021.08.14 あみにあ

まるkomaり 様

コメントありがとうございます!
お読み頂けて嬉しいです(*'▽')
楽しんで頂けてよかったぁです(*ノωノ)

また別の作品でもお会いできるよう、これからも頑張ります!

解除
penpen
2021.08.13 penpen

主人公は天邪鬼であってます?

あみにあ
2021.08.14 あみにあ

penpen 様

コメントありがとうございます!
天邪鬼というよりは……クソな乙女ゲームの一番嫌いだったヒロインを好きだと認められないのかも(-_-;)

解除

あなたにおすすめの小説

精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。 だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。 とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。 ※1万字程度のお話です。 ※他サイトでも投稿しております。

悪役令嬢は、あの日にかえりたい

桃千あかり
恋愛
婚約破棄され、冤罪により断頭台へ乗せられた侯爵令嬢シルヴィアーナ。死を目前に、彼女は願う。「あの日にかえりたい」と。 ■別名で小説家になろうへ投稿しています。 ■恋愛色は薄め。失恋+家族愛。胸糞やメリバが平気な読者様向け。 ■逆行転生の悪役令嬢もの。ざまぁ亜種。厳密にはざまぁじゃないです。王国全体に地獄を見せたりする系統の話ではありません。 ■覚悟完了済みシルヴィアーナ様のハイスピード解決法は、ひとによっては本当に胸糞なので、苦手な方は読まないでください。苛烈なざまぁが平気な読者様だと、わりとスッとするらしいです。メリバ好きだと、モヤり具合がナイスっぽいです。 ■悪役令嬢の逆行転生テンプレを使用した、オチがすべてのイロモノ短編につき、設定はゆるゆるですし続きません。文章外の出来事については、各自のご想像にお任せします。 ※表紙イラストはフリーアイコンをお借りしました。 ■あままつ様(https://ama-mt.tumblr.com/about)

悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います

恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。 (あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?) シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。 しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。 「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」 シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。 ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む

双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。 幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。 定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】 【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】 *以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない

家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。 夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。 王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。 モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。

婚約破棄の特等席はこちらですか?

A
恋愛
公爵令嬢、コーネリア・ディ・ギリアリアは自分が前世で繰り返しプレイしていた乙女ゲーム『五色のペンタグラム』の世界に転生していることに気づく。 将来的には婚約破棄が待っているが、彼女は回避する気が無い。いや、むしろされたい。 何故ならそれは自分が一番好きなシーンであったから。 カップリング厨として推しメン同士をくっつけようと画策する彼女であったが、だんだんとその流れはおかしくなっていき………………

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。