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おまけ(王子視点)
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あーいてぇ、あの女思いっきり殴りやがって……。
俺はひりひりする頬を撫でると、おもむろに寝返りをうった。
チリっとした痛みが走ると、鉄の味が口の中に広がる。
切れてんじゃねぇか……はぁ……。
薄暗い部屋の中、大の字に手を広げ天井を見上げる。
頬に浮かぶ赤い手形。
今日突然やってきた令嬢に思いっきりビンタされた痕だ。
理由はどれだかわからねぇ。
顔も名前もうろ覚えで誰だったかもわからねぇからな。
くそっ、いてぇなぁ。
だがまぁよくあることだ。
トントントン
ノックの音が響くと、俺は怠惰に体を起こす。
なんだ?と声を返すと、ゆっくりと扉が開いた。
「ごきげんようジェシー」
「ステイシーか。今日ハンクはいないぜ」
彼女はクスクス笑うと、知っていますわと冷めた笑みを浮かべる。
「あなたが部屋で腐っていると聞いて見に来たのですわ。また女性ともめたのですってね。全く毎度毎度駆り出される身にもなってほしいわ」
彼女はメイドに渡されたのだろう、氷の入った袋を持ってこちらへやってくる。
「うるせぇ、別に腐ってねぇよ。なんで殴られたのかもわかんねぇし」
「あらあら、先日お部屋に呼んでいた女性でしょ?遊ぶのも大概にしたほうがよろしいですわよ。あなたに対する令嬢の評判が日に日に悪くなってますわ」
「別に遊んでるわけじゃねぇよ。お前はいいよなぁ~好きな奴いて」
ステイシーはベッド脇へ腰かけると、赤くなった頬へ袋を押し当てる。
冷たい氷が触れると、少し痛みが治まった。
ステイシーは幼いころに決められた許嫁だが、お互いに恋愛感情は一切ない。
親同士が勝手に決めた婚約なのだから当然だろう。
昔からの付き合いだし、嫌いじゃないけどな。
女というよりは気の合う友人といった感じだ。
そんな彼女には想い人がいる。
俺の付き人であるハンク。
彼女は俺を口実に、よくハンクに会いに来るんだ。
それはそれは構わないのだが……。
「まったく困った王子様ですわね」
ステイシーは呆れた表情を浮かべると、おもむろにソファーへ腰かけた。
その姿に俺もベッドから立ち上がると、服を整え向かいへ座る。
「なぁ、あいつのどこが好きなの?いいやつだけど、堅物だしさ、一緒に居て面白くはないだろう?」
彼女は足を組むと、俺には向けられない柔らかい笑みを浮かべていた。
羨ましい。
他人に対してそんな強い想いを抱けるなんて。
「面白いか面白くないかは人それぞれですわよ。それよりも彼の良さはたくさん……言葉だけでは到底説明できませんわ。容姿も性格も全てが愛しいのです。初めてお会いした時にビビッときたのですわ。結ばれないとわかっていても……惹かれずにいられなかったのです」
ビビッと……何だよその抽象的な表現は。
俺もそんな気持ちを知りたい。
好みそうな女や気になるやつに手あたり次第声をかけてみるが、どうもしっくりこない。
みんな可愛いしいい子なんだけど……なんだろうな。
時々地雷もいるが……まぁ……。
「あら、ごめんなさい。ジェシーもハンクの次ぐらいには格好いいと思いますわよ」
彼女は揶揄うようにくすくす笑うと、口元へ手を当てる。
「そんな言葉いらねぇよ。あー俺も誰かを好きになってみてぇ」
俺は深く息を吐きだすと、ドサッとソファーへもたれこんだ。
それにしてもハンクが好きなのに俺と婚約させられてこいつも気の毒だ。
何とかしてやりたいが、あの堅物をどうにかするのは難しい。
俺という存在がある以上、本音は言わねぇだろうし。
婚約破棄しようとすれば即手を回して止めようとするだろうな。
なんでか知らねぇけど、俺とステイシーはお似合いだと思っているみてぇだし。
いや違うか、俺の世話をできるのはあいつだけだと思ってるんだろうな。
でもまぁ傍で見ている限り、ハンクもステイシーを気に入ってはいると思うんだけど。
「はぁ……ビビッとねぇ。よくわかんねぇよ
「ふふふ、ジェシーは焦りすぎよ。きっといつかわかるわ。一目見た瞬間に感じる何か。他の令嬢なんて目に入らなく存在がね。世界が明るくなって、その人を知れば知るほど楽しくて好きになるこの感覚を。恋なんて難しく考えないで、気が付いたら落ちているものよ。ふふふ」
落ちるか……。
本当にそんなことが起こるのか?
全く想像できねぇ。
楽しそうに笑うステイシーを横目に、俺はまた深く息を吐きだしたのだった。
***********************************
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ドタバタな感じだったかと思いますが、いかがだったでしょうか?
ご意見ご感想等ございましたら、お気軽にコメントくださいm(__)m
また別の作品でもお会いできるように、これからも頑張ります!
