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第二章
星の見える丘で
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王子との関係も最初の頃に比べたら、見違えるほどに進歩した。
月に一度の逢瀬はいつの間に月に2~3度に増え、彼に会う時間も多くなった。
会話も続くようになって……ふふっ、でももっぱら剣術の事ばかりだけど。
それに目を見て話してくれるようにもなった。
まぁつっけんどんな態度は変わらなかったけれど、それが彼のデフォルトなのだと思えば、気にすることもなくなったわ。
それにわかりずらいけれど、根はとても優しいのよね。
もちろん婚約者として夜会や催しものへ参加してきたわ。
その時に気が付いたのだけれど、彼は私以外の人と話をするときは普通なのよね。
それだけ私が嫌われていたってことでしょうけれど、今は大分マシになった。
最初の頃は並んで夜会へ入場するだけでもぎこちない感じはあったけれど、慣れればどうってことない。
ニコニコ笑っていれば、彼も何も言わないし。
仲睦まじく見えるように精一杯努力したわ。
そのおかげで、巷では私たちは理想のカップルだと言われているらしい。
そうそう剣術を学ぶ延長で、ケルに乗馬も教えてもらったの。
騎士になるつもりは毛頭ないけれど、私の計画には必要不可欠だったから。
馬車だと一人で王都から出ていくことは不可能。
だけど乗馬を覚えておけば、王都から一人でも出て行ける。
この計画が成功した後……誰にも迷惑をかけずここから去りたいもの。
王子は乗馬の練習にも付き合ってくれたわ。
そんな彼の愛馬は黒い馬。
私にも、と白馬をプレゼントしてくれたのには驚いた。
雌馬で気性も穏やかで、とっても私に懐いてくれたのよ。
乗馬が様になった頃、王子が私を馬場の外へ誘ってくれた。
城を出てなだらかな丘をゆっくりと進んで、とっても気持ちがよかったわ。
天文学が好きだと言った私の話を覚えていてくれたみたいでね、夜に星の見える丘へ連れて行ってくれたりもした。
その日は年に一度の流星群が現れる日。
遮る物が何もない広い丘の上、満天の空に流れる星の数に感動して言葉が出なかった。
ずっと見ていられる、そんな思いでじっと星を眺めていると、マーティンの肩が私の肩へ触れる。
いつの間にそんなに近くにいたのか、と顔を向けると、彼はじっと私を見ていた。
「マーティン様、連れてきて頂きありがとうございます。素晴らしい天体ですわ」
「……ッッ、お前は天体が好きだと言っていただろう」
「覚えていてくれたのですか?嬉しいですわ」
私が彼に趣味の話しをしたのは婚約してまだ数か月の時。
あの時はまだ嫌われていた時期だとおもうけれど、ちゃんと覚えていてくれたなんて。
そんな彼の姿にフワッと胸が温かくなる。
そしてまた夜空を見上げようと顔を上げた瞬間、グッと肩を強く掴まれる。
何事かと視線を戻すと、目と鼻の先にマーティンの顔が映った。
「シャーロット、俺は……ッッ、俺は……その……ッッ」
いつもの彼とは違う、真剣な眼差しが私を射抜く。
琥珀色の瞳に私の姿が映し出された。
「……ッッ俺は、俺は……お前のこと、嫌いじゃないからな!」
突然何を言い出すのか、内心驚いていると、肩に触れる手が微かに震えていることに気が付いた。
その様に私はニッコリ笑みを返すと、彼の瞳を真っすぐに見つめる。
「ふふっ、私もですわ」
そう答えると、彼は顔を真っ赤にしながら視線を逸らせた。
こうして思い出すと、本当に最初の頃とは見違えるほどに、王子と仲良くなったと思うわ。
そんな私たちは妹から見れば、間違いなく仲睦まじく見えているはず。
だけど実際のところは、男友達の延長戦ってところかしら。
だって甘い雰囲気になんてなったこともない。
彼はずっと政略の結婚なんて嫌だ、と言い続けているしね。
まぁでも妹からどう思われるのかが一番重要だから、今のままで何の問題もない。
それと妹の関係は今も変わらないまま。
真面に話すこともなく、ギクシャクした関係が続いていた。
ケルは取られなかったけれど、あの後私の大事にしていた木刀が欲しいと言い出した時には、呆れて言葉もでなかったわ。
妹は剣術などしたことがないだろうし、興味もないだろう。
それでも私が大事にしていると思えば、何でも奪おうとねだってくる。
だけどそれもあと数年で終わる。
そう思えば、快くシンシアに渡すことが出来るの。
家を出れば妹に会うこともないから……。
後は妹と王子が出会い、そして恋に落ちれば……。
さすがに王子との逢瀬に妹を連れてはいけない。
妹と仲が良ければ、休日に王宮へ一緒に訪れたりできるんだけど……。
これだけ仲たがいをしていると、声を掛けるなんて面倒だわ。
やっぱり学園での出会いに、かけるしかないわね。
後半年ほどで私は16歳になり、そして貴族学園へ入学する。
もちろん王子だって学園へ通わなければいけない。
妹は一年遅れで入学するから、それから私が卒業するまでに、必ず王子へ近づくはず。
だってさすがに婚約者を奪うには、王子へのアピールも大切だから。
