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幼少期
義兄との顔合わせ:後編
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翌日、今日は稽古が終わり、私は母の部屋へお邪魔していた。
最近の母は、表情が大分緩やかになり、会話も続くようになっていた。
まぁ一般的にみると、穏やかだとは思えないかもしれないけどね!
私はいつものように母の前に腰かけると、自然にため息がこぼれた。
「はぁ、お兄様と仲良くなりたいんだけど……なかなかうまくいかないな。やっぱり仲良くなるなんて無理なのかな……」
そうボソッと呟いてみると、母は静かに私の前へ佇んだ。
母には兄の話は一度もしたことがなかった。
彼について母がどう思っているのかを測れない現状、変に気まずい雰囲気を作りたくなかったとの気持ちもあったのだ。
だが行き詰まりを感じてしまったことで、つい兄についての弱音を口走ってしまった。
しまったと思いながらも、恐々私の前に佇む母へ視線を投げると、母は強い眼差しで私を見据えていた。
「私のこんな態度にもあなたはずっとここに通い続けてきてくれた。あなたのその姿勢に、私は心を打たれました。今まで言えませんでしたが、こんな私の元へ……毎日毎日懲りずに訪れ笑ってくれるあなたを見て、私は救われましたわ」
母の言葉に私は勢いよく顔を上げると、その瞳には優しい色が浮かんでいた。
嬉しい、そう思ってくれてたんだ。
母も兄と同じ最初は冷たくて、突き放されることもあった……だけどこんな話が出来るほど仲良くなれたんだ。
私は母に思わず抱きつくと、母は私の体を優しく包み込んでくれた。
母の部屋を後にすると、私は廊下を進みながら義兄のことを考える。
うーん、兄とどうやって接触しようか、出迎えは迷惑のようだし……どうしよう。
広い屋敷をうんうんと悩みながら歩いていると、ふと兄が縁側に一人座っている姿が目に映った。
あっ、お兄様だ、この機会逃す手はない!
何の作戦も考えていないけど、とりあえず話しかけてみよう……。
今回は待ち伏せじゃないし、よし。
私は頬を軽くパンパンと叩くと、そっと近づき兄の傍へ静かに腰かけた。
兄は私の登場にビックリした様子で、慌てて顔をそむけたが、その刹那に見えた兄の頬には水滴がチラッと光に反射した。
「何だ、何なんだ、どこかへいけよ!」
顔をそむけたまま怒鳴る彼に、私は無意識に彼の頭を優しく撫でた。
パンッ、
「触るな!!!!!お前がいるから僕が……ッッ!!!」
触れた手が思いっきり振り払われると、手の甲がジンジンと痛む。
また失敗しちゃったかな、馴れ馴れしすぎだよね。
私は気まずげに顔を上げると、兄はやりすぎたと思ったのか……動きを止める赤い目をしたまま表情を歪ませた。
私はそんな兄にニッコリと微笑みを浮かべると、兄が落ち着くまで静かに傍に寄り添っていた
次第に落ち着いてきた義兄は私に視線を向けると、ばつの悪そうな顔を向ける。
「どうしてお前は僕をそんなに構うんだ。僕に媚びを売ってもいいことなんて何もない。一体何が狙いなんだ……?」
「狙い?ただ仲良くなりたいだけだよ。だって私たち家族じゃない、家族と仲が悪いのは悲しいわ」
「家族か……、変な奴だな……」
兄はまたそっぽを向くと、目を何度も拭いでいた。
私はそんな彼の様子に、恐る恐る背に手を伸ばしてみると、触れた瞬間大きく彼の体が跳ねた。
小さな震えが指先に伝わりそっと顔を上げると、透き通った水滴が彼の頬に流れ落ちていた。
義兄と近づけたあの日から、彼の態度が少しずつ変わっていった。
何もいい案が思いつかなかった私は、懲りずに今日も玄関で兄を出迎えてみると、初めて返答が返ってくる。
私は嬉しさのあまり頬が緩むと、飛び跳ねそうになる体を必死に抑えた。
そんな私の様子に、兄は私の頭にそっと手を伸ばすと、震える手で優しく髪を撫でてくれた。
「今までごめん」
兄は誰にも聞こえないような小さな声でそう囁いた。
それから私は兄を出迎えることが日課となっていった。
今では私に笑いかけてくれるようになり、私も満面の笑みを義兄へ向けると、そっと手をつなぐ。
二人並んで歩く廊下で、今日あった出来事や他愛無い話に花を咲かせていった。
最近の母は、表情が大分緩やかになり、会話も続くようになっていた。
まぁ一般的にみると、穏やかだとは思えないかもしれないけどね!
私はいつものように母の前に腰かけると、自然にため息がこぼれた。
「はぁ、お兄様と仲良くなりたいんだけど……なかなかうまくいかないな。やっぱり仲良くなるなんて無理なのかな……」
そうボソッと呟いてみると、母は静かに私の前へ佇んだ。
母には兄の話は一度もしたことがなかった。
彼について母がどう思っているのかを測れない現状、変に気まずい雰囲気を作りたくなかったとの気持ちもあったのだ。
だが行き詰まりを感じてしまったことで、つい兄についての弱音を口走ってしまった。
しまったと思いながらも、恐々私の前に佇む母へ視線を投げると、母は強い眼差しで私を見据えていた。
「私のこんな態度にもあなたはずっとここに通い続けてきてくれた。あなたのその姿勢に、私は心を打たれました。今まで言えませんでしたが、こんな私の元へ……毎日毎日懲りずに訪れ笑ってくれるあなたを見て、私は救われましたわ」
母の言葉に私は勢いよく顔を上げると、その瞳には優しい色が浮かんでいた。
嬉しい、そう思ってくれてたんだ。
母も兄と同じ最初は冷たくて、突き放されることもあった……だけどこんな話が出来るほど仲良くなれたんだ。
私は母に思わず抱きつくと、母は私の体を優しく包み込んでくれた。
母の部屋を後にすると、私は廊下を進みながら義兄のことを考える。
うーん、兄とどうやって接触しようか、出迎えは迷惑のようだし……どうしよう。
広い屋敷をうんうんと悩みながら歩いていると、ふと兄が縁側に一人座っている姿が目に映った。
あっ、お兄様だ、この機会逃す手はない!
何の作戦も考えていないけど、とりあえず話しかけてみよう……。
今回は待ち伏せじゃないし、よし。
私は頬を軽くパンパンと叩くと、そっと近づき兄の傍へ静かに腰かけた。
兄は私の登場にビックリした様子で、慌てて顔をそむけたが、その刹那に見えた兄の頬には水滴がチラッと光に反射した。
「何だ、何なんだ、どこかへいけよ!」
顔をそむけたまま怒鳴る彼に、私は無意識に彼の頭を優しく撫でた。
パンッ、
「触るな!!!!!お前がいるから僕が……ッッ!!!」
触れた手が思いっきり振り払われると、手の甲がジンジンと痛む。
また失敗しちゃったかな、馴れ馴れしすぎだよね。
私は気まずげに顔を上げると、兄はやりすぎたと思ったのか……動きを止める赤い目をしたまま表情を歪ませた。
私はそんな兄にニッコリと微笑みを浮かべると、兄が落ち着くまで静かに傍に寄り添っていた
次第に落ち着いてきた義兄は私に視線を向けると、ばつの悪そうな顔を向ける。
「どうしてお前は僕をそんなに構うんだ。僕に媚びを売ってもいいことなんて何もない。一体何が狙いなんだ……?」
「狙い?ただ仲良くなりたいだけだよ。だって私たち家族じゃない、家族と仲が悪いのは悲しいわ」
「家族か……、変な奴だな……」
兄はまたそっぽを向くと、目を何度も拭いでいた。
私はそんな彼の様子に、恐る恐る背に手を伸ばしてみると、触れた瞬間大きく彼の体が跳ねた。
小さな震えが指先に伝わりそっと顔を上げると、透き通った水滴が彼の頬に流れ落ちていた。
義兄と近づけたあの日から、彼の態度が少しずつ変わっていった。
何もいい案が思いつかなかった私は、懲りずに今日も玄関で兄を出迎えてみると、初めて返答が返ってくる。
私は嬉しさのあまり頬が緩むと、飛び跳ねそうになる体を必死に抑えた。
そんな私の様子に、兄は私の頭にそっと手を伸ばすと、震える手で優しく髪を撫でてくれた。
「今までごめん」
兄は誰にも聞こえないような小さな声でそう囁いた。
それから私は兄を出迎えることが日課となっていった。
今では私に笑いかけてくれるようになり、私も満面の笑みを義兄へ向けると、そっと手をつなぐ。
二人並んで歩く廊下で、今日あった出来事や他愛無い話に花を咲かせていった。
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