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第三章
卒業式にて
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私も続くように外へ出ようとすると、そこでシンシアに呼び止められた。
「お姉様、話があるの。一緒に来てくれない?」
そう告げると、私の答えを待つことなく、人の波に逆らうように移動して行く。
慌てて妹の背を追いかけていくと、中庭を抜け、人気のない校舎裏へ立ち止まる。
人の気配はまるでない、そんな場所にマーティンが佇んでいた。
シンシアはパタパタとマーティンの隣へ走り寄ると、彼の腕へしがみつきニッコリと可愛らしく笑って見せる。
「お姉様、私に王子様をちょうだい」
シンシアは甘えるように彼の腕に寄り掛かると、首を傾げそう言葉にした。
やっとこの日がきたわ、やっぱり王子はシンシアを選んだのね。
全てから解放される日。
待ち望んでいたはずなのに、改めて計画が成功するのだと実感すると、ギュッと胸が締め付けられる。
彼とは12歳で婚約し、そこから数年共に過ごしてきた。
仲良くなるために四苦八苦して、彼のつっけんどんな態度の中に、優しさがあると気が付いたわ。
愛称で呼ぶようになり、友として傍にいたこの時間はかけがえのない宝物。
王子はシンシアの手を握りしめると、深く息を吸い込み顔をこちらへ向けた。
「シャーロット、お前との婚約をここで破棄する。そして新たな婚約者はシンシアだ」
はっきりと紡がれた言葉に、何とも言えぬ感情が溢れ出す。
わかっていたこと、望んでいたこと、だけどすぐに言葉が出てこない。
シーンと静まり返り、虫の声がはっきりと耳にとどく。
サンサンと輝く太陽の下で、私は深く深く息を吸い込むと、琥珀色の瞳にはっきりと私の姿が映し出された。
その瞳は力強く、太陽のような眩しい光。
隣に佇む妹はご満悦な表情で、見せつけるように胸へそっと顔を寄せた。
その刹那、走馬灯のように彼との思い出が駆け巡り、彼の瞳から目を逸らせない。
私はこの日の為に、彼と同じ趣味を持ち、共に歩んできたのよ。
いつも不貞腐れて不機嫌で、顔を向けると逸らされたわね。
挨拶もしてもらえなくて、話も全然続かなくて、どうしようかと思ったわ。
だけど次第に会う時間が増えて、会話も続くようになって、彼が不器用な人なのだとわかった。
だけど剣に対してはとても真っすぐで、一緒に素振りをした日々。
馬に乗って遠出して、星空を見て、嫌いじゃないとそう言ってくれた。
ようやく彼に近づけたのだと、素直に嬉しかったわ。
私が勝手に入門試験を受けて怪我をした時も、わざわざお見舞いに来てくれた。
咎められるかと思っていたけれど、そんなこと全然なくて、只々私の心配してくれた。
昔話したアザレアの花、覚えていてくれてとても嬉しかったわ。
もう枯れてしまったけれど、また次の種が芽吹くように、今も部屋に飾ってあるの。
学園では近くなった距離が離れてしまったそんな気がした……。
だけど学園で今まで見られなかった彼を知ることが出来たわ。
令息や令嬢達と楽しそうに話す彼、怒った彼、とても新鮮だった。
そういえば私は彼に、何も返していないわね。
何もあげられなかった、あげようとしなかった。
剣の技術、楽しさ、乗馬の方法、馬でしか見られない美しい景色。
改めて考えると、私は彼からたくさんの物をもらっていたわ。
彼が最初に言った言葉、今でもはっきり覚えているの。
(俺はこのまま、結婚なんてしないからな!)
その願いを叶えられたのなら、少しはお返しできるのかしら。
懐かしさと寂しさが胸いっぱいに溢れ出すと、その奥に暖かい気持ちが混ざり合っていく。
シンシアは私のことを嫌っているけれど、私はシンシアを嫌いだと思った事は一度もないわ。
恋敵みたいになってしまったから、もう元に戻るのは不可能。
ちゃんとわかっている、二人の邪魔にはなりたくないもの。
私はニッコリと笑みを浮かべると、仲睦まじい姿をはっきりと瞳に映し出す。
そして口角を上げニッコリ笑みを深めると、琥珀色の瞳を見つめ返した。
「わかりましたわ。お二人の幸せを心から願っております」
私は二人の元へ寄り、そっと手を取ると、幸せを願うようにギュッと強く握りしめる。
そして手を離すと、私は急ぎ足で、静かに来た道を戻って行った。
そのまま教室へは向かわず、校庭へと走っていく。
婚約破棄された今、すぐにでも出発したい。
すると門の前にケルヴィンの姿があった。
「お嬢様、一緒に行きましょう」
あまりのタイミングの良さに唖然としていると、ケルヴィンは私の手を取り馬車の中へと誘っていく。
そして固く手を握りしめると、静かに馬車が動きだしたのだった。
――――――――――お知らせ――――――――――
作品のタイトルを変更致しました!
またここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
ようやく短編の話に追い付きました(*´▽`*)
学園生活後半は大分割愛してしまいましたが、
最終話に投稿します(閑話:大好きなお姉様4~)で楽しんで頂けます。
最後に残り数十話、一気に進んで行きますよ!
短編とは一味違う最後となっておりますので、もう暫くお付き合い頂けますと幸いです!
