9 / 169
幼少期
婚約者候補
しおりを挟む
兄と母との交流を深め、気がつけば3年の月日が流れていた。
母はこの3年で時々笑顔を見せてくれるようになったの。
部屋に茶菓子用意して、私を待っていてくれるまで仲良くなった。
兄はこの3年で立派なシスコン化してしまった。
ご飯を食べるのも、習い事へ行くのも、どこいくにも兄の付き添いが必須。
朝私の部屋に起こしに来るのは女中だったんだけど、いつの間にか兄が私を起こしに来るようになった。
次第にスキンシップも増え、寝るときも起きる時も兄は軽くキスをする。
欧米かッッとツッコミを入れたいんだけど、キスをする兄の嬉しそうな顔を見ると、何も言えなくなってしまった。
まぁ今ではキスにも慣れて、頬にキスを返す余裕もあるんだけどね。
そんな兄は基本優しい反面怒ると怖いというのがわかったの。
兄の怒り方は怒鳴ったりするのではなく、笑顔で理詰めにされるから厄介だ。
屋敷を勝手に抜け出して、公園で走り回って怪我をして帰ったあの日は本当に恐ろしかったなぁ。
もう二度と一人で外へ行かないように!と子供ながらに誓約書を書かされたのは良い思い出だ。
そんな私はお金持ちが通う名門学校の初等部へと入学し、平穏な生活を続けている。
初等部へ入学し暫くしたある日、私の屋敷へ二条家の長男がやってきた。
彼は私と同じ10歳で、端正な顔立ちに、やんちゃな印象を抱く少年だ。
しかしさすが名家の息子、姿勢や所作は子供ながらにして洗練されている。
さすがだなぁ、前世でこんな少年見たことない。
その隣にはこれまたイケメンの30代前半ぐらいのスーツ姿の男が徐に口を開いた。
「この度はお時間を頂き、こうしてご対面できる機会に感謝いたします。私の息子、二条家長男の二条 敦です」
紹介された彼は美しくお辞儀をすると、おもむろに面を上げた。
金持ちでイケメン、さらに私と関りがある。
すっかり乙女ゲームの事を失念していたけど、この子もしかして乙女ゲームの攻略者の一人……?
そんな事を考えながら、大人たちの込み入った話に耳を傾けてると、どうやら彼は私の許嫁候補になるようだった。
うーん、この展開ますます乙女ゲーの攻略者説が濃厚になってくる。
私は心の中で深いため息を吐くと、冷たい視線を浮かべる彼に視線を向けた。
初めて会ったはずなのにこの敵意のある眼差し……どうしてなの……。
はぁ、彼も迷惑そうだし、さっさと婚約話が流れるといいけど……。
両家の簡単な挨拶をすませ、両家の両親が席を外すと、私と彼二人だけ部屋に取り残された。
えーと、とりあえず話しかけたほうがいいよね……?
私は少年に笑顔を向けると、当たり障りのない世間話をしてみるが、もちろん返事はない。
彼は見下した表情を浮かべると、氷のような冷たい視線で私を睨みつけた。
おぅ、あたりがきついなぁ。
母もお兄様もそうだったけど、乙女ゲーム世界にいる人はこんな人ばっかりなのだろうか……?
「俺はお前の許嫁になるつもりも、お前と仲良くするつもりもない」
お前呼び……まぁまぁまぁ……。
彼の様子にどう対処していいのか迷っていると、彼は私を部屋へと残したままどこかへと去って行った。
これは放っておいたほうがいいよね。
家族じゃないし、攻略対象者なら関わらない方が良い。
私はそんな少年の背に深いため息を吐くと、そっと襖を閉めた。
部屋に取り残された私は、辺りをキョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認すると、そっと庭へと飛び出した。
今から母のところへ戻ってもあれだし、えーと、確かこの辺に隠した……あった!
