乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

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乙女ゲームの世界

想い続ける代償 (歩視点)

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彩華の深い寝息が聞こえ始めると、ギュッと握りしめられていた手が落ちていく。
僕はほっと胸をなでおろすと、深く息を繰り返す彼女へと視線を向けた。

「彩華……」

呼びかけてみると、聞こえているのか……彼女は表情を緩め、小さく笑みを浮かべる。
そんな姿が愛おしくて……僕はそっと彼女の頬に手を添えた。
熱の為か頬は熱く、呼吸はいつもよりも荒い。
そんな彼女をじっと眺めている中、絹のように滑らかな頬の赤みに……艶やかに小さく動く真っ赤な唇に目を奪われた。

(嫌いにならないで……)

先ほどの彼女の言葉が蘇ると、僕は無防備な彼女の唇へと徐に手を添わせる。
僕が君を嫌いになるはずなんてないだろう……。
こんなにも君を想い続けているのだから……。
むしろ僕は……君がを誰か選んで、僕の傍から離れていくであろう未来に、毎日怯えている。
そうなってもきっと僕の気持ちは、変わることはない……。
兄という存在の僕は、君と離れることは出来ないのだから……。
どうにもならない想いに、僕の心に鈍い痛みが走った。

「大丈夫、覚悟は出来ている……」

僕は自分に言い聞かせるように、そう言葉をこぼす。
そのままずっと彼女を眺めていると、ふと先ほど慌てた彼女の様子が頭をよぎった。
焦って僕の首に巻き付いた彼女の柔らかい感触が思い起こされると、僕は自分の手に視線を向ける。
彼女は本当に無防備だ……、僕がこんな想いを抱いているなんて、夢にも思っていないのだろう……。
あのままずっと……彼女を僕の腕の中に閉じ込めてしまいたかった……。
覚悟はしていても、やはり彼女の事になるとつい欲が出てしまうな……。

先ほどのお粥をねだる彼女の姿もそうだ。
いつもの恥ずかしがる姿も可愛いが、自分から口を差し出した彼女に、思わず手が出そうになった。
僕はその欲望を何とか抑え込むと、無理矢理笑みを浮かべた。
彼女はキョトンとした様子だったから、きっと気づいていないだろう。


ふと静かな部屋に響くカチカチとした音に視線を向けると、時間は正午前になっていた。
昨日、突然当主から連絡で正午すぐに人と会う事になったが、先ほど彩華が診察を受けている間に遅れると連絡済みだ。
もう少し大丈夫だな……。
先ほど彼女が言った[行かないで]との言葉が頭によぎると、僕はまた彩華に視線を戻す。
珍しい彼女の弱った姿に、愛しい想いがこみ上げてくる。
守ってあげたい……ずっと傍に居るよ……君が望むなら。
でもこのまま僕が仕事をドタキャンすれば、きっと起きた彼女は怒るだろう。
僕は一度深いため息を吐くと、彼女の額から流れる汗を拭きとっていく。
寝苦しいのか、彼女は小さく顔を歪めたかと思うと、タオル越しに僕の手をギュッと掴んだ。
そんな姿がまた愛おしくて、僕は自然と彼女へ顔を寄せる。

「彩華……君はなんて残酷なんだろうか……」

ポロリと零れ落ちた言葉に、僕はサッと彼女から体を離した。
僕は何を言っているんだ……。
この思いは僕の心の中で閉まっておくと、何度も何度も言い聞かせてきた。
彼女が僕を只の兄だと思っていても、僕は彼女を想い続ける。
それがどんなに苦しい事だろうと……。

君にあの日、小さな小屋の世界から救い出されてから、僕はずっと傍で君を見ていた。

だからこの気持ちも忘れたいなんて思わない……。

どんどん大きくなる気持ちに、僕はそれで良いのだと納得したじゃないか。

君の一番になれなくても、僕の一番は永遠に君だけなんだ。

「彩華、彩華、あやか……」

自然と口から溢れる彼女の名前に、自分の中の思いが、一緒に溢れ出そうになる。
君は誰を選ぶの……?
僕が君の一番近くに居られるのは、君が誰かを選ぶまでだ。
君が誰かを選んで、その誰かがこの場所にいると考えると、心が張り裂けそうになるほど辛い。
でもそれに耐えられないのであれば、僕は兄として彼女と居続けることができなくなってしまう。

眠る彼女の傍で、どうすることもできない想いに心を悩ませている中、僕の心は沈んでいく。
どうして僕は君の兄として生まれてしまったのだろう……。
どうにもならない想いに、僕の視線はまた彼女を求める。
今、彼女が眠っているこの瞬間だけ……家族ではなく、一人の男として……。
僕は徐に立ち上がると、そっと彼女の顔を覗き込む。
薬が効いてきたのだろうか……先ほどよりも幾分柔らかい表情した彼女へ、吸い込まれるように顔を近づけた。

間近でみる彼女は昔のあどけなさが残るが、美しい女性へと成長していた。
彼女の笑う姿も、泣く姿も、怒る姿も……全てが愛おしい。
このまま閉じ込め、誰の目にも触れさせず、僕だけを見させたい……と考えるほどに。
そんな独占欲が心の奥底から湧き上がってくると、僕はそのまま彼女へ体を傾けていく。

チュッ

軽いリップ音が響く中、彼女の真っ赤に潤った唇から目を逸らすことができない。
僕はそのまま眠る彼女を腕に閉じ込めると、彼女の鼓動を感じる。
今だけ……今だけは……、許してほしい。

「誰よりも、君を愛してる」

そう口にすると、僕はもう一度彼女の唇に甘いキスを落とした。
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