ご意見ご感想等ございましたら、いつでもコメント頂けると嬉しいです(*ノωノ)
「お姉様、話があるの。一緒に来てくれない?」
そう告げると、私の答えを待つことなく、人の波に逆らうように移動して行く。
慌てて妹の背を追いかけていくと、中庭を抜け、人気のない校舎裏へ立ち止まる。
人の気配はまるでない、そんな場所にマーティンが佇んでいた。
シンシアはパタパタとマーティンの隣へ走り寄ると、彼の腕へしがみつきニッコリと可愛らしく笑って見せる。
「お姉様、私に王子様をちょうだい」
シンシアは甘えるように彼の腕に寄り掛かると、首を傾げそう言葉にした。
やっとこの日がきたわ、やっぱり王子はシンシアを選んだのね。
全てから解放される日。
待ち望んでいたはずなのに、改めて計画が成功するのだと実感すると、ギュッと胸が締め付けられる。
彼とは12歳で婚約し、そこから数年共に過ごしてきた。
仲良くなるために四苦八苦して、彼のつっけんどんな態度の中に、優しさがあると気が付いたわ。
愛称で呼ぶようになり、友として傍にいたこの時間はかけがえのない宝物。
王子はシンシアの手を握りしめると、深く息を吸い込み顔をこちらへ向けた。
「シャーロット、お前との婚約をここで破棄する。そして新たな婚約者はシンシアだ」
はっきりと紡がれた言葉に、何とも言えぬ感情が溢れ出す。
わかっていたこと、望んでいたこと、だけどすぐに言葉が出てこない。
シーンと静まり返り、虫の声がはっきりと耳にとどく。
サンサンと輝く太陽の下で、私は深く深く息を吸い込むと、琥珀色の瞳にはっきりと私の姿が映し出された。
その瞳は力強く、太陽のような眩しい光。
隣に佇む妹はご満悦な表情で、見せつけるように胸へそっと顔を寄せた。
その刹那、走馬灯のように彼との思い出が駆け巡り、彼の瞳から目を逸らせない。
私はこの日の為に、彼と同じ趣味を持ち、共に歩んできたのよ。
いつも不貞腐れて不機嫌で、顔を向けると逸らされたわね。
挨拶もしてもらえなくて、話も全然続かなくて、どうしようかと思ったわ。
だけど次第に会う時間が増えて、会話も続くようになって、彼が不器用な人なのだとわかった。
だけど剣に対してはとても真っすぐで、一緒に素振りをした日々。
馬に乗って遠出して、星空を見て、嫌いじゃないとそう言ってくれた。
ようやく彼に近づけたのだと、素直に嬉しかったわ。
私が勝手に入門試験を受けて怪我をした時も、わざわざお見舞いに来てくれた。
咎められるかと思っていたけれど、そんなこと全然なくて、只々私の心配してくれた。
昔話したアザレアの花、覚えていてくれてとても嬉しかったわ。
もう枯れてしまったけれど、また次の種が芽吹くように、今も部屋に飾ってあるの。
学園では近くなった距離が離れてしまったそんな気がした……。
だけど学園で今まで見られなかった彼を知ることが出来たわ。
令息や令嬢達と楽しそうに話す彼、怒った彼、とても新鮮だった。
そういえば私は彼に、何も返していないわね。
何もあげられなかった、あげようとしなかった。
剣の技術、楽しさ、乗馬の方法、馬でしか見られない美しい景色。
改めて考えると、私は彼からたくさんの物をもらっていたわ。
彼が最初に言った言葉、今でもはっきり覚えているの。
(俺はこのまま、結婚なんてしないからな!)
その願いを叶えられたのなら、少しはお返しできるのかしら。
懐かしさと寂しさが胸いっぱいに溢れ出すと、その奥に暖かい気持ちが混ざり合っていく。
シンシアは私のことを嫌っているけれど、私はシンシアを嫌いだと思った事は一度もないわ。
恋敵みたいになってしまったから、もう元に戻るのは不可能。
ちゃんとわかっている、二人の邪魔にはなりたくないもの。
私はニッコリと笑みを浮かべると、仲睦まじい姿をはっきりと瞳に映し出す。
そして口角を上げニッコリ笑みを深めると、琥珀色の瞳を見つめ返した。
「わかりましたわ。お二人の幸せを心から願っております」
私は二人の元へ寄り、そっと手を取ると、幸せを願うようにギュッと強く握りしめる。
そして手を離すと、私は急ぎ足で、静かに来た道を戻って行った。
そのまま教室へは向かわず、校庭へと走っていく。
婚約破棄された今、すぐにでも出発したい。
すると門の前にケルヴィンの姿があった。
「お嬢様、一緒に行きましょう」
あまりのタイミングの良さに唖然としていると、ケルヴィンは私の手を取り馬車の中へと誘っていく。
そして固く手を握りしめると、静かに馬車が動きだしたのだった。
――――――――――お知らせ――――――――――
作品のタイトルを変更致しました!
またここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
ようやく短編の話に追い付きました(*´▽`*)
学園生活後半は大分割愛してしまいましたが、
最終話に投稿します(閑話:大好きなお姉様4~)で楽しんで頂けます。
最後に残り数十話、一気に進んで行きますよ!
短編とは一味違う最後となっておりますので、もう暫くお付き合い頂けますと幸いです!
ご意見ご感想等ございましたら、いつでもコメント頂けると嬉しいです(*ノωノ)
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