乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

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乙女ゲームの世界

勘違い

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兄に連れられ日華病院へやってくると、裏口から入りすぐに診察を受ける。
首に浮かび上がった締め跡に触れられる度に、チリッとした痛みがはしった。
日華先生は何度も検査をしてくれたが、体や喉に異常は見当たらないと困惑する。
その結果なぜ声が出なくなってしまったのかわからない現状、安静にということで私は暫く入院することになった。

去年の冬といい、今年の夏といい、日華病院へ頻繁に入院している気がする。
その内2度は立花さくらが絡んでいるのに頭が痛い。
彼女の目的は……藤グループの誠也だとわかったけれど……。
彼女の邪魔をしてしまった今、どうなるのか不安が渦巻いていった。

着替えを済ませ見慣れた個室の病室へやってくると、空には厚い雲がかかり今にも雨か雪が降りだしそうだ。
時計の針は12時を指し、クリスマスイブが終わろとしている。
こんなクリスマスイブになるなんて考えもしなかったわ……。
この状態だと、明日のパーティーは参加できないだろう。
楽しみにしていた香澄の姿が頭を過ると、胸が小さく痛む。

ガチャッ。
夜が更けた静かな病室の中、扉の音に振り返るとそこには二条の姿。
ネクタイを緩めタキシードのボタンを外すと、彼はベッド脇へと腰かけた。

「一条、大丈夫なのか?」

彼の言葉にコクリと頷くと笑みを浮かべて見せる。
あまり心配をかけさせたくない。
私は窓から離れシーツを捲ると、ベッドへと上がる。
痛々しそうな表情で私の首元を眺めると、悲し気な瞳を浮かべた。
そんな彼の姿に、棚からメモとペンを手に取ると、私は紙にペンを走らせる。

[そんな顔しないで。私は大丈夫、体に異常もないみただから、すぐになるはずよ]

「そうか、あんまり無理はするなよ」

二条はそっとこちらへ手を伸ばすと、私の頭を優しく撫でた。
その手がふと止まると、彼の吐息が耳に響く。

「なぁ、一条。去年の暮れに俺と食事をしたことを覚えているか?」

もちろん覚えている。
あれは二条との関係がギクシャクしていた頃、香澄ちゃんに言われるままに、彼とレストランで食事をすることになって、仲直りのきっかけになった。
そこで彼にブレスレットをもらって……明日お返ししようと思いプレゼントを用意していた。
彼に似合うだろうと買ったネクタイピン。
私はコクリと頷くと、彼の瞳を見つめ返す。

「あの時言っていたよな、高校を卒業するまで誰とも婚約しない。あれはすでに心に決めた相手がいたからそういったのか……?」

決めた相手?一体誰の事かしら?
何のことかわからないと首を傾げると、二条は苦しそうに表情を歪めた。

「藤 天斗、いつから知り合いだったんだ?」

その名に目を丸くすると、私は必死に首を横へ振った。
メモ帳を捲り慌ててペンを走らせる。

[天斗とはそんな関係じゃないわ。彼とは……]

そこで手を止めると、頭をひねる。
友人というより知り合い程度……えーと。

(彼とは縁があって、今日のパーティーにパートナーとして参加してほしいと頼まれただけよ)

二条へ紙を見せ付け、必死に訴えかける。
彼は私の腕を取ると、軽く引き寄せた。
鼻を近づけ確かめるように鼻を鳴らすと、持つ腕に力が入る。

「それだけじゃないだろう。最近隠れてコソコソ会っていたのはあいつだろう。あいつから同じ香水の匂いがした」

彼の言葉に目を見開くと、思わず体を離した。
うぅッバレてる……どう説明しようかしら。
今日の事は全く予想していなかった。
こんな形でばれるとわかっていたら、もっとうまい嘘を考えたのに……。

ってちょっと待って。
あの状態で彼をおいてきたけれど、病院に来たはずの兄はどこへ行ったの?
もしかして……彼に話を聞きに?

[お兄様はどこへ行ったの?]

「歩さんは日華先生と話している。って話を逸らすな!」

二条はムッとした表情を浮かべると、立ち上がりこちらへ顔を寄せた。
近くなる彼との距離に思わず後退ると、動きを制すように両手をベッドへつき、覆いかぶさるように動きを封じた。

「俺たちに隠れて何をしていたんだ?」

真剣な彼の瞳に違うと否定する。
なんと説明すればいいのか、上手い言葉が思いつかない。
彼と会っていたのは3回だけ。
何をしていたわけでもなく、二人で海へ行ったり、水族館へ行ったり、ジャンクフードを食べたり……。
こうして考えると、誰が聞いてもデートをしていたとしか思われない。
脅されて仕方がなく付き合っていたが、ひどい事をされたわけでもなく、寧ろ楽しんでいた。
それに脅されていた事実を話すわけにはいかない。

[うまく説明できないわ。だけど本当に彼とはそんな関係じゃないのよ。知り合い程度の仲で、婚約なんて考えたこともないわ]

婚約はしないその事実だけでもはっきりと伝える。
彼の目を真っすぐに見つめ紙を両手で掲げると、微かに紙が震えていた。

「……わかった。だがそういう割には親し気だったよな」

親し気?
紙を下げ彼の瞳を見つめながら首を傾げる。

「お互い名前で呼び合っていただろう?長い付き合いの俺ですら苗字なのに……」

子供の様に、ムスッと不貞腐れた彼の表情に目を丸くする。

[あれは、彼の苗字を知らなかったから。私の事は向こうが勝手に呼び始めたのよ]

綺麗な字を書く余裕もなく殴り書きで彼に見せると、二条はゆっくりと顔を近づけた。
彼の瞳に私の姿がはっきりと浮かび上がる。

「なら俺も呼んでいいか?」

えっ!?
彼の言葉に目を丸くしながらもおずおず頷くと、不貞腐れていた表情が和らいだ。

「あやか」

吐息がかかる距離で、初めて呼ばれた名に何だか胸がドキドキする。
高鳴りに戸惑っていると、目の前に映る彼の頬がゆっくり赤く染まっていった。
目が泳ぎ照れているのだろうか、彼は体を離し顔を隠すようにそっぽを向く姿に、こちらの頬の熱も上がっていく気がする。
あやかと呼ばれたその声が頭の中で反芻していると、空いたままの扉に人影が浮かび上がる。

「二人とも何をしているのかな?」

「あっ、歩さん!?えっ、いや、これは、彩華また後でな」

「あやかだって……?」

その声に顔を向けると、ニッコリと微笑む兄の姿。
笑みが深まっていく兄の姿に、二条は苦笑いを浮かべると、逃げるように病室から出て行ったのだった。
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