上 下
93 / 169
乙女ゲームの世界

窓辺から見える砂浜に:前編

しおりを挟む
無慈悲なビーチバレーにどうすることも出来ないまま、気がつけば大分日が傾き、夕日は半分ほど海へと浸かっていた。
二条は無慈悲なビーチバレーで扱かれ……終わったら時には、げっそりと疲れ果てていた。
そんな二条の様子に、ごめんねと申し訳なさそうに謝ると、いや……大丈夫だ……と力ない返事が返ってきた。

夕刻皆で別荘へ戻ると、ダイニングルームから美味しそうな匂いが鼻を擽る。
二条家が連れてきたシェフが作っているのだろう……、海で遊び疲れた私のお腹が小さく音を立てた。
各自夕食が出来上がるまで一度解散する中、私も部屋へ戻ると、薄暗い部屋に明かりを灯した。
脱衣所へ行き、軽くシャワーを浴び、ラフな格好へと着替える。
一息つくように大きく窓を開けると、生暖かい潮風にのり、心地よい波の音が耳に届いた。

そっと瞳を開けると、夕日はゆっくりと海の中に吸い込まれていく。
深い青に色を変えた海を呆然と眺めていると、ふと浜辺に小さな人影を見つけた。
人影は私の姿に気が付いたのだろうか、ゆっくりとゆっくりと砂浜を別荘の方へと歩いてくる。
徐々にシルエットが露わになり、長い髪が海風に靡いていた。
近くなるその人影にバルコニーから体を乗り出すと、その人影が外套の明かりに照らされた。

「やっほー、よかった。やっぱりこの別荘に来ていたのね」

可愛らしい声に私は大きく目を見開く中、彼女から視線を逸らせることができない。
どうして……どうして彼女がここに居るの……?
小さく震えだす体を何とか抑え込むと、手招きするような仕草を見せる彼女の様子に、私は急いで部屋から飛び出した。
階段を駆け抜け、別荘のエントランスに向かうと、そのまま外へと飛び出す。
先ほど彼女が立っていた砂浜まで走っていくと、彼女は楽しそうに微笑んでいた。

「ふふ、そんなに慌ててどうしたの?」

「どっ……どうして立花さんがここに……?」

彼女は私の言葉に目をスッと細めると、ゆっくりと近づいてくる。

「うーん、パーティーで会った時にも思っていたんだけど……まさか、何も覚えていないの?」

覚えていない……一体何の事?
私は何も答えることができないまま、じっと彼女を見つめていると、彼女はあきれた様子で深いため息をついた。

「はぁ……まさか、忘れているとはね。でもこれで納得できた。いつもとは違う学園に入学したり、あなたをエイン学園に戻すために差し向けた花蓮と仲良くなったり……。それに考えてもいなかった事をやってのけたりするのもね。おかしいと思った。あれだけ嫌がらせをされれば、あなたなら簡単に学園を辞めて戻ってくるはずだもんね。あ~すっきりした!……あぁ、記憶の事は気にしないで、知らないなら知らないで、私はあなたに説明してあげるつもりはないの。まぁ、この別荘に来ているって事は、何も変わっていないのだから」

「どういう事……、ねぇ……どうして、あなたは私の事を知っているの?」

「ふふ、気にしないでって言ったでしょ?まぁ予想外な事ばかりで、少し不安だったけれど……。ここであなたに出会えて安心したわ。時期に……二条君も華僑君も、それに日華君も一条君も……み~んな私の物になるんだから、ふふふ」

立花はそう言い捨てると、私から体を離し、じゃぁね!と可愛らしい笑みを浮かべながら、その場から姿を消した。

潮風が私の髪をなびかせる中、私は彼女の言葉にその場で凍り付いていた。
皆……私の傍からいなくなる……。
やっぱり彼らが攻略対象者なんだ……。
彼女から突きつけられた事実に、私は唇を噛むと、強く拳を握りしめた。
わかっていたじゃない……なのにどうして私はこんなに傷ついているの……?
心の片隅で彼らが……攻略対象者じゃないことを願っていたから……?
なんて馬鹿なんだろう……。

瞳から溢れ出る水を耐えるように、強く強く拳を握りしめる中、手の平に爪がくいこんでいく。
泣くな……泣くな……自分。
それよりも、考えなきゃならないことはいっぱいあるでしょ、切り替えなきゃ……。
はぁ、はぁ……私は何かを忘れているの……?
彼女と以前どこかで会った……?

そんなはずない、だって私は前世の記憶を取り戻してから、ヒロインの存在を知っている。
会えば絶対、気が付いたはず……。
それに記憶を取り戻す前の自分の事も私はしっかり覚えていた……、でもその記憶の中に彼女の姿はない。
当たり前だよね……幼い彩華は、ずっと習い事と家の行き来しかしていなかったのだから。
だから彼女と実際に会ったのは、あのパーティーが初めてのはずなのに……どうして彼女は私を知った風に言うのだろうか。

まさか……いや、彼女が前世の記憶の事など知りえるはずもない。
私は誰にもこの事を話していないのだから。
ならどうして……?
もし彼女も前世の記憶持ちなら、あんな言い方はおかしい……。
でも彼女は……この乙女ゲームのストーリーを知っている様子だった。
知っていないと……彼らが自分のものになるなんて言うはずないもの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...