全ては順調に進んでいるわ。
私は今日も早朝に家を出ると、服を着替え小走りで山の方へと走っていった。
月に一度の逢瀬はいつの間に月に2~3度に増え、彼に会う時間も多くなった。
会話も続くようになって……ふふっ、でももっぱら剣術の事ばかりだけど。
それに目を見て話してくれるようにもなった。
まぁつっけんどんな態度は変わらなかったけれど、それが彼のデフォルトなのだと思えば、気にすることもなくなったわ。
それにわかりずらいけれど、根はとても優しいのよね。
もちろん婚約者として夜会や催しものへ参加してきたわ。
その時に気が付いたのだけれど、彼は私以外の人と話をするときは普通なのよね。
それだけ私が嫌われていたってことでしょうけれど、今は大分マシになった。
最初の頃は並んで夜会へ入場するだけでもぎこちない感じはあったけれど、慣れればどうってことない。
ニコニコ笑っていれば、彼も何も言わないし。
仲睦まじく見えるように精一杯努力したわ。
そのおかげで、巷では私たちは理想のカップルだと言われているらしい。
そうそう剣術を学ぶ延長で、ケルに乗馬も教えてもらったの。
騎士になるつもりは毛頭ないけれど、私の計画には必要不可欠だったから。
馬車だと一人で王都から出ていくことは不可能。
だけど乗馬を覚えておけば、王都から一人でも出て行ける。
この計画が成功した後……誰にも迷惑をかけずここから去りたいもの。
王子は乗馬の練習にも付き合ってくれたわ。
そんな彼の愛馬は黒い馬。
私にも、と白馬をプレゼントしてくれたのには驚いた。
雌馬で気性も穏やかで、とっても私に懐いてくれたのよ。
乗馬が様になった頃、王子が私を馬場の外へ誘ってくれた。
城を出てなだらかな丘をゆっくりと進んで、とっても気持ちがよかったわ。
天文学が好きだと言った私の話を覚えていてくれたみたいでね、夜に星の見える丘へ連れて行ってくれたりもした。
その日は年に一度の流星群が現れる日。
遮る物が何もない広い丘の上、満天の空に流れる星の数に感動して言葉が出なかった。
ずっと見ていられる、そんな思いでじっと星を眺めていると、マーティンの肩が私の肩へ触れる。
いつの間にそんなに近くにいたのか、と顔を向けると、彼はじっと私を見ていた。
「マーティン様、連れてきて頂きありがとうございます。素晴らしい天体ですわ」
「……ッッ、お前は天体が好きだと言っていただろう」
「覚えていてくれたのですか?嬉しいですわ」
私が彼に趣味の話しをしたのは婚約してまだ数か月の時。
あの時はまだ嫌われていた時期だとおもうけれど、ちゃんと覚えていてくれたなんて。
そんな彼の姿にフワッと胸が温かくなる。
そしてまた夜空を見上げようと顔を上げた瞬間、グッと肩を強く掴まれる。
何事かと視線を戻すと、目と鼻の先にマーティンの顔が映った。
「シャーロット、俺は……ッッ、俺は……その……ッッ」
いつもの彼とは違う、真剣な眼差しが私を射抜く。
琥珀色の瞳に私の姿が映し出された。
「……ッッ俺は、俺は……お前のこと、嫌いじゃないからな!」
突然何を言い出すのか、内心驚いていると、肩に触れる手が微かに震えていることに気が付いた。
その様に私はニッコリ笑みを返すと、彼の瞳を真っすぐに見つめる。
「ふふっ、私もですわ」
そう答えると、彼は顔を真っ赤にしながら視線を逸らせた。
こうして思い出すと、本当に最初の頃とは見違えるほどに、王子と仲良くなったと思うわ。
そんな私たちは妹から見れば、間違いなく仲睦まじく見えているはず。
だけど実際のところは、男友達の延長戦ってところかしら。
だって甘い雰囲気になんてなったこともない。
彼はずっと政略の結婚なんて嫌だ、と言い続けているしね。
まぁでも妹からどう思われるのかが一番重要だから、今のままで何の問題もない。
それと妹の関係は今も変わらないまま。
真面に話すこともなく、ギクシャクした関係が続いていた。
ケルは取られなかったけれど、あの後私の大事にしていた木刀が欲しいと言い出した時には、呆れて言葉もでなかったわ。
妹は剣術などしたことがないだろうし、興味もないだろう。
それでも私が大事にしていると思えば、何でも奪おうとねだってくる。
だけどそれもあと数年で終わる。
そう思えば、快くシンシアに渡すことが出来るの。
家を出れば妹に会うこともないから……。
後は妹と王子が出会い、そして恋に落ちれば……。
さすがに王子との逢瀬に妹を連れてはいけない。
妹と仲が良ければ、休日に王宮へ一緒に訪れたりできるんだけど……。
これだけ仲たがいをしていると、声を掛けるなんて面倒だわ。
やっぱり学園での出会いに、かけるしかないわね。
後半年ほどで私は16歳になり、そして貴族学園へ入学する。
もちろん王子だって学園へ通わなければいけない。
妹は一年遅れで入学するから、それから私が卒業するまでに、必ず王子へ近づくはず。
だってさすがに婚約者を奪うには、王子へのアピールも大切だから。
全ては順調に進んでいるわ。
私は今日も早朝に家を出ると、服を着替え小走りで山の方へと走っていった。
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