10 / 169
幼少期
二条と兄の対面:前編
しおりを挟む
二条敦と仲良くなった私は、週に一度彼と遊ぶようになった。
攻略対象かどうかなんてこの際気にしない。
一条家という立場上友達と呼べる相手がいなかったから、素直に嬉しいの。
婚約が正式に決まったわけじゃないし、友達としての付き合いなら大丈夫でしょう。
兄が中等部に通い始め、いない隙を狙い二人で近くの公園に向かうと、バスケやサッカー、キャッチボールをしたりして遊ぶんだ。
誓約書には一人で出ていくなって書いてあったはず、二条と二人で公園に行けば誓約違反にはならない。
でも見つかったら怖いから、兄が居ないときにコッソリと抜け出す私は小心者なのだろう。
もちろん怪我には細心の注意を払っている。
もし怪我でもしたら後が恐ろしいからね……。
二条は運動神経抜群で、何でもで出来てしまう。
そんな彼に負けじと追い付こうと必死に努力した。
やっぱり遊ぶなら同レベルの方が楽しいはずだから。
外へ遊びに出る私に母は、お稽古事や勉強をきちんとこなしていれば苦言は言わない。
昔の母なら無言で連れ戻されていたかもしれない、そんなことを考える。
そんなある日、私は玄関前で二条の到着を待っていると、いつの間に来ていたのか兄が後ろに立っていた。
「彩華、こんなところでどうしたんだい?」
「へぇ、えぇ、おっ、お兄様どうして?」
あれ今日は朝から学校に顔を出すって言ってたはずだけど……。
私は顔を引きつらせながら兄を見上げると、ニッコリ笑みを浮かべた。
「なんだいその反応。隠し事でもあるかな?まぁ、いい。今日は君の婚約者候補が来るんだろう。母から聞いたよ、どんな子なのか気になってね」
兄は笑みを浮かべているが、どことなくいつもと違う雰囲気。
何とも言えぬ違和感を感じていると、玄関のドアがガラガラと横開きに開いていく。
その音に私は笑顔で振り返ると、そこに二条の姿が現れた。
ラフなTシャツに動きやすいズボン。
この姿を見ると誰も彼が名家の息子だとは思わないだろう。
「いらっしゃい!」
「おぉ、……お前はいつも元気だな」
二条の少し照れながら挨拶をする仕草に、なんだか微笑ましい気持ちになる。
毎度来ているのに、毎回照れる、なんて可愛いの!
心の中でひっそりと悶えていると、二条は兄に気が付いた様子で、サッと姿勢を正した。
「お邪魔します。僕は二条 敦です、こんにちは」
「初めまして、僕は彩華の兄、一条 歩だ。よろしくね」
兄はサッと手を差し出すと、二条に握手を求める。
彼はおずおずと言った様子で兄と握手を交わすと、なぜか小さく顔を歪めた。
「二条くん、どうかした?」
彼の表情が気になり声をかけてみると、彼はいつもの表情へと戻っていく。
「いや、何でも。……宜しくお願いします」
二条は爽やかな笑顔を浮かべると、しっかりと顔を上げ笑ってみせた。
「彩華、少し彼とお話してもいいかな?」
兄の言葉に私は軽く頷くと、先に部屋に行ってるねと声をかけ、彼らに背を向ける。
お兄様何のお話をするんだろ。
まぁ、私の友達だし、そんなきついこと言わないよね?
一抹の不安を抱えながらも、私は振り返ることなく部屋へと足を進めた。
・
・
・
***彼女がいなくなった二人は***
「さっきの握手痛かったかな?ごめんね、少し強く握りすぎたみたいだ」
歩の目は弧を描いているが、瞳の奥は暗く揺れている。
「いえ、大丈夫です」
二条はよくわからないこの状況に混乱しながらも、しっかりと歩を見返していた。
「そうそう、話なんだけどね。もう、ここに来ないでくれないか?君と彩華じゃ釣り合わない」
「なッッ、なんでそんなこと……ッッ」
突然の言葉に二条は目を見張ると、見下すような視線を浮かべる歩と視線が絡んだ。
「君の事を調べさせてもらったんだ。何事もそつなくこなす反面、すぐ手を抜く癖があるね。最初は自分が一番になるものの、その一番がひっくり返されると、努力をしない。そして君は中の上あたりで満足している。そんな君が私の可愛い妹と釣り合うなんて思っているのかい?」
歩はそう強く言い切ると、蔑むような視線を向ける。
不穏な空気の中、二条はサッと歩から視線を逸らせると、頭を垂れた。
「別に手を抜いたりはしていない。どうしてそんな事を言われなきゃいけないんだ」
「どうして?君はおかしなことを聞くね。僕の大事な妹が変な男に捕まるなんて許せないからだよ」
二条はその言葉に強く拳を握りしめると、肩が小刻みに震えていた。
「頑張っている、それが俺の実力で……ッッ」
絞り出すような声で歩に訴えてみるが、歩の視線は益々鋭いものとなっていく。
「頑張った?成果も出していないくせに言葉だけは立派だな。何も達成していないお前が何を言っても意味をなさない」
その言葉に、二条は勢いよく顔を上げると、憐れむような視線を浮かべる歩を睨みつけた。
「違うッッ、俺は……ッッ」
「まぁ、どうでもいい。頑張っているという君が彼女に勝てない様なら傍には必要ないし資格もない。彼女のパートナーには最低でも彼女を超える相手じゃないとね、だから君は不合格だ。今日を最後に、二度と一条家の敷居を跨ぐことは許さない」
歩はそう言い捨てると、二条に背を向け去っていく。
二条は悔しさで目を何度も拭いながら、その場に立ち尽くしていた。
攻略対象かどうかなんてこの際気にしない。
一条家という立場上友達と呼べる相手がいなかったから、素直に嬉しいの。
婚約が正式に決まったわけじゃないし、友達としての付き合いなら大丈夫でしょう。
兄が中等部に通い始め、いない隙を狙い二人で近くの公園に向かうと、バスケやサッカー、キャッチボールをしたりして遊ぶんだ。
誓約書には一人で出ていくなって書いてあったはず、二条と二人で公園に行けば誓約違反にはならない。
でも見つかったら怖いから、兄が居ないときにコッソリと抜け出す私は小心者なのだろう。
もちろん怪我には細心の注意を払っている。
もし怪我でもしたら後が恐ろしいからね……。
二条は運動神経抜群で、何でもで出来てしまう。
そんな彼に負けじと追い付こうと必死に努力した。
やっぱり遊ぶなら同レベルの方が楽しいはずだから。
外へ遊びに出る私に母は、お稽古事や勉強をきちんとこなしていれば苦言は言わない。
昔の母なら無言で連れ戻されていたかもしれない、そんなことを考える。
そんなある日、私は玄関前で二条の到着を待っていると、いつの間に来ていたのか兄が後ろに立っていた。
「彩華、こんなところでどうしたんだい?」
「へぇ、えぇ、おっ、お兄様どうして?」
あれ今日は朝から学校に顔を出すって言ってたはずだけど……。
私は顔を引きつらせながら兄を見上げると、ニッコリ笑みを浮かべた。
「なんだいその反応。隠し事でもあるかな?まぁ、いい。今日は君の婚約者候補が来るんだろう。母から聞いたよ、どんな子なのか気になってね」
兄は笑みを浮かべているが、どことなくいつもと違う雰囲気。
何とも言えぬ違和感を感じていると、玄関のドアがガラガラと横開きに開いていく。
その音に私は笑顔で振り返ると、そこに二条の姿が現れた。
ラフなTシャツに動きやすいズボン。
この姿を見ると誰も彼が名家の息子だとは思わないだろう。
「いらっしゃい!」
「おぉ、……お前はいつも元気だな」
二条の少し照れながら挨拶をする仕草に、なんだか微笑ましい気持ちになる。
毎度来ているのに、毎回照れる、なんて可愛いの!
心の中でひっそりと悶えていると、二条は兄に気が付いた様子で、サッと姿勢を正した。
「お邪魔します。僕は二条 敦です、こんにちは」
「初めまして、僕は彩華の兄、一条 歩だ。よろしくね」
兄はサッと手を差し出すと、二条に握手を求める。
彼はおずおずと言った様子で兄と握手を交わすと、なぜか小さく顔を歪めた。
「二条くん、どうかした?」
彼の表情が気になり声をかけてみると、彼はいつもの表情へと戻っていく。
「いや、何でも。……宜しくお願いします」
二条は爽やかな笑顔を浮かべると、しっかりと顔を上げ笑ってみせた。
「彩華、少し彼とお話してもいいかな?」
兄の言葉に私は軽く頷くと、先に部屋に行ってるねと声をかけ、彼らに背を向ける。
お兄様何のお話をするんだろ。
まぁ、私の友達だし、そんなきついこと言わないよね?
一抹の不安を抱えながらも、私は振り返ることなく部屋へと足を進めた。
・
・
・
***彼女がいなくなった二人は***
「さっきの握手痛かったかな?ごめんね、少し強く握りすぎたみたいだ」
歩の目は弧を描いているが、瞳の奥は暗く揺れている。
「いえ、大丈夫です」
二条はよくわからないこの状況に混乱しながらも、しっかりと歩を見返していた。
「そうそう、話なんだけどね。もう、ここに来ないでくれないか?君と彩華じゃ釣り合わない」
「なッッ、なんでそんなこと……ッッ」
突然の言葉に二条は目を見張ると、見下すような視線を浮かべる歩と視線が絡んだ。
「君の事を調べさせてもらったんだ。何事もそつなくこなす反面、すぐ手を抜く癖があるね。最初は自分が一番になるものの、その一番がひっくり返されると、努力をしない。そして君は中の上あたりで満足している。そんな君が私の可愛い妹と釣り合うなんて思っているのかい?」
歩はそう強く言い切ると、蔑むような視線を向ける。
不穏な空気の中、二条はサッと歩から視線を逸らせると、頭を垂れた。
「別に手を抜いたりはしていない。どうしてそんな事を言われなきゃいけないんだ」
「どうして?君はおかしなことを聞くね。僕の大事な妹が変な男に捕まるなんて許せないからだよ」
二条はその言葉に強く拳を握りしめると、肩が小刻みに震えていた。
「頑張っている、それが俺の実力で……ッッ」
絞り出すような声で歩に訴えてみるが、歩の視線は益々鋭いものとなっていく。
「頑張った?成果も出していないくせに言葉だけは立派だな。何も達成していないお前が何を言っても意味をなさない」
その言葉に、二条は勢いよく顔を上げると、憐れむような視線を浮かべる歩を睨みつけた。
「違うッッ、俺は……ッッ」
「まぁ、どうでもいい。頑張っているという君が彼女に勝てない様なら傍には必要ないし資格もない。彼女のパートナーには最低でも彼女を超える相手じゃないとね、だから君は不合格だ。今日を最後に、二度と一条家の敷居を跨ぐことは許さない」
歩はそう言い捨てると、二条に背を向け去っていく。
二条は悔しさで目を何度も拭いながら、その場に立ち尽くしていた。
0
お気に入りに追加
829
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる