乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

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高等部

エスカレート

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翌日、今日も朝早くに学園へやって来ると、次は上履きがなくなっていた。
下駄箱にはその代わりとでも言うように、中傷する言葉が書きなぐられた紙。
一番奥には手作りなのだろうか……(死)と書かれた紙が貼られた藁人形が、釘打ちされている。
想像していた画鋲より激しい……。
私はそっと下駄箱の扉を閉めると、こんなこともあろうかと、予備として持ってきていた上履きをカバンから取り出した。

教室にやってくると机に書きなぐられた文字を消し、黒く汚れたティッシュを捨てるためゴミ箱方へ歩いて行く。
そこには落書きされボロボロになった上履きがゴミの中に紛れ込んでいた。
よく見てみると一条と名前が書かれている。
私はそれ一瞥すると、拾うことなく目を逸らせ、静かに席へと戻った。

席で黙々と自習を行っていると、次々に生徒達が登校してくる。
すると綺麗な上履きを履いている私の姿に、大きく目を見張る女子と視線があった。
彼女は何やらコソコソ声を潜めると、苛立った様子で女子生徒の輪の中に入っていく。
女子生徒達の中央に立つ女は小さく舌打ちをすると、私を鋭く睨みつけていた。

毎朝繰り返されていた運動部の勧誘は、嫌がらせが始まるのと同時期になくなった。
嫌がらせを受けている私に関わりあいたくないのか、はたまた諦めたのか、それはわからないが、勧誘がなくなり嫌がらせも時には役にたつのだと、前向きに考えてみる。
教室内の生徒達もこんな私と関わりあいたくないのだろう、皆素知らぬ振りだった。

油性ペンの落書きは毎日続き、最近では机の中にゴミがギチギチ入っている事もよくある。
教科書は持ち帰っているので問題はない。
けれど学園に置いていた体操服がズタズタに切り刻まれたいたのには頭を抱えた。

どうしようかな、予備は洗い替えに一着しかない。
さすがに洗い替えは欲しい……無くしてしまったと言って新しい物を買ってもらおうかな。
はぁ……それにしても毎日毎日飽きないなぁ。
私の態度がいけないのだろうか。
でも弱気なところを見せても、調子にのらせるだけな気がする。
やっぱり反応しないのが一番虐めがいがないと思うんだけどなぁ。
そんな事を考えながら、一人ブラブラと校庭を歩いていると、突然目の前に女子生徒が飛び出してきた。

驚き思わず立ち止まると、ニヤリと笑った彼女は水が並々入ったバケツを見せ付ける。
そのまま勢いよく腕を振ると、水が飛び出しこちらに襲いかかった。
咄嗟に手で顔を覆うが、全く効果はなく、全身水浸し。
嘲笑う女の声が響くと、バケツを投げつけ去って行く。
制服が濡れ風が吹くと肌寒さを感じると、私は地面に転がったバケツを見つめた。

はぁ……着替えないとだね……。
ギュッとスカート絞り上げると、ボタボタと水が地面へと落ちていく。
髪も服もスカートに靴下、それに下着までびしょぬれだ。
私は濡れた髪をかきあげると、教室とは逆の方へと歩いていった。

チャイムの音が聞こえたが、私は教室に戻ることもできず、一人校庭裏で日向ぼっこをしていた。
着替えの体操服は教室にある。
しかしこのままの姿が廊下を歩けない。
教室へ行くまでには生徒達にこの姿を見られることになってしまう。
見られてしまえば、きっと二条や華僑くんの耳にも入ってしまうだろう。
そうなれば追及は避けられない。

花壇が並ぶ校庭裏で、サンサンと照らす太陽の芝生の上で、座り込む。
授業に参加できないのは心苦しいが、致し方ない。
ポカポカと温かい陽気にウトウトしていると、ガサガザとの音が耳にとどく。
ビクッと肩を跳ねさせると、恐々音がする方向へ顔を向けると、そこには、目を丸くした日華先輩の姿があった。

「彩華ちゃん!?こんなところで何してるの?」

「へぇ、あぁ、えーと、ちょっ、ちょっと日向ぼっこしていたらウトウトしちゃって……。気がついたらチャイムが鳴り終わってたんですよね。はははは」

咄嗟に思いついた苦しい言い訳を口にする。
日華先輩は私の傍にしゃがみこむと、濡れた髪へ手を伸ばした。

「これどうしたの?濡れているみたいだけど……それに服もスカートまで……」

その言葉にサッと彼から距離を取ると、誤魔化すように笑いを浮かべながら辺りを見渡した。
花壇の先にあるホースが目に入ると、私は咄嗟にホースを指さす。

「あっ、そのホースで花壇に水をあげていたら、濡れちゃって……えへへ」

窺うように日華へ視線を向けると、彼はいつもの軽い様子ではなく、真剣な瞳を浮かべて私の肩へ上着をのせた。

「えっ、あの、私は大丈夫です。それよりも日華先輩の上着が濡れちゃう!」

慌てて肩にかけられた上着に手を伸ばすと、日華先輩は私の手を捕えた。

「大丈夫、気にしないで。それよりもそんな濡れたままでいると、風邪をひいちゃうよ」

彼はニッコリと笑みを浮かべると、私の肩に優しく手を添える。
ありがとうございます、と小さく呟くと、日華先輩が小さく口を開く。
その姿にそっと彼から視線を逸らせ体を丸くし、芝生に座りなおすと、そっと空を見上げる。

「……日華先輩は授業に行かなくても大丈夫なんですか?」

「うん、今日は先生が休みでね、自習になったんだ」

話が終わってしまうと沈黙が二人を包み込み、虫の声が耳に届く。
気づかれてしまったのだろうか……。
いつもと違う彼の雰囲気に、私は押し黙っていると、制服へと目を向けた。
追及される前にこの場から離れたい。
そろそろ制服も渇いたし、教室へ戻ろうかな。
髪に触れてみると、幾分渇いた事にほっと息をつく。

「日華先輩、そろそろ行きますね。ブレザーはクリーニングしてお返します」

そっと肩にかけられていた上着に手を伸ばすと、その場で綺麗に折りたたんでいく。
私は日華先輩に深く礼をすると、教室へと足を向けた。
逃げるように校舎へ入り恐る恐る後ろを振り返ると、先ほど座っていた芝生にはもう彼の姿はなかった。


*********おまけ*********

日華は彼女の背中をじっと見つめながら、おもむろに立ち上がった。
いつもとは違う、困った笑みを浮かべた彼女の姿が頭をよぎる。
彼女が指をさしていたホースへと足を向けると、ホースは蛇口に繋がることなく、先端は地面に投げ出されていた。

日華はホースを持ち上げると、すぐにスマホを取り出し、ポチポチとメッセージを打っていく。
そのメッセージに表示された名前には【歩】と書かれていた。
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