私は床下にあるサッカーボールを取り出すと、最近はまっているリフティングを始めたのだった。
前世でスポーツが好きだった私は、基本的に体を動かすことが好きだ。
この家にはゲームもなければ、スマホも持たせてもらえない。
あるのは子供用の簡易な携帯だけ。
兄に誓約書を欠かされた私は外に出ることもできないし、まぁ自業自得だけど。
ちょっと心配しすぎな気もする。
そんな現状、この家でじっとしているなんて耐えられるはずがなかった。
学校で発散できればと考えていたけれど、名門の初等部ではあまり体育に力を入れておらず、周りには普通の小学生のように走り回るようなタイプはいない。
まぁお嬢様ご子息が集まる学校だししょうがないけどね。
そんな中一人ではしゃぐこともできない私は兄のいない隙を見て、家でコッソリ筋トレを始め、広い庭で四苦八苦しながら手に入れたボールを使ってよく遊んでいた。
もちろん兄には内緒でね。
はぁ、もっと運動したい、走り回りたい。
今度思い切って、母に武道をやりたいと言ってみようかな。
うーん、母はなんとかなるとしても、お兄様がねぇ、絶対止めに来るだろうな……。
上の空でボールを蹴っていると、ボールが縁側の方へと飛んでいく。
あっ、やってしまった!
私は慌ててボールを追うように視線を向けると、縁側に佇む二条の姿が視界に映った。
ボールがスローモーションのように縁側へ落ちていくと、彼は軽やかな身のこなしでそのボールをしっかりと受け止めた。
「お前……何をやっているんだ?」
彼の言葉に私はニッコリ微笑みを浮かべると、軽く頭をかいた。
「暇になっちゃったから、リフティングをしていたの」
「はぁ!?リフティングってお前……一条家のお嬢さんだよな?」
私はキョトンとした表情を浮かべると、当り前じゃないとばかりに深く頷く。
二条はそんな私の様子に、足でボールを蹴り上げ高々とあげた。
私はそのボールを目で追うように焦って手を伸ばすが、その手が届く前に彼の足へと落ちる。
「名家のお嬢様が、こんな遊びをするなんて考えもしなかったな」
二条はニヤリと微笑を浮かべながら落ちてきたボールを蹴ると、華麗なリフティングを披露し始める。
すごいッッ!
私は彼へキラキラした瞳を向けると、教えてください!!!と勢いそのままに頼み込む。
すると彼は先ほどの冷たい眼差しではなく照れた表情を浮かべたかと思うと、サッカーボールを私へ投げ、ぶっきら棒に教えてくれたんだ。
母はこの3年で時々笑顔を見せてくれるようになったの。
部屋に茶菓子用意して、私を待っていてくれるまで仲良くなった。
兄はこの3年で立派なシスコン化してしまった。
ご飯を食べるのも、習い事へ行くのも、どこいくにも兄の付き添いが必須。
朝私の部屋に起こしに来るのは女中だったんだけど、いつの間にか兄が私を起こしに来るようになった。
次第にスキンシップも増え、寝るときも起きる時も兄は軽くキスをする。
欧米かッッとツッコミを入れたいんだけど、キスをする兄の嬉しそうな顔を見ると、何も言えなくなってしまった。
まぁ今ではキスにも慣れて、頬にキスを返す余裕もあるんだけどね。
そんな兄は基本優しい反面怒ると怖いというのがわかったの。
兄の怒り方は怒鳴ったりするのではなく、笑顔で理詰めにされるから厄介だ。
屋敷を勝手に抜け出して、公園で走り回って怪我をして帰ったあの日は本当に恐ろしかったなぁ。
もう二度と一人で外へ行かないように!と子供ながらに誓約書を書かされたのは良い思い出だ。
そんな私はお金持ちが通う名門学校の初等部へと入学し、平穏な生活を続けている。
初等部へ入学し暫くしたある日、私の屋敷へ二条家の長男がやってきた。
彼は私と同じ10歳で、端正な顔立ちに、やんちゃな印象を抱く少年だ。
しかしさすが名家の息子、姿勢や所作は子供ながらにして洗練されている。
さすがだなぁ、前世でこんな少年見たことない。
その隣にはこれまたイケメンの30代前半ぐらいのスーツ姿の男が徐に口を開いた。
「この度はお時間を頂き、こうしてご対面できる機会に感謝いたします。私の息子、二条家長男の二条 敦です」
紹介された彼は美しくお辞儀をすると、おもむろに面を上げた。
金持ちでイケメン、さらに私と関りがある。
すっかり乙女ゲームの事を失念していたけど、この子もしかして乙女ゲームの攻略者の一人……?
