乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

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乙女ゲームの世界

暗闇の中には

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***********屋敷へ戻った花蓮と日華***********

別荘で医学書に目を通していると、突然リビングの扉が大きな音を立てて開け放たれた。
扉の前には今にも泣きそうな表情をした花蓮の姿が映る。
日華はすぐに体をおこし彼女へ駆け寄ると、肩で息をする彼女を優しく宥めた。

「花蓮ちゃん大丈夫?どうしたの?彩華ちゃんは?」

「はぁ、はぁ、日華様!!……お願い……彩華様を助けて!!!!」

そう悲痛な声を上げた花蓮は、ポロポロと涙をこぼす。

「彩華様が……溺れている男の子助けに……海へ……お願い早くしないと!!!」

「場所はどこ?」

日華は花蓮から場所を聞き出すと、すぐに別荘を出て行った。

彼女に言われた場所へ到着すると、溺れていたであろう水浸しの男の子が泣きながら母親と抱き合っていた。
日華はすぐに二人の元へ走り寄ると、ここに居ない彩華事を確認する。

「助けて頂いた女性が……岸から離れてしまって……」

海を注意深く見渡すと、岸から遠く離れた場所で水面に顔を出す小さな彼女の姿を見つけた。
そのまま勢いよく海へ飛び込むと、彼女が見えた先へ必死に波を掻き分けて行った。

波は静かなように見えたが、いざ泳ぐと波が幾度も襲ってくる。
日華は必死に水を掻き分けていくと、水中で彼女の姿を見つけた。
彼女の姿に日華は急いで手を伸ばすが……手が触れる前に、彼女の体は力なく海底へと落ちていく。
彩華ちゃん!!!
俺は一気に波をかくと、力なく水中で浮かぶ彼女の体を優しく抱きしめ、急いでのぼっていった。
水面へ顔を上げると、岸から大分遠ざかっている。
あたりを見渡すと、近くに聳え立つ岸壁に、大きな空洞を見つけた。
波の流れから考えて……岸に行くより安全だな。
日華は彼女をしっかり抱え込むと、波に逆らわぬよう慎重に水を掻き分けていった。


*********ここからは彩華視点に戻ります。***********

ふと目を覚ますと、私は見慣れた真っ白い部屋に佇んでいた。
辺りを見渡すと、無音の世界に人影がゆっくりと姿を現す。

「あなたまたここに来たの……?もう全く何度死にかけるのよ……」

呆れた声に顔を向けると、彼女は深いため息をついていた。

「さっさと戻りなさい。ここへ来たという事はまだ戻れる」

女性は私に背を向け去って行く姿に口を開くと、いつも出なかったはずの声が音となって彼女へとどいた。

「待って!……あなたはヒロインについて何か知っているの?」

ヒロイン……?彼女はよくわからないといった様子で首をかしげると、おもむろに振り返る。

「立花さくら、彼女について何か知ってる?」

その名に彼女は目を見張ると、悲し気な表情で視線を逸らせた。

「知っているわ……でも教えてあげられないの。だって私には、その権利がないもの」

彼女の言葉に反論するように口を開くと、もう私の口から音が出ない。

《待って、待ってよ、お願い!権利って何なの?何でもいいのよ、彼女のことを――――》

息遣いだけが真っ白な世界に響く中、彼女の姿が薄れていく。

「もういいでしょう、早く戻ってあげなさい……彼が待っているわ」

その言葉を最後に、私の周りは徐々に闇へのみこまれていった。





ポタポタ、ポチャンと水の音が耳に響く。
意識が浮上してくると、肌に触れるゴツゴツとした岩の感触に痛みを感じた。
そっと瞼を持ち上げてみると、薄暗い中ドーム状に囲まれた岩。
ここは……?
朦朧としながら体を持ち上げ周りを見渡すと、どうやら洞窟のようだ。
水音が反響する中、足跡が交ざったかと思うと、振り向く前に体を抱きしめられる。
冷えた体に熱が伝わると、心地よさに体の力をぬいた。

「よかった、本当によかった……」

声に顔を上げると、そこには悲痛な表情した日華の姿。
よく見ると、頭の上には犬のような三角の耳が生え、彼の背中越しに茶色いふさふさの尻尾が顔を出している。

「日華……せんぱい。あぁ、私溺れて……。ありがとうございます」

そう頭を下げると、彼はギュッと私を抱き寄せる。
離さないと言わんばかりの強い力に戸惑う中、彼は首筋へと顔を埋めると、獣耳がピョコピョコと動いていた。

「彩華ちゃん、君の正義感は素晴らしいと思う。俺の時もそうだ……、君のその強い心に俺は救われた」

私は日華先輩の胸の中、彼の絞り出すような声に、静かに耳を傾けた。

「でも自分の命を捨ててまで、助ける命は幸福になれない……。君はもっと自分を大事にするべきだ!君が居なくなれば悲しむ人がたくさんいる。だからもっと大切してくれ……頼むから……」

彼の懇願するような声に私はそっと彼の胸を強く押すと、見上げるように視線を向けた。

「心配をかけてしまってごめんなさい。……でも目の前に救える命があるのなら、放っておけないわ……」

「彩華ちゃん!!!」

咎めるように私の名を呼ぶ彼に、私はニッコリ笑みを浮かべる。

「私はね……ずっと、見て見ぬふりをして生きていたの。自分の保身のために……。でもね、そんな自分はひどく醜くて、何度も後悔して……。だから今の自分はそんな思いをしたくないの。身勝手なのかもしれない……それでも私は後悔しないよう生きていきたい」

そう口にすると、前世の自分が鮮明に蘇る。
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その後、彼女がどうなったのはわからない……けれど自分の中に大きなしこりが残った。
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それでも輪から外されることが怖いから、無理して笑顔を作ったんだ……。
そうして嘘を重ねて……私はそんな自分が大嫌いだった。

ゲームの世界の主人公のような勇気は私にはなくて、いつも自分の保身ばかりで。
でも……この記憶があるからこそ、次の人生は前世のようにはなりたくない……。

静かな洞窟の中、強い風が吹き抜けていく。
日華先輩は口を閉ざす中、私は濡れた長い髪にそっと手を伸ばし、水を絞っていく。
そんな私の様子に彼は体を離すと、強く拳を握りしめていた。
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