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ウィリアムルート

11憎悪の瞳

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目立った失敗もなく、彼にフォローされながらも無事にダンスを終えると、会場の端へと移動し彼と共に深い礼をとる。
すると集まっていた貴族達から、大きな称賛の拍手が響き渡った。
よかった、何とか乗り切れた。
その様子にほっと胸を撫で下ろす中、横目に笑みを浮かべたビルの姿が映る。
私の視線に気が付き彼はここで待っていてくれるかな?と耳元で囁くと、彼は会場の中央へと進んでいった。

改めて会場を見渡してみると、名のある貴族の姿があちらこちら目に映る。
ビルの家は公爵家だし、やっぱり横の繋がりは広いんだな。
キョロキョロと眺めていると、人ごみの中に、ブラッドの姿を見つけた。
いつものローブ姿とは違い、彼もタキシード姿だ。
前髪で片目を隠し、黄金色の瞳が見える。
そんな彼を眺めていると、視線に気がついたのだろうか、彼を向けた彼に思わず手を振って見せる。
すると彼は手を振り返すことなく、サッと視線を逸らせると、逃げるように人ごみの中へと消えていった。

あっ……手を振るのはまずかったのかな。
消えて行った彼の姿を探す中、ふと背中に鈍い衝撃が走った。

「ごめんなさい」

慌てて振り返ると、真っ赤なドレスを身に纏った、気の強そうな令嬢が私を鋭く見据えていた。
険悪なその様子に、私は心の中で深くため息をつくと、無理矢理笑みを作り、微笑みかける。
すると突然、彼女はワイングラスを投げながら、私を思いっ切り突き飛ばした。
衝撃にバランスを崩す中、グラスがスローモーションにゆっくりと傾き真っ赤なワインが流れ落ちる。
パリンッと割れた音が響き、黒いドレスに液体が飛び散ると、私は咄嗟に身を守った。

辺りが騒然とする中、恐る恐るに突き飛ばした張本人へ顔を向けると、瞳には憎悪が浮かんでいる。

「ウィリアム様は私のものだったのに……。どうしてあなたみたいなポッと出てきた令嬢に、奪われなければいけないの?」

そう呟かれた言葉に深く息をつくと、私は笑顔を張り付け、すぐに立ち上がった。

「選んだのウィリアム様です。こんな形で不満をぶつけられても何も変わりませんわ」

私は怯むことなく、笑みを浮かべたまま近くにいたメイドからタオルを受け取ると、彼女を見据えるように睨みつける。

一歩も引かずお互い睨みあっていると、騒ぎに気が付いたビルが私の元へと駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

彼は焦った様子で私の体を確認する中、怪我がない事にほっと胸を撫で下ろした。
そして肩を優しく抱くと、正面に立つ彼女を冷たく見据える。
そんな彼の様子に、私は彼の服を軽く引っ張るとこちらへ注意を向けさせた。

「ビル、違うんだ。私がよろけてドレスの裾を踏んでしまってな」

彼女を庇うわけでないが、さっき言われた言葉には一理ある。
彼は格好いいし、優しいし、爵位も地位も申し分ない。
今まで彼を追いかけていた女性は間違いなくたくさんいる。
それなのに突然こんな変な令嬢が出てくれば、そりゃ怒るよな。
ザワザワと騒がしくなる中、私は何とかその場を収めると、着替える為控室へと下がっていった。

控室の扉を開けると、そこには誰もいない。
静かな部屋の中、ドレスを脱ぎ捨て、メイドが用意してくれた簡易なワンピースに着替えると、深くソファーへ腰かけた。
先ほどの令嬢の姿が頭を過ると、彼女が言っていた言葉が反芻する。

(私のものだったのに)

彼女は確か公爵家の令嬢だ、彼と婚約するとこういった事になるのはわかっていた。
私自身敵意を向けられることに関しては何とも思わないが……あの言葉は、彼女はビルと関係をもっていたのだろうか?
そんな事を考えるとなぜか胸がチクチクと痛み始めた。

ぼんやりと天を仰ぎ、ソファーへ座っていると、ノックもなしに勢いよく開いた扉に慌てて体を起こす
扉の前には不安そうな表情を浮かべたビルが、私をじっと見つめていた。
ビルはそのまま私の傍へ腰かけると、体を優しく包み込んでいく。

「すみません、あなたを一人にしてしまった私の責任です」

「いやいや、ビルは悪くないだろう。それよりも、もらったドレスを汚してしまってごめん」

私は黒いドレスへ視線を向けると、アルコールの香りが鼻孔を掠めた。

「あなたが無事ならドレスなんて何の問題もありません。今日はこのまま部屋へと戻りますか?」

優しい彼の言葉に頷く中、どうしても先ほどの彼女の言葉が頭から離れない。

「あぁ、そうだな。ドレスもダメになってしまったし、これ以上いるとまたビルに迷惑をかけてしまうかもしれない。その前に一つだけ聞いてもいいか?」

勇気を振り絞りそう問いかけてみると、ビルは優し気な笑みを浮かべ頷いた。

「さっきの御令嬢はビルの知り合いのなのか?」

「いえ、顔見知り程度ですね。……彼女とは何もありませんよ。何か言われましたか?」

「そっか……ううん、何でもないんだ」

胸の中にモヤモヤした感情が溢れる中、彼の胸の中へ顔を埋めると、抱きしめる腕が強くなる。
伝わる熱になぜか胸がざわつくと、私がしがみつくように腕を回した。
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