乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

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兄への報告

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墓穴を掘り、彼らにサクベ学園へ行くと言ってしまった私は、家に戻るとすぐに兄の部屋へと向かった。
彼らにばれたしまったという事は、きっとお兄様の耳にもすぐに届くだろう。
その前に言わないと……。
私は兄の部屋の前で両頬を軽く叩くと、意を決して襖に声をかけた。

「し、失礼致します。お兄様、少し宜しいでしょうか……?」

「彩華かい?かまわないよ」

私は正座のまま引き手に指をかけ、静かに襖を開ける。
そっと顔を上げると、お兄様は本を片手に、普段していない眼鏡を掛けていた。
お兄様の眼鏡姿初めてみる。
いつもとは違うインテリな雰囲気に胸が小さく高鳴る。
見惚れていると兄がこちらへ顔を向け、おもむろに眼鏡をとった。

「お兄様、眼鏡をされるんですね。初めて見ました」

「あぁ、最近目が悪くなってきてね」

ニッコリ微笑みを浮かべた兄は、読んでいたであろう本を棚へ片づけると、私の前へ腰かける。

「それで、どうしたんだい?」

「あっ、えーと、そのですね……」

言いづらい、だけどもう決まっていることだし。
私から聞くより先に情報が入れば、怒ることは間違いない。
言いよどむ私を優し気な瞳で見つめる兄。

あぁ……怖い、でも言わなきゃ。
私は勢いよく顔を上げると、真っすぐ兄へ視線をあわせた。

「あの、早く話さなきゃて考えてたんだけど、なかなか言い出せなくて……。その、進学なんだけど……私はエイン学園へは行かないです。……他県にあるサクベ学園へ進学するの。お父様とお母様と話し合って、住む場所も決まってます。それでえーと、ご報告が遅くなってすみませんでした」

一気に話し終え、私は深く頭を下げると、気詰まりな空気が流れる。
ひぃぃぃぃ、この沈黙が一番堪える……。
カチカチカチと秒針の進む音が部屋に響き渡る中、兄は深く息を吐いた。

「やっと言ってくれたね、このまま話してくれないのと思っていたよ」

兄の言葉に私は大きく目を見開くと、おもむろに顔を上げる。

「お兄様……知っていたの……?」

「あぁ、彩華の事なら何でもお見通しだよ。まぁ当主が許している以上、僕にとめる権利はない。彩華の口から話を聞けて嬉しいよ」

「ごめんなさい……」

項垂れるように肩を丸めていると、お兄様が立ち上がり、私の隣へと腰かける。

「謝ることはないよ。僕はね、ただ彩華が心配なんだ。家を出て暮らすことには正直反対だよ。だけど君が望むのなら僕はとめない」

兄は私の頭を引き寄せると、胸の中でよしよしとあやすように撫でる。
私は温かい胸にもたれかかっていると、撫でる手が止まった。

「彩華、こんな時になんだけど、一つお願いがあるんだ。聞いてくれるかな?」

私はそっと体を起こすと、兄を見上げるように視線を向ける。

「私にできる事なら、何でも言って」

「ははっ心強いね、これは彩華にしか出来ないことなんだ」

優し気に笑う顔を見つめると、兄はそっと私の額へキスをおとした。





数日後、私はお兄様に言われた通り、あるブティックへ足を向ける。
兄のお願いは、今度の日曜日一日空けてほしいそんなことだった。
お願いなんていう程のことではない。

そんな事を考えながら鞄を片手に、ブティックへやってくると、そこにはラフな服装をした兄が待っていた。
彼は私を中へいざない試着室へ向かうと、静かにカーテンが閉められる。
着替えるのかな?まぁ、ブティックだしね。

私は試着室の中を見渡してみるが、洋服らしきものはない。
うーん、どうすればいいのだろう。
外の様子を窺おうとカーテンへ手を伸ばした刹那、数人の女性スタッフたちが試着室へと乗り込んできた。
な、なに!?

営業スマイルを浮かべるスタッフに思わず身構えるが、あっという間に身ぐるみがはがされ、別の服へと着替えさせられていく。
スタッフたちにされるがままもみくちゃにされること数分、頭にブロンドのウィッグが被せられた。
そのまま試着室にある鏡の前まで押されていくと、パタパタとメイクが始まる。
えぇ、こんな着飾ってどこへ行くんだろう?

鏡に座らされること数十分、ようやく女性スタッフが落ち着きだすと、私はグッタリした様子で鏡に視線を向けた。
すると、そこに映し出されたのは、全くの別人だった。
私は恐る恐る鏡へ手を伸ばすと、それは紛れもなく自分自身。
いつもの切れ長の目はプロのメイクで幾分落ち着き、眉毛も髪色に合わせ色が変えられ、日ごろ付けることない淡いピンクの紅。
金髪のロングウィッグをつけられ、目には緑のカラコンが入り、風貌が日本人離れして見える。
悪役令嬢ではない、新しい彩華がそこに居た。

服は落ち着きのあるシックな水色のワンピース。
首にはキラキラと光るネックレスがつけられている。
これは……誰?別人じゃない……。
今から一体何が始まるの……?
じっと鏡を見つめていると、サッとカーテンが開かれる。
おもむろに顔を向けると、そこには黒のタイトパンツに紺のテーラードジャケットを羽織ったお兄様が、爽やかな笑顔で佇んでいた。
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