そんな事を考えながら、大人たちの込み入った話に耳を傾けてると、どうやら彼は私の許嫁候補になるようだった。
うーん、この展開ますます乙女ゲーの攻略者説が濃厚になってくる。
私は心の中で深いため息を吐くと、冷たい視線を浮かべる彼に視線を向けた。
初めて会ったはずなのにこの敵意のある眼差し……どうしてなの……。
はぁ、彼も迷惑そうだし、さっさと婚約話が流れるといいけど……。
両家の簡単な挨拶をすませ、両家の両親が席を外すと、私と彼二人だけ部屋に取り残された。
えーと、とりあえず話しかけたほうがいいよね……?
私は少年に笑顔を向けると、当たり障りのない世間話をしてみるが、もちろん返事はない。
彼は見下した表情を浮かべると、氷のような冷たい視線で私を睨みつけた。
おぅ、あたりがきついなぁ。
母もお兄様もそうだったけど、乙女ゲーム世界にいる人はこんな人ばっかりなのだろうか……?
「俺はお前の許嫁になるつもりも、お前と仲良くするつもりもない」
お前呼び……まぁまぁまぁ……。
彼の様子にどう対処していいのか迷っていると、彼は私を部屋へと残したままどこかへと去って行った。
これは放っておいたほうがいいよね。
家族じゃないし、攻略対象者なら関わらない方が良い。
私はそんな少年の背に深いため息を吐くと、そっと襖を閉めた。
部屋に取り残された私は、辺りをキョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認すると、そっと庭へと飛び出した。
今から母のところへ戻ってもあれだし、えーと、確かこの辺に隠した……あった!
私は床下にあるサッカーボールを取り出すと、最近はまっているリフティングを始めたのだった。
前世でスポーツが好きだった私は、基本的に体を動かすことが好きだ。
この家にはゲームもなければ、スマホも持たせてもらえない。
あるのは子供用の簡易な携帯だけ。
兄に誓約書を欠かされた私は外に出ることもできないし、まぁ自業自得だけど。
ちょっと心配しすぎな気もする。
そんな現状、この家でじっとしているなんて耐えられるはずがなかった。
学校で発散できればと考えていたけれど、名門の初等部ではあまり体育に力を入れておらず、周りには普通の小学生のように走り回るようなタイプはいない。
まぁお嬢様ご子息が集まる学校だししょうがないけどね。
そんな中一人ではしゃぐこともできない私は兄のいない隙を見て、家でコッソリ筋トレを始め、広い庭で四苦八苦しながら手に入れたボールを使ってよく遊んでいた。
もちろん兄には内緒でね。
はぁ、もっと運動したい、走り回りたい。
今度思い切って、母に武道をやりたいと言ってみようかな。
うーん、母はなんとかなるとしても、お兄様がねぇ、絶対止めに来るだろうな……。
上の空でボールを蹴っていると、ボールが縁側の方へと飛んでいく。
あっ、やってしまった!
私は慌ててボールを追うように視線を向けると、縁側に佇む二条の姿が視界に映った。
ボールがスローモーションのように縁側へ落ちていくと、彼は軽やかな身のこなしでそのボールをしっかりと受け止めた。
「お前……何をやっているんだ?」
彼の言葉に私はニッコリ微笑みを浮かべると、軽く頭をかいた。
「暇になっちゃったから、リフティングをしていたの」
「はぁ!?リフティングってお前……一条家のお嬢さんだよな?」
私はキョトンとした表情を浮かべると、当り前じゃないとばかりに深く頷く。
二条はそんな私の様子に、足でボールを蹴り上げ高々とあげた。
私はそのボールを目で追うように焦って手を伸ばすが、その手が届く前に彼の足へと落ちる。
「名家のお嬢様が、こんな遊びをするなんて考えもしなかったな」
二条はニヤリと微笑を浮かべながら落ちてきたボールを蹴ると、華麗なリフティングを披露し始める。
すごいッッ!
私は彼へキラキラした瞳を向けると、教えてください!!!と勢いそのままに頼み込む。
すると彼は先ほどの冷たい眼差しではなく照れた表情を浮かべたかと思うと、サッカーボールを私へ投げ、ぶっきら棒に教えてくれたんだ。
0
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる