乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

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乙女ゲームの世界

遅れた新学期

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そうして目覚めた私は残り少ない夏休みを病院で過ごすことになった。
何もすることはない病室は暇で仕方がないけれど……とりあえず勉強でもしまようかな。
そんな日々が続く中、お見舞いに二条や香澄ちゃん、日華先輩、華僑くん、そして俊くんが面会に来てくれる。
でも……花蓮さんの姿はまだ一度も見ていなかった。

面会に来てくれた彼らから聞く限り、どうやら北条家は……条華族から破門にされたらしい。
お兄様の怒りを目の当たりにした今、この処置は当然の事だろう……。
あぁ……立花さくらが奏太くんを操ったという事を、証明できればよかったのだけれども……こんな非現実的な事を証明できる気がしない。
立花さくらに問いただしても、すっとぼけそうだし……。
しかし北条家が行っていた事業は全て一条家が管理するようになり、北条家をそこで雇う形にしたようだ。
奏太君は海外の学園へ進学するように命じ、当分帰っては来られない。
路頭に迷わせなったのは……きっとお兄様の恩情なのだろう。

そうやって色々と話を聞いていく中、花蓮さんの状態だけは未だはっきりとはわかっていなかった。
どうやらお兄様と行動を共にしているようだけれど、それ以外何の情報も入ってこないんだよね。
お兄様に尋ねてみても、教えてくれなし……。

こうなったら自分の目で確認しなければと考えたけれど……入院している以上どうしようもない。
もう元気だとお兄様に進言しても、退院はさせてもらえなかった。
これは前回も同じ状況になったから、わかっていたことだけどね……。
最終的にこっそり抜け出そうと考えたんだけど、すでにお兄様に手を打たれ、扉は外からカギがかけられていた。

自業自得とは言え、閉じ込められるように病室内で安静にと過ごす中、私は赤く染まっていく木々を茫然と眺めていた。
もう夏休みは終わっている。
私も早く退院して……花蓮さんの様子を確認したい。
そういえば……北条家の罰はわかったけれど……立花さくらはどうしているのかな。
それに彼女は……この現状をどう思っているのかしら。
彼女のせいで奏太君が……。

そう思うと、胸が締め付けられるように痛み始める。
どうして彼女はあんなひどい事をしたのだろうか。
彼女は主人公で、私はわき役でしかない。
それに彼女の邪魔にならないように……私は婚約者も作っていないし、学園も変えたわ。
まぁ……そのことで皆が学園を変えるとは思わなかったけれど……。

もしかして私はエイン学園へ戻ったほうがいいのかしら……。

この出来事全ては……私が彼女から逃げた罰……?

次は文化祭と言っていた……きっと何か企んでいるはず……よね。

私はこれからどうすればいいのかな……。


様々な事に頭を悩ませる中、ようやくお兄様から退院の許可が下りると、私は嬉しさに一人ガッツポーズをしていた。
はぁ……ようやく退院できる……。
もう夏休みはとっくに終わっている。
……学園で花蓮さんと会えるかな。
そんな事を考えながらお兄様と一緒に屋敷へ戻ると、数週間ぶりの家の匂いに、ほっと胸をなでおろしたのだった、


そうして翌日、私は制服へ着替えると、カバンを下げ玄関へと向かっていく。
花蓮さんは居るからしらね……。
居なかったら家を訪ねてみようかな。
そんな事を考えながらに門を抜けると、なぜかそこには花蓮が佇んでいた。

「おはようございます、彩華様。お迎えにあがりましたわ」

「かっ、花蓮さん……どうしてここに!?それよりも大丈夫かしら?お兄様がまた……その……」

私は不安げに顔を上げながらに、花蓮の元へ走り寄ると、彼女は深く深く頭を下げた。

「彩華様……こんなバカな私の事を心配して頂いて、ありがとうございます。この度は弟がご迷惑をお掛けして申し訳ございません。どんな謝罪を言葉にしても許すことは出来ないほどの罪でございます。しかし私花蓮は、生涯あなたの従者としてお傍に居ることを許して頂きたいの……。今度は…私が必ず彩華様をお守りしますわ。それが例え肉親であっても、私は彩華様を守ることを一番に考えます」

「かっ、花蓮さん、頭を上げて。そんな事してもらう必要ないよ!」

「彩華、彼女を傍に置きなさい」

突然に降ってきた声に振り返ると、そこには制服姿のお兄様が佇んでいた。

「どうして……お兄様……?花蓮さんは私の友達で……こんな……」

「わかっているよ、だからこれぐらいの罰ですんでいるんだ。本当なら路頭に迷わせ、そのまま自殺したほうが良いと、思わせるぐらいには追い込んでいるよ。でもそれをすれば彩華が悲しむだろう。だから君が入院している間、彼女を僕の傍で学ばせたんだ……君を守れるようにね。本当はプロに頼みたいところだけれど、それだと彩華は嫌がるだろ?でも彼女なら……ね?」

「そんな……っっ」

衝撃的な言葉に声を詰まらせる中、花蓮さんはゆっくりと頭を上げると、真っすぐに私を見つめた。

「彩華様、これは私の願いでもあるの。私はあなたに何度も何度も迷惑をかけて……それでもこんな私見捨てなかったあなたを……本当に尊敬しているわ。だからどうか……お傍に居ることを許してください」

真剣なその瞳に私は小さく唇を噛むと、そっと視線を落とす。
そうして静かに頷くと、私は彼女に連れられるようにお兄様と一緒に車へと乗り込んだ。


そうして学園の近くへと到着すると、花蓮さんはニッコリと笑みを浮かべながらに私の隣へと並ぶ。
お兄様は爽やかな笑みを浮かべながらに、先に学園へ向かっていった。
去っていくお兄様の背が小さくなると、私は花蓮へと視線を向ける。

「ねぇ、花蓮さん……さっきの話、私は大丈夫よ。お兄様が無理矢理させているなら、私が何とかするわ。だから……」

「いえ、これは私の意志ですわ。彩華様は頭も良くて、運動能力も素晴らしいですけれど……よく抜けていらっしゃいますもの。特に男性に関しては……。それに厄介な二条様の妹さんも何とかしないといけませんしね。私はそれを全てカバー致しますわ」

キラキラと笑みを浮かべる彼女の姿に、私は苦笑いを浮かべると、小さく息を吐き出した。

「あの……花蓮さん……本当にいいの?お兄様に脅されていたりしていない……?」

「そんな事、絶対にありえませんわ。一条様は破門になった北条家を気にかけて下さってますの。それに私は彩華様の傍に居ることが出来て、とても幸せですわ」

そうきっぱりと言い切る彼女の瞳は真剣そのものだった。
はぁ……やっと出来たと思った友達が……いつの間に従者に……。
そう改めて思うと、私は自然と大きなため息をついていた。
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