165 / 169
乙女ゲームの世界
紅い瞳に魅入られて
しおりを挟む
立花さくら……。
紅い瞳はじっと私を見下ろしたまま。
その瞳に身震いし立ち上がると、思わず口を開いた。
「どうしてここにいるの……?」
「それはこっちの台詞よ」
立花さくらは静かに控室の中へ入ってくると、背筋にぞわっとした悪寒が走る。
近づいてくる彼女から逃げるように後ずさっていると、棚に背が触れガタンッと音が響いた。
衝撃で棚にあった陶器の小さな置物がグラッと傾くと、床に激突しガシャーンと音を立て破片が辺りに散らばる。
彼女は散らばった破片を気にすることなく踏みつぶした。
「なんであなたなの。ここは私の場所なのに……ありえない。邪魔しないでと何度も言ったわよね?それなのに信じられない」
何が何だかわからない。
もしかして今日の出来事は、ゲームのイベントだったということなの?
「ちっ、違うの。邪魔したわけじゃないわ!私は無理矢理連れて来られただけッッ」
必死に弁解しようとするが、彼女は冷めた目を見せると私の目の前で立ち止まった。
「言い訳はいらない。邪魔すればどうなるのか教えたわよね?」
彼女は私の肩を掴むと、思いっきり引っ張り壁へ押し付ける。
鈍い痛みに顔を歪ませると、赤い瞳が間近に迫った。
目を逸らせられず、恐怖に体が震え始めると、冷たい手が首に触れた。
「なんであんたが天斗様と一緒にいるの?彼のパートナーは私なのよ。なのにどうしてあなたが……なんで邪魔するのよ」
首に巻かれた手に力が入ると、痛みと息苦しさで視界が霞んでいく。
彼女の手を止めようと掴むが、細い腕はビクともしなかった。
「あぁ……ッッくぅ……るしい……違う……ッッ邪魔をする気は……ッッうぅっ」
「このまま殺してやりたいところだけど……それは許されない……。私は彼の傍に居たいだけなのに……彼が必要なだけなのに……ここで出会えなければチャンスはもうないのに……」
視界が暗闇の染まる中、彼女の声が頭に響く。
彼女の狙いは天斗だったってこと?
「待って……ッッはぁ、あぁ……ッッ、天斗なら……ッッ紹介するわッッ」
途切れそうになる意識を必死に奮い立たせ、そう言葉を紡ぐ。
するとさらに力が入り、呼吸が出来なくなっていった。
「はぁ?紹介するですって?天斗なんてわき役どうでもいいのよ。私が欲しいのは誠也様よ」
その言葉を最後に意識が薄れていくと、そのまま私は闇の中へと落とされてしまった。
ハッと目覚めるとそこは控室で、立花さくらの姿はない。
ソファーから立ち上がり辺りを見渡すと、空いていたはずの扉は閉まり、先ほど落ちたはずの置物は傾いた形跡もなくそのままだった。
さっきのは夢……?
鏡の前へやってきて首元を見てみると、絞められた跡は見当たらない。
ふと時計を見上げると、天斗が出て行ってから1時間程経過していた。
最近色々あって疲れていたから……転寝をしてしまったのかしら?
それにしてもひどい……悪夢を見たわ……。
天斗はまだ戻っていない。
私は扉を開けると、外の様子をそっと窺った。
先ほど近くいた警備員の姿はなく、シーンと静まり返っている。
気になり恐る恐る外へ出てみると、廊下を進んで行く。
会場の表口へ出ると、そこに兄の姿があった。
兄の周りには二条に華僑、日華が集まっている。
楽しそうに談笑する彼らを見つめていると、その中心には立花さくらが笑みを浮かべていた。
どういうことなの……?
信じられない思いで見つめていると、立花さくらが私の姿に気が付いた。
すると彼らもこちらへ顔を向けると、その瞳には憎しみが浮かんでいる。
「彩華……?どうしてこんなところにいるんだ。さっさと帰れ」
兄は眉を寄せ私を睨むと、冷たい声で言い捨てた。
見た事の無い冷めた瞳に私はビクッと肩が跳ねると、兄は私から立花さくらを守るように背中へ隠す。
それに続くように、二条も華僑も日華もこちらを睨みつけると、ピリピリとした空気が漂い始めた。
「一条、こんな場所まで追いかけてきて、さくらにちょっかいを出しに来たのか?本当に懲りないな」
「さくらさんをこれ以上傷つけるのはやめてください」
「女の嫉妬ほど醜いものはないと思うよ」
なんで……どういうことなの……?
彼らの後ろに守られるように佇む立花さくらと視線が絡む。
紅く血のような瞳。
よく見てみると、彼らの瞳にも薄っすらと瞳が赤く色づいていた。
まさか……奏太くんと同じようにみんな操られてしまったの?
さっきのは夢じゃなかった……?
彼女の邪魔をしたから、嘘……でしょ……。
私が築き上げてきたものを全てが奪われてしまったの?
もうお兄様の笑顔を見ることは出来ないの?
一条と華僑君と何気ないひと時も過ごせなくなってしまうの?
日華先輩、俊くんにももう会えなくなってしまうの?
嫌……いやっ……どうして……
彼らの冷たい瞳を見つめていると体の震えがピタッと止まった。
負の感情が胸にこみ上げ、憎しみに囚われていく。
そこは私の場所だったのに。
大切な彼らをを奪われてしまった。
返して、返して、返して!!!
そこは私の場所なのよ!!!!!
今まで感じた事のない強い感情に何も考えられない。
こうならないように頑張ってきたはずなのに……抑えられない感情が溢れ出した。
立花さくらが憎い、憎い、憎い。
許さない……許せないわ……。
深い深い闇に心が落ちていくのがわかる。
私は抗うことなく身を任せたのだった。
紅い瞳はじっと私を見下ろしたまま。
その瞳に身震いし立ち上がると、思わず口を開いた。
「どうしてここにいるの……?」
「それはこっちの台詞よ」
立花さくらは静かに控室の中へ入ってくると、背筋にぞわっとした悪寒が走る。
近づいてくる彼女から逃げるように後ずさっていると、棚に背が触れガタンッと音が響いた。
衝撃で棚にあった陶器の小さな置物がグラッと傾くと、床に激突しガシャーンと音を立て破片が辺りに散らばる。
彼女は散らばった破片を気にすることなく踏みつぶした。
「なんであなたなの。ここは私の場所なのに……ありえない。邪魔しないでと何度も言ったわよね?それなのに信じられない」
何が何だかわからない。
もしかして今日の出来事は、ゲームのイベントだったということなの?
「ちっ、違うの。邪魔したわけじゃないわ!私は無理矢理連れて来られただけッッ」
必死に弁解しようとするが、彼女は冷めた目を見せると私の目の前で立ち止まった。
「言い訳はいらない。邪魔すればどうなるのか教えたわよね?」
彼女は私の肩を掴むと、思いっきり引っ張り壁へ押し付ける。
鈍い痛みに顔を歪ませると、赤い瞳が間近に迫った。
目を逸らせられず、恐怖に体が震え始めると、冷たい手が首に触れた。
「なんであんたが天斗様と一緒にいるの?彼のパートナーは私なのよ。なのにどうしてあなたが……なんで邪魔するのよ」
首に巻かれた手に力が入ると、痛みと息苦しさで視界が霞んでいく。
彼女の手を止めようと掴むが、細い腕はビクともしなかった。
「あぁ……ッッくぅ……るしい……違う……ッッ邪魔をする気は……ッッうぅっ」
「このまま殺してやりたいところだけど……それは許されない……。私は彼の傍に居たいだけなのに……彼が必要なだけなのに……ここで出会えなければチャンスはもうないのに……」
視界が暗闇の染まる中、彼女の声が頭に響く。
彼女の狙いは天斗だったってこと?
「待って……ッッはぁ、あぁ……ッッ、天斗なら……ッッ紹介するわッッ」
途切れそうになる意識を必死に奮い立たせ、そう言葉を紡ぐ。
するとさらに力が入り、呼吸が出来なくなっていった。
「はぁ?紹介するですって?天斗なんてわき役どうでもいいのよ。私が欲しいのは誠也様よ」
その言葉を最後に意識が薄れていくと、そのまま私は闇の中へと落とされてしまった。
ハッと目覚めるとそこは控室で、立花さくらの姿はない。
ソファーから立ち上がり辺りを見渡すと、空いていたはずの扉は閉まり、先ほど落ちたはずの置物は傾いた形跡もなくそのままだった。
さっきのは夢……?
鏡の前へやってきて首元を見てみると、絞められた跡は見当たらない。
ふと時計を見上げると、天斗が出て行ってから1時間程経過していた。
最近色々あって疲れていたから……転寝をしてしまったのかしら?
それにしてもひどい……悪夢を見たわ……。
天斗はまだ戻っていない。
私は扉を開けると、外の様子をそっと窺った。
先ほど近くいた警備員の姿はなく、シーンと静まり返っている。
気になり恐る恐る外へ出てみると、廊下を進んで行く。
会場の表口へ出ると、そこに兄の姿があった。
兄の周りには二条に華僑、日華が集まっている。
楽しそうに談笑する彼らを見つめていると、その中心には立花さくらが笑みを浮かべていた。
どういうことなの……?
信じられない思いで見つめていると、立花さくらが私の姿に気が付いた。
すると彼らもこちらへ顔を向けると、その瞳には憎しみが浮かんでいる。
「彩華……?どうしてこんなところにいるんだ。さっさと帰れ」
兄は眉を寄せ私を睨むと、冷たい声で言い捨てた。
見た事の無い冷めた瞳に私はビクッと肩が跳ねると、兄は私から立花さくらを守るように背中へ隠す。
それに続くように、二条も華僑も日華もこちらを睨みつけると、ピリピリとした空気が漂い始めた。
「一条、こんな場所まで追いかけてきて、さくらにちょっかいを出しに来たのか?本当に懲りないな」
「さくらさんをこれ以上傷つけるのはやめてください」
「女の嫉妬ほど醜いものはないと思うよ」
なんで……どういうことなの……?
彼らの後ろに守られるように佇む立花さくらと視線が絡む。
紅く血のような瞳。
よく見てみると、彼らの瞳にも薄っすらと瞳が赤く色づいていた。
まさか……奏太くんと同じようにみんな操られてしまったの?
さっきのは夢じゃなかった……?
彼女の邪魔をしたから、嘘……でしょ……。
私が築き上げてきたものを全てが奪われてしまったの?
もうお兄様の笑顔を見ることは出来ないの?
一条と華僑君と何気ないひと時も過ごせなくなってしまうの?
日華先輩、俊くんにももう会えなくなってしまうの?
嫌……いやっ……どうして……
彼らの冷たい瞳を見つめていると体の震えがピタッと止まった。
負の感情が胸にこみ上げ、憎しみに囚われていく。
そこは私の場所だったのに。
大切な彼らをを奪われてしまった。
返して、返して、返して!!!
そこは私の場所なのよ!!!!!
今まで感じた事のない強い感情に何も考えられない。
こうならないように頑張ってきたはずなのに……抑えられない感情が溢れ出した。
立花さくらが憎い、憎い、憎い。
許さない……許せないわ……。
深い深い闇に心が落ちていくのがわかる。
私は抗うことなく身を任せたのだった。
0
お気に入りに追加
829
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる