乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

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乙女ゲームの世界

夏の終わり

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ふと気が付くと、私はいつもの真っ白な世界に佇んでいた。
グルリと辺りを見渡してみると、白以外何も映らない世界。
ここで待っていればきっと、また彼女が現れるのだろう。

私は茫然とその場に立ち尽くしていると、目の前に薄っすらと人影が浮かび上がる。
それはいつも同じ光景で、私は真っすぐに人影を見つめていると、そこにはやはりの姿が現れた。

「はぁ……また来たのね。あなた死にかけすぎではないかしら」

呆れた様子を見せるその姿に、私は気まずげに笑みを浮かべると、小さく笑って見せる。

「何度も何度もこの場所へやってくるなんて……一体何をしているの?」

「いや……これは不可抗力と言いますか……はははっ」

私は誤魔化す様に乾いた笑みを浮かべて見せると、彼女は大きなため息吐いた。

「とりあえずさっさと戻りなさい」

そう彼女は顔を上げると、私の前へとゆっくりと近づいてくる。
すると彼女は何かに気が付いた様子で大きく目を見開いたかと思うと、私の瞳を覗き込むように顔を寄せた。

「あなた……その瞳の色……どこで手に入れたの?どうして……あなたが……手に入れられるはずなどないのに……」

瞳?
私は彼女の言葉に首を傾げていると、彼女はぶつぶつと何かを呟いている。
そっと耳を澄ませてみると、微かな声が耳に届いた。

「これは……シナリオが変わってきているのかもしれないわね……。もしかしたら……本当に……」

シナリオが変わっている?
どういう事だろう……。
もしかして彼女もこの乙女ゲームを知ってるのかな?
いや……でも以前主人公と口走った時、彼女はわからない様子だった。
ならシナリオとは一体何の事だろう?

彼女の意味深な言葉に考え込んでいると、次第に声が小さくなっていく。
徐に顔を上げてみると、彼女の姿は薄っすらと白の世界へ溶け込み始めていた。
そのまま白い世界が私を覆っていくと、意識がどこかへと引っ張られていった。

ハッと目覚めると、そこは病院だった。
見覚えのあるその風景に、以前も入院したことがある、日華病院の一室だとわかる。
はぁ……このシーン何度経験した事だろう……。
私……倒れてばかりいるなぁ……。

頭がぼうっとする中、辺りへ視線を向けてみると、病室は薄暗く……きっと夜のだろう。
シーンと静まり返った部屋の中、私はゆっくりと体を持ち上げてみると、窓からは月明かりが差し込んでいる。
そっと窓の外へ目を向けると、月は大分高く、夜が更けていることに気が付いた。
そのまま少し欠けた金色の月を茫然と見上げる中、ふとガラガラと扉の開く音が耳に届くと、私はゆっくりと振り返った。

「あやか……、彩華!!!」

そう私の名を呼んだ彼はすぐに私の傍へ駆け寄ってくると、優しく私の体を包みこむ。
温かいその熱に安らぎを感じる中、そっと瞳を閉じると、私は彼に体を預けていった。

「お兄様」

「よかった……目が覚めて本当によかった……」

「心配をかけて……ごめんなさい。ところで私は……」

そう言葉にすると、フワッと先ほどまでの記憶が一気によみがえってくる。
奏太君に追いかけれ、襲われたあの記憶。
真っ赤な瞳に……力で抑え込まれて……抵抗できなくて……痛みと恐怖がこみ上げる。
記憶が鮮明に頭の中で描かれていくと、私の体は小さく震えていた。

その様子に気が付いたのか……お兄様は慌てた様子で体を離すと、俯く私の頭を優しく撫でる。

「怖かっただろう……。もう大丈夫だから……。彩華を助けることが出来なくて、ごめん」

私は自分の体を抱きしめると、そんなことないと首を何度も振ってみせた。
お兄様はいつも私を助けてくれる。
迷惑をかけてばかりの自分が恥ずかしい。

そうして静寂が二人を包む中、私はハッと顔を上げた。

「お兄様、奏太君は!?彼は大丈夫?」

そう必死に問いかけてみると、お兄様はスッと目を細めながらに不機嫌な表情を浮かべて見せる。

「君はいつも……どうして自分事よりも他人の心配するんだろうね。彼の心配無用だよ。彼はもうここにはいないからね」

「それってどういう意味……?待って、奏太君は何も悪くないわ。お兄様……これは事故で、だからその!!」

「彩華がどれだけ彼を庇おうとも、本人が認めてる。君を……襲った事実を。そんな彼を野放しにしておく訳にはいかない」

「違うわ!!!違うの、あれは彼の意思じゃない……ッッ」

立花さくらに操られて、そう言葉を続けようとするが……こんな事を言って信用してもらえるとは思えない。
私はそこで言葉を飲み込むと、縋り付くようにお兄様へ顔を寄せた。

「彼は何も悪くないわ……だからお願い……」

「彩華のお願いでも……これは聞けないよ。僕が君を発見した時、どんな気持ちだったかわかるかい?服は引き裂かれ、腕には押さえつけらたのだろう真っ赤な跡が付いていて……体中が傷だらけで、打撲痕もいつくもあった君の姿を。そんな君の隣で茫然と奏太は座り込んでいたんだ」

静かに語られるその言葉には、深い怒りと悲しみが伝わってくる。
そっと顔を上げてみると、暗く揺れるお兄様の瞳には憎しみの炎が浮かんでいた。

「……っっ、ごめんなさい。なら……花蓮さんや……北条家は……どうなっているの……?」

「北条家にもそれ相応の罰は与えているが……つぶしてはいないよ。今回の事に関しては、何も落とし前を付けないという事は出来ないからね。もちろん北条に関しても同じだ」

花蓮さん……。
私はお兄様の言葉に口を閉ざすと、薄暗い病室に静寂が広がっていった。
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