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胸がギュッと締め付けられ、今まで必死に押し殺してきた思いが一気に溢れ出す。
「うぅッ、私は……あなたが他の令嬢と婚約する現実を受け止められない!もう出て行って……ッッ、お願い……」
彼は大きく目を見開くと、おもむろにこちらへ顔を向けた。
「なんのこと……?」
「とぼけないで!公爵家のご令嬢から縁談がきたでしょう、婚約が決まったんでしょ?明日会いに来ることも知っているわ!パトリックがその令嬢と並んでいる姿を見たくないのよ!」
全てを吐き出す様に叫ぶ。
拭っても拭っても涙が溢れ出した。
明日、婚約者がやってくる。
いつか来るとわかってた。
こんな関係が長く続かないこともわかっていた。
現実を突きつけられる前に、ここから出て行くはずだったのに……。
両手で顔を覆いその場に座り込むと、自分の惨めさを痛感した。
誰よりも彼を愛しているのに、この想いは叶わない。
涙を止めようと努力してみるが、堰を切ったように溢れ出す。
私には姉という一番近く一番遠い居場所しかない。
言うつもりなんてなかった、何も言わずに彼の傍を去るはずだったのに……。
口にしてしまったことで、積もりに積もった想いをコントロールできない。
わんわんと子供のように泣きじゃくっていると、肩に彼の手が触れた。
嫌だと彼の手を払いのけると、パトリックは私の両肩を持ち強引に引き寄せる。
視界に映った彼の瞳は子供の頃と同じ無邪気な目をしていた。
思わずその瞳に見入っていると、彼は宥めるように私を抱きしめる。
彼の匂いが鼻腔を擽り、熱い想いがこみ上げた。
「優しくしないで!これ以上心をかき乱さないで……うぅッッ」
彼の胸を強く押し返すと、吐息が耳にかかる。
「待って、待って、ねぇさん、落ち着いて。さっきの言葉は本当……?」
「うぅッッ、ひぃく、こんな気持ちを抱くのはおかしいとわかっているわ……ッッ、伝えるつもりなんてなかったのに……。弟の幸せを願えない……ダメな姉でごめんなさい……」
私は力なく項垂れると、絨毯に大粒の涙が落ちていく。
「ねぇさん、顔を上げて」
私は首を横へ振ると、彼から離れようと身をよじる。
彼は私の頬を両手で包むと、そっと額にキスを落とした。
「ねぇさん聞いて、僕に婚約の話なんて来てないよ、来るはずないんだ。だって僕の婚約者はずっと前から決まっているからね」
耳を疑うような言葉に、私は恐る恐る顔を上げる。
どういうこと……?
婚約の話がない?ならあの話は……?
「嘘よ、はっきり聞いたわ。広間でお母様とお父様とあなたが話していたもの」
「あーたぶんそれ、事業の提携案じゃないかな。公爵家の方が僕の事業に出資してくれるんだ。明日そその件で挨拶に来てくれるだけだよ」
溢れていた涙が引っ込むと、パチパチと瞬きを繰り返す。
会話を思い出してみると、婚約とは一言も言っていなかった。
ただいい話が公爵家からきて、その話を受けようと言っていた。
最初からあれは婚約の話ではなかったの?
「えっ、えぇ!?とういうこと……婚約しないの?でも婚約者が決まっているって……?」
パトリックは私の頬を両手で包むと、ニッコリと天使のような笑みを浮かべた。
「僕の婚約者は、ねぇさんただ一人。初めてねぇさんがここに来た日からそう決まっていた。父も母も了承済みだよ。ねぇさんが……僕を受け入れてくれることが条件だけど。だから最高の花とねぇさんの好きなものを用意して、ちゃんとした場所で伝えるはずだったんだけどね……」
彼はバツが悪そうに笑うと、私の瞳を覗き込んだ。
衝撃的な事実に言葉を失い、青い瞳を見つめたまま、頭の中がぐるぐると混乱する。
えっ、えっ、どういうこと?
