乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

文字の大きさ
上 下
77 / 169
高等部

お兄様の罰

しおりを挟む
女子生徒たちを残し、兄に抱き抱えられ車へと乗せられると、病院へ行ってくれと運転手に指示を出す。
運転手は私の姿を見ると、心配気な表情を見せるがゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
車が動き始めると、兄は私を守るように抱いたまま、窓の外へと目を向ける。

「お兄様、助けてくれてありがとう。でも、その……さっきのは……?一体、彼女たちに何が起こったの?」

恐る恐る問いかけると、兄はこちらへ顔を向け、優し気な微笑みを浮かべた。

「彩華が知る必要はないよ」

「ダメッ、お兄様。ちゃんと話して」

私は縋るように体を寄せると、兄は深いため息ついた。

「しょうがないね……。僕は彩華が嫌がらせをうけている事に気が付いていた。だから嫌がらせをしている人物を探し出し、彼女たちの親へ圧力をかけただけだよ。本当は気づいてすぐにでも助けたかったんだけれど……ああいうのは、元を断ち切らないと意味がないからね」

「圧力……やりすぎだわ」

兄はスッと目を細めると、私の頬へ手を寄せ赤い傷痕に優しく触れた。

「やりすぎ?君にこんな怪我をさせて……。手を怪我したのも、彼女たちのせいだろう。それにこの間は、3階から植木鉢を落とされたそうじゃないか。あれが君にあたっていれば、大けがどころの話じゃない。立派な殺人未遂だよ。そんな愚かな人間は必要ない。できれば警察に突き出したいところなんだけれど、彩華は優しいから被害届を出さないだろう?なら社会的制裁で償ってもらう以外方法はないんだよ」

兄の言葉に私は息を詰まらせると、重い沈黙が車内を包み込む。

「主犯の北条は僕たち条華家の分家の分家、末端だ。あんな出来損ないが一族にいると思うとぞっとするよ。すぐに彼女の家は、破門にしておいたから安心するといい」

破門……。
ニッコリと微笑みを浮かべる兄に、私は口をつぐんだまま、複雑な思いが込み上げる。

「そんな顔しなくていいんだよ。彩華は優しすぎる。彼女達は自業自得だ、気にすることはない」

兄は宥めるように私の頭を撫でると、そっと額へキスをおとした。

そうして病院へ着くと、私は診察を受け、何の異常もないと診断された。
けれど兄は暫くは安静にと、一度屋敷へと戻る。
久しぶりに会う母は私の姿に顔を緩めると、温かくむかえ入れてくれた。

屋敷で大人しくしていると、あの時見た彼女たちの青ざめた表情が何度も浮かぶ。
お兄様が手を回したのなら、きっと彼女たちはもう学園にはいないだろうなぁ。
彼女たちは大丈夫なかな……いや、大丈夫じゃないよね。
一条グループは大きい。
あそこにいた彼女たちの家族が仕事をしているのなら、必ず一条グループとはどこかでつながるだろう。

そこそこ過激な嫌がらせだったとは思うけど、私はそこまでの制裁は望んでいない。
嫌がらせをやめ、関わらないようにしてくれるだけでよかった。
だって事の発端は……私がエイン学園ではなく、サクベ学園に入学したから――――。

スッキリとしない気持ちのまま屋敷で過ごしていると、私の元へ花堂家が主催するパーティーの招待状が届いた。
花堂家とは条華族の分家だ。
招待状を裏返すと、美しい庭園での立食パーティー光景がプリントされていた。
この風景どこかで……?
既視感を覚え写真をじっと眺めていると、乙女ゲームの画面が脳裏にチラつく。
そうだ、乙女ゲームのスチル。
アルバムの中に保存されていた写真。
招待状を見つめながら、ぼんやりと頭に浮かぶゲームの画面に、一般人の主人公がパーティーへ参加する姿を思い出した。

攻略対象者全員と出会ってからの最初のイベント。
その時点で一番好感度が高い人から、誘われるパーティーだったはず。
ゲーム序盤だから、甘い出来事などは起きなかったとは思うんだけど……そこで一気に親密度を上げることができた。
うーん、乙女ゲームに関わっているのなら、参加しないほうが賢明。
断りの返事を出そう、きっとお兄様が行くはずだしね。

私はむくりと立ち上がり、襖へと手を掛けると、何やら外が騒がしい。
どうしたのかと思い声のする方へ足を向けると、女中たちの慌ただしい様子が目に映った。
一人の女中を呼び止め声をかけると、女中は苦笑いを浮かべお嬢様はお部屋に居てくださいませ、と部屋に連れ戻されてしまう。
何だろう、気になる。

私は縁側から外へ出ると、人目を気にしながら騒ぎが大きい方へと近づいて行った。
そのまま隠れるように屋敷を抜け門へと向かうと、何やら人込みができいる。
野次馬のごとくこっそり近づいてみると、兄の冷たい声が響いた。
その声に立ち止まり岩影へ身を顰めると、息を殺し耳をそばだてる。

「何度来ても、会わすことはない。今更謝ろうが何も変わらない。さっさと帰れ」

「……ッッ。重々承知しております。ですが一条様に直接謝罪をさせて頂きたいのです。どうか、どうかお願いします」

ガタガタッと音が響くと、女中たちがお引き取り下さいと声を荒げる。
震える女の声に私は岩陰から顔を出すと、北条の姿があった。
私は岩陰から飛び出し、兄の傍へと駆け寄る。

「お兄様!」

私の声に集まっていた女中たちは大きく目を丸くする中、兄は露骨にため息をつくと表情を曇らせた。

「彩華、部屋に戻っていなさい」

「彩華様!この間は申し訳ございませんでした。私……ちゃんと謝りたくて……話をしたくて……ッッ」

兄は声を上げた彼女を強く睨みつけると、怯えた様子で口を閉ざす。
彼女の姿を改めて見ると、目を真っ赤に腫らし目の下にはクマ、顔色も悪く大分憔悴している。
そんな姿に私は兄へ詰め寄ると、彼女を庇った。

「お兄様、彼女は私のお客様でしょ」

そうニッコリと兄へ微笑みかけると、近くにいた女中へ、彼女を部屋に案内するようにお願いする。
女中は戸惑いながらも小さく頷くと、静かに涙を流す北条を連れ、屋敷へと入って行った。

「はぁ……彩華、わかっているのかい?」

兄の問いかけに私はもう一度ニッコリと微笑みを浮かべる。
そのまま何も言わず兄へ背を向けると、静かに屋敷の中へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...