俺はひりひりする頬を撫でると、おもむろに寝返りをうった。
チリっとした痛みが走ると、鉄の味が口の中に広がる。
切れてんじゃねぇか……はぁ……。
薄暗い部屋の中、大の字に手を広げ天井を見上げる。
頬に浮かぶ赤い手形。
今日突然やってきた令嬢に思いっきりビンタされた痕だ。
理由はどれだかわからねぇ。
顔も名前もうろ覚えで誰だったかもわからねぇからな。
くそっ、いてぇなぁ。
だがまぁよくあることだ。
トントントン
ノックの音が響くと、俺は怠惰に体を起こす。
なんだ?と声を返すと、ゆっくりと扉が開いた。
「ごきげんようジェシー」
「ステイシーか。今日ハンクはいないぜ」
彼女はクスクス笑うと、知っていますわと冷めた笑みを浮かべる。
「あなたが部屋で腐っていると聞いて見に来たのですわ。また女性ともめたのですってね。全く毎度毎度駆り出される身にもなってほしいわ」
彼女はメイドに渡されたのだろう、氷の入った袋を持ってこちらへやってくる。
「うるせぇ、別に腐ってねぇよ。なんで殴られたのかもわかんねぇし」
「あらあら、先日お部屋に呼んでいた女性でしょ?遊ぶのも大概にしたほうがよろしいですわよ。あなたに対する令嬢の評判が日に日に悪くなってますわ」
「別に遊んでるわけじゃねぇよ。お前はいいよなぁ~好きな奴いて」
ステイシーはベッド脇へ腰かけると、赤くなった頬へ袋を押し当てる。
冷たい氷が触れると、少し痛みが治まった。
ステイシーは幼いころに決められた許嫁だが、お互いに恋愛感情は一切ない。
親同士が勝手に決めた婚約なのだから当然だろう。
昔からの付き合いだし、嫌いじゃないけどな。
女というよりは気の合う友人といった感じだ。
そんな彼女には想い人がいる。
俺の付き人であるハンク。
彼女は俺を口実に、よくハンクに会いに来るんだ。
それはそれは構わないのだが……。
「まったく困った王子様ですわね」
ステイシーは呆れた表情を浮かべると、おもむろにソファーへ腰かけた。
その姿に俺もベッドから立ち上がると、服を整え向かいへ座る。
「なぁ、あいつのどこが好きなの?いいやつだけど、堅物だしさ、一緒に居て面白くはないだろう?」
彼女は足を組むと、俺には向けられない柔らかい笑みを浮かべていた。
羨ましい。
他人に対してそんな強い想いを抱けるなんて。
「面白いか面白くないかは人それぞれですわよ。それよりも彼の良さはたくさん……言葉だけでは到底説明できませんわ。容姿も性格も全てが愛しいのです。初めてお会いした時にビビッときたのですわ。結ばれないとわかっていても……惹かれずにいられなかったのです」
ビビッと……何だよその抽象的な表現は。
俺もそんな気持ちを知りたい。
好みそうな女や気になるやつに手あたり次第声をかけてみるが、どうもしっくりこない。
みんな可愛いしいい子なんだけど……なんだろうな。
時々地雷もいるが……まぁ……。
「あら、ごめんなさい。ジェシーもハンクの次ぐらいには格好いいと思いますわよ」
彼女は揶揄うようにくすくす笑うと、口元へ手を当てる。
「そんな言葉いらねぇよ。あー俺も誰かを好きになってみてぇ」
俺は深く息を吐きだすと、ドサッとソファーへもたれこんだ。
それにしてもハンクが好きなのに俺と婚約させられてこいつも気の毒だ。
何とかしてやりたいが、あの堅物をどうにかするのは難しい。
俺という存在がある以上、本音は言わねぇだろうし。
婚約破棄しようとすれば即手を回して止めようとするだろうな。
なんでか知らねぇけど、俺とステイシーはお似合いだと思っているみてぇだし。
いや違うか、俺の世話をできるのはあいつだけだと思ってるんだろうな。
でもまぁ傍で見ている限り、ハンクもステイシーを気に入ってはいると思うんだけど。
「はぁ……ビビッとねぇ。よくわかんねぇよ
「ふふふ、ジェシーは焦りすぎよ。きっといつかわかるわ。一目見た瞬間に感じる何か。他の令嬢なんて目に入らなく存在がね。世界が明るくなって、その人を知れば知るほど楽しくて好きになるこの感覚を。恋なんて難しく考えないで、気が付いたら落ちているものよ。ふふふ」
落ちるか……。
本当にそんなことが起こるのか?
全く想像できねぇ。
楽しそうに笑うステイシーを横目に、俺はまた深く息を吐きだしたのだった。
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最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ドタバタな感じだったかと思いますが、いかがだったでしょうか?
ご意見ご感想等ございましたら、お気軽にコメントくださいm(__)m
また別の作品でもお会いできるように、これからも頑張ります!
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申し訳ございません(;´Д`)
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ご指摘ありがとうございましたm(__)m
おもしろかったです(*^^*)
最後まで読んだら
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でもこのくらいの量は読みやすくてちょうどいいし…💦
楽しいお話をありがとうございましたo(^o^)o
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