「私が……婚約者……?」
「そうだよ。愛してる、ずっと一緒にいると約束したでしょ。あの時からこの日をずっと待っていた」
子供の頃の何気ない約束、そう思っていた。
私はずっと彼といると、だけど彼は違うのだと思っていた。
けれど本気だったのだ。
「うぅッ、私は……あなたが他の令嬢と婚約する現実を受け止められない!もう出て行って……ッッ、お願い……」
彼は大きく目を見開くと、おもむろにこちらへ顔を向けた。
「なんのこと……?」
「とぼけないで!公爵家のご令嬢から縁談がきたでしょう、婚約が決まったんでしょ?明日会いに来ることも知っているわ!パトリックがその令嬢と並んでいる姿を見たくないのよ!」
全てを吐き出す様に叫ぶ。
拭っても拭っても涙が溢れ出した。
明日、婚約者がやってくる。
いつか来るとわかってた。
こんな関係が長く続かないこともわかっていた。
現実を突きつけられる前に、ここから出て行くはずだったのに……。
両手で顔を覆いその場に座り込むと、自分の惨めさを痛感した。
誰よりも彼を愛しているのに、この想いは叶わない。
涙を止めようと努力してみるが、堰を切ったように溢れ出す。
私には姉という一番近く一番遠い居場所しかない。
言うつもりなんてなかった、何も言わずに彼の傍を去るはずだったのに……。
口にしてしまったことで、積もりに積もった想いをコントロールできない。
わんわんと子供のように泣きじゃくっていると、肩に彼の手が触れた。
嫌だと彼の手を払いのけると、パトリックは私の両肩を持ち強引に引き寄せる。
視界に映った彼の瞳は子供の頃と同じ無邪気な目をしていた。
思わずその瞳に見入っていると、彼は宥めるように私を抱きしめる。
彼の匂いが鼻腔を擽り、熱い想いがこみ上げた。
「優しくしないで!これ以上心をかき乱さないで……うぅッッ」
彼の胸を強く押し返すと、吐息が耳にかかる。
「待って、待って、ねぇさん、落ち着いて。さっきの言葉は本当……?」
「うぅッッ、ひぃく、こんな気持ちを抱くのはおかしいとわかっているわ……ッッ、伝えるつもりなんてなかったのに……。弟の幸せを願えない……ダメな姉でごめんなさい……」
私は力なく項垂れると、絨毯に大粒の涙が落ちていく。
「ねぇさん、顔を上げて」
私は首を横へ振ると、彼から離れようと身をよじる。
彼は私の頬を両手で包むと、そっと額にキスを落とした。
「ねぇさん聞いて、僕に婚約の話なんて来てないよ、来るはずないんだ。だって僕の婚約者はずっと前から決まっているからね」
耳を疑うような言葉に、私は恐る恐る顔を上げる。
どういうこと……?
婚約の話がない?ならあの話は……?
「嘘よ、はっきり聞いたわ。広間でお母様とお父様とあなたが話していたもの」
「あーたぶんそれ、事業の提携案じゃないかな。公爵家の方が僕の事業に出資してくれるんだ。明日そその件で挨拶に来てくれるだけだよ」
溢れていた涙が引っ込むと、パチパチと瞬きを繰り返す。
会話を思い出してみると、婚約とは一言も言っていなかった。
ただいい話が公爵家からきて、その話を受けようと言っていた。
最初からあれは婚約の話ではなかったの?
「えっ、えぇ!?とういうこと……婚約しないの?でも婚約者が決まっているって……?」
パトリックは私の頬を両手で包むと、ニッコリと天使のような笑みを浮かべた。
「僕の婚約者は、ねぇさんただ一人。初めてねぇさんがここに来た日からそう決まっていた。父も母も了承済みだよ。ねぇさんが……僕を受け入れてくれることが条件だけど。だから最高の花とねぇさんの好きなものを用意して、ちゃんとした場所で伝えるはずだったんだけどね……」
彼はバツが悪そうに笑うと、私の瞳を覗き込んだ。
衝撃的な事実に言葉を失い、青い瞳を見つめたまま、頭の中がぐるぐると混乱する。
えっ、えっ、どういうこと?
「私が……婚約者……?」
「そうだよ。愛してる、ずっと一緒にいると約束したでしょ。あの時からこの日をずっと待っていた」
子供の頃の何気ない約束、そう思っていた。
私はずっと彼といると、だけど彼は違うのだと思っていた。
けれど本気だったのだ。
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