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中等部

入院生活再び

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目を覚ますと、私はまた真っ白なベッドの上に居た。
だが病室は以前と違う部屋。
あれ……病院……?
そっと体を持ち上げると、肩に激痛が走る。
あまりの痛みにその場で手をつき、苦悶の表情を浮かべていると、誰かが私を支えるように、ゆっくりとベッドへと寝かせていった。

痛みから解放され顔を上げると、そこには白衣の男性が佇んでいた。
医者……初めて見る人だけど、どこかで見たような気もする。
白衣の男は40歳前半だろうか、綺麗な顔立ちに、長めの髪を後ろで一つに結んでいた。
目尻に皺をよせ微笑む姿は、大人の色気を漂わせている。
私は不躾にじっと白衣の男を見つめていると、彼の口元が弧を描いた。

「安静に、まだ傷はふさがっていないからね」

「……ッッ、はい……すみません」

白衣の男は私の傍へ腰かけると、肩の傷口に痛々しそうな視線を向ける。

「牙で傷つけられた傷は治りが遅いんだ。すまないね、私の息子が……」

息子……あぁ、日華先輩のお父様、だからどこかで見た気がしたのね。
ってそんなことよりも……ッッ。

「あの、俊君は大丈夫ですか?」

私は白衣の裾へ手を伸ばすと、彼は大きく目を見開いた。

「ははっ、自分の怪我のことよりも、私の息子の心配をしてくれるのか。安心しなさい、君のおかげで俊は無事だよ。あれから一度も発作を起こすこともない。次の満月で異変がなければ、退院させようと思っている」

その言葉に自然と笑みがこぼれ落ちる。
よかった、俊君治ったんだ。
私はほっと息を吐くと、俊君の眩しい笑顔が頭をよぎった。

「君は本当に不思議な子だね。ところで、あの薬草をどこで知ったんだい?」

彼の問いかけに思わず目を逸らせる。
ぐぅ、そりゃ聞かれるよね、でも本当のことは言えないし……。
私は誤魔化すように笑みを浮かべ言いよどんだ。
どう説明しようかな、夢に見たとか……うーん。

なんとも気まずい沈黙が流れる中、ガラッと扉が開くと、反射的に体を動かした。
するとまた激痛が走り、私はギュッと目を閉じベッドの上で蹲ると、先生の声が耳に届く。

「こらこら、動いてはいけないよ。ほらゆっくり呼吸して、はい吸って……吐いて……」

先生の言葉に合わせ深く呼吸を繰り返すと、ジワジワと痛みが引いていく。
痛みが和らぎそっと目を開けると、日華先輩が映った。

「彩華ちゃん、本当にごめん……まさかこんなことになるなんて……本当に本当にごめん……」

絞り出すような声に私は笑みを浮かべると、先輩と呼び掛ける。

「そんなに謝らないで下さい、私の方こそ巻き込んでしまってすみませんでした。あの……気絶した私を病院まで連れてきてくれたんですね、重かったですよね……。ありがとうございました」

痛まないようゆっくりと首を下げ礼を見せると、彼はなぜか泣きそうな表情を浮かべた。

「重いわけない、それよりもどうして普通で居られるの?傷まで負わされて……怖かっただろう?人ではない俺にどうしてそんな笑顔を向けるんだ……?」

自虐するような言葉に私は眉を寄せると、首を横に振った。

「あの時も言ったと思いますが、怖いなんてことないです。日華先輩は日華先輩ですし、それに……」

私も人ではない存在かもしれないから――――――。

だって普通の人には前世の記憶なんてものはない。
だから私も人の形をした別の生き物なのかもしれない。
そんな人ではない私が、狼男である彼を怖がるはずなんてない。

そう話すわけにもいかず、私は途中で言葉を詰まらせると、日華先輩にニッコリと微笑みかける。
すると彼は眉を寄せ泣きそうな表情で、私の手を強く握りしめた。


二人から私が眠っていた間の話を聞いた
私はどうやら10日間ほど眠っていたようだ。
夜中に抜け出した事実と、倒れた経緯は先生が皆に説明してくれたらしい。
獣と言う事は伏せているから、話さないでほしいとお願いされた。
私は快く頷いた。

牙の怪我を見せるわけにいかないため、私の病室に出入りできるのは、今のところ先生と先輩だけ。
さすがに肩の傷口を目の当たりにすれば、どうしたのか聞かれ、狼男の存在がばれてしまうかもしれない。
申し訳ないが面会は遮断させてもらっている、と先生が話してくれた。

先生曰く、この傷が癒えるには後数週間、下手したら一か月ほどかかるらしい。
その間、皆に会えないと思うと寂しいと感じてしまう。
そんな私を気づかってくれているのか、もしくは自分が怪我をさせてしまった責任を感じてか……先輩は毎日私の病室へと足を運んでくれる。
彼も忙しいだろうと思い、何度か断りを入れてみるも、日華先輩はそのたびに軽口でサラリと私の言葉をかわすの。

忙しい中わざわざ来てくれることに悪いと感じながらも、今では先輩の面会を楽しみにしている自分がいる。
先輩はお兄様や二条、華僑君や香澄、みんなの話をしてくれた。
その話はとても嬉しくて、私の寂しさは大分薄れていった。


それから数週間、ようやく肩の傷がふさがると、私は幾分元気になった。
面会制限も解除され、皆と約一月ぶりに顔をあわせる。
兄の説教を受けシュンとして、華僑君の優しい言葉に励まされた。
そんな中、二条とはあの日の話をぶり返す事なく、今まで通りに接する。
だってみんなの前で話す事じゃないし、二条も何も言わないならこのままでも大丈夫かなって……。

香澄は事故前とは打って変わって、満面の笑顔でお姉様と呼んでくれるようになった。
今まで一度も笑いかけてもらえなかったから、正面から見る彼女の笑みに顔が綻ぶ。
香澄と呼んでくださいお姉様と、眩しい笑顔で微笑みかけてくれたときは感動した。
あぁ、最初の頃が嘘みたい。
何とも穏やかな日常を取り戻す中、感慨深く浸っていると、窓から紅葉が真っ赤に色づいている様を病室からじっと眺